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◇35◇ これからもずっと。【本編完結】




   ◇ ◇ ◇



「テイレシア様、お綺麗ですわ!!」


「よくお似合いです、とっても素敵!」


「ご結婚おめでとうございます!」


「いままで本当に、ありがとうございました。新学期からもういらっしゃらなくなるのは、本当に寂しいですわ」


「卒業しても、どうぞ末長く仲良くしてくださいませ……!!」



 女の子の後輩たちからはねぎらいと別れの言葉を受け取り、同学年の令嬢たちとは卒業後もよろしくと言葉を交わしあう。



 ――――朝から始まった卒業式はとどこおりなく終わり、私も無事に最後の大役を終えた。

 そしてみんな一斉にドレスや盛装に着替えて、謝恩パーティーの時間に突入している。



 いまは昼の部で、学園の自慢の庭園を見ながらのガーデンパーティー。

 後輩たちも参加できるので、こうして私に声をかけてくれていた。


 夜の部は、管弦楽の演奏を楽しみながらの華やかな夜会。

 卒業生とそのパートナーだけが出席できる、ダンスパーティーだ。



「――――さっきからテイレシア様、人気ですね」


「生徒会だったもの。

 それよりヴィクター、飲み物は要らないの?」


「主役は卒業生の皆さんですから。

 テイレシア様は大丈夫ですか?」


「いまは大丈夫……なんだか胸がいっぱいで」

 


 両親が亡くなってからは、社交の場に出るときのドレスも宝石も、ずっと一人で、それも社交界の目ばかりを気にして選んでいた。


 でも今日のドレスは、大好きな色を並べてさんざん迷って、最後にヴィクターと相談して決めたお気に入りだ。


 全体の色はオレンジゴールド。そこにピンクゴールドやシャンパンゴールドのレース装飾で変化をつけている。

 随所に宝石もちりばめられていて、歩くたびに、シャンパンが弾けるみたいに表情を変える。


 ヴィクターに贈ってもらったエメラルドの髪飾りをはじめ、ドレスのこの色に合う宝石でくみあわせた。



 すべてが最高。

 こんな気持ちで卒業式を迎えるなんて思ってもみなかった。

 


「いたいた!

 ごめんね、遅くなったよ!」



 少し遠くから駆け寄ってきたのは、カサンドラだ。

 褐色の肌を美しく引き立てるアイボリーのドレスには、彼女のお母様の国の紋様が、黒と金糸で刺繍され描かれている。大粒の宝石が光る首飾りが、まるで異国の女王様のよう。いつもよりも一段と綺麗。



「いいね、そのドレス! 良く似合うよ」

「ありがとう、カサンドラのも素敵!」



 私ははしゃぎながら返す。



「テイレシア様!」

「3年間お疲れさまでした!」

「答辞カッコよかったです」



 途中で合流したのか、ヴィクターの元気なお友達の3人もカサンドラの後ろにいた。



「あ、そうだ。クロは……ええと、クロノス殿下はぎりぎり夜の部には間に合いそうだって」


「ああ、出られるのね!

 良かったわ」


「彼はもうずっと勉強に次ぐ勉強、そこに公務が入ってきて、ずっと殺人的な忙しさらしいからね。大変そう」


「カサンドラ様は、お持ちの会社を手放して、クロノス様の補佐を目指されるんでしたっけ」



 ヴィクターが尋ねると、


「うん、まずは官僚を目指す。貧乏くじ引いてばかりのクロノス(幼なじみ)のために、なにかできないかと思って。

 でも、さすがに勉強しないといけないことが山のようにあるから、しばらくはまた学生なんだ」


と、カサンドラは肩をすくめる。



「でも、うちの父親、親馬鹿だろう?

『おまえなら我が国初の女大臣どころか女宰相にだってなれる』

……って言うから、乗せられてがんばってみることにした」


「カサンドラ、言い方!

