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望まぬ転生~異世界でみた景色~  作者: 初夏の草木
第一部 農村での暮らし
3/30

転生しまして

以前会った謎物体が現れたと思ったら、自分の事を忘れられていて、魔力がどうのとかいう理由で急に死んだ。


その後、産道GOGOツアーを経て、俺は今すやすや眠る美女の腕の中にいた。

そう、俺が通っていた狭い穴は産道だったのだ。

赤ん坊は産道を通る時、繋がりきっていない頭蓋骨を変形させて出てくるというが、あれは意識を保ったまま体験するもんじゃない。

もう二度と御免だ。


御免と言えば、今まさにこの状況だ。

傍らには、先ほど俺を生んだと思しき美女。

つまり、新しい母親だ。


そう、俺は望んでいなかった転生を果たしたのだ。

しかも、輪廻転生ではなく記憶を保持したままの転生という最悪の形で。

ラノベかよ。


座っていない首を回して見える窓の景色は、夜の帳を切り取っていた。

月が前世と同じように世闇を優しく照らしている。


ここは、地球なんだろうか。

リフリカの発言を思い出すとそうでない可能性が高いが……

「あっちの世界では」とか最後に言ってたし

妙な不安が胸中に漂う。


今は、生まれた直後から幾分か時間が経っている。


俺が生まれてから、自分を取り上げたであろう助産婦さんらしき人は、母親といくつか会話した後、部屋を出て行き、それと代わるように男が部屋に勢いよく入ってきた。


派手な男だった。

快活そうな顔に金髪に真っ赤な瞳。

前世なら、間違いなく大人が一歩引いて関わらないようにするような奴の風貌だった。

年は十代後半、前世の自分より年下っぽい。

顔は彫の深いイケメン。許しがたい。

恐らく、こいつが新しい父親。


新しい父親は、母親と二、三会話した後、額にキスなんかしたりしてた。

二人の西洋風の顔のつくりから、ここが日本ではないのが分かる。

だから、これも普通の事なのだろう。

しかし、悲しきかな日本文化に生まれた自分としてはなんかイラつく。

母親が美人だからだろうか。

それとも父親だと思しき男が、自分より年下でありながら、このようなリア充を手に入れている事に嫉妬しているからだろうか。

親は大事にしなければいけないというのは、俺の信条だ。


しかし……この父親。なぜか気に食わねえ。


その父親が、自分を抱いてきた。

触んなし。

リア充が感染るだろ。

……いや、いいのか。どんどん抱け。

そして、俺もリア充にしろ。このクソ親父。


うん、我ながらなかなかいい性格してると思う。


そして、ひとしきり俺を抱いた後、また母親の元へ。

そうして、三人でしばらく過ごした後、父親は部屋を退出していった。

その後は、母親が自分に何事かを語り掛け嬉しそうにしていた。

微笑んだ顔が最高に美人だった。


やべーよ、俺マザコンだ。

産道を通っている時に聞こえた苦しむ声を、嬌声とか思っちゃったし。

成長してから、若い衝動に任せてモラルハザードしちゃったらどうしよう。


いやダメだ。ダメだ。

いくら前世の記憶があって、こちらの母親を本当の母親と思えてなくてもそれはやっちゃいけない。


そんなことを考えていると、母親がうつらうつらし始め、後にスース―と寝息を立て始めた。

ヤバい、寝顔も可愛い。


そんな新しい母親の寝顔を悶々としながら眺めて過ごし、今に至った。

大したイベントもなく、父親気に食わねー、母親可愛いの二言で回想終わり。


父親は見た目からして、前世のプロファイリングを紐解いても碌な奴じゃねえ。

ああいう奴は、人の事を馬鹿にして、それで相手が傷ついているのを見て、ゲラゲラ笑うんだよ。

「お前、おもしれー!」って。


最低な奴だよ。


そんな父親に抱かれた母親も碌な奴じゃないのかもしれない。

清楚な見た目とは裏腹に、陰口上等ネチネチ女みたいな。


最悪だな。


俺が、前世で一番苦しめられた手合いだよ。

さっきまで、その母親相手にハイになってたのに、途端に鬱になってきた。

やっぱり、転生なんかしたくなかった。


それに、前世のことだよ。

死ぬ前に現れたリフリカは、最初に会ったリフリカとは似ても似つかなかった。

リフリカ曰く、一度目はどこぞの神に操られていたらしいが。

そうは見えなかったというのが、俺の印象だ。


てか、神ってなんだよ。中二病じゃねえか。

他にも、魔力とか契約とか最後なんか神の観察対象とか言ってたような気がする。

一番気になるのが、観察対象って言葉だよ。

仮に神がいるとして、俺監視されてるってこと?


