森人たちとの楽しい生活
翌朝。
さっそくエリンは村人たちを集めて、はじめ姫がこの村で暮らすことを報告しました。
「つーわけで、はじめはおいら達の仲間になったぜー」
「みなさま、これからよろしくお願いいたします」
「ワタシは穀物の森人ナマムギー・ナマゴメです。こちらこそよろしく」
イネを頭から生やした森人が、藁の手であくしゅをします。
「オレの名前はジャガー・サツマだ。よろしくな」
「ボクは」「ワシは」「自分は」「ミーは」
「……えっと?」
次々と名乗りを上げる森人たちに、はじめ姫はとまどいますが。
「はじめー、こいつらモブだからいちいち名前を覚えなくてもいいぞー」
『おいっ!』
「いえいえ、そういうわけにはいきません。すぐには難しいかもしれませんが、みなさんのお名前は必ず覚えさせていただきます」
『な、なんてエエ娘や……』
はじめ姫の森人の村での生活は、順調に始まりそうです。
*
村には、エリンと同じ背格好の子供のような森人もたくさんいます。
はじめ姫も仲間に入っていっしょに遊びます。
今日は『鬼ごっこ』をするそうです。
「がーっはっはっ! 俺様は鬼だー!」
「ぐははははっ、俺様も鬼だ!」
「げひゃひゃひゃ! 俺様こそが最強にして最凶の鬼だーっ!」
『ギャーッハッハッハーッ!!』
「鬼ごっこって、そんな遊びですか?」
全員が鬼のまねをし始めたので、はじめ姫は思わずツッコミます。
鬼ごっこのちゃんとしたやり方を覚えて、追いかけっこをする子供たち。
ですが。
「ああっ!」
はじめ姫も外で遊びなれていないので、石につまづいて転んでしまいました。
「ううううう……、痛いですー!」
はじめ姫が泣き出すと、また雨が降り始めます。
茂みからカエルたちが、ケロケロと姿を現します。
「おーい、アロエー。はじめのケガを治してやってくれー」
「はあい、ただいまあ」
女の子っぽい森人が、自分の頭のトゲトゲした葉っぱをむしり取り、はじめ姫のすりむいたひざ小僧に葉っぱの汁をぬりぬりします。
すると、不思議な事にみるみると傷が治っていきました。
「アロエの葉っぱにはケガを治す効果があるんだ」
「アロエさん、ありがとうございました。でも、わたくしのために大事な葉っぱが……」
「だいじょうぶですよお、すぐ元に戻りますんで」
言ってるそばから、ニョキニョキとアロエの葉っぱが生えてくる様子を見て、はじめ姫はあらためて森人ってすごいんだなあと思いました。
*
「イノシシが出たぞーっ!」
「誰か、たすけてくれーっ!」
芋の森人ジャガーさんが、大きなイノシシから追いかけられています。
イノシシは芋が大好物だからです。
必死に逃げるジャガーさんには申し訳ないですが、これはお肉をゲットするまたとないチャンス。
エリンはイノシシの前に飛び出すと。
「ぽんぽんぽぽん! キノコ忍法、エリンギ!」
むきっ、むきむきむきっ!
「肉、厚! マッチョルゥームッ!!」
ムッキーンッ!
自らの身体能力を高める技で、顔はショタなのにはち切れんばかりのムキムキボディになったエリン。
「ふんぬっ!」
イノシシの体当たりを易々と受け止め、ヘッドロックしながら高々と担ぎ上げると。
ドッゴーンッ!
脳天を地面に叩きつける、垂直落下式のブレーンバスターをお見舞いしました。
「よっしゃー、仕留めたぜー」
「よくやったわ、エリン。あとは私にまかせなさい」
しゃららーん。
「クリスタルねーさん!」
「あと、筋肉が気持ち悪いから元に戻りなさい」
「はーい」
水晶の麗人、タキザワ・クリスタルは手早くイノシシを締めると、さっそく料理を始めます。
「出来たわよー、猪骨ラーメンとチャーハンとギョーザと酢猪とマーボーどうふ!」
食卓に並んだ中華料理の数々。ホカホカと湯気をたてて、かぐわしい香りがただよいます。
「はじめちゃん、お味はどう?」
「美味しいです!」
「猪肉は、ヨーグルトと味噌に浸けて寝かせたから柔らかくなってると思うけど」
「うんめーっ! 腐葉土と同じぐらいうめー!」
「それ、ほめてるのよね?」
美味しいごはんの後は、ほっとひといきティータイムの時間。
はじめ姫とクリスタルは他の森人の女の子も呼んで、ティーカップの紅茶とスコーンを楽しみながら、女子トークを弾ませました。