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パズルもオセロも四隅から①

「おわー、めっちゃ迫力あんね!」


 たいそう大きなグリフォンを見上げて思わず漏らす。前に見たユーストマさんに説教されていたグリフォンよか一回り大きいんじゃない?

 本日無事晴天。昨日気になることを発見したけどしたところで何になるわけでもなく、一旦それは置いておいて地名を学ぶべくグリフォンに乗りに来た。


「2人乗りだって、カエデとヒースが一緒に乗る?」


 によによ笑いながら言うウィズ。うん、やっぱりこの子完全に勘違いしてんだよね……まぁ確かに、いつも私とヒースは一緒にいるけどさ。


「そーだな、そうする。」


 そして特に訂正することなく頷くヒースは分かっているのか、いないのか。もう一度、辺りに何体かいるグリフォンを見回してみる。うーん、黒い子はいないね。


「あの、黒い子はいないんですね。」


 なんとなくグリフォンを撫でるスタッフらしきお兄さんに声をかける。お兄さんは顔を上げて、笑いながら手を振った。


「いたら大変だよ、黒いってことは魔力がコントロール出来てないってことだから。」

「え?そーなんですか?」

「そう、自分自身の魔力を上手くコントロール出来てないってことなの。ま、ここの子みたいな野生の魔法生物の子に、そんなヘマをする子はいないけどね。創造生物だとたまにいるかな。ほら魔法生物って基本闇魔法だから、魔力が滲んじゃうと黒く見えるんだよ。」


 やはり餅は餅屋なんだなぁ。思わぬ収穫にヒースとアイコンタクトをとる。お兄さんにお礼を言って、ヒースがまずグリフォンに乗り込んだ。そんで私を引き上げてくれる。


「なんかそこはかとなく乗ったことある感じ。」

「乗ったことになってるんだろ。」

「怖いんだけど。」

「落ちたことになってるからな。」

「ぐぬぅ……。」


 文句をたれつつ、大人しくグリフォンの鞍についたベルトをつける。うん?どこ掴まればいいんだろ。ヒースの所には私とヒースのあいだに持ち手があるみたいだけど、鞍の前の方にはそんなものは無いぞ。


「嬢ちゃんはグリフォンの首に腕回していいからね。」

「え、まじすか。」


 お兄さんの言葉に思わず瞬きをする。確かに横目で確認したら、隣で前に座っているウィズは遠慮なくグリフォンの首を鷲掴んでいる。


「わ、かりました。ごめんな、失礼しまぁーす……。」


 グリフォンの様子を伺いながらそっと首に腕を回す。お、もっふもふ。


「じゃあ飛ぶよー!」


 お兄さんが笛を吹くと二体のグリフォンは並んで飛び立った。


「ぅえええ、高いよぉおおお!」


 そういや私高所恐怖症やったわ!えっ箒より全然高い怖っ無理無理勘弁、


「下向くな、前むきゃまだマシだろ!」


 ヒースの声に慌てて遠くを見つめる。おそらきれい。


「うん、多少マシ。」

「カエデー!あれが東の山ー!」


 ウィズの声に振り返り、指さす方を追う。一際高い山だ。


「1番大きい山が東ね!んで今の正面が北の山!低いっしょ?向こうの首都見える?」


 風がごうごう唸ってるってのに、ウィズの声はよく通るね。目線を向ければ、確かに向こう側は開けているように見える。


「僕あっちから来たんだよ、カエデんちはどの辺?」


 あっこれ進〇……違うヒースゼミで見たやつだ!ヒースの助言を思い出しつつ、偽りの故郷を答える。


「私はねぇ、西の方の森に住んでたんよー!」


 そう言った瞬間、頭の中に断片的なイメージが浮かんだ。


「んぁ?」

「どうした?」


 向こうの二人に聞こえない声量でヒースが訊ねてくる。


「いやなんか、森の景色がいきなり色々浮かんだ。」

「じゃあ設定が生かされたんだな。」

「そゆこと?」


 ヒースと話していると、ウィズが地名の解説を再開しはじめる。


「西って言うとあっちだねー!」


 迷いの森から来たのかぁ、というウィズの声に違和感を覚える。あれ、デジャヴ?待って待って、また?