 でも、将来的にカサンドラが部下になったら、クロノス殿下も心強いはずよ」



 そう言うと、カサンドラは「そっかな。だといいな」とはにかんだ。



「がんばってください!」

「カサンドラさまならできますよ!」

とヴィクターのお友達も言う。




 こんなふうに、どんなときも自分らしくある彼女に、私は今までどれだけ救われただろう。



 自分のことのように嬉しくて、今まで彼女がずっとそばにいてくれたことを思い返していると。

 不意にこみあげてくるものがあった。



「あのね、カサンドラ――――」

「テイレシア、ずっと一緒にいてくれてありがと」

「先に言わないでよ! あのね」



 目が熱くて、しまったと思ったときには涙がこぼれてしまったけど、私は笑顔をつくって言った。



「これからもずっと、お友達でいてね」



   ◇ ◇ ◇




 ―――――――数時間後。

 卒業式、夜の部。



「…………初めて見たよ! あんなにヴィクターが緊張してるの」


「笑わないでください。

 しくじってテイレシア様に恥をかかせないか、気が気じゃなかったんですから」


「大丈夫よヴィクター。

 私の初めての夜会よりは、遥かにましだから」



 夜会が始まり、管弦楽の優雅な演奏が流れ始めた。雰囲気はほとんど大人の社交界のそれ、そのままだ。


 一番好きな曲にあわせて、私とヴィクターは最初のダンスを踊った。


 さすが何でもこなしてみせるヴィクターは、ステップも間違えなかったのだけど、びっくりするほど顔が緊張してこわばっていて。


 それを、横から見ていたカサンドラが、すれ違いざまに、からかいの言葉を投げてきたのだ。




「でも、レッスンとは全然感じが違ったでしょう?」


「そうですね……実際に踊るまでは、すごく楽しみにしてたんですよ。なのに、あんなに頭のなかが白くなってしまうものなんですね。

 ……でも確かあと2回は踊っていいんですよね?」



 負けず嫌いの、リベンジする気まんまんの目でこちらを見るヴィクター。



「そうね、またあとで踊りましょうか?」



 私は微笑み、ヴィクターの腕に触れる。

 ……その時、会場全体が、ざわめいた。



 遅れて到着した、クロノス殿下の登場だ。

 金糸銀糸が縁取る漆黒の盛装には、王家の紋章。それを細身のクロノス殿下はシャープに着こなしている。


 ただでさえ、その美貌で、既婚未婚を問わず貴族女性たちに絶大な人気があったクロノス殿下。

 さらに王太子になられた、ということで、女性たちの人気はほぼ一極集中だ。パートナーがいる女性まで、彼の周りに集まってしまう。


 なのに。


「話したい方々がいますので」


以前よりも毅然とした態度で女性たちを振り切るクロノス殿下は、ぐいぐいと人の群れを割って、なぜかこちらに歩いてきた。



「クロノス殿下?」



 慌てて、ドレスの裾をもち、礼をする。



「あなたがこの日を無事迎えられて良かったです」


「え、ああ、ありがとうございます。

クロノス殿下もご卒業おめでとうございます」


「――――固くならないでください。

 あなた方の知るクロノス・ウェーバーと、中身は何も変わっていないので」


「と、おっしゃっても??」


「王家は、その人自身の素晴らしさも見きわめずに、家柄や血統で人の価値を値踏みして(あなど)っておとしめて、今回痛い目を見ました。

 同じ過ちをおかさないよう、私は、立場が変わっても信頼できる友人は引き続き大切にしたいのです」



 貧乏くじを引いてばかり……とカサンドラは言っていたけれど。

 どこかクロノス殿下は、腹をくくって開き直ったようにも見えた。



「エルドレッド君にも伝えたいのですが……」



 軽く咳払いをして、クロノス殿下は続ける。



「私は強い国王になります。

 国をよどませてきた王宮の中の魑魅魍魎(ちみもうりょう)や貴族社会の(うみ)を一掃して、人の幸せを第一に考えた国をつくっていく、強い王に」


「…………クロノス殿下」


「だからどうかあなた方は、誰にも遠慮をしないで、大切な人と幸せでいてください」



 そう言って、クロノス殿下は静かに微笑んだ。



「それでは、よい夜を」



 離れていく、クロノス殿下。


 知らず知らず、私はヴィクターの腕をぎゅっと握りしめていた。


(誰にも遠慮をしないで、幸せでいてください、か)


 優しい言葉だ。

 私は大切な人に守られている。

 愛されて幸せにしてもらっている。

 だから私も。



「――――テイレシア様?」


「なんでもないわ。

 私も、あなたを幸せにしたいと思っただけ」


「……あなたのそばにいるだけで幸せなのに、愛する人からそう言ってもらえる嬉しさがどれだけか、わかりますか?」



 ヴィクターが私の額にくちづけた。

 肩を抱きよせた手は、いつものように頼もしい。



 愛している。あなたのとなりが私の場所、そう、実感する。

 これからもずっと、私のそばにいてね。




【本編完結】




ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。こちらで本編完結です。

(このあとは、後日談をちょっと書かせていただければ、と思います)

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― 新着の感想 ―
[一言] お互い初恋成就おめでとう!純愛(ヴィクターはそうだと思う 笑)万歳ヽ(´▽`)/ これからもたくさんの幸せが積み重なっていきますように…… クロやカサンドラも自分の幸せを掴み取って欲しい…
[良い点] ストーリー展開も構成も上手く、一気に読めました。なにより誤字脱字が無くスムーズに読めるのが一番ですね。
[良い点] 絵に描いたような傲慢王子だったので、爽快なざまあでした。 が、ヴィクターがスパダリすぎて、けちょんけちょんな王子が途中ちょっと哀れに思えたんですが、可憐な王女への態度を見て、改めてざまあ展…
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