人と妖精の親愛のしるし
「初姫……、そなたを国から追い出したりして、申し訳なかった。どうかまた、城に帰ってきてもらえないだろうか?」
「父上……」
戦いが無事に終わり、平和を取り戻した小さな国の大平原。
はじめ姫は父親である小さな国のお殿さまと再会し、お殿さまたちからの謝罪をうけて、晴れてはじめ姫はお城に帰ることになりました。
「エリン、クリスタルお姉さま、アロエさま。長いあいだ本当にお世話になりました。村の皆さまにも、よろしくお伝えください……」
「はじめちゃん、本当に帰っちゃうの? 親だからってこんな虫の良い人たちの言うことなんか、素直に聞く必要ないのに」
小さな国のお殿さまに良い印象を持っていないタキザワ・クリスタルは、お殿さまをにらみつけますが。
「いえ、わたくしがそうしたいのです。国の皆さまに迷惑をかけていただけのわたくしが、雨を操れるようになった事で、ようやくお役に立てるようになりましたので」
「でも……」
「わたくしは、この国の姫ですから」
はじめ姫は、決意を込めた瞳でそう言います。
「はじめがそうしたいんなら、それでいーんじゃねー?」
『!?』
「むずかしい話はわかんねーけど、はじめがやりたいようにやるのが一番だと思う! はじめが帰っちゃうのはさみしいけどな」
「エリン……」
泣き虫で『じめじめ姫』だったはじめ姫の、頼もしくなった姿を見たクリスタルは。
「そうね。はじめちゃんがそう言うなら、私はもう何も言わないわ。でも……」
クリスタルが煌めく手刀を地面に叩きつけると、ドッゴオオオオオンッ! と、大地に底知れぬ裂け目を刻みます。
「今度はじめちゃんを粗末に扱ったら、あなたたちを『おもてなし』じゃなくて『みなごろし』にするわよ? 分かった?」
しゃららーん!
『き、肝に銘じておきます……』
「やっぱ、クリスタルねーさんはおっかねーなあ」
「エリン……、あなたのおかげでわたくしは本当に救われました。ありがとう……」
はじめ姫は瞳をうるませながら近づくと、エリンのぷにぷにほっぺにチュッと口づけをしました。
頬を赤くするはじめ姫を見て、エリンはキョトンとしながらクリスタルにたずねます。
「今のはなんだ?」
「それは『キス』って言って、人間界では一番仲の良い人への親愛のしるしよ」
「ふーん、そっかー……。ナメクジが這ったみたいで、気持ちわりーな!」
んぎぃーとしかめっ面をするエリンに、その場にいた人たちはあらあらあらとずっこけます。
「でもまあ、親愛のしるしってんならおいらも見せるぞー。ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん。キノコ忍法、サクラタケ!」
ポポポンッ!
「『千本桜』っ!」
ぽんぽんっ、ぽぽぽんっ、ぽぽぽんぽんぽんっ、ぽぽぽぽぽ、ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ…………。
無限に広がる桃色、ピンク、薄紅、淡紅。それは季節外れの春景色。
エリンが九字護身法の印を切ると、わっと辺り一面に桜の色のキノコが咲き乱れました。
「雨のあとだから、たくさん生えたなー」
『なんと、素晴らしい光景だ……』
「きれい……」
はじめ姫はうっとりしながら、足元のサクラタケを拾います。
「あ、それは食ったらダメだぞー。毒だからな」
「わたくしの国に毒キノコを生やさないで」
はじめ姫のツッコミに、なんでー。せっかくいっぱい出したのにー。とほっぺたを膨らませるエリン。
その場にいた人たちは、またあらあらあらとずっこけますが、すぐにわっはっはと笑いました。
「なんだよー。はじめも笑ってんじゃねえかー」
「ふふふふふ……」
*
こうして、一年にわたる森人の村での暮らしを終え、はじめ姫は自分の国へと帰っていきました。
それからも時々はじめ姫は森人の村に、エリンははじめ姫のお城へと行き来し、しばらく二人の交流は続きます。
それから、五年後……。
十五歳になり美しく成長したはじめ姫は、お母さまと同じように水不足に苦しむ人たちを救うべく、『雨降らしの巫女』となって世界を巡る冒険へと旅出ちます。
もちろんその旅のお供には、五年前と変わらない姿の、ぷにぷにほっぺのキノコ忍者の少年が。
後に伝えられるところによると、彼らが立ち寄った土地には、潤った大地と美味しいキノコ。
そして、たくさんの笑顔が残されて、二人の旅はつねに笑いが絶えなかったという事でした。
めでたし、めでたし。
おしまい
(おまけ)
エリン「ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん。キノコ忍法、ワライタケ!」
はじめ「いや、『笑いが絶えなかった』って、そういう意味ではないですよ!?」
おしまい
(作中に登場したキノコリスト)
エリンギ
ワライタケ
キヌガサタケ
カエンタケ
マッシュルーム
エノキタケ
しいたけ
ヤコウタケ
ホンシメジ
ブナシメジ
キクラゲ
ホコリタケ
なめこ
ドクツルタケ
マツタケ
『すうぱあ』なキノコ
毒キノコ
サクラタケ
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