「で、南の山は今後ろにあるから……ねぇグリフォン、あっち向ける?」


 ウィズの言葉に、2体のグリフォンは大きく旋回を始めた。いやこれ絶対デジャヴ、とヒースに同意を求めようとした瞬間、「カチッ」って不穏な音がした。あれ、さっきベルトの金属止めた時に、そんなお、と?


 世界が反転。


 あ?なんでかヒースの顔が正面から見える。ひでぇつらしてる、な、


 刹那、風が勢いよく体を包んだ。やっべぇ落ちてない?落ちてるね!落ちてるね! 取り敢えず死にものぐるいで内ポケットに手を突っ込んで、ポケットの中で無理やりノートを開いた。


 止まった!


 空中に止まる羽目になったけど、まぁともかく止まった。よか…いやえっ怖い怖い、二度と下向けない。でももう落ちないや、とほっとした瞬間、この間みたいなフラッシュバックが起きて1回目もこうやって落ちたことを思い出した。そう、箒の代わりもないので一か八かで「落ちる前に戻る!」って叫んでノートを閉じたんだった。ホントに落ちる直前に戻ったんだな。はぁ……取り敢えずノートを開いたまま取りだしてしっかり抱えておく。


「ヒースゥ、2回目だよどうしよう!」


 大声で叫んでみれば、上の方、ギリギリヒースがグリフォンから顔を出しているのが見える。


「戻ると記憶が無くなるなら、もう一度戻っても多分無駄だぞ!記憶が残るならベルトをつけ直せるんだが。」

「だよねぇ!なんかない!?」

「一回目に思いついている方法が一個無くはない!」

「なに!?」


 周囲が無音な中、叫び合ってるのはなかなかにシュールだ。しかも私は空中に止まっている。歩いたり出来るように身動きはできるけど、不思議と落ちたりはしなかった。なんなら上に歩いていくことも出来る。試したこと無かったけど、今までも登ろうと思えば空中を歩けたのかしらん。取り敢えずヒースの方に近づいていく。


「使い魔の手綱を握れば、止められる。が、2人にバレるだろうな。」

「おわぁ……」


 ピクリとも動かないグリフォンの上に再び乗り上げ(勿論時間を戻せば意味の無いことなんだけど)、ヒースの方をむく。


「それにそれ、めっちゃ首締まらない?死んじゃうよ私。」

「大丈夫、紋によっては腰につけられる。」

「安全ベルトかな?」

「肩まで固定もできる。」

「ハーネスかな?」


 他には方法ないの、と聞いたけど、一番早く書ける紋がそれだという。ロープだとかを出したら私がそれを咄嗟に掴まなきゃいけないし、上手いことストップさせるには紋が複雑すぎる。物を浮かせる魔法はヒースの魔力の出力じゃ足りないし、私はまだ覚えてない。ていうかこれも複雑だから時間も掛かる。魔法も万能じゃないねぇ。結果、誤魔化し方は後で考えるってことで、一度リードで止めたあとプルメリアに浮遊魔法を掛けてもらうことにした。意を決し、ノートを閉じる。

 瞬間浮遊感が戻ってきて、遠くで私の名前を呼ぶ声がした。怖くなって思わず目をつぶった直後、体がグンッと引っ張りあげられる感覚がして、そして止まった。セーフ、紋を書くのが間に合ったみたいだ。

 ただまぁ……なに?上向いた状態で吊られているから、すげぇ体が反るんだわ、痛てぇや。首を上げれば初日に見たような半透明のリードが、ハーネスみたく肩と腰で固定されている。そのまま上を見ればヒースは必死にリードの先を引っ張っていて、プルメリアが何か別の紋を書いていた。うん、これ首痛いな。諦めて力を抜くべきなのか、どうするのがいいんだ?紐一本だから体がゆっくり回るし、何よりヒースの両腕が心配。

 あ、プルメリアが書き終わったっぽい。紋がこっちに飛んできて、当たると同時に体が浮く。そのままスルスルとリードで引っ張られてグリフォンに乗せられたので、今度はしっかりとベルトを締めた。プルメリアが杖を振り、再び体が重くなる。


