第4話 (3/4) 落ちこぼれの劣等魔導騎士
船の内部でしていた話を思い出す。
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『今まで通り鍛錬していけば中級以降の魔法も使えるようになると思います……が。 魔力量の底上げと魔導回路の強制調整をすれば、今すぐに魔法属性値を跳ね上げる事も可能です』
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だから僕は、メザにそれを今すぐでもできるか尋ねた。
『可能ですがオススメできません』
「何でだ?」
『魔力量の底上げと魔導回路の強制調整自体は問題なく可能です。 ですがこの環境では安全の確保をすることができないです。それに全く緩和する設備も無いので激痛になります』
「死ぬわけではないんだろ?」
『マスターの場合木と光の魔力が有るため処置の最中にも回復能力が高まり死ぬことはまずありません。ですが、だからこそ信じられないような激痛が起こります』
「なら、やってくれ」
『正気ですか?想像を絶する痛みになりますよ』
「死なないなら問題ないさ」
僕の生き方自体が全て間違っていたとは今も思っていない。
でも、一番間違えちゃいけなかった所で最悪な間違え方をしたと思う。
『良いのですか? 私の技術に頼り過ぎると鍛錬の意味を無くしてしまうとか、強くなり過ぎても戦闘の勘が鈍くなるなどのどこかで綻びが出そうで怖いと言っていたじゃないですか?』
「自分の大事なものも守れない鍛錬に何の意味がある? 失ってから強くなっても、それはただの手遅れだよ」
そう自分にも言い聞かせる。
「強くなりすぎると戦いの勘が鈍くなる? それこそ鍛錬だろ、そんなことすら制御できないなら≪英雄≫なんて夢のまた夢だよ。 貰い物の力? 貰った力も完全に自分の力に変えるのが、本当の意味で真の強者だろう、違うか?」
そう自分自身に問う。
全てが手遅れになった後の力になど意味は無い。
選り好みをして全てを失うなど、それこそ愚者の行う事だろう。
『わかりました。愚かで無謀な勇気を持つマスターに敬服致します』
「……色々矛盾してないか?」
『マスターにはそれがお似合いです』
「そうかもしれないね」
落ちこぼれだったのは僕の才能とか技術とかじゃない、その場に甘んじたその精神だ。
何も変わらない努力に意味など無い、だが、変える挑戦権を得る事ができるのが努力だろう。
『それでは処置を始めます』
メザは僕の足下に魔法陣を召喚して、本体からも何か管の様な物を伸ばし、処置を始める。
「ぐっ!」
突如僕の全身に凄まじい痛みが襲いかかってくる。
魔力が荒れ狂い、肉体も破壊と再生を繰り返している。
そんな表現がよく似合う状態だ。
一瞬、意識が飛びかけるが気合いで引き戻す。
今も敵わないとわかっていて竜に挑み続けている学園生がいる。
あの3人組でさえ、守る対象となった僕を逃がす為に戦ってくれている。
そして何より一番大切な幼馴染みが身を挺して守ってくれたのだ。
共に戦う者ではなく、守る者としての扱いだ。
彼らに負ける訳にはいかない、≪英雄≫を目指す者として……!
