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望まぬ転生~異世界でみた景色~  作者: 初夏の草木
第一部 農村での暮らし
6/30

思考錯誤

今日も複数投稿していきます。

ちなみに、サブタイトルは誤字ではありません。

なんとなく、この話はこんな感じかなーと思ってつけた造語です。

治療院から戻った後、俺は生まれたばかりの時に寝ていたベットの上で寝そべりながら、昨日と今日の事を思い出していた。


いろいろと新しいことが起こったが、大きな事としては喋れた。

両親に対して、恐れず淀みなく言葉を話すことが出来たのだ。

自分でもビックリである。

生前、実の母親、友達、医者、カウンセラーなどが出来なかった事を、あの二人はたった二日で成し遂げてしまった。


生前の人達と今の両親との違いは何だったのか。


思うのは、自分の全てを受け入れてくれるような気がしたことである。


生前に、優しくしてくれる人はいた。

しかし、それは同情や憐憫からくるもので、俺を受け入れているわけではなかった。

どちらかと言うと、同情や憐憫というものは相手と一歩距離を取る行為である。

無意識に自分が上だと認識し、相手に優しくするのだ。

母親はそれが顕著で、友達も同様だ。

俺は、それが耐えがたかった。

医者やカウンセラーは、親身になってくれたりはする。

しかし、それは受け入れるのとはまた違う。


それに対し、あの二人は全てを受け入れてくれる姿勢を見せてくれたのである。

死ぬ間際にリフリカと会った時、興奮して流暢に話せたが、今回も興味を惹かれるものを前に興奮して、いきなり口調が変わってしまった。

きっと、物凄く違和感があったことだろう。

どうしたんだ?大丈夫か?というような疑問を投げかけてきてもおかしくない。


だが、あの二人はそれを言わなかった。

一歳児で、到底話すことの出来ないような内容を話しても、相応に対応してくれた。

その姿勢が、俺は嬉しかった

この人達は俺を受け入れてくれる。

そう思ったら、話すのが怖くなくなった。


そもそも、俺が言葉を話すのが怖いのは、話すことで自分の碌でもないところが、相手にバレるのが怖いからである。

だからこそ、受け入れてくれるという感覚が俺の心をほぐしてくれたのだと思う。


そうなると、両親の知り合いに対しても、話すのが少し楽になった。

この人達は、俺が信用してる両親の仲間なんだと。怖がるなと。


あの二人は俺より年下だ。

しかし、立派な親だ。

俺の唯一無二の親なんだ。


大事にしよう。

生前に誓ったこの思いを改めて誓おう。

俺は二人を支えられるような人間になる。



そのためにやれることが、今の俺にはある。

昨日と今日に教えてもらった(れん)()と魔法である。

この世界は、魔物なんてものがいる危険な世界だ。

大切な人を支えようにも、守れる力がなきゃ意味がない。

なので、是非習得しておきたい。


てことで、まずは錬気からおさらい。

錬気は、気と魔力を胸のあたりで練り合わせたものらしく、それを全身に行き渡らせることで身体能力を向上させるのだとか。

また、密度が濃い程、その力は上がるらしい。


魔力は何となく分かった。

キセル……じゃない。

火種熾しを使った時に感じた身体の中を漂う何かだ。

問題は気ってやつだ。


前世でも気という概念はあったが、テレビとかに出てくる気功師とかはどれも眉唾もので、正直胡散臭かった。

しかし、馬鹿にせずにその気功師たちがどのように気を操れるようになったのかを、参考にしてみよう。

クロネルは走れば気が鍛えられ、その鍛えられた何かを感じ取ると言っていたが、前世では滝行とか精神統一で身に着けるものだとか言っていた気がする。

であれば、走って気を鍛えつつ滝行は無理でも、精神統一をして鍛えられた気を感じるというのはどうだろう。

前世の知識を少し取り入れた、訓練法だ。


それにしても、精神統一ってどうするんだろうな。


とりあえず、寝転がっていたベットから起き上がり、座禅を組んでみる。

手はへそのあたりで輪っかなんか作っちゃったりして。


目を閉じる。

身体の中に意識を集中する感じで、何かを探る。


探る。探る。探る。


「てっ!分かるわけねー!」


俺は座禅を解いて、またベッドに大の字に寝転がった。


何かってなんだよ!具体性が無さ過ぎて探るにも探れねーよ!


そもそも、気ってなんなんだ。

走れば鍛えられるという事は、身体能力に関係ある力なのか?

そうなると、よくあるイメージとしては細胞の一つ一つが持つエネルギーみたいなものだが。

細胞のエネルギーって、科学的にはATPっていう物質の事だしな。

それを、練り合わせるってのは無理がある。


いや待てよ、思い出せ。

生物学専攻の学生時代を。


ATPってのは、別にそれが力を持っているわけじゃない。

正式名称はアデノシン三リン酸。

アデノシンと三つのリン酸が結合した物質だ。

三つのリン酸は高エネルギーリン酸結合をしており、その結合が切れることでエネルギーが発生する。

つまり、エネルギー自体は物質と割り切れないわけだ。

仮に、気の正体がこの結合が切れる時に発生するエネルギーや、その余波みたいなものだとしたら……


「はッ!?」


俺は、飛び起きてまた座禅を組んだ。

目を閉じイメージする。

結合が切れ、そこから生まれる力を。

細胞の中で渦巻く微弱なエネルギーを。


すると……分かる!