「……お騒がせしました。」


 今の、浮遊魔法にしては紋が複雑じゃなかったから……物の重さを減らす魔法かな。確かにその方が書くの早いもんね。


「えー、これ突っ込んでもいい?」

「あとであとで。取り敢えず無事で何より。」


 ヒースのあしらいに納得してなさそうな顔でウィズが眉を寄せる。


「……今正面にあるのが南の山でぇす。」

「あっ続けるんだありがとう。」


 南の山はMonstrosity校のある森の奥か。向こう側は、うーん、開けてはいるけど緑。田んぼか?畑か?こう見るとMonstrosity校のある森はそんなに大きくなくて、南の山と東西の山はすぐ近くだ。……っていっても西の山の先にも森があるからパッと見繋がって大きく見える。東の山は大きすぎて向こうが見えない。Phoenix校の奥にも街が広がっていて、北の山は少し遠い。


「降りるか、一通り見えただろうし。」


 ヒースの言葉に激しく頷く。正直怖いので降りたい。グリフォンの首にしっかり掴まって、降下を耐える。


「取り敢えずノートの使い方は分かったな。あまり役に立ちそうにないが。」

「どこに戻りたいか言えば、戻れるっぽいね。」


 先に降りたヒースに手を引かれながらグリフォンから降りる。ノートとドラゴン、校長のこと。ちょっとずつ材料は揃ってきたような。でもそんなことより目下の問題は。


「じゃ、詳しく説明してもらえる?」

「……どうします?」


 グリフォンから降りて仁王立ちするウィズと、その後ろで伺うプルメリア。ヒースに言外にどこまで言うんすか、と尋ねれば彼はぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜてから溜息をついた。


「詳しくも何も俺たちも分からないから今探っているところだ。」

「どういうこと?」

「初対面の時から使い魔の契約があった。契約理由も分からないから破棄しようもない。」


 使い魔の契約だけ、話すことにするらしい。私は特に口も挟まず、うんうんと頷いた。


「……でもカエデって人間でしょ。」

「そだよ。」


 ウィズの言葉に激しく頷く。そうそう、そうなんだよ。それ私達も困ってんの。


「ヒース、カエデを異世界から連れてきたの?」


 プルメリアが首を傾げると、ウィズがぽんと手を打った。


「確かにね!カエデが他所からヒースに召喚されたなら話は通じるのか。覚えてないわけ?」


 ……異世界から来るのって悪魔だけじゃないの?キョトンとする私を他所に3人は会話を続ける。


「だから初対面だったって言ってるだろ。カエデが引っ越してした日にはもう契約されていたんだよ。」

「だよねぇ、それにカエデは迷いの森出身でしょ。」


 ああ迷いの森。その言葉に空の上で唐突に浮かんだ映像を反芻する。ホントに……思い出話が出来そうなくらい自分の「故郷」の景色が脳味噌にインストールされている。画面越しみたいであまり実感はないけど、これはここの私の思い出、ってことになるのか。考えようとしてなかったけど、言われてみりゃ馬車に乗っていたことや横転した様、取り敢えずグリフォンに乗って……落ちて……うん、それもやっぱり知っている。この世界における転校生のカエデ、は順調に形成されているということなのかな。


「まぁこのことは内密にな。お互い不便には思っているんだが……。」

「解消する方法がないんじゃ、仕様がないね。」


 無理やり話を収めた感あるけど、まぁウィズとプルメリアも取り敢えずはいいやとばかりに追求するのを止めたらしい。


「空の旅はどうだった?」


 向こうの方から、別のグリフォンを見ていたらしいお兄さんが近づいてきた。落ちかけたんだけど、とクレームの一つや二つ言ってやろうかとも思ったけど、なんで助かったんだって話になるから黙っておいた。お兄さんにお礼を言ってお金を払ってから、Monstrosity校の方へ戻る。はぁ、また奢らレイヤーになってしまった。グリフォンに乗った場所は学校がある森の中、街とは反対のほうだったので、街に行く道ほどしっかり踏み固められてない。


「このまま街まで出てご飯食べる?それとも学校戻る?」


 ウィズの問いかけにプルメリアが真っ直ぐ前を指差す。街1票。


「あっちの方が選択肢多いだろ。」


 街2票。


「僕今日は甘い物食べたい気分なんだよね。」


 街3票。あ、それ分かる。めっちゃ甘い物食べたい。パンケーキとか餡蜜とかああいう炭水化物だけど甘いやつ!