最悪だよ。


常に監視されるっていうのは、酷くストレスを感じるんだ。

それは、精神を患って入院した時に嫌というほど味わった。

それが、一生続く……

やっぱり、転生なんかしたくなかった。


これの元凶は恐らくリフリカだ。

あいつをまた呼び出して、いろいろ聞き出さないといけない。

確か、タバコが媒介で、魔力を使ってあいつをイメージしたら呼び出せたみたいな事言ってたよな。


なら、早速実行!


……てっ!魔力ってなんだよ!媒介?なんだよそれ!タバコとか新生児が吸えるわけねえだろ!


無理だ。


今の状況じゃあいつを呼び出すのは不可能だ。

とりあえず、この世界である程度生活するしかない。

それで、機会を伺うんだ。


そして、絶対呼び出してやる!あの生意気紫パンツを!


そうと決まればこの世界の情報収集だ。


部屋の作りを改めてじっくりと観察してみる。

部屋を見渡した限り、床は板張り、家具も木製。部屋の壁にはレンガ造りの暖炉なんかもある。

少し古めかしい感じもするが、海外の何処かだとも思える。


しかし、父親の存在が違和感をもたらす。


父親の目が赤かったのだ。

未来の世界では、アルビノでない目の赤い人種が生まれるという推測も出来るが、それにしては部屋の作りが古めかしい。

他に考えられるのは、近親同士で掛け合わせ続けたハムスターの目が赤くなるという現象が、人間で起こっているという考え。


まさか……まさかな。

でも、否定しきれないぞこの考え。

どこかの閉鎖的な場所では、まかり通っているとか。

母親相手にモラルハザード云々言ったけど、ここではもう日常なのかもしれない。

なんてことだ。世も末だよ。

ちょっと興奮する自分が嫌だ。


うーん、しかしどうも今の状況では、この世界が以前の世界と同じなのか否かは判断できないな。

焦らず、身体の成長を待つか。

大きくなるには寝るのが一番。

今日は、疲れた。

前世から数えれば2日は経っている。


俺は、もう一度母親の寝顔をひとしきり堪能した後、眠りについた。


-----


朝目覚めると、そこに母親の姿はなかった。

一人ぽつねんとベットの上。

なんか心細い。

身体が動かなくてやることないし。


こういう時、赤ん坊って泣くんだろうな。

泣いてみようかな。

でも、二十四にもなって赤ちゃんプレイにはかなりの抵抗がある。


いや、逆に考えよう。

これはプレイだ。そう、プレイ。

リアル赤ちゃんプレイだよ。

三十過ぎた変態的趣向を持つおっさんがするというアレだ。

アレは想像するだけで絵面が汚いが、こちとら正真正銘の赤ちゃんだ。

絵面的にはなんら問題はないだろう。

そして、あわよくば母乳なんかを吸ったりして……


「っ!?」


待て!そうだ!

あわよくばなんてもんじゃないぞ!

こちとら母乳がなけりゃ生きていけないんだ!

あれを食すのは、赤ん坊として生きる上での義務だ。

そう義務なんだよ。義務。


ならば、いっくぞー!

二十四歳渾身の赤ちゃんプレイを見せてやるぜ!


「オンギャーオンギャー!」


俺が泣くフリをすると、ドアの外からドタドタと足音が近づいてきた。

そして、慌てた様子で姿を現したのは


……父親だった。


(お前かよっ!お呼びじゃねーんだよ、帰れ!)


