すうぱあはじめ姫
世界中が大干ばつで苦しむ中、ここははじめ姫のふるさとである小さな国にある大平原。
攻め込もうとしているおとなりの国の軍隊三万人と、小さな国の兵隊三千人がにらみ合いをしています。
かたや、小さな国の本陣。
はじめ姫様の父上で小さな国のお殿さま『ナガイ・アサマサ』は、ずずーんと暗い顔で頭を抱えていました。
「ただでさえ干ばつで困っているのに、おとなりの国からも攻められるとは……。いっそ降伏をした方が、民のためでは……?」
「殿、それはなりませぬ! おとなりの国は一方的に同盟を破棄して我が国に攻め込むという、鬼畜の所業! せめて、あの『ノダ・オブナガ』に一矢報いねば気がすみません!」
重臣の一人がそういうと、周りの家来たちもそうだ、そうだー! と声をあげます。
一見、気合いが入っているようにも見えますが、誰一人として勝てるとも勝とうとも思っていないのが悲しいところ。
正直、小さな国の兵たちは、敵国の十倍の戦力差を前にぶるぶると震えておりました。
「今さらではあるが、やはり初姫を追い出すべきではなかったか……」
此方、おとなりの国の軍営拠点では。
「殿! 我らがノダ軍、布陣が完了しました」
「で、あるか! とっとと小さな国を滅ぼして、皆でたらふく飯を食らおうぞ!」
オオオオオオオオオオーーーッ!! と三万人の軍勢がオブナガの檄に応えます。
「全軍……、突撃じゃーっ!!」
ズシン……、ズシン……、ズシン……。
「ん、何の音だ?」
『な……、何だあれは……?』
『と、殿! あちらを……!』
家臣たちが震えながら、後のほうを指差しています。
オブナガが見ると、雲を割って天を衝くような、巨大な生物がこちらに向かって近づいていました。
*
ズシンッ! ズシンッ! ズシーンッ!
ボフッ。
『わぷっ!』
のしのしと歩いていた巨大生物は、空に浮かぶ雲に顔を突っ込んでしまい、わたわたします。
雲の中から現れたのは、なんとはじめ姫の可愛らしいお顔でした。
『エーリーン、わーたーくーしーは、何のーキノコをー、食べたのですかー?』
その頭の上に乗っている、世界中のあらゆるキノコを使いこなすキノコ忍者は、巨大なはじめ姫に聞こえるように大きな声で答えます。
「名前は言えねーけど、『すうぱあ』なキノコだー!」
『それはー、あのゲーム会社にー、謝らないといけないのではないですかー? 裁判とかになったらどうするのですかー?』
「そいつは心配いらねーと思う! あそこは花札の会社だから、植物のおいらたちには優しいはずだぞー、たぶん!」
『えぇー……』
「『やべーキノコ』って、そういう意味だったの?」
同じくはじめ姫の頭に乗っている、タキザワ・クリスタルは呆れたように言います。
『あとー、なんでーわたくしの服はー、身体が大きくなっても破れないのですかー?』
「キヌガサダケのドレスはやわらかくて、引っぱればドンドンのびる! ドラ◯ンボールのベジ◯タの戦闘服も大猿になった時に破れはしなかっただろー? あれと同じだー!」
「エリン、いい加減にしないとBANされるわよ」
「『ばん』って何だ?」
ズシンッ! ズシンッ!
「うわあ、すごおく高いですねえ」
「いや、絶景かな、絶景かな」
その横にはなぜか、頭からトゲトゲした葉っぱを生やした森人アロエと、覆面の忍者ハンゾウの姿もありました。
「エリン、なんで癒し系のアロエちゃんも連れて来たの?」
「ああ、はじめが転んでケガするかもしれねーから、念のためだなー」
「今のはじめちゃんが転んだら、大惨事になりそうだけど……。それで、何であなたまでここにいるのかしら?」
クリスタルが冷たい視線をハンゾウに向けます。
「やや、これは異なこと。不肖このハンゾウ、貴女に生涯の忠誠を誓いましたるがゆえ、主の向かう所どこへでも付いてまいりますぞ」
「そんなあっさり寝返られてもねえ。で、本音は?」
「人外娘に蹴ってもらうという、新たな性癖に目覚めたからでござる」
このド変態。と虫を見るように蔑むクリスタルに、ありがたきしあわせと頭を垂れるハンゾウ。
「まあ、おっさんが仲間になりてーってんなら、別にいんじゃねー?」
「エリン、あなた殺されかけた相手なのに、のんきなものねえ」
『ああー、わたくしの国がー見えましたよー。まだ戦は始まっていないみたいですー。よーかーったー』
エリンたちが頭の上でわちゃわちゃ話しているうちに、ついにはじめ姫は戦場まで辿り着きます。
はじめ姫は、おとなりの国の軍を見下ろすところで立ち止まりました。
『えーとー、これからどうしましょうー』
「とりあえず、パンチでもおみまいしたらどうだー?」
『だーめーですよー、そんなことをしたらー』
「そうよ。グロになってしまうし、下手したら衝撃ではじめちゃんの国が滅んじゃうわよ」
「そっかー、どうしたもんかなー?」
一方、小さな国の本陣では。
「あ、あ、あ……」
突然、ぬおおおおんと戦場に現れた巨大生物の姿を見て、小さな国のお殿様ナガイ・アサマサは腰を抜かしていました。
「は……、初姫!?」
そして、おとなりの国の軍勢も、すうぱあはじめ姫の出現に大きく動揺していました。
ですが、さすがは戦国の雄ノダ・オブナガ。
すぐに気を取り直すと、自軍に号令をかけます。
「皆のもの! あの化け物は我々の敵じゃ、かかれい!」
『はっ……、ははーっ!!』
ノダ軍は一斉に陣形をはじめ姫に向けると、まずは三段がまえの鉄砲隊が足に狙いを定めます。
パンパンッ!