「私も甘い物食べたい。」


 街4票。学校の前を素通りして真っ直ぐ進み、街まで出る。昨日進んだ方ではない道を通り、カフェ通りがあるらしい方へ案内される。


「色々あるよ、和菓子も洋菓子も。」

「世界観ガバガバか。」

「え?」

「いやなんでもない。」


 和菓子あるのかい。でも確かに所々日本風の建物交じり込んでいるんだよね、ほらあそことか茶屋って感じ。それにしても、このあたりは多分うちの生徒の領域なのかな。Phoenix校の制服は見当たらない。


「この辺はうちの生徒が多いね。」

「そうだな。ただこの辺りもたまに来る奴はいる。……まぁ会ったってお互い嫌な顔をするだけだ。関わらないようにすりゃ問題は無い。突っかかりに行くなよ。」

「いや行かないよ、ヤンキーじゃないんだから。」


 ヒースの言葉に苦笑いしていたら、ウィズが振り返って入りたいお店を聞いてきた。4人指した店が見事にバラバラだったので、買って学校に戻って食べることにする。私はさっき見た茶屋の方に戻って、暖簾をくぐった。話し声が聞こえる。すこし薄暗い店内に目を瞬かせ、目が慣れてくると、奥のカウンターにお店の人がいて客1人と談笑しているのが分かった。

 客の赤髪のポニーテールを見た時に、あれ、と思って目を瞬かせる。店の人と目が合った。店のおばちゃんが、あらごめんなさい何になさる?と尋ねたのを聞いて、客もポニーテールを揺らしてこっちを振り返る。その顔にやたらと既視感を覚えるのは、昔の私のイメージ通りだからだろうか。彼女はPhoenix校の制服を着ていなかった。そりゃ、日曜日だから不思議はない。ただ私の制服をみて眉をひそめたのをみて、すぐにあっちの生徒だと分かった。それに、彼女の容姿ならよく知っている。

 ようやく生で主人公を見ましたわ。この子が多分サイネリア、サイネと呼ばれている女の子。赤髪のポニーテールなんてそうそういるとは思わないし、何しろここは物語の中。容姿が被るようなモブが配置されているはずがない。

 でもなぁ、ここで話しかけるとノートがバレる、というかストーカー疑惑かけられるから。素知らぬ顔でカウンターの近くまでいって商品を吟味する。そりゃね、話せりゃいいと思うことは沢山あるけども。


「サイネちゃんはうちで食べてく?」

「あぁうん、そうする。ありがとうおばちゃん。」

「後で席持って行ってあげるから、適当に座ってな。」


 ほらね、サイネリアだ。でもなぁ、何ってなぁ。ここで食べる訳でもないし……取り敢えず思考を放棄。


「オススメあります?甘いもん食べたいんですけど。」


 顔を上げておばちゃんに向かって言ったつもりだったんだけど。何故かサイネが振り返って


「わらび餅。」


 と答えた。振り返って私がおばちゃんのほうに話しかけていたことに気がついたんだろう、ぐっと頬が赤くなった。


「……美味しいよ、わらび餅。」


 いや押し通すんかい。思わず笑うと、顔を逸らされた。おばちゃんにわらび餅とみたらし団子を注文すれば、おばちゃんは奥に引っ込んでいった。席に行くに行けなくなったのかこちらを伺うサイネに向き合う。


「ありがとう。」


 Monstrosity校の子に声かけるの、嫌だったんじゃない。聞きかけたけど、ぐっと飲み込んだ。彼女は制服を着てないんだから、私が彼女の学校を知っているはずがないんだ。


「あれ、もしかして貴方、ランタナに会った人?」


 と思ったら向こうからばらしてきた。げ。思わず自分の体を見下ろす。まだ痕残ってたかな?


