表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/30

ネロという少年

遅くなりましたが、これから二部が始まります。

どうぞよろしくお願いします。


あと、間話「夫婦の出会い」を改稿したことになっていますが、二文字足しただけです。笑

全然変わっていないので、気にしないで下さい。

【王国近衛騎士団団長ドルゴ・スティアーナ視点】


レッサードラゴンが現れたとの報告を受け、王の間を過ぎ去っていから、私はすぐに近衛騎士団を集め討伐に向かうべく王都から南下した。


ユーミットは、王都から見て、南西に位置する。

レッサードラゴンはそのユーミットから、南東に向かったとの報告だったので、王都からは南へ進行すればレッサードラゴンと会敵する事が出来るはずである。


しかし、レッサードラゴンが途中で進路を変える可能性は大いにある。

なので、途中に立ち寄った街や村などで、情報収集を行ってゆく。

幸いなことに、レッサードラゴンが進路を変えたと言う情報はなかった為、我々はそのまま南下していく。


そうして王都を去り、二十日程経った頃、集めた情報の中に信じがたいものが混じり始める。


なんと、この先にあるトルネ村という場所で、レッサードラゴンが討伐されたというのだ。

トルネ村は、国境沿いに位置する辺境の村だ。

私の知らない強者がいてもおかしくはないが、信じがたい。


実際に討伐されたのかを確認するため、我々はそのトルネ村を目指す。

そして、トルネ村に近づくにつれさらに信じがたい情報が入ってきた。

トルネ村が被害を受けたことで、他所に移り住んできた者達は言う。


曰く、レッサードラゴンを倒したのは五歳の男児である。

曰く、その男児は、人と見た目がなんら変わらぬ精霊と契約している。

曰く、不可能とされている部位欠損の治療を行った。


俄かには信じられない話ばかりである。

お伽話でも、もう少し現実的に作られるだろう。


五歳の男児が、レッサードラゴンに敵うはずがない。

また、完全な人型の精霊など神話の中の話だ。

さらに、部位欠損の治療だ。

数多の高名な魔法使い達が挑み破れた課題を、五歳の子供がやってのける。


あり得ない事だ。


レッサードラゴンの恐怖を前に、村人の頭がおかしくなったのかと思ってしまう。


しかし、彼らは真剣だ。

その子がいなければ自分達は死んでいただろうと。

その子が契約している精霊の力で、実際に腕を生やしてもらったと言う者もいる。


これは嘘か真かしかと見極めなければいけない。

もし、真ならば世の中を揺るがす人物の登場だ。

それこそ、歴史が変わるかもしれない。


私は、話を聞いた村人からその少年の名前を聞く。

村人は答えた。


その子の名はネロだと。


-----


トルネ村に到着し、村の入り口に立つ見張り番に話しかける。


「我々は王国近衛騎士団だ。そして、私が団長のドルゴ・スティアーナ。我が国に襲来したレッサードラゴンの情報を集めている。この村にも、協力を要請したい」


見張り番は慌てて「はいっ少々お待ちを!」と言って村の中へと駆けて行く。


そして、しばらくすると先の見張り番が村長らしき老人を連れて戻ってきた。


老人が口を開く。


「ようこそおいで下さいました。騎士団長様並びに近衛騎士団の方々。私はトルネ村の村長をしておりますコンテと申します。レッサードラゴンの情報を集めておられると聞きましたが、こんな村の入り口では、ゆっくりお話することもできないでしょう。どうぞ中へとお入り下さい」


