雨降らしの姫君
ボンッ! ボーンッ! ボンボーンッ!
ドゴゴゴォーッ!
あたりから、炎が爆ぜる音が響きます。
おそらく目的を果たせなかった闇の軍団が、やけくそで森に火を放ったものと思われます。
火薬を使っているのでしょうか、おそろしく火の回りが早いです。
「えー、マジでー? やっべえじゃん!」
「あわわわわ……。ど、どうしましょう!?」
「とにかく村に帰るぞ!」
「は、はい!」
エリンとはじめ姫は、あわてて森人の村に戻ります。
村の広場では森人たちが、森長老を中心に身を寄せあって固まっていました。
「火だよー、熱いよー」
「怖いよー」
もともと植物の性質を持つ森人たちは、火にはとても弱いのです。小さい子どもの森人たちは、ぷるぷるぷるぷる震えています。
「くそっ、これじゃオレは焼き芋になっちまうぞ!」
「それなら、ワタシは炒飯ですね」
「長老様! このままでは、我々は焼け死んでしまいます!」
「さてさて、どうしたものかのう……」
森長老様も打つ手が無く、途方にくれています。
「そっかー、おいらも焼きキノコになっちゃうんだなー」
さすがのキノコ忍者も炎には勝てません。観念して地べたに大の字に寝っ転がります。
森人たちはみんな諦めムードになり、最期を迎える事を覚悟しました。
そこへ。
「あの、わたくしなら、なんとかできるかもしれません……」
おずおずとですが、はじめ姫が名乗り出ます。
「はじめ?」
「木は雨に強くて火に弱く、火は木に強くて雨に弱いですから、これもまた『三すくみ』になりますので……」
『そうだ! はじめ姫ちゃんが泣いたら雨が降るんだった!』
『やったー! これで助かるぞー!』
『さあ、さっそく泣いてくれ!』
はじめ姫の言葉に勇気付けられた森人たちは、がぜん元気を取り戻します。
ですが、はじめ姫は泣くようすを見せず、両手を合わせて祈りを捧げ始めます。
(ただ、闇雲に泣いても火は消せません。下手すれば大洪水にもなりかねません。きちんと雨を操らなければ……)
『……?』
『なんで、はじめ姫ちゃんは泣かないんだ?』
『早くしないと、ミーたちは焼け死んでしまうよ』
「しっ、はじめがやるってんだから、全部はじめにまかせとけ!」
迫り来る炎の気配、うだるような熱、立ち込める煙。
一向に雨が降る気配がなく、森人たちは焦りを覚えますが、はじめ姫を信じて待ちます。
(今度こそわたくしは、わたくしを助けてくれたエリンと森人の皆さんに恩返しがしたいのです。天国のお母さま、どうかわたくしにお力をお貸しください!)
はじめ姫はエリンよろしく、九字護身法の印を結ぶと。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前! お願いします、雨よ降ってください!!」
はじめ姫が天に向けて、カッと印を突き出すと、にわかに黒い雲が森人の村の上に集まります。
そして、ドザーッと大雨が降りだしました。
『やったーっ!』
「まずは、皆さんを雨で濡らして燃えないようにします。そして……」
はじめ姫が空に向かって、ゆっくりと両手を広げると、黒雲が輪のように拡がって行きます。
内側から外へ向けて、ドーナツ型の雲が雨を降らせていきます。
ついに森を焼き尽くさんばかりの炎は、ジュジューッ! という音とともに、全て消えてなくなってしまいました。
目的を果たすと雨が止み、はじめ姫はふーっと大きく息をつきます。すると。
どわわーっ!
『やったーっ!』
『みんな助かったぞー!』
『はじめ姫ちゃん、ありがとー!』
森人たちがわーい、わーいと喜び沸き立ちました。
「やったな、はじめー! 自分で雨を操れたじゃねーか!」
「は、はい……。でも、森が……」
そう言って、表情を曇らせるはじめ姫。
かろうじて森人の村は無事でしたが、実は周りの森の木々は燃え、悲しいくらいの惨状になっているのです。
ですがエリンと森長老さまは、にこやかにはじめ姫に微笑みかけます。
「ああ、それなら全く心配ないぜー」
「えっ?」
「ほっほっほ、火さえ消えればこっちのものじゃよ。世界樹の加護よ、我に! 『永遠の森林』!」
森長老が厨二病のような呪文を唱えると、黒焦げだった地面に新しい芽が生え、すぐに立派な木々に育ちます。
不思議なことにみるみるうちに、森は元の美しい姿を取り戻しました。
「わあ……」
「どうだ、ちょーろーはすげえだろ?」
「ほっほっほ、伊達に長老はやってないのでのう。年の功というものじゃよ」
しゃららーん!
「はじめちゃん、大変よ!」
そこへ、タキザワ・クリスタルが息せき切って現れました。
「クリスタルねーさん! 無事だったのか? ていうか、あの忍者たちは?」
「ああ、あいつらはコテンパンにのしてやったわ。あと、ハンゾウとかいう覆面の奴は何度も蹴ってやったら、嬉しそうに失神してたけど」
「やっぱねーさんは、おっかねーなあ」
「それより、はじめちゃんの国が大ピンチなのよ!」
クリスタルがハンゾウから聞き出した話によると、森の外では世界的な大干ばつが起こっており、食べ物に困ったおとなりの国が、今にも小さな国を襲おうとしているとの事です。
「そんな……。で、では、わたくしは今すぐ雨を降らせに、国に帰ります!」
「とは言っても、はじめちゃんの国まで歩いたら何日もかかるしねえ……。エリン、さっきのロケットで飛んでったりできないのかしら?」
「あれは、長い距離は飛べないからなー。そんな何人も乗れるもんでもねーし」
「そ、そんな……」
落ち込むはじめ姫を見かねて、クリスタルは無茶な事を言い出します。
「エリン、あなたは世界中のあらゆるキノコを使えるんでしょう? この状況をなんとかできるキノコって無いの?」
「あるよ」
「「あるの!?」」
「ぽんぽんぽぽん、ぽんぽぽん!」
ポンッ!
「さあ! はじめ、これを食え!」
エリンが出したのは、赤いかさに白い斑点が付いた、見るからに毒々しい色をしたキノコ。
「これは……、ベニテングダケでは?」
ベニテングダケ。食べすぎると腹痛や嘔吐、下痢を起こし、時には幻覚や混乱、昏睡状態にもおちいる代表的な毒キノコ。
そのいかにもな見た目に、はじめ姫は尻込みをしますが。
「いや、ベニテングダケじゃねーよ? やべーキノコではあるけど」
「『やばい』シロモノではあるんですね……」
「でも、毒じゃあないぜ。必ずはじめの力になるはずだから、おいらを信じて食ってくれ!」
エリンは至極まじめな顔で、赤いキノコを差し出してきます。
今までエリンには、何度も助けてもらったはじめ姫です。
はじめ姫はエリンを信じ、思いきってキノコにかぶりつきました。