「昨日、聞いた背格好に似ていたから。……違った?」


 思わず瞬き。あれ?昨日ランタナ2人に話したって言っていたっけ。遠距離会話をした時にはそんな話はなかったし……。あ、でも思えばあの後ノート見てないから、その後何があったのかは分かんないんだよな。


「うん、そう。会った。貴方はなんでそれを?」

「昨日、セカモアが『ランタナに会ったっていうMonstrosity校の生徒にあったんだけど』って詰め寄って、色々聞いた。」


 セカモアに詰め寄られる……昨日の怒涛の勢いを思い出して、思わず苦笑いを浮かべた。そりゃまぁね、色々言っちゃうわな。後でノートでどこまで言ったのか確認してみよう。


「そっか。まぁ、彼からどこまで聞いたか分かんないけど、きっと貴方とはまたどっかで会うと思うから、よろしくね。えーっと、貴方がサイネリア?」


 奥からおばちゃんが紙袋を持って戻ってきた。おばちゃんに渡された袋を受けとり白々しくたずねれば、彼女は小さく頷いた。


「じゃあ、また。」


 それにしても、なんでこんなにサイネに既視感があるんだろう。なんか似ている人いたかな。それともまた例のデジャヴ?外に出ればヒースだけが通りに立っていた。


「2人は?」

「まだ。」

「そっかぁ。」


 なんとなく手持ち無沙汰で、彼が買ったものをぶんどって中を覗く。あ、美味しそう。満足したのでそのまま彼の手元に戻せば、ヒースが子どもかよ、とくすくす笑う。


「あぁそういえば……昨日の校長2人の話、何か思いだ

「あ!」


 ヒースの声を遮って思わず声を上げた。往来の人が一瞬こっちを見て、また興味を失って歩き出す。


「なんだよ、いきなり。」

「いや違うのよ、思い出した。さっきサイネに会ったんだけど、なーんか見た事ある顔だなと思って。」

「はぁ。」


 興奮する私にヒースは体を反らせ気味で頷く。いやごめんでもマジ個人的には大発見なのよ。


「校長だよ!校長達に似てない?」

「サイネがぁ?」


 驚いたように片眉を上げた後、ヒースは首を横に振りかけ……いやでも言われてみれば目元が、うーん?と考え込んでしまった。えー、絶対似ていると思うんだけど。


「というかそもそもあいつに会ったのか。有名なくせに、よくこっちまで来たな。」

「制服着てなかったから、こっちでもあんま目立たなかったんじゃない?」

「あの赤髪で?」

「ヒースだってピンクでしょ。そんな珍しかないんじゃない?」

「まーな……。」


 そのあとプルメリアが合流したため一度この話はお流れになった。全員揃った後、何時ものように一番広いウィズ達の部屋に押しかけて各自買ってきたものを広げる。全員が腰を落ち着けると、ウィズがプルメリアに防音魔法をお願いした。なんでやろ。


「それにしても全然分かんないねぇ、校長の思惑っていうやつ?そっちはどお、ランタナに会えたんでしょ。」


 パンケーキを頬張りながらウィズがボヤく。なるほど確かに手紙の内容は見ていたんだから、実際会ったか気にもなるか。


「二人とも、昨日なぁんにも言ってくれないからさぁ。」


 プルメリアも横で頷く。そーいや昨日夕食の時、その話、しなかったな。正直校長二人がそっくりな理由を思い出すのに必死だったし。まぁ思い出せてないんですけど。


「うん、向こうも手伝ってくれるってよ。まぁ、ランタナ以外の二人はどうなのか、いまいち分かんないんだけど。」

「向こうはなんて言われているって?」

「よく分かってないみたい。向こうが来るから応戦しろ、ってくらいで。理由を聞いたら聞くなって言われたってさ。」


 つまりは、割と手詰まり。ヒントはバラバラとあるんだけど、なんか繋がらない。そもそも校長同士の揉め事がなんでドラゴンになるんだ。いやなるのか分かんないけど、ここは物語の中なんだしその二つに関連がないわけは無い、と思うんだよね。