分かってきた!

まさかこんな簡単に出来るとは……

考えが合っているのか定かではないが、具体的なイメージがあると分かりやすいのかもしれない。


俺は、意識を気と思われるものに集中する。

一つ一つの細胞から漏れるわずかなエネルギーが、全身を薄く取り巻いている。


これが気だとしたら、後はこれを魔力と練り合わせる。


魔道具を使った時に感じた、身体の中に漂っている何かが魔力だ。

それを、身体の胸のあたりへ移動させてみる。


同様に、気も全身から集める感じで、胸の中心に動かしてみる。

案外、すんなりコントロール出来たが、凄まじく集中しないとすぐに身体を覆う位置に戻ってしまいそうだ。


汗が額を伝う。

集中。集中。


胸の中心で魔力と気を練るイメージ。


混ざれー混ざれー。

ねるねる〇るねを思い出すんだ。

怪しげな老婆が、鍋をかき混ぜているイメージだ。


すると、気と魔力が何かに変化した。

胸の中心にピンポン玉程度の、明らかに今まで感じたことのない力を感じる。


これか!これが、錬気なのか!


後は、これを全身に行き渡らせればフィニッシュだ!


やったぜ!案外楽勝じゃ……


しかし、そこで俺の意識はぷっつり途切れた。


-----


朝、イザベルに身体を揺すられて目を覚ました。


「ネロ、朝よ。おはよう。昨日はこっちで寝たのね」


ボーとした顔で、昨夜の事を思い出し俺は聞いた。


「おはよう、母さん。うん、なんか急に眠たくなっちゃって……ところで母さん、魔力ってどうやったら増えるの?」


昨日意識が急に途切れたのは魔力と気の量が足りなかったからだろう。

気は走れば増えると分かっている。

なので、魔力の増やし方を聞いたのだ。


「起き抜けに唐突ね。うーん、魔力は使えば使う程増えるらしいわよ」


「そうなんだ、ありがとう。顔洗ってくる」


魔力は使えば増える。

つまり、昨日と同じような事を繰り返せばいいという事だ。


今日はイザベルのお仕事はお休みだ。

昨日の今日でかよ!と思うかもしれないが、産休明けなので最初は休み休み復帰するらしい。

異世界なのに意外としっかりした福利厚生だ。


なので、朝食を食べた後、治療院へ行かず俺はまた部屋に引きこもった。

昨日の続きだ。


錬気は、いいところまでいった。

しかし、今のままでは気か魔力かそれとも両方かが足りなく、すぐに昏倒してしまう。


なので、今日は魔法にトライだ。

思念というものを感じることに挑戦してみようと思う。

これを感じ取れるようになれば、魔法習得だけでなくリフリカを呼び出すためのピースがまた一つ埋まる。


気合を入れていこう。


イザベル曰く、思念とはイメージが実態を伴ったものだそうだ。

思念を感じるには、魔法を使うイメージを繰り返せと言っていたが、そもそも魔法が使えないのに、魔法を使うイメージをしろって無茶があると思います。


ともあれ、やってみるしかないか……


前世でのアニメやラノベ、漫画の魔法発動のシーンを思い返してみる。


片手を前に突き出し、燃え盛る炎の玉を手の平から放出するイメージで……


「ファイヤーボール!」


…………


なんとなく叫んでみたが何も起きない。

なんか、恥ずかしい。


いや、でも練習法としては間違ってないはずだ!

恥ずかしさなんて捨てろ!

俺は、中二全開で魔法を習得してみせるぜ!



その後も


「ウォーターボール!」

「ウインドカッター!」

「サンドウォール!」

「サンダーアロー!」

「ホーリーレイ!」

「ブラックホーーーーーーーーーール!」


両手を上にあげた状態から、下に振り下ろした姿勢で、肩で息をしながら思った。


俺、何してんの?


ガチャ


「ふっ!?」


首が飛ぶかと思う程のスピードで音がした方を見る。


ドアが半分ほど開き、イザベルがそこから顔を覗かせていた。


「ネロ……何してるの?」


僕にも分かりません。


「ちょっちょっと、魔法のイメージトレーニングを……」


「そう、この前言ったことね。ただ、もうちょっと静かにね」


「は、はい……」


あーーーーー恥ずかしい!


こんな恥ずかしい事しないと、魔法って習得出来ないの?

イザベルもこんなことやってたの?

だとしたら、悪いけどちょっと見る目変わるわ。


無駄だよこれ。絶対無駄だ。

幼稚園児が、ヒーローの必殺技を叫びながら真似してるのと同じだって。

何万回繰り返そうが出来る気がしない。


少し考え方を変えよう。

気の時と同じように、まず思念とは何かを考えてみよう。


呼んで字のごとく、思う念。

つまり、考えを含んだ意識みたいなものだろうか。


考えや意識の発生源は当然、脳である。

じゃあ、思念は脳のどのような機構から発生しているものなんだろう?

