キノコ忍者vs闇の軍団
美しい緑の森を真っ黒な絵の具で塗りつぶすかのように、黒装束の忍者の小隊が走り抜けていきます。
「雨が降ったか……。やはり、情報に偽りはなかったようだね」
紫髪の美貌のくノ一『ツナデ』が先頭を疾りながらつぶやくと、副長とおぼしき覆面の男がその隣に走り寄ります。
「頭領。これならば、雨を降らせる姫の存在も間違いないかと」
「ハンゾウ、顔が近い。男くさい息を吐きかけてくるんじゃないよ」
「御意」
すぐさま離れようとする副長の『ハンゾウ』。
するとそれに気をとられたせいか、ツナデが石につまずいてすっ転びそうになります。
「きゃっ!」
「危ない!」
とっさに倒れかけるツナデを支えるハンゾウ。でしたが。
「触るな!」
ドゴォ!
「おぶぅ!!」
ハンゾウはツナデに腹を蹴り飛ばされ、木の幹に叩きつけられました。
「あたいは男が嫌いなんだ! 気安く触るんじゃないよ!」
『副長っ!?』
「だ、大丈夫だ……」
心配して駆け寄る部下たちを制し、ハンゾウはツナデに頭を下げます。
「今日も素晴らしい蹴りをごちそうさまでした」
『副長ッ!?』
どうやら、ハンゾウは女性に蹴られて嬉しい人のようです。
「相変わらず気持ち悪い男だねぇ……。あんたたち、ボヤボヤしてないで、とっとと『雨を降らせる姫』をさらいに行くよ!」
『御意!』
「お前ら、そんなに急いでどこ行くんだー?」
声をかけられた忍者たちが、ハッと前を向くと三度傘のようなものをかぶった少年がにこやかに立っていました。
『な、何奴!?』
「おいら森人、キノコ忍者のエリン! おまえら、ニンゲンのおばさんとおっさんってやつだな?」
「森人……?」
「おばさんだと!? あたいはまだ二十三だ!」
「『雨を降らせる姫』ってはじめのこと言ってんのか? おばさん、知り合いか?」
ニコニコしながらおばさん呼ばわりする少年にイラっときましたが、ツナデはすぐに冷静さを取り戻し。
「ああ、そうさ。やい、チビ助! 姫の居場所を知ってるのならあたいらを案内しな!」
「えー、やだよ。なんか感じわりーなー。おまえら一体何なんだ?」
「ふっふっふっ、聞いて驚くな? あたいらは泣く子も黙るノダ・オブナガ様直下の『闇の軍団』!」
シャキーン!
手下の忍者たちもポージングを決めます。
「わかった! おまえら、厨二病って奴だろ?」
『違う!』
「わはは。おいら、厨二病とはトモダチになりたくないなー」
『だから、違うと言ってるだろっ!』
「チッ。誰かこいつを痛め付けて、姫の居場所を吐かせてやんな」
『御意!』
ツナデの指示に、二人の忍者がエリンにゆっくり近寄っていきますが。
「キノコ忍法、ホンシメジ!」
ボッコーンッ!
突如、地面から生えた一本モノの巨大なキノコに、二人の忍者は打ち上げられ、キランと星になりました。
『……えっ?』
何が起きたのか分からず、周りの忍者たちはポカンとします。
そのスキにエリンは間合いを詰めると。
「キノコ忍法、ブナシメジ! きのこのホクト百裂拳!」
バババババッ、ドバキッ! と拳にまとった大量のシメジで、忍者たちをメッタ打ちにしました。
『ぐわあーっ!!』
「おいらと闘るのは止めといた方がいいぜー。おいら、めっちゃくちゃ強えーぞ?」
「くっ、ひるむな! 全員でやっちまいな!」
『御意っ!』
「あらよっと」
ツナデの命令で一斉に襲いくる忍者たちを、エリンはひらりとかわし、木の枝から枝へと飛び移りながら。
「キクラゲ手裏剣!」
スカカカカンッ!
『ぐわあーっ!』
バタバタと倒れる黒忍者たち。
「危ない!」
手裏剣は頭領のツナデも襲いますが、ハンゾウがとっさに彼女を地面に押し倒してかばいます。
が。
「触るなぁ!」
「おぶぅ!」
「あたいは男が嫌いだと言っただろ!」
「あ、ありがたきしあわせ……」
エリンは「ふーん、あのおばさん男が苦手なんだなー」と思いつつスタッと地面に降り立つと、臨兵闘者……と九字護身法の印を結び。
「ぽんぽんぽぽん。キノコ忍法、エリンギ! キノコ分身の術!」
ボボーンッ! と忍者たちの目の前に、たくさんのエリンが現れます。
「「「「「どれが本物か分かるかなー?」」」」」
『何だとっ!?』
黒忍者たちがそれぞれ目の前にいるエリンに斬りかかりますが、ポンポンポンッと小さいエリンギに変わるだけで全く手応えがありません。
『くそっ、くそっ! 本物はどれだ!』
『あ……、あれが本物では……?』
『何っ!?』
一人の忍者が指差す先。そこに現れたのは顔はショタだが、筋肉ムキムキのナイスガイ!
「キノコ忍法、肉、厚! マッチョルゥームッ!!」
『うわーっ! 化け物だーっ!!』
「化けモンはひでーなあ。こう見えても、おいらは妖精だぜ?」
『そんな妖精がいるかーっ!!』
エリンは面食らった忍者を高々と掴みあげると、逃げ惑う忍者たちに投げつけます。
ドガーッ!
『ぐわあああーっ!!』
「必殺、ダブルラリアット!!」
さらにエリンは忍者軍団の中に飛び込むと、両腕を左右に広げた状態で回転しながらラリアットを浴びせます。
その姿を例えるなら、ロシアの赤いサイクロン!
ドガガガッ、ゴガガガガッ!
『ぐわあああーっ!』
『助けてくれーっ!』
「わははー、口ほどにもないなー。もっと強い奴はいねーのか?」
シュルシュルシュルっと元の姿にもどったエリンが得意気に言い放ちます。
ですが、その時。
『キャー! 助けてくださいっ!』