「協力しなきゃ分かんない部分はあるだろうけど、やっぱり割り切れないところはあるよね。」


 ウィズがポロッとこぼした言葉に、プルメリアがサンドイッチを頬張るのをやめて首を傾げた。姉さんは偉いから、しっかり口の中身を飲み込みきってから口を開く。


「敵対する理由、ないよ。」

「そりゃね、確かに明らかに僕らは騙されて向こうを嫌ってるわけだけどさ。」


 むーっと眉を寄せて、言葉を選ぶように黙り込む。うん、オススメされただけあってわらび餅うまいな。


「ずっと嫌な相手だと思ってたんだよ?やっぱり、すっと切り替え効かないでしょ。」


 ヒースは偉いよねぇ、ランタナに手紙まで出してさ。そう言って再び食事に戻るウィズの言葉に、思わずジト目でヒースの方を見た。お兄さん本当は、だいぶ頑張って文句言いながら歩みよってますもんね。二人の前では涼しい顔で、サラッと向こうに協力を要請する、って言って見せたけど。おいこら目を逸らすな。


「知り合いの一人でもいれば印象変わるかもしれないけどさ。昔からの友達とかいないし。」

「だいたい進学する奴が少ないだろ、友人の大半は家業を継いでいる。」

「その職が使っている魔法だけ教われば、困んないもんね。」


 なるほど。バラバラの場所から生徒が集まっている有名校のわりに規模が小さいのは、そもそも進学者が少ないからか。


「親近感ぜんっぜん湧かないもん。いざ協力って言っても顔合わせたら揉めちゃいそー。」

「親近感、なぁ。」


 ヒースの含みのある言い方がちょっと気になったけど、彼はそれ以上何も言わなかった。

 お昼を済ませて部屋に戻った後、ローブからノートを出して開く。多分ヒースが怒るけどそんなことは知らない。


「あー、こりゃ災難だったねぇ。」


 昨日の分の記述で、私達と別れたあとのランタナの様子がよく分かる。学校に戻ったあと図書館でパンフレットをゲットして、部屋に戻り、私に電話をかけて、そのあとランタナを探し回っていたセカモアが道中巻き込まれたサイネと部屋に押しかけてきた、らしい。それで魔法具の実験は躱しつつ、手紙のことや私の事、これから校長二人のことについて調べたいことを伝えたようだ。二人は現段階では邪魔はしないけど協力はし難いと言うスタンスのよう。


「いきなりノートを開けるな!」

「いきなりドア開けないでくださーい。」


 予想通りというかヒースがドアを開けて飛んできた。納得いかなげに謝罪して入ってくるので思わず笑ってしまう。


「いや開けたらくるだろうなーと思って。今日は話しておきたいこと多いし。」

「ウィズと話している途中だったんだぞ……突然目の前の人間が硬直したらビビるだろ。」


 もはや定位置になった、丸型テーブル(というか私には卓袱台にしか見えないんだけど)前の床に座り込むヒースにクッションを投げつける。ベッドに腰かけていたけど立ち上がって、私もテーブルの近くに座り込んだ。


「魔法生物を作るのは闇魔法なんだねぇ。」

「そうなると、ドラゴンの主はうちの関係者の可能性が高いかもしれないな。」


 伏せてノートをテーブルに置く。あ、コーヒー用意しなかったや。


「そういや、魔法って青いよね?滲み出ると黒いの?」


 お兄さんの言葉を思い出しながらふとたずねれば、ヒースが小さく首を傾げた。


「ほら紋を書くと青く光るでしょ。」

「ああ、あれは闇魔法でも光魔法でもない。通常魔法だから青く光るんだよ。」


 曰く、闇魔法なら紋は黒く、光魔法なら紋は白く光るものだと言う。


「例えば何があんの?」

「基本的に通常魔法と同じものがそれぞれのパターンある。例えば火を出すにしろ、」


 ヒースはさらさらと私の知っている紋をかいた。青く光った後、小さな火の玉に変わったそれは大人しくヒースの片手に収まっている。杖を再び振れば、火はすぐに消える。魔法を作るのには紋を書く手間があるのに、解除は杖をひとふりするだけというはいつ見ても積み木を想起する。積むより壊す方が簡単だ。


「これがいつもの。少し紋を変えれば、」


 次にヒースが書き込んだ紋は黒く光った後……黒く光る、というのも妙な表現だが確かに黒く光った、先程と同じように火の玉に変わった。あ、何かに干渉するわけではないなら、ノートを開いていても魔法は出せるんだな。