――その時、以前見た戦う父の後ろ姿をふと思い出す。
(僕はもう一度≪英雄≫を目指すよ、父さん。大切な幼馴染みと一緒に)
今日を最後に、本当の意味で落ちこぼれから脱却する。
数分後、フォルを包み込んでいた魔力の濁流は治まった。
『マスター、処置が完了しました』
■
地上ではブラックドラゴン3体が降りており、竜王、クイーンドラゴンは上空で佇んでいた。
自らの相手になる者はいないと見なし、側近に任せたのだ。
ブラックドラゴンは3体とも手負いの状態だが、学園生はほぼ全滅状態である。
息を確認できる者がほとんどだが、戦える者はほぼいない。
満身創痍な女生徒の1人にブラックドラゴンの凶爪が振り下ろされる。
その女生徒は覚悟を決め、防御魔法を展開しながらも目を閉じてしまった。
しかし、何も衝撃はおとずれない。
女生徒が恐る恐る目を開くと、そこにはブラックドラゴンの片腕が落ちていた。
■
僕は女生徒の1人に爪を振り下ろそうとした竜に向かって魔法を放った。
「<ウルガ・サイクロンカッター>!」
超級魔法の大きな風の刃が竜の腕を切り飛ばした。
飛んだ腕を見た女生徒はかなり意識が虚ろなようで、すぐに意識を失ってしまった。
『超級魔法も無詠唱でその威力ですか、想像以上ですね』
「ああ、自分でもかなりビックリしているよ」
凄まじく大量の魔力を感じ、その魔力を動かせるようになっていて、自分の体じゃ無いような気分だ。
『マスター、私に空間の魔力を付与してください』
「?、わかった」
理由はわからなかったがメザの言われた通りにする。
すると、メザの体から剣が生えてきた……!?
『私本体の格納庫に繋ぎました。これはそこに保管してあった秘剣<メザ>です。使用条件が中々厳しいのですが、今のマスターなら使えるでしょう。魔力を通してみてください』
その剣は明らかに大剣と言える様な武器でかなり重かったが、魔力を通すと急に軽くなるのだった。
片腕が落ちたブラックドラゴンはこちらに気づき、翼をはためかせながらこちらへ突進してきた。
そこへ僕は、
<風剣・風波>
超級スキル、剣と体に風の魔力を纏い、飛んでくる竜と一瞬ですれ違った際に斜めに一刀両断した。
凄まじい切れ味だ。
スキルの効果も有るが剣もとんでもない代物だろう。
羽の様に軽く、それなのに重心は安定していて切れ味抜群という不思議な感じだ。
『問題なく使えそうですね。使用者登録もされたはずです。それとマスター、私との魔力の線をかなり強く意識してください』
(こうか?)
僕がメザとの魔力の線を意識すると、記憶?、知識の様な物が脳に直接流れ込んできた。
『マスターは全ての魔法の知識を持っている訳では無いと思います。私のデータベースに残っていた魔法に関する幾つかの知識と共有しました』
「助かる、ありがとう、メザ」
『私はサリアさんの様子を見に行きますが、マスター、貴方はその力に覚醒したばかりです。そのことを忘れないでくださいね』
僕は驚きながらもメザにお礼を言うと、メザはそう言って、倉庫の方面へ行ってしまった。
僕は残りの竜に向かって剣を構える。
周りには多くの生徒が倒れている。
そこにはフォルを庇って竜王と対峙した生徒も含まれていた。
僕は2体目のブラックドラゴンへ<ウインド・アクセル>を使い、一瞬で肉薄して敵を斬りつける。
「<氷爆雷剣・雪下雷鳴>」
雷の魔力を体と剣に纏わせて、更に剣には氷と爆の魔力も纏わせた上位属性の複合超級スキルは、周囲に雷鳴と爆音を鳴り響かせ、竜は爆散し、雷を纏った氷が雪の様に周辺に降り注がせた。
「後1体……」
僕は最後のブラックドラゴンを見た。
その最後に残った竜は、こちらの様子を伺うと数歩後ずさった後、飛んで逃げだそうとした
<ディメンション>
空間属性中級魔法、僕はブラックドラゴンの背後にワープして回り込む。
「誇り高いドラゴンなんだろう? 逃げるなよ。 ここまでやったんだ。 絶対に逃がさないよ」
<スリーエンチャント水・氷・光>、<アース・ディメンションブースト>、<パワースラッシュ・改>
土・空間・無の複合中級魔法<アース・ディメンション>で空間で擬似的に足場を固定させて、袈裟斬りを放つ。
ブラックドラゴンはまるで豆腐のように一刀両断された。
「さあ、ここからが本番だ」
――あれだけ苦戦していた、Sランクの竜を3体も単機で、いとも簡単に倒した少年は、上空に佇む2体の竜を見上げた。