打倒! 闇のツナデ!
「あたいが『闇の軍団』の頭を張ってるのはねぇ、あたいが最強の忍だからさ!」
ツナデが呼び出したオオナメクジは、全身から粘液を足らしながら、角のような目でエリンたちを見下ろします。
「こ、怖いです、エリン……」
その異様な姿に怯えたはじめ姫がエリンを見ると、それ以上にキノコ忍者はうろたえていました。
「うっぎゃあああーーーっ!? な、な、な、ナメクジだあああーーーっ!!」
「エリン!?」
「ふっふっふ、『くさ』タイプのあんたに『むし』タイプの技は効果ばつぐんだねぇ。さあ、『ナメック・セイジン』! あのキノコ小僧をやっておしまいっ!」
ヌジュル、ヌジュルッと粘着質な音を立てながら、オオナメクジがヌメヌメヌメとにじり寄ってきます。
「来んなーっ! ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん! キノコ忍法、ドクツルタケ!」
ぼぼぼぼぼぼぼん!
エリンはナメクジの周辺を取り囲むように白いキノコを乱立させ、猛毒キノコの檻に閉じ込めようとします。
ところが!
ムシャッ、ムシャッ!
ムシャ、ムシャ、ムシャーッ!!
「!!」
オオナメクジは猛毒をものともせず、美味しそうにドクツルタケを食べ尽くしてしまいました。
「はっはっはっ! あたいの相棒にそんなものが通用すると思ったかい? その調子であの小僧のぷにぷにほっぺも噛ってやりな!」
「あ、あ、あ……」
ヌジュルー! と粘液の音で返事をしながら、さらに前進を続けるオオナメクジ。対抗する手段を失ったエリンは逃げる事すら忘れ、ただ呆然と立ち尽くします。
しかし、そんな彼の前にはじめ姫が敢然と立ちはだかりました。
「は、はじめ……?」
「わたくしは、エリンに何度も助けていただきました。ですから、今度はわたくしがエリンを助けます!」
カタカタと震えながらも、勇気を出して敵に相対するはじめ姫。
ですが、さらにナメクジとの距離が近づくと。
「やっぱり、無理です! 怖いですー!」
「ええー?」
「うええーん!」
結局はじめ姫は泣き出して、空から雨が降り出しました。
「はーっはっはっ! 何かと思えば、ナメクジに湿気は大好物だよ!」
ヌメヌメヌメ♪ とオオナメクジも身体を揺らして、喜んでいるように見えます。
「「も、もうダメだーっ!!」」
抱き合って震える、エリンとはじめ姫。
絶体絶命の大ピンチ! しかし……。
ケロ……、ケロ……。
「ん? 何の音だい?」
「ヌジュル……?」
「ケロケロ言ってんなー」
「これは、まさか……」
3人と1匹が不思議に思っていると。
ケロケロケロケロケロケロケロケロケローッ!
「「「うわーっ!!」」」
雨に呼び寄せられた何十匹ものカエルが、森の奥から波のように押し寄せてきました。
カエルたちは一斉にオオナメクジに襲いかかります。
実はナメクジはカエルの大好物。
以前、森長老が話していた『虫拳』の三すくみでは、ナメクジは蛇に勝ち、蛇はカエルに勝ち、そしてカエルはナメクジに勝つのです。
巨大なナメクジを恐れもせずに、飛びついて群がる緑色のカエルたち。
へばりつかれ、舐められ、しばかれ、噛みつかれ、悶え苦しむオオナメクジ。
そして、ついに!
『ヌジュルーッ!!』
たまりかねたオオナメクジは、自ら魔法陣の中へと沈んでいきました。
「ああっ! ナメック・セイジンっ!」
「「やったーっ!」」
エサがいなくなったカエルたちも、森の奥へケロケロと帰って行きます。
「カエルの皆さま、ありがとうございました」
「じゃあなー、ばいばーい」
カエルを見送り、おじぎをするはじめ姫と手を振るエリン。
「く、くっそーっ!」
奥の手を封じられ、怒りに震えながらもツナデはクナイを構えて悪あがきを見せます。
「まだやる気か? なら、さっきはおいらの苦手を出されたから、今度はおまえの弱点を攻めるぞー」
「あたいの弱点だと?」
「ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん。キノコ忍法『男になーれ』!」
エリンが術を発すると、なぜかツナデの股間がもりもりもっこりっ! と盛り上がりました。
「へっ……?」
怪異な気配に、ツナデはおそるおそる自分の下着の中を覗きます。
すると、そこには見るからにたくましい男性のシンボルが!
「う、う、うぎゃあああああぁぁぁーーーっ!! あ、あたいが、男になったーーーーーっ!!」
あわあわしながらツナデはそこらじゅうを走りまわり、最後はぎゃああああーーーっ! と狂ったように叫びながらエリンたちの前から逃げて行ってしまいました。
「よっしゃー! おいらたちの勝ちだー!」
どどん!
「えっ、えっ? いったいどうなったのですか? あと、あの方のおまたが急に盛り上がっていましたが……」
わけが分からず、はじめ姫はエリンに問います。
「ああ。おいら、あのおばさんの股間にマツタケを生やしてやったんだ」
「えっ……」
「あのおばさんは『男が嫌いだー』とか言ってたから、きっとチ◯コが生えたと思って泡を食ったんだろうなー」
「そ、そんなからくりが……」
ツナデが召還するナメクジに弱いエリンは、逆にツナデにめっぽう強い。これもうまく『三すくみ』になっているなあと、はじめ姫は思いました。
「で、でも、おまたにキノコが生えて、あの方は大丈夫なんですか?」
「あー、マツタケは引っ張ったらすぐに取れるぞ。一本1万円くらいする立派なやつを生やしてやったから、焼いて食ったらすげえうめーぜ?」
「おまたに生えたキノコを食べる人なんています?」
方法はともかく、なんとか窮地を脱したエリンとはじめ姫。ようやく、ほっと一息つくことができました。
と、思いきや……。
パチ、パチ……。と何かが焼ける音と匂いが漂い始めます。
「ん? あのおばさん、もうマツタケ焼いてんのか? 気が早ええなー」
「えっ? いえ、これは……」
パチ、パチパチパチ……。
ボッ、メラメラメラメラッ!
森の奥の方で、明るい火柱が上がっているのが見えました。
「大変です……。森が、森が燃えています!」