「な?まぁ何が違うって言うのは授業で詳しくやってくれ。攻撃の相性とか、魔力の出しやすさとか……まぁそんなもんだ。俺らは通常魔法と闇魔法しか習わないから、光魔法は実演してやれないんだが。」


 Monstrosity校は闇魔法と相性が良い者が入試で選別されているらしい。だから基本的に皆、闇魔法のほうが魔力を出力しやすいそうだ。その分力加減を誤ると疲れるから、普段は通常魔法ばかり使うという。


「時々闇魔法でしか出来ないこともある。逆も然りだな。分かりやすいのだと、強い光を生み出せるのはあっちだし、完全な暗闇を生み出せるのはこっち。」


 そのあとヒースは窓の外を指さした。目線を投げれば、森の木々が見える。


「例えばほら、あの木を一瞬で枯らすことが出来るのは確か闇魔法だけだ。」

「光魔法は?」

「正直、よく知らない。」


 なるほど。今度ランタナにでも見せてもらおう。話が途切れたので、テーブルに半身を投げ出す。……けどすぐに顔を持ち上げた。


「あ、忘れてた。私が異世界から来たならワンチャンってことはさ、もしかしてヒースが私の事この世界に呼んだんじゃない?そう仮定すれば、私がこの世界に来た流れも、なぜか使い魔契約を結んでいたことも説明がつく。」


 昼間、ウィズに言われたことを思いだして尋ねてみた。ああそれな、とヒースは腕を組む。


「俺もその可能性は考えていたんだが、ただそんなことした覚えはないんだよな。」

「じゃあノートのせい?また時間が歪んでんじゃない?」


 うーん、とヒースは手を顎に当てた。あり、可能性はあると思ったんだけどな。


「でもデジャヴしてないだろ。」


 あ、確かに。じゃあ違うのかなぁ……。ん、でもそうすると、


「つまりノーヒント?」

「現段階では。」

「ちぇ。」


 上げた頭を再びテーブルとこんにちは。木目と睨めっこしていると、上からヒースの声が降ってくる。


「少し話は戻るが、闇魔法で誰かがつくったドラゴンだとして、魔力暴走を起こしているんだろ?結構まずいよな。」

「校長二人の喧嘩と絶対絡んでんだよね。あそうだ、後でランタナにサイネが校長の親戚じゃないか聞いてみよ。」


 顔を挙げずに言うと、何故か髪の毛がわしゃわしゃと撫で回される。なんでや。不満げに唸ると、珍しい色だよなぁと呟きが聞こえた。


「地毛にしては暗い色だな。」

「地毛だよぉ。」


 ランタナに聞いた話を思い出す。この世界じゃイメチェン割と簡単だろうな。地毛と区別つかないくらい綺麗に染まるんだもん。伸びてプリンになるんじゃなくて、魔力切れるまで綺麗なまんまで、あとは全体がだんだん色落ちするらしいのよね。顔をちょっといじっったり、髪の色変えたりすれば、印象もだいぶ変わるだろうな。

 取り敢えずノートを閉じて、ランタナに電話……もとい遠距離会話をかけることにした。開き直ったのかヒースも今回は逃げることなく隣にいる。昼間だし出ないかな、と思ったけどランタナも部屋にいたらしく、すぐに繋がった。また映像も繋げておく。


「サイネが?あぁ、うん。よく分かったね、校長はサイネのおばさんにあたるんだよ。」

「やっぱり?似てんなーと思ってさ。あ、ならサイネは校長に姉妹がいるかとか分かるかな?」

「ああ、昨日の瓜二つだって話だね。」


 聞いたことはないけど……と少し考え込んだ後、ランタナはポムと手を打った。


「呼んでこようか?」

「え?サイネを?」


 遠距離会話が始まったきり隣に座って特に話していなかったヒースが、そっと枠外に逃げた。ランタナには慣れたけどサイネはダメってか。向こうでランタナが吹き出したのが分かった。


