第3話 (3/4) 魔導騎士
『マスター! いきなりそんなに走り出してどうしたのですか?』
「ダンジョンのテレポートの間は普段、常に賑わっているのが普通だ。深夜帯ならわからないが、見張りの兵士なんて交代制でも一日中居ないとおかしい。なのにさっきのは何だ? 誰1人居ないじゃ無いか!?」
『ふむ、緊急事態ですか』
「思い当たることはあるが、もしそれなら最悪な事態だ!」
ダンジョンを抜けて森に出る。
見張りの兵士が1人も居なくなる事態、それは王都に危機が迫り、緊急招集がかかる時だ。
だが、そんな物はここ数年一度も発令されていない。冒険者ギルドが近く、騎士団も在る。学園の生徒達も居るので多少のモンスターなら完全防衛できるから必要無いのだ。
……だがそれが発令される可能性があり、発生確率が高い脅威が一つだけある。
『――。なるほど、この辺り一帯をスキャンしましたが、魔柱があるのですね』
「そうだ」
魔柱、世界に幾つか存在する高ランクモンスターが封印された柱である。それが、このダンジョンの外にある森の最深部にあるのだ。
近年、魔柱の封印が解けるケースが多発している。
もし、森の魔柱が解き放たれるのなら緊急招集がかかっていてもおかしくは無い。
「恐らく、魔柱が解き放たれる前兆でも発見されたのだろう。だから王都に皆引き返してるんだと思う。僕達も早く王都に戻らないと……!」
もう少しで森を抜けて学園のある王都が見える。
『……。残念ながらマスター』
森を抜けて、フォルが見えた光景は――。
『先程確認した魔柱の状態はレベルブラック、完全解放後です』
――多くの竜と燃えさかる王都だった。
■
学園は多数の竜に襲われていた
「Bランク以上は竜の討伐または撃退! Cランク以下は周辺住民の保護と誘導にあたって!」
指示を出しているのはAランクの生徒、サリア・ローズだ。
「騎士団も冒険者ギルドも、王都を守るのが精一杯でこちらに援軍は寄越せないはずだわ! 自分達の学園は自分達で守るのよ!」
(こんな時にSランク生徒は誰もいないとはね……。)
学園のSランク生徒はたった3人しかいない。だが全員、今は数人の先生達が引率して他国との交流に行っている。
(他の先生達は避難場所の警護にあたっていて手を離せないし、学園は私達で守り通さないと……!)
サリアの前に一体の青いドラゴンが降り立つ。
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ブルードラゴン
Aランクモンスター
平均レベル:72/-
上位の竜種であり、Aランクの中でも上位のモンスター。
その青い鱗はとても硬く生半可な攻撃ではダメージが通らない。
その爪は城壁すらも大きな爪痕を残す。
竜種全体で言える事だが基本的に振り分けられたランクの最上位に位置する。
間違っても1人で戦おうとはせず、パーティで挑むべきである。
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ドラゴンはサリアに向けて、その爪を振り下ろす。
土煙が舞うが手応えが無い。
ドラゴンの頭上から声が聞こえた。
「こっちよ! <炎窮閃>!」
「ごああああ!」
「続けて<風裂斬>!」
サリアはドラゴンの頭部に重い一撃を入れると背に回り込み、風の斬撃を連続で与えた。
激しい痛みにドラゴンは暴れ回るが彼女は危なげなく全て避ける。
「とどめ! <炎槍一閃>!」
大きな炎の魔力を放つと、彼女はそれに追いつき自身が槍となってドラゴンの体を貫く。
ドラゴンが事切れると、その体は大きな音を立てて横倒れになった。
そして、ブルードラゴンを倒したサリアは頭上を見上げる。
「……。一体なら倒せるけれど数が多いわね」
見上げた先には、まだまだ多数の竜が居た。
「まさか、あの魔柱が竜種だったとはね。それに、何で一切の予兆も無く現れたのかしら?」
魔柱は封印の解放段階が色でレベル分けされている。
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色別、魔柱の状態
レベルホワイト:魔柱が無色透明で非活性状態。通常の何も問題の無い状態である。
レベルブルー:青色に変化した状態。変化直後の為、予兆ではあるがこの時点では危険自体は無い。
レベルイエロー:黄色に変化した状態。魔柱の周りに召喚魔方陣が出現し始め、封印されたモンスターの最下級眷属が出現し始める。
レベルオレンジ:オレンジ色に変化した状態。魔方陣から最下級以外の眷属モンスターが出現し始める。
レベルレッド:赤色に変化した状態。魔方陣から封印されたモンスターの側近が出現する。このレベルの状態は極めて短い。
レベルブラック:魔柱が黒く染まり、封印されたモンスターが完全解放される。
尚、レベル進行を止める手段は現状発見されていない。
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「まあ、過ぎたことを嘆いても仕方ないわね。私も少しでも数を減らさないと」
そう言い、サリアはどんどんと竜達を倒していく。
他の生徒達もサリアに続け、ブルードラゴンは倒せずとも、Aランク下位のモンスターであるイエロードラゴンや、ランクBやランクCモンスターである下位竜種のドラゴンなどを倒して勢いに加勢する。
(ここは学生とはいえ国の精鋭達の集まり、このまま順調に行けば大丈夫だけれど)
校舎は既にボロボロだが、直すのはそんなに難しくない、ドラゴンの数は、他の生徒達にも倒されて着実に減ってきている。
何事も起こらなければ、問題なく戦いは終わるはずだった。
(ブルードラゴンは数匹いた。って事は封印モンスターはそれより上位のレッドドラゴンかしら?)
そんなことを考えていると地面に影が差した。
顔を上げ、空を見ると……。
そこには大きな黒い翼を持つ竜がいた。
「っ!? なるほどね、貴方が封印されていたモンスターかしら?」
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ブラックドラゴン
Sランクモンスター
平均レベル:89/-
過去にはたった1体で複数の町を滅ぼしたモンスター。
鱗は異常に硬質であり、戦闘技術も高い。
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その黒い竜はサリアを戦場で最高戦力だと認識すると空高くから加速して彼女に爪を突き立てる。
大きな砂塵が舞うがその場にサリアは居ない。
「さっき見た展開よ! 炎窮……っ! きゃあああ!」
サリアはドラゴンの頭上に飛んでいたが闇の魔力を纏った翼の羽ばたきで魔力をかき乱され、怯んだ所をドラゴンの尾でたたき落とされる。
尾にも魔力を纏わせていたようで予想以上の威力だった。
「……っ。流石はSランクモンスターね。そう簡単にはいかない……か」
武器を構え直そうとする……が、力が入らない。
(麻痺毒かしら?それなら<キュア>で……)
サリアは急いで毒を治療する光属性魔法<キュア>をかけようとするが……。
「ゴォアアアアア!!!」
「!?」
魔力を伴った咆吼を浴びせられ動きを止めてしまう。
すぐさま、黒い竜はサリアに向けて尾を突き刺そうとしてきた。
どちらか片方でも致命傷なのに、麻痺毒と咆吼の両方で動きを止められたサリアは絶体絶命であった。
(ま……ずい、よけられな……!)
――その時、誰かが剣で竜の尾を弾いた。
「大丈夫か! リア!」
尾を弾いた人物は、彼女の幼馴染みであるフォルだった。
<トピック>
魔柱のモンスター
通常、モンスターにはレベルアップがあり一定値までレベルが上がると進化という急成長がある。
しかし魔柱から出現するモンスターは進化することがなく、レベルも上がらない事がわかっている。
この原因は不明だが封印解放後、一定の時間が経てば通常通りにレベルが上がるという仮説もある。