父親は、そんな俺の心境に構わずベットの傍まで来ると、俺を抱きかかえあやし始めた。


「×××××―!××××××―!」


相変わらず何を言っているのか分からない言葉で、変顔なんかして俺の顔を覗き込んでいる。

こいつ変顔していてもイケメンってどういうことだよ。

こいつへの好感度がどんどん下がる。


これは、もっと泣きわめいて母親を引っ張り出す作戦でいこう。

全力でやるぜー!母乳が俺を待っている!


「ギャー!ギャー!オッオンギャー!ギャー!」


この世の終わりのような声で叫んでみる。

すると、父親は物凄いテンパった。

変顔にも力が入る。だからイケメンなんだって。


ギャーギャー喚いていたせいで気付かなかったが、すぐ傍に母親の姿があった。

母親は父親から俺を受け取ると、股を触りオムツチェック。

異常なしと判断すると、なんの躊躇いもなくその豊かな胸をさらし俺の口に近づけた。

あまりにすんなりと事が進んで少し戸惑ってしまう。


え?これ本当に吸っていいんすよね?


戸惑いから、なかなか口をつけられずにいると、母親が首を傾げその麗しい双丘をしまおうとする。

俺は反射的に服を抑えてそれを阻止。

これでもかなスピードで双丘の突起へとしゃぶりついた。


そして、吸う。

まろやかな甘みのある味。

おいしい。

そして、興奮する。非常に興奮する。


二十四年という人生で、初めて女性の乳首を吸った。

しかも、母乳オプションつき。

仮に母親が俺の思った通り性悪女だとしても、乳首は乳首だ。

そこに罪はない。


鼻息があらくなる。

息子は未発達で反応はないけれど、脳がオーバーヒートしそうな程興奮している。


これは……昨日はあんなに落胆した転生だったけれど、最高じゃん赤ちゃんプレイ!


この世界で初めて生きる希望を見出したかもしれん!

俺!生きていけます!


-----


そんな感じで、気付けば一年半が経った。


母親の母乳に生きる希望を与えてもらいながら、この身体はすくすくと成長していき、今では家中を歩き回っている。

言葉の方も、聞き取りは完璧。

話すのもある程度いける。

ただ、生前の経験から人に対しては片言でしか話せないのがもどかしい。

一人だったら、ベラベラ喋れるのだが。


望まぬ転生だったが、母親の母乳でコロッと生きる気になってしまった。

元々、生きるというのは前世の父親からもらった気持ちで、俺の中では強く残っている。

転生は嫌だったが、どうせ転生してしまったのだから生きなければと、今はそう思っている。


しかし、不安はある。

言葉を話すのが怖いのと、人間に対しての不信感だ。

これが、払拭されないとまた生きる気力を失うかもしれない。


そんな心持で過ごした一年半、判明したことがいくつかあった。


まず、俺の名前はネロというらしい。

父親はクロネル、母親はイザベルという。


また、窓に映る自分の姿を確認したところ、髪は母親譲りの銀髪。

目は、あの父親の赤目だった。

父親を派手と罵れない派手さだ。

顔立ちは前世基準で言うと整っている方だと思う。

ただ、この世界においてこの顔がイケメンなのかは分からないが。


また、家の中を探索したところ、我が家は俺が寝ていた部屋の他に、もう一部屋両親の寝室と思しき場所と、台所付きのリビングのみだった。

前世の基準では一般的な住まいの広さだと思う。

家具や、調度品を見ても貧乏な感じはしないので、ほっと一安心だ。


しかし、その家での生活において前世では見られなかった光景を日常茶飯事に目撃する。


それは、魔力の使用だ。


父親がランプをつける際、手をかざすだけで火が灯る。

また、母親が台所のかまどに火をくべる際には、キセルのようなものを咥え、少しするとそのキセルの先端から小さい火球が浮かび、その火球をふっと息を吐いて薪に投じ火をつけるのだ。