「じゃあまぁヒースの避難も終わったし呼んでもらってもいい?サイネは私のこと知ってるもんね。」

「うん、朝街で会ったんだって?」

「そうそう。2人に話したってのは聞いたんだけど……2人は協力してくれるって?」


 まぁしてくれないってさっき読んだけど。案の定少し顔を曇らせて、ランタナは首を横に振った。でも校長の話を少し聞くくらい平気だろう、とのこと。画面からランタナが消えて、しばらくすると戻ってきて座り込んだ。そのすぐあと、画面の端から恐る恐るといった様子でサイネが覗き込んでくる。


「わらび餅、美味しかった。」


 と笑えば、キョトンとしたあとサイネも吹き出した。良かった、ちょっとは緊張もほぐれたようだ。早速本題に入るべく、サイネにも校長二人がそっくりなことについて話してみる。


「ウィローおばさんには姉妹は居ないはず。」

「ホント?従兄弟とかでもいいんだけど。」

「聞いたことないや。おばさんに似ている人なんて、心当たりないよ。」


 うーん、空振り。思わず肩を落とした私達に、ああでも、とサイネは手を叩いた。


「ずっと気になっていたことがあるの。7年前くらいに、何かの魔法を研究している、って言って、ウィローおばさんに全然会えない時期があったんだ。」


 7年……つーと学校創立の少し前か。


「1年くらい音信不通で、次に連絡があった時には学校建てたって話だったんだよね。でも、何度聴いても一体なんの研究だったのか教えてくれないの。」


 失敗したんだって言って、それっきりだんまりを決め込んでいるのだそう。サイネが持っているPhoenix校の校長……ウィロー校長の情報はそれくらいとの事なので、一度お開きになった。遠距離会話を終えて、お茶でも入れるかと立ち上がりながらふと疑問をぶつけてみる。


「そーいやうちの校長の名前はなんて言うの。名字は違うって言ってたよね。」

「パンフレット見ただろ……エアオ校長だ。エアオ・ジェンダ。」


 この世界あんまり苗字で人呼ばないのな。普通先生とか校長とか、敬称につけるのはファミリーネームだよね。

 にしても珍妙な名前だな。今のところキャラの名前って花の名前しかなかったのに。……ん?いや待てよ、もしかするともしかするな。


「ねぇ、それスペルわかる?」

「え、まぁ分かるが、どうした。」


 不思議そうにしながらも、ペンを取って適当なメモに書き付けていく。……ペンもメモも私の机にあったやつだけどまぁ許す。


「ほら。」


 渡されたメモに目を滑らせる。流暢な字で書き付けられた


 Jnde Eao


 の文字を見て、わたしもペンを取った。


 Jnde Eao

 J N D E E A O


 書かれた名前の下にすべての文字を大文字で書きだす。


「キャラクター名に統一感がある時にね、そこから外れる名前があるなら大抵意味がこもってんのよ。暗号かアナグラムとかだな。」

「名前が、か?でもそんなの、生まれた時から決まっていることだろ。」

「ここは物語の中なんだよ、ヒース。」


 うっと言葉につまる様子を見て、なんだか申し訳ない気持ちになる。自分が作り物だなんていい気はしないよね。


「……うーん、語感悪いしアナグラムかな?」


 つってもなー、いい感じに並べ替えるには……なんだろ。英単語だよね多分。


「いい感じの言葉が思いつかない。」

「なぁ、この話を書いた時に好きだったとことかないか?影響受けたりするだろ。そもそも何を見てアナグラムなんて思いついたんだ。」


 ヒースの切り替えが早くて助かる。物語だと言うのなら、書いた時の心情が重要だろ、という彼の言葉に記憶を引っくり返す。


「え、なんだったかなぁ。待ってね思い出す。多分推理小説とかドラマだな。」


 小学校の頃小学校の頃……何読んどったかな……。


「推理小説って例えばなんか好きなのある、ヒース。」

「俺に聞いてどうする。そりゃまぁコナン・ドイルとかアガサ・クリスティとか。」

「えっそれはこの世界でも共通項なの。」


 ますますガバガバの世界観と時代設定に困惑する。コナン・ドイルは名前こそ知っていたけれど、つい最近初めて読んだし。あ、でもアガサ・クリスティは読んでたな小学校の頃。オリエント急行だのそして誰もいなくなっただの。……あっ!


「U.N.オーエン!」

「は?」

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