パンパンッ!!
パンパンパンッ!!!
「長槍隊、前へ!」
『おおーっ!!』
さらに長い得物を持った足軽歩兵部隊が、はじめ姫の足元に取りつくと、一斉に槍でプスプスプスと刺しました。
『いーたーいー!』
「うわーっ! こらーっ、おまえらっ! やめろーっ!」
それを見て、はじめ姫の頭の上でエリンは大慌てです。
もちろん、せいぜい針が刺さったくらいの痛みでしかありませんが、はじめ姫の瞳にうるうると涙がたまっていきます。
『う、う、う……』
「ヤベえっ! みんな、耳をふさげー!」
エリンが叫ぶと頭の上の面々は、とっさに両耳に手を当てます。
すると。
『う゛え゛え゛え゛え゛え゛ーーーん!! 痛いですーーーーーっ!!!』
ゴオオオオオッ!!
天を揺るがすような爆音が轟き、空は厚い雲に覆われて行きます。
そして。
ガラッ、ガラガラッ、ピシャーン!
ザアアアアアァァァァァーーーーーッ!!
雷鳴と共に、殺気立った戦場に、干からびた大地に、誰もが待ちわびた雨が降り始めました。
『うわあーーーっ!!』
『雨だーーっ!!』
『やったぞおおおおおーーーーーっ!!』
両国の水不足を一気に解決するような豪雨に、小さな国の兵も、おとなりの国の軍勢も、戦の事を忘れて大喜びです。
ですが、それはここだけの話ではありませんでした。
いたいですー、いたいですー、うええええーん、うええええーん! と、はじめ姫の泣き声は世界中に広がり、海の向こうの万里の長城がある国も、ピラミッドがある国も、凱旋門がある国も、自由の女神像がある国でも雨が降り出します。
こうして、世界的な大干ばつもすっかり解消されてしまいました。
本人たちの知らないところで、みごと世界はすうぱあはじめ姫のおかげで救われたのです。
*
「是非も無い! 皆のもの、国に帰るぞ! 田植えの準備じゃー!」
『ははーっ!!』
おとなりの国の軍勢も、潮が引くようにあっという間に退却していきます。
その様子を前にして気が抜けたのか、へなへなと座り込む小さな国の兵士たち。
「ぬりぬりい、ぬりぬりい♪」
「アロエ殿、もう一枚葉っぱを下さらぬか?」
「はいはあい」
「ついでに、拙者の尻を蹴って下さらぬか?」
「どさくさに紛れて何を言ってるの?」
アロエとハンゾウとクリスタルは、薬草を塗ってはじめ姫の傷を癒します。
「ほら、はじめー。アロエがケガを治してやったから、いいかげん泣きやめよー」
『うううううー……。ありがとーうーございますー』
「これが外の世界かー。すんげえでっけえなあーっ!」
エリンははじめ姫の肩に乗り、虹が空を彩る小さな国を眺めます。
足元に広がる大平原、どこまでも続く空、遠くに見える山々と城。さらに先には海も見えます。
生まれてからずっと森暮らしだったエリンは、吹き抜ける風を感じながら、世界ってとんでもなく広いんだなーと思いました。
『とーこーろでー、わたくしはー、どうすれば元の姿に戻れるのですかー?』
「あっ、そうだった」
ポンッとエリンが取り出したのは、紫色のかさに黒い斑点がついた、見るからに身体に悪そうなキノコ。
『こーれーはー?』
「スーパーマ◯オの『毒キノコ』だ! チビの時に食ったら死んじまうけど、今なら小さくなるだけですむぞ?」
『えぇー……』
コモッコモッコモッ♪(小さくなった音)




