森人の村
キノコ忍者と名乗る少年エリンに連れられて、はじめ姫は木漏れ日がさす森の中を歩きます。
しばらくすると、明るい光がさんさんと満ちた、大きな広場のようなところに着きました。
「『森人の村』についたぞー」
「ここが、森人の村……」
そこは、不思議な空間です。
人の形を取った草木や花たちが、広場の中で遊んだり、おしゃべりしたり、楽しそうに過ごしています。
とても、不思議な空間です。
「おーい。なに、カカシみたいにつっ立ってんだー? 早く来いよー」
「えっ、あ……ごめんなさい」
「心配すんなって、とりあえず『ちょーろー』に会わせてやっから」
村の中を進むエリンの後ろを、しずしずとついていくはじめ姫。
すると、彼らの姿を見つけた森人たちがわらわらと集まって来ました。
森人たちは、エリンのほっぺたをプニプニつつきながら物珍しそうにたずねます。
「おっ、エリン! なんだ、その子は? もしかして人間か?」
プニプニ。
「へっへー。おいらの新しいトモダチだぞー」
「へー、こんなところに来るなんて珍しいなあ」
言いながら、イネを頭から生やした森人はエリンのほっぺたをプニーっと引っ張ります。
エリンは森人の手をバタバタ払いのけ。
「こらーっ! おいらのほっぺたを触んなって、いつも言ってるだろっ!」
「はっはっは、すまんすまん。お前のほっぺたを見てたらつい。人間のお嬢さん、森人の村へようこそ」
「は、はい……」
エリンはぷりぷりしながらはじめ姫を案内しつつ、村の一本道を進みます。
すると、今度はじゃがいもに手足が生えたような森人が近寄ってきました。
「おっ、エリン! 人間の子なんか連れてどうした?」
「いいだろー。おいらの新しい友だちだぜ!」
「へー、お目にかかる機会すらなかなか無いのに、すごいじゃないか」
じゃがいも顔の森人はエリンのほっぺたを、両手でプニーっと引っ張ります。
「こらーっ! なんで、おいらのほっぺたを引っ張るんだ!」
「ごめんごめん。お前が引っ張りやすそうなほっぺをしてるもんで。お前のお友達なら、オレたちも歓迎するよ」
「え、はい。ありがとうございます……」
まったくもうとぶつくさ言うエリンと、はじめ姫は広場の中央の大きな木の所までやって来ました。
「おーい、森ちょーろー! 起きてたら返事してくれー!」
エリンが大きな声で叫ぶと、枝がザワザワザワと揺れて、大きな木の幹に優しそうな老人の顔が現れました。
「……おおお、エリンか。おはよう」
「もう、昼だぞー」
「ほっほっほ。年を取ると時間の感覚がわからんでのう。おや……、そこなるお方は?」
「おいらの新しいトモダチだ。なんかお姫さまらしいぜ」
はじめ姫は、かちんこちんに緊張しながら。
「こ、こんにちは。わ、わたくしは、初ともうします……」
「ほっほう。それはそれはよくぞここまで参られた。ワシは『森長老』ことバオバブと申す。ところでエリンよ、お前さんのほっぺたを触ってよいかの?」
言いながら、森長老は枝のような手でエリンのほっぺたをぷにぷにぷにぷに。
「こらーっ! なんでちょーろーまで、おいらのほっぺをプニプニするんだー!」
「ほっほっほ。お前さんのほっぺたは村の宝じゃからのう」
「おいらのほっぺたはおいらのもんだぞ!」
「ふふふふふ……」
エリンと村人たちのやり取りを見ていたはじめ姫は、思わず笑顔を見せます。
「はじめー、なんでお前まで笑うんだよー?」
「あっ、ごめんなさい……。でも、みなさん仲良しで楽しそうだったものだから、つい……」
「ほっほっほ。ところで、お前さんは何のご用でここまで来られたのかの?」
「えっと、それは……」
「はじめは自分の国から追ん出されて、行くとこ無いんだって。村に住んでいいか?」
言いにくそうにするはじめ姫の代わりに、エリンが問います。
「ほっほっほ、そりゃ災難じゃったのう。むさ苦しいところじゃが、村人は木のいい連中ばっかりじゃ。食べる物に困ることもない。好きなだけ滞在するがよいですぞ」
「いいんだって。良かったなー」
「はい! ありがとうございます」
あっさりと長老のお許しがもらえて、緊張の糸が切れたはじめ姫。
すると。
「へくち!」
ぐーっ!
くしゃみと同時にお腹も鳴らしてしまいます。
恥ずかしくなったはじめ姫は、顔を赤らめます。
「おお、雨で服が濡れてしまっとるようじゃな。風邪をひくといかん。エリン、服を出して差し上げなさい」
「あいよっ」
エリンは胸の前で臨兵闘者……と、九字護身法の印を切ると。
「ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん。キノコ忍法、キヌガサダケ!」
ぽんっ、と地面から白いキノコが生えます。そして。
「『キノコドレス』!|
ぼんっ! とキノコが一瞬ではじめ姫の背丈ほどに生長し、ぱあっと傘を広げました。
「きれい……」
「さっ、服が出来たぞー。着てみろよ」
エリンは服を手渡すと、じーっとはじめ姫を見ています。
「あの……。見られていたら着替える事ができないのですが……」
「そうなのか? ニンゲンって、めんどうだなー」
「ほっほっほ。レディーにはいろいろとあるのじゃよ。はじめ殿、恥ずかしいのならそこの茂みで着替えて来なされ」
「えっ? それはそれで、ちょっと……」
良く言えばおおらか、悪く言えば雑な性格の森人たち。
文句を言うわけにもいかず、はじめ姫はしぶしぶ茂みの陰で着替えをすませました。
「おっ、はじめー。よく似合ってるじゃねーか」
「ほっほっほ」
その服はヒラヒラとフリフリがたくさんついた、はじめ姫が初めて見るもの。
その姿はまるで、西洋のお姫さまのようです。
「すてき……。ありがとうございます」
「そんなにありがたいか? こんなもんなら、いくらでも出してやるけどな」
そう言って、エリンはそこら中にでかいキヌガサダケをぼこぼこ生やします。
「あ、いえ。そんなにたくさんはいらないのですが……」
次は、ごはんの時間です。