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森の中の出会い

 挿絵(By みてみん)

 扉絵 by 秋の桜子 様

 うっそうと繁った森の中。しとしとと雨が降りそそぐ中。

 年の頃は十歳(とおとせ)ばかりか。

 美しい着物をまとった黒髪の、やんごとなきお姫さまが切り株に座ってしくしくしくと泣いています。


 ぐうーと、お腹も鳴りました。


「わたくしは、このまま死んでしまうのでしょうか……?」


 そう思うとますます悲しくなり、涙が止まらなくなるお姫さま。

 すると、そこへ。


「よっ! おまえ、ニンゲンか? ニンゲンの女の子ってやつだな?」

「あ、あなたは……?」



 『キノコ忍者とじめじめ姫』



 ここではない世界、昔の日本に良く似た島。

 時は戦国。とある小さな国のこと。


 ある年、その国をひどい干ばつが襲います。

 川は()れ、田畑も干上がり、食べる物も無くなり誰もが絶望の淵に立たされた、その時。

 『雨降らしの巫女』と呼ばれる女性がその地に現れ、渇いた大地を天の恵みで潤して、見事にその国を救いました。


 雨降らしの巫女さまはその国のお殿さまに見初められ、しばらくの後、二人の間に産まれた玉のような女の子は『(はじめ)姫』と名付けられました。


 すくすくと成長するはじめ姫さまでしたが、十歳を迎えたある年のこと、お母上である巫女さまが病で亡くなられてしまったのです。


 悲しみにくれる姫さまが涙を流すと、たちまち空がかき曇り、大粒の雨が降りだしました。


 はじめ姫さまはお母さまから『雨降らし』の力を受け継いでいたのでしょう。


 姫さまが一週間泣き続けると大雨も一週間降り続け、国中が大洪水でめちゃくちゃになってしまいました。

 それからも、姫さまが泣く度に雨が降りだします。


『洪水になったのは、はじめ姫さまのせいだ!』

『姫さまのせいで、家も田んぼもめちゃくちゃだ!』

『はじめ姫は、じめじめ(・・・・)姫だ!』


 民たちは大いに怒り狂い、手に負えなくなってしまったお殿さまは家来に命じて、姫さまを国の外れの森へ追放してしまったのです。


 食べる物もなく、しくしくと泣きながら森の中をさまようはじめ姫さま。


 そして、物語は冒頭の出会いから始まるのです。



 *



「よっ! おまえ、ニンゲンか? ニンゲンの女の子ってやつだな?」

「あ、あなたは……?」


 はじめ姫が見ると、そこには三度笠のようなものをかぶった、ぷにぷにしたほっぺたの七、八歳くらいの男の子がいました。


「おいら『(もり)(びと)』、キノコ忍者のエリンだ!」

「もりびと……? キノコ忍者?」


 そう名乗ったエリンは、紺色の忍び装束を着ています。


「おまえ、何泣いてんだー? 悲しいなら、これ食って元気だせ! 一生笑って暮らせるぞー」


 エリンがはじめ姫に差し出したのは、見た目が地味な灰色のキノコ。


「これは、なんですか?」

「『ワライタケ』っていう、毒キノコだ!」

「初対面で毒キノコをすすめないで」


 ちぇー、せっかく出したのになーと、ほっぺたをぷくっと膨らませるエリンに申し訳ない気もしましたが、さすがに食べる訳にはいきません。

 しかし、エリンはケロッと機嫌を直すと。


「なー、おまえ名前はなんてんだ?」

「わたくしは……、(はじめ)ともうします」

「へー。はじめかー、いい名前だな! じめっとした感じで」


 名前を誉められて一瞬うれしく思いかけましたが、はじめ姫はガクッとします。


「で、はじめは何でこんなとこにいるんだ? ここはめったに人間が来るとこじゃないけどなー」


 そういって、エリンは姫さまの周囲をぐるぐる回りながら、じろじろ見回します。


「実はわたくし……、父上に捨てられてしまったのです」

「父上……? ああ、親ってやつか? でも、動物ってそういうもんじゃねーのか? 獅子は子供をせんじんの谷から突き落とすって言うし」

「いえ、わたくしは国中の皆さまに嫌われてしまったのです……」


 そう言うと、ふさぎ込むはじめ姫。


「へー、なんでだ?」

「それは……、わたくしは泣くと、雨が降らせてしまう『じめじめ姫』だからです……」


 感極まったはじめ姫が涙を流し始めると、ドザーと雨が降りだしました。


「やっぱり、わたくしはこの世界にはいらない子なのでしょうか……」


 そういって、姫さまがおそるおそる少年の方を見ると、ギクッとします。

 なんと、エリンはあーんと口を開けながら空を向いて、雨水をゴクゴク飲んでいました。


「すっげえーっ!」


 いきなり叫びだすエリンに、はじめ姫は今度はビクッとします。


「おまえ、雨降らす事ができるのか? すっげーなあ!」

「え、ええ……。あなたはわたくしの事が気持ち悪くないのですか?」

「なんで? おもしろいのに」

「面白いって言われても……」


 すると、はじめ姫のお腹がぐーっとなります。


「なんだ? おまえ腹へってんのか? じゃあ、メシ食わせてやるから(うち)に来いよ」

「えっ、えっ?」

「遠慮すんなって。村のみんなにはおいらのトモダチって言ってやるから」

「おトモダチ……」


 お姫さまであるはじめ姫さまには、友達と呼べる人はいませんでした。特に国中のみんなから嫌われてしまった今ではなおさら。


 はじめ姫さまは、とっても嬉しい気持ちになりました。


「おっ、雨が止んだみたいだなー」

2020.3.28追記:

秋の桜子 様よりFAを戴きましたので、扉絵として載せさせていただきました!

桜子さん、ありがとうございます!

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お読みいただきありがとうございます!
せめて評価だけでもいただけると非常にありがたいです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 毒キノコやじめっとした名前など、ちょくちょく笑い要素を挟んでくるのが流石ですね! 「おっ、雨が止んだみたいだなー」 良いですね! この先の二人の未来を示唆するような温かい気持ちになれまし…
[良い点] まだ第1話めなのに既に面白い気配! エリンも姫も好き~! エリンの名字ってやっぱり『ギ』なのかな、と変なところでニヤニヤしつつ拝読しましたww
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