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The Book of Ctum 〜コアンタム・ドグマ〜  作者: 抹茶ラーメン
外伝
3/11

ブルートー共和国にて

西に沈む太陽が活気に溢れる街に光を注いでいた。


折畳式の幌を後ろに収納する車が商店街の中心に整備された砕石舗装の道路を進んでいる。


通りに面した商店には多くの市民が立ち寄っており、街全体は生彩を放っていた。


買い物を終えた家族が娘を中心に手を繋いで家路に付いている。

道路に一番近い位置には父と見られる男性が食料品を包んだ紙袋を持って歩いており、娘を挟んで反対側には楽しそうに笑う娘の様子を微笑みながら見つめる母の姿があった。


「今日のご飯何にするーーーあっ。」

少し舌足らずな口調で娘が母親に尋ねている。母親はそうねぇと首を傾げて思考していると娘は道路の凸凹に足を取られて転んでしまった。


勢い良くつんのめる形で体勢を崩した娘は両親の手をすり抜けて顔から地面に突撃してしまった。娘はすぐに立ち上がったがその額からはうっすらと一筋の血が流れ出ていた。


「ちょっと、大丈夫?」

母親はすぐに腰を落として娘の様子を見る。


娘は突然の出来事に放心していたが徐々に痛みを知覚し、その潤んだ瞳からは堰を切るように涙が流れ落ちた。娘は声を上げて泣き始める。


父親も心配そうに娘の様子を覗き込もうとしたが、前方から近づいてきた男の影に気がついて視線を前に向けた。


紫紺のマントに身を包んだ軍服を着た男は娘の前で座り込み、ポケットから布のハンカチを取り出すとそれで娘の傷から出る血を拭き取った。


「大丈夫かい?すぐに良くなるからね。」

軍服の男は目の下に深い隈を帯びていたが、娘の状況を慮る温かい口調で言葉を紡いでいた。娘は男の声に気づいていないようで大声で泣き続けている。


ハンカチをしまった男は腰に下げている鞄から光沢のある黒色の物体を取り出した。


男はその鉱石を左手に持ち替えると、何かを念じるように目を閉じて右手を娘の額に当てた。

娘の体から様々な色彩を帯びた飛行機雲のような物質が放出され、娘の体を取り巻くように溢れ出していく。その中の緑と赤の物質が男の持つ鉱石に引き込まれるようにして消失していった。


溢れ出した雲状の様々な色の物質は緑と赤色が鉱石に吸い込まれたと同時に霧散し、その残渣である粒子がちかちかと光を反射した。


「今回は特別だぞ。」

茶色に変色した鉱石を鞄にしまうと白濁色の鉱石を取り出し、娘に向かって悪戯っぽく笑みを浮かべたまま頭を撫でる。


軍服の男は左手の指先で右手に持った白色の鉱石をつまみ、その鉱物から白みの掛かった薄紅色の煙霧を取り出した。


男はその物質を摘んだまま娘に向けて放り投げる。薄紅色の煙は男の手から離れると同時に霧消し、辺りを白みかがった大気で包み込んだ。


「お兄ちゃんありがと、もう痛くなくなったよ。」

娘は晴れやかな顔を見せると感謝の言葉を述べる。男は娘の笑顔に満足そうな表情を浮かべると、もう一度娘の頭を撫でて立ち上がった。


「調律師様、そんな高価なものを有難うございます。」

「いやいや、気にしないでくれ。こちらも最近いい商品が入ったもんでね。」

両親は調律師と呼んだ男に深々と頭を下げる。


娘も両親を見て真似するように頭を垂れた。男は両親から受けた仰々しい謝辞を遮るように手を振って答えた。


「今回受けた好意は他の誰かに与えてやってくれ。」

顔を上げた両親に対してそのように述べた男は手を上げて別れを告げると家族の後方へと歩みを進めたいった。


家族は暫く男の姿を見つめていたが、その背中は民衆でごった返す街中にすぐに消えていった。


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