キノコ忍者の大ピンチ!?
「ん? あの声は……!」
遠くからエリンの耳に、聞き覚えのある女の子の悲鳴が聞こえました。
「もしかして、はじめか?」
「はっはっはっ、別動隊が姫を捕まえたようだねぇ」
「えー、マジでー!? おまえら、なんてことすんだよ!」
「ハンゾウ! あたいは向こうに合流するから、ここはあんたに任せるよ!」
「御意」
「あっ、待て! おばさん!」
「誰がおばさんだ!」
脱兎のように走り去るツナデをエリンは追おうとしましたが、黒装束の男たちが行く手を阻みます。
「じゃますんな! そこをどけ!」
『どけと言われてどく奴がいると思うか?』
「キノコ忍法、ホコリタケ!」
ボフーン! とエリンが球形のキノコを地面に叩きつけると、辺り一面に白い胞子が舞い散ります。
『うわっ! 何だ、これは!』
『全く前が見えん!』
『ゲホンッ、ゲホンッ!』
「おっ先ーっ」
忍者たちが混乱しているスキに、エリンははじめ姫を助けに向かおうとしますが。
ガッ!
「えっ!?」
何者かに身体を捕まれ、ダンッ! と木の幹に押しつけられます。
目の前には覆面の忍者。ハンゾウの持つ忍者刀がエリンの首に押し当てられました。
「こざかしい真似をしおって……」
「くっ、離せー!」
「だが、なかなかいい腕をしている。どうだ小僧、このまま死にたくなければ我々の配下にならないか?」
「ばーか、おいらナメクジと悪い奴は死ぬほど嫌いなんだよ!」
窮地にもかかわらず、エリンはハンゾウに向かってあっかんべーを繰り出します。
「強情な奴だ……。ならば、いさぎよく散れい!」
ドガッ!
「おぶぅ!」
ハンゾウは突如何者かに蹴り飛ばされ、もんどりを打ちます。
木漏れ日を受け、七色の輝きを見せながらその場に現れたのは。
「危ないとこだったわね、エリン」
しゃららーん!
「クリスタルねーさん!」
「エリン、ここは私に任せて、あなたははじめちゃんを追いなさい!」
「わかった! ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん。キノコ忍法、カエンタケ!」
ばぼん!
「きのこロケット!!」
エリンはカエンタケの燃料を搭載したキノコのロケットに飛び乗ると、あっという間に空へと飛び出して行きました。
『よくも、副長を!』
『くそっ! 待ちやがれ!』
「おっと、あなたたちの相手はこの私よ」
一斉に襲いくる忍者たちに、タキザワ・クリスタルは挑発するような手招きの動作とともに、怪しげな呪文を唱えます。
「怨・門・天・難・死……。水晶流星陣!」
ドゴガガガガガッ! と、亜空から飛来して来る水晶の弾丸が、黒装束の男たちを撃ちすえます。
『ぐわあああーっ!』
忍者たちの前に、美しい笑みをたたえて立ちふさがるクリスタル。しかし。
「ぐ、ぐうう……」
『副長っ!』
『ご無事でしたか!』
副長のハンゾウが蹴られたダメージを噛み締めながら、ゆっくりと起き上がります。
「美しい……。もう一度、今の蹴りをください」
『副長ッ!』
「き、気持ち悪い男ね……」
「ふっふっふっ、美しい上になかなかの手練れのようだな……。だが、たった一人でこの人数を相手に出来るかな?」
ハンゾウの合図で数十人の黒忍者たちがぞろぞろと現れ、水晶の麗人を取り囲みます。
「上等よ……」
タキザワ・クリスタルは不敵に笑うと手刀を煌めかせ、カンフー使いのような戦いの構えを取りました。
「あなたたち、よくも私の弟妹に手を出してくれたわね。覚悟なさいな!」
*
一方、ミニスカートのくノ一、ツナデを先頭に森の中を走る闇の軍団。
「さあ! こんな森とっとと脱け出して、『雨降らしの姫』をオブナガ様の元へ連れていくよ」
『御意!』
「むー、むー、むー!」
縄でぐるぐる巻きにされたはじめ姫は、猿ぐつわを噛まされて、えっさえっさと彼らに担がれて行きます。
そこへ。
「待てーっ!!」
チュドーン!
『うわーっ!!』
とつぜん飛来してきたキノコのロケットが、黒忍者たちの目の前に墜落して爆発します。
一足先に脱出していたエリンは、しいたけの傘をパラシュート代わりにふわりと空から降りてきました。
「やっと追い付いたぞ! はじめを返せー、このロリコンおばさん!」
「誰がロリコンおばさんだ! しつこい小僧だねぇ。あんたたち、やっておしまい!」
『御意!』
「キノコ忍法、ナメコ! ぬるぬるカーペット!」
エリンが大地に手のひらをつけると、忍者たちの足元にじゅうたんのようにナメコが生えて行きます。
ぬるぬるすてーん! つるつるつるー!
『何だ、これは!』
『ぬるぬるして、立てない!』
『やばいっ! 坂をずり落ちるーっ!』
さらに、傾斜のついたナメコの地面を滑り台のようにツルツル落ちていく黒忍者たち。
ぽぽぽいのぽーい!
『うわあああああーーーーーっ!!』
モブ忍者たちは、崖から放り出されて谷底に落っこちてしまいました。
「さっ、これでもう大丈夫だぞー」
「ぷはっ! あ、ありがとうエリン……」
忍者たちのリーダー、ツナデがあっけに取られているスキに、エリンははじめ姫の縄と猿ぐつわを解きました。
「え? い、いつの間に……?」
「さあ、これで残りはおまえだけだぞ。とっとと降参したらどうだー?」
キノコ忍者のエリンは1人残されたツナデに自信満々に詰め寄ります。
ところが。
「ふっふふふ、ふはははは、はーっはっはっは!」
「ん? 何がおかしい? 頭がおかしくなったのか?」
「あたいが降参だって? はん、笑わせるね。なんで女のあたいが、軍団を率いてるか分かるかい?」
ツナデは、のうまくさらまんだーと呪を唱え。
「召還忍法! 出でよ、オオナメクジ!」
ドンッ!!
印を結ぶと、地に描かれた魔方陣からどす黒いオーラを吹きながら、ツナデの身長の2倍はありそうな巨大なナメクジが現れました。