特定の電気信号というのが有力だが、それが実態を伴っているかというとそうとは言えない。

この世界でいう思念の正体ではないだろう。


あるいは、意識はこの世のところではないバンクのようなところに収められている、というようなトンデモ理論も存在したはずだ。

もし、それが事実なら少なくとも思念というものが実態として存在している可能性を示唆している。

ただ、それが分かったからと言って思念を感じとれるかというと、難しい……


うーーーん!

分からん!


医学が発達した前世ですらはっきりされていない脳の機構を、四年大学に通っただけの奴に解明できる訳がない。

そもそも、この世界の思念が脳から発せられているのかも定かじゃないしな。


ダメだ。悔しいけど、お手上げだ。

イザベルが、治療院に本があると言っていたし、それを読んでまた挑戦してみよう。



思念は今のところ棚上げだが、最後に考えるべきことがある。


リフリカを呼び出すために必要なピース。

タバコである!


俺が死ぬ直前にリフリカが現れた時に言っていた言葉を改めて思いだす。


『私の魔力を使って、イメージであたしを呼び出せてる。媒介はタバコ?嘘でしょ……うんぬんかんぬん』


そう、キーワードは魔力、イメージ(これは思念のことだろう)、媒介(タバコ)である。


今思えば、あの時俺は魔法を使ったのかもしれない。

何故、あの時使えて今使えないのか。

それは、もしかしたら媒介としてのタバコが無いからなのかもしれない。

イザベルは媒介など必要としていなかったが、俺は才能がなく媒介が必要とかなんだろう。


なので、俺にとってタバコは必須なのである!


しかし!


これは断言するが俺は二度とタバコは吸わないと決めている。

そもそも、一歳児の身体でタバコを吸おうなんてクレイジーなことは考えていない。

そんなことをすれば、インドネシアの子供もビックリだ。


それに、タバコはもう吸いたくない。

なぜなら、前世でも止めたい止めたいと思いながらも止められず、どうしても吸ってしまう。

最初に興味本位で吸ってしまった自分を何度呪ったことか。

前世の喫煙者の方々は、この気持ちを理解できる人が多いのではないだろうか。


そこに、今現在の自分だ。

肉体が新しくなり、体内にはニコチンなどの蓄積はなく肺も綺麗だろう。

もちろん、あの何とも言えない喫煙衝動など皆無だ。

この状態を崩して、あのジレンマな日々に陥るのは御免こうむりたい。


そこで、俺は香りを楽しむだけの禁煙パイポ的な物を作ろうという考えに至った。

おあつらえ向きに、キセルのような形をした魔道具。火種熾しがあった。

それを使って、依存性はないが少しでもタバコに近いようなものを作ろうと思ったのだ。

これが、媒介になるかは分からないがその時はその時だ。

また、別の案を考えればいい。


そのように密かに考えていた矢先、手に入れた。

依存性のない香りを楽しむもを。

先日、クロネルの畑に連れて行ってもらった時にあった、クルボロという植物の葉のクールという香辛料である。

本来、料理の風味付けに使うものらしいが、その匂いはメンソールのような匂いがした。

そうメンソールだ。

クールという名前も相まって否応にも、あれを想起させられる。

前世にあった、吸い過ぎるとEDになるというあれだ。


後は、このクールを燃やしてみようと思う。

そして、香りが合格ならばいざ火種熾しに突っ込み、吹かしてみるのだ。

目指せクルボロ、メンソール味だ!



しかし、ここで問題がある。

火種熾しは小さいが火が(おこ)る代物である。

この前は、イザベル同伴で使わせてもらったが、普通一歳児に持たせるものではないだろう。

同伴でも使わせてくれただけで破格の待遇だ。

イザベルの前で、火種熾しを本来の使い方と違う使い方をすれば、間違いなく止められる。

なので、使うなら隠れてこっそり使うしかない。

さて、どうやって持ち出すか……


そこまで考えたところで、はたと気付いた。


自分の碌でも無さに。


先日二人は前世から引きずっていた俺の心を癒してくれた。

そんな二人の目を盗んで、タバコもどきを吸う。

それは、リフリカを呼び出すため、自分が魔法を使えるようにするためという、我欲を満たすための行為である。

なのに、心配しているからこそ俺に使わせないようにしている物を、こっそり持ち出して使うのか?

それは、二人を裏切る行為ではないだろうか。


俺は……そんなことはしたくない。

しちゃいけない。

二人を裏切りたくない。


「は~……」


ベッドの上で胡坐をかきながら、ため息を吐く。


「火種熾しは、自然と使ってもいい歳頃になるまでお預けだな……」


後ろ手に手をついて、天井を見上げて呟く。


大切なものを間違っちゃいけない。

この生では、少しでもまともな人間になるんだ。


そう、自分の心に言い聞かせた。


ここまで、読んで下さっている方本当にありがとうございます。

宜しければ、この後も読んでやって下さいm(__)m

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