第4話 (4/4) 落ちこぼれの劣等魔導騎士
クイーンドラゴンと竜王がどちらも同時に降りてくる。
「――〈インフェルノ・ホーリーサイクロンジャベリン〉」
詠唱をして超級魔法と上級魔法の複合魔法を放つ、炎の竜巻を纏った大量の光の槍を上空から滑空してくる竜に向かって放つ。
クイーンドラゴンが前に出て槍を全て受ける。
槍を全て受け切ると竜王が炎と闇の魔力を纏って地面に激突してきた。
だがそこに僕はいない、〈ディメンション〉で上空に飛び、風魔法で上空に留まる。
「流石は竜の王達か、一切慢心せずに来るね」
本当の脅威には、このように連携を仕掛けてくるという事だろう。
「それなら、こっちは最初から最大出力でやらせて貰うよ」
更にそこから詠唱をして魔法を放つ。
「――――――〈ルディア・メテオ・キャノン【インパクト】〉、〈ホーリー・キャスリアー〉」
木と土魔法で大きな岩を作り、岩の中心を水と氷で圧縮して重量と内包するエネルギーを蓄える、炎と風魔法で岩を燃え上がらせて、雷の魔法で更に速度を加える。
メザに教わった、僕が今使える中でも最高レベルの魔法だ。
直撃の瞬間にダメ押しで超級爆魔法を加える。
更に〈ホーリー・キャスリアー〉で龍達の周囲を光の結界で囲み、威力の圧縮と周囲への被害を防止する。
結界の中は凄まじい光に包まれた。
しばらくの轟音と光が治まり始めると僕の体が軽くなる。
それを確認して結界を解くが、解いた瞬間、竜王が凄い勢いで飛び出してきた。
地面にはクイーンドラゴンが横たわっている。
竜王は大きく口を開け、恐らくブレス……なのだが明らかに破壊力を伴う光線のようなブレスを吐き出してきた。
「僕に一撃を入れる為にクイーンドラゴンが盾になったのか」
SSモンスターの全力の一撃が迫ってきているのに対して、そう僕は自分でも驚く程冷静に分析し、飛び出してきた竜王とその決死の一撃に向かって、真正面から全力で剣を振るった。
「〈オールエンチャント〉、〈アルティメットブースト〉、〈我剣・竜殺しの一撃〉」
僕は剣技スキルでの今放てる最高の一撃を放った。
その斬撃はブレスを切り裂き、竜王までもを一刀両断……とは流石にいかなかったが、命を刈り取るには十分な一撃を放った。
竜王は地に落ち、こちらを見上げるとやがて、何かを悟ったように力尽きて絶命した。
僕はその様子を眺めながら剣を収める。
「こんな簡単に終わるとはね……」
あれだけ苦戦を強いられた相手との決着の結末は、意外にもあっさりとした戦闘で終えるのだった。
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名前:フォル
年齢:16才
状態:超極限活性化 魔導回路暴走
Lv :59
魔法属性値:
火:82、水:78、風:91、木:81、土:74、雷:73、氷:68、爆:58、光:38、闇:38、無:38、空間:38
称号:【竜王殺し】
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■
龍達を片付けた僕は生徒達に回復魔法だけかけてリアの居る倉庫の地下に戻ってきた。
リアはまだ目を覚ましていないようだ。
「全て片付いたよ」
僕はリアの傍に座る。
「リアのおかげで自分の本当の弱さがわかったよ」
「決断さえできたら後は簡単だった。伝説級の魔物にすらほとんど苦戦せずに倒すことができたんだ。凄いよね、自分でも信じられないよ」
剣を見て先程の戦いを思い出しながら話す。
「もっと早くこの決断が出来ていたらリアに怪我をさせる事も無かったのにごめんね」
僕は淡々と話し続けるが返事は返ってこない。
「リアもあんな小さな時の約束を覚えてくれているとは思わなかったよ」
「父さんが死んだ事をきっかけに周りは皆、《英雄》なんて目指さなくて良い、身の丈に合った生き方をしなさいって言う中で、リアだけが変わらずに《英雄》を目指そうって言ってくれたよね」
思い出を振り返りながら淡々と話す。
「そして、職業選定の日、僕の職業が《魔法剣士》だと知った時は嬉しかったよ。これなら《英雄》を目指しても周りを納得させる事ができると思ってね……」
「だから僕は《英雄》を目指そうとしたけれど、学園に入学して強くなれなくなった時、凄く怖くなった。もしかしたら、リアにすら《英雄》なんて諦めろって言われるんじゃないか……って」
返事は尚も返ってこないが、僕は構わず淡々と話し続ける。
「だからこそ僕は言われる前に諦める事にした。してしまった。もし最後の理解者だったリアにすら言われてしまえば、僕は本当の意味で腐ってしまう恐怖があったから」
「本当にバカだよね。勝手な想像で決めつけて、リアを傷つけてさ。本当にごめん。でも同時にありがとう。そんな状態でも僕にもう一度、一緒に《英雄》を目指そうと言ってくれて、おかげで色々踏ん切りが着いたよ」
もう二度と《英雄》を諦める事はしない、そう覚悟を決める。
そして僕は下を向き、思いを伝える。
「大好きだよ、リア。一緒に《英雄》を目指そうと言って隣に立ち続けてくれたあの日から」
――キィィン
倉庫内に金属音が響いた。
「え?」
驚いて、リアの方を見ると僕と反対側の方の手に黄色の結晶の様な物を持っている。
「これでいいのかしら?メザちゃん」
『はい、サリアさん、記憶結晶の使い方はそれでバッチリです』
状況が全く読めない。
「えっと、どういう事?それに何でリアがメザの事を知っているの?」
『マスターが戦っている間に説明しておきました。私が戻って来た時には目を覚ましていたので。それで私の技術証明に記憶結晶というものを渡しました』
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記憶結晶
録画、録音をする情報記憶媒体
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「それで使い方を聞いている間にフォルが近づいてきているって言うから、実際に試してみようって思ったんだけれど、思った以上の物が撮れたわね♪」
状況は理解した、理解したが意味がわからない。
「えーと、つまり……、僕の今の言葉を録音したって事カナ?」
「そうよ♪」
「リア、ちょっとその結晶貸してくれないかな?」
「い や ♪」
無言で結晶に手を伸ばすが、リアは絶対に取らせてくれなかった。
「あらら、そんなに赤い顔をしてどうしたのかしら?」
「別にしてないよ!」
「あらあら、そうかしら?」
そんな事を言っていたが急にボソリと、
「私も好きよ」
そう言われ、一瞬動きを止めてしまう。
「これは渡さないけどね♪」
次の瞬間にはリアは地下から出て行ってしまう。
「それは返してくれえぇぇ!」
そんなやり取りをしばらく続けるのだった。
そして僕は彼女を追いかけながらふと思い出す。
(これって、昔のやり取りに似ているな)
小さい頃にリアに悪戯されて逃げるリアと追いかける僕。
リアもそれを意識してやっているのかもしれない。
《英雄》を目指す事よりも何よりも、
僕はリアとの、この時間が1番大切だったのかも知れない。
――――そう《未来の英雄》は思うのだった。
ここまでで第一章一節[完]です。
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