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フウリンソウ

作者: 富山晴京

 妹はフウリンソウの前で倒れていたということだった。首を切り落とされた状態で。妹は首を何か鋭利なもので切られたものと推測されているらしい。そしてまた、人間の首をきれいに切るためには、一発で切る必要があり、それができるような装置を用いて、切られたものと思われているようだ。

 妹の死によって、警察は街に警鐘を鳴らした。子供たちは一人では帰らないようにし、保護者が必ずそばに着く。夜遊びも決してさせない。

 俺は、犯人がすぐに捕まるものと信じていた。何しろ、最近の警察の力は偉大だ。テレビなどで警察の犯人を追い詰めていく様子などを見るが、どうしてなかなか、恐ろしい調査能力だった。

ドラマで描かれている技術であるからには、もちろん実在した技術に決まっている。あれだけの技術をもってすれば、逃げるほうがよっぽど難しいだろう。

警察とて、全力を挙げて捜査をしているはずだ。少なくとも、小事件としてないがしろに扱われることはないはずなのだ。何しろ、殺人なのだから。

 それなのに。

 いつまでたっても、犯人は見つからなかった。かれこれ、一か月がたつ。一か月はあまりに長かった。

 妹と同様の被害者は三人に増えた。この三人もやはり、首をなくして、フウリンソウの前に倒れていた。

 妹を殺した奴は、もう一か月も生き続けている。どうして警察はそんなにのろいのか。俺は警察が何もできずに終わるんじゃないかという不安に体がムズムズしてしょうがなかった。

 俺はとうとう、自分で犯人を捕まえることに決めた。

 方法はある。フウリンソウの前に立っていればいいのだ。これは警察から聞いた話だが、どうやら犯人は妹をフウリンソウの前で殺しているらしい。

 つまり、犯人は妹をフウリンソウの前にわざわざ連れてきて、殺したのだ。犯人はよっぽど、フウリンソウにご執心に違いない。

 であれば、フウリンソウの前に立っている人間を、格好の獲物と思わないわけがないのだ。

 犯人とやりあって、勝つ勝算はある。これでも俺は、柔道部なのだ。大会で優勝したことだってある。うまいこと押さえこんで、絞め技をかけることさえできれば勝てる。

 俺は夜、妹の死んだ現場へと向かった。俺はフウリンソウの前に立った。

それから一時間もたったころだろうか。妙なことが起きた。オルゴールが奏でるような、リリカルな音が聞こえ始めたのだ。どうやらそれは、前のほうから聞こえるらしかった。

 しかし前にオルゴールなんてものはない。前には、花壇があるばかりである。しかし音源をたどっていくと、どんどん下へ、花壇のほうへと向かっていく。

 そして音源を見つけた。音源はフウリンソウだった。フウリンソウから、音楽が聞こえているのだ。

 俺は思わず、フウリンソウを凝視した。どうして、こんなことが。

 その時だった。背後に、誰かがいるような気がした。

 その気づきはきっと、俺が花を見つつも、犯人がいつ来るともしれないと警戒していたからあったのかもしれない。それがなければ、俺は死んでいただろう。

 俺は後ろを振り向いた。

後ろにいたものは、黒いぼろぼろのフードを被っていた。それは首を精一杯上げなければ頭が見えないほどの、巨体であった。手には巨大な鎌を持っていた。そしてそれは赤い目でこちらをにらんでいた。

 鎌が振り下ろされる。

 俺はとっさに、花壇のほうへと転がるようによけた。

 鎌が空を切る。そこはちょうど、俺の首があったところであった。

 俺は、起き上がるや、すぐさま逃げた。

 あれはいったい何なのか。見た目は人間に似ていなくもない。しかし人間はあんなに巨大ではない。第一人間の目が赤いなどという話は聞いたことがない。

 いずれにしてもわかることが一つだけあった。逃げなくては死ぬということだ。

 後ろを振り向いて、どれくらいの距離が開いているかを見てみた。

 しかし距離なんか開いちゃいなかった。俺のすぐ後ろに、ぴったりと、それは迫っていた。

 それは、鎌を振り上げた。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 その時、後ろを見ながら走っていたからだろうか。

 僕は転んだ。そのおかげで、僕は釜の軌道から頭をそらすことができた。

 しかし次はもうない。またしても、鎌が振り上げられる。絶対的な死を携えて、鎌が上へと登っていく。

 そして鎌が振り下ろされた。


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