俺からしたら、魔法のように見える。


だが、これらは正確には魔法ではなく、魔道具の使用とのことだ。

魔道具とは、魔力と呼ばれるこの世界ならではの不思議エネルギーを使って動く機械のようなものらしい。

魔力という、リフリカを呼び出すためのピースが一つ埋まった。


魔力があるならそれを元にした魔法もあるだろうと考えるわけで。

実際、我が母はこの村の治療院で治癒魔法を行使する仕事に従事しているらしい。

今は俺を生んだことで、休んでいるらしいがそろそろ復帰するとのこと。

まだこの目で魔法を見たことがないので、復帰したならば是非とも母の仕事場へ遊びに行きたいものだ。

魔法見たさに、まさか自分から怪我して治してもらうっていうのもおかしいからな。

というか、痛いの嫌だし。


父は、魔法は使えないのでその手の職には就かず、農夫を営んでいる。

そんな父でも魔道具は使えるので、魔力はこの世界の人間には必ず宿っているらしい。


人間に魔力があるなら、動物にも魔力はあると考えるのが普通だ。

魔力によって変異した野生動物が、魔物として森などには跋扈しているとのこと。

そして、それを狩る冒険者なる職業もあり、剣や魔法で戦うのだとか。


つまりあれだ。

前世で現れた生意気紫パンツも含め検討した結果、ここは漫画やラノベでよくあるようなファンタジーな異世界ってやつだ。

生活様式を見ても、中世のそれっぽいし、まず間違いないだろう。

父親のクロネルの目が赤い謎はまだ解けていないが、いつか確認してやろうと思っている。


それにしても、ファンタジーな世界。

年甲斐もなくニヤニヤしてしまう。

魔法とか使ってみたい。剣とかカッコよく振り回してみたい。


「ネロ、またトイレに籠って何してるの?」


「っ!?」


ヤバい、母親のイザベルだ。

最近考え事をするために用を足しながらトイレによく籠るのだが、イザベルは少し心配しているらしい。

そりゃ、不衛生なところに一歳児が長いこといたら気が気でないだろう。

普通の一歳児なら、便器とか素手で触ったりするかもだしな。


ちなみに、この世界のトイレは汲み取り式だ。

くさいけど、何故かトイレで用を足すときって考え事が捗ったりしません?

それで、きっと皆痔になるんだよ。


とっそんな事より早くでるか。


「ごめん、なさい。お母さん」


「何もしてないなら、早く出なさい。おトイレは遊ぶとこじゃないんだからね」


「はい、ごめん、なさい」


イザベルはにっこり微笑んで頭を撫でてくる。


「分かったならいいのよ。ほら、手を洗ってご飯にするわよ」


この一年半で何となく分かった。

イザベルはどこか芯が強くて優しい人だ。

決して、ネチネチ性悪女ではない。

しかし、この人に対して俺はいつも謝っているような気がする。


父親のクロネルに持ち上げてもらいながら、台所で手を洗い、リビングの椅子に座らされる。

目の前には、豆をドロドロに煮込んだ白っぽい食べ物が置かれている。

この世界の離乳食みたいなものだ。正直不味い。


俺は、イザベルの母乳さえあれば生きていけるというのに。

ちなみに、食後はイザベルの母乳をデザート代わりに頂いている。

まだ、一歳ですから。大手を振って飲めますよ。

ちなみに、気持ちとしては九歳ぐらいまで飲んでやろうと思っている。


両親達の食事は黒パンに透明な豆のスープ、適当に切り分けたサラダに焼き魚といった風情だ。

黒パンをスープに浸して食べながらクロネルが言う。


「今日の豆はお父さんの畑でとれた野菜だから上手いぞ!たんと食えよ!」


「うん」


スプーンで豆を掬い、口に入れる。


「上手いか?」


クロネルが聞いてくる。

正直に不味いと言いたいが言えない。

結果、いつも通り俺は俯き加減で「うん」と呟いた。


父親のクロネルも当初感じていたような気に食わない感じはしない。

あれは、見た目で判断しただけだしな。

性格は、豪快で裏表のない気持ちのいい性格をしている。


しかし、少し苦手意識がある。

俺はこの人に対してはその圧に負けて、ほとんど「うん」しか言えない。

我ながら情けない。


そんなこんなで、クロネルが話し、俺やイザベルが相槌を打ちその日の夕食は進んでいった。


生前誓ったように、両親は大事にしたいのに。

このコミュニケーション能力何とかならないものか。


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