「ご配慮感謝する。なれば、私と数名の近衛騎士だけ、中へと入らせてもらおう」


そうして、私と近衛騎士団の数名を除いた団員を村の入り口で待機させ、村長の引率に従い村の中へと入っていく。


村の中央に近づくと、畑だったと思われる場所は一面焼け野原のようになり、家屋は黒く焼け焦げ軒並み倒壊していた。

レッサードラゴンが現れたのは、ほぼ間違いなさそうだ。


村長はその中央の景色からは離れ、無事な家屋の中へと私達を案内した。


そして、茶を出した後、一緒について来ていた見張り番に何かを囁き、私達に向き合った。


「今、あの時の状況に詳しい者を呼んでおります。それまでは、私が答えられる範囲の事でしたらお答えさせて頂きます」


「では、質問させてもらおう。王都からの道中、この村にてレッサードラゴンが討伐されたと聞いた。それは、真か?」


「はい、真でございます。うちの村きっての天才児がそれを成しました」


「それは、五歳の男児だと聞いたが、そんな事はあり得ないという私の気持ちは察してくれるな?」


「もちろん、疑うのも無理からぬ事です。しかし、これは事実です」


「では、その少年を呼んで頂いてもよいですか?この目で、真偽の程を確かめたい」


レッサードラゴンを単騎で討伐した者と手合わせをすれば、私など赤子のように扱われるだろう。

それで、真偽の程はハッキリする。


すると、村長は白くなった眉根を寄せゆっくり目を閉じた。


「それが、今はこの村にはいないのです。つい数日前に、村の復興資金を集めるために出稼ぎに出てしまいました」


それを聞いて、横の近衛騎士団員がボソリと私に耳打ちする。


「団長。何か怪しくないでしょうか?少年の話も村を盛り上げるためのでっち上げなのでは?」


私もそれに同意だ。

これでは、村ぐるみで嘘をついているか、何かを隠していると思われても仕方ない。


だが、その少年が存在しなくともレッサードラゴンを退けた何者かはいると考えてもいいだろう。

この周辺でレッサードラゴンが現れたという情報はない。

それは、この先の聖王国でも同様だ。

つまり、この近辺で仕留められたのは間違いないのだ。


私は、村長の方へと意識を向ける。


「ちなみにその少年はどちらへ出稼ぎに?」


「王都フィテェルカへ行くと申しておりました」


なれば、その少年が実在するかどうか、王都に戻り探し出してみるとしよう。

それだけの強さを誇るなら、何処かで目立った噂が立つはずである。

すぐに見つかるだろう。


少年の存在はそれでハッキリするが、実際にレッサードラゴンが討伐されたのかを、確認しなければならない。


「コンテ殿、その少年が倒したレッサードラゴンの死骸を拝見したいのですが、よろしいですかな?」


それに、またも村長は目を伏せる。


「それが、その少年が契約している精霊様が、跡形もなく燃やし尽くしてしまったため、死骸は無いのです」


また、証拠がない。

さらに今度は情報に聞いていた完全な人型の精霊の話だろう。


「その精霊は、完全な人型だと聞きましたが、それも事実で?人型の精霊など、神話の世界の存在です。強力な魔法を使う人物だったのでは?」


「それは……」


老人が言葉を発しようとした時、部屋のドアがノックされる。

村長が立ち上がり、ドアを開けるとそこには少年少女がいた。

一人、成人していそうな女性もいる。


老人が訪問者たちを手で示し、「この者達のほうが、先の質問には明確に答えてくれるでしょう」と言った。


村長が、元の位置に座り、少年少女達がその後ろに立つ形になる

各々自己紹介をした後、話が再開される。


私は、村長に向けて疑問をぶつける。


「それで、この子達が完全な人型の精霊がいるという事を証明してくれるのですか?」


「証明は残念ながら出来ません。しかし、証言は聞いて頂ければと」


また、証拠はなしか。

私は、落胆しつつも少年少女達に問いかける。


「それで、君たちは何故完全な人型の精霊がいると言えるのかな?」


少年少女の中のドットという少年が答える。


「それは、ネロが召喚するところを見たからです」


「ネロとは、レッサードラゴンを倒した少年の名前だったかな?その、少年が召喚する瞬間をどこで見たのかね?」


「ネロがレッサードラゴンと戦っている時です。その精霊が現れて、一瞬で炎で焼き払ったんです」


一瞬で炎で焼き払ったただと?


そんな事が可能なはずがない。

村の惨状を見た限り、今回のレッサードラゴンは火に強いレッドレッサードラゴンだ。

魔物は、人と同じように錬気のようなものを練り、身体を強化している。

レッドレッサードラゴンは、その鱗の特性と錬気の固さから火に強力な耐性を持つ。

故に、火の魔法は全く効かない。

それを、亡骸を残さない程に燃やし尽くすだと?


「悪いが少年、ネロという少年がレッサードラゴンを倒したのも信じられないが、それもさすがに信じられない。そもそも全て証拠がない」


それに、ノインという少年が口を挟む。


「なら、ネロが戦った場所を見てみますか?まだ、ネロの足跡や、炎の痕跡が残っています」


戦いの痕跡か。

確かに、それを見れば大体どれほどの戦闘があったのか分かる。


「分かった。では、そこへ案内してもらおう」


そうして、私達は村へ来た入り口とは反対側の南の入り口へと向かう。


目的の入り口に着き、その戦闘の跡を目撃した時。

驚きで、声が出なかった。


そこいらの地面が大きく抉れ、隆起し、ブレスの跡と思われる焼け跡がいくつも見られる。

確かに、ここで誰かがレッサードラゴンと戦ったのだろう。


ノイン少年が、抉れた地面を指差し「見て下さい」という。


我々が、そこを覗き込むと、抉れた地面の中心に小さな足跡がくっきりと残っていた。

それは、どの抉れた地面にも残っている。


ノイン少年は言う。


「これは、全てネロが踏む込んだ時に出来たものです。僕も少し錬気を練れるので分かりますが、踏み込みだけでこの破壊力は凄まじいです。それは、近衛騎士団の方々も十分に分かって頂けるかと。ネロは、実在するんです。そして、レッサードラゴンと互角に戦える戦闘力があります」


少年は真っ直ぐに私達を見つめそう言い放った。


我々は戦いのプロだ。

その我々が見た限り、この戦闘の跡は作り物ではない。


その時、少年がどう動き、レッサードラゴンがどう対処したのかが、見えるような戦闘の跡だ。


レッサードラゴンを倒すほどの少年は実在する。

私は、この戦闘の跡を見てそれを信じざるを得なかった。


その時、ドット少年が「こちらに来て下さい」と手招きしてきた。


そちらに向かうと、地面が融解しガラス状になった地面があった。


そこを指差し、ドット少年は言う。


「これが、ネロの精霊がレッサードラゴンを一瞬で焼き払った炎の跡です」


馬鹿な……


レッドレッサードラゴンのブレスでさえ、地面を融解させることなど出来ない。

食らえば灰さえ残らないと言われているあのブレスでさえだ。


それを越える火力の火炎魔法。

そんなものを使える魔法使いが居れば、国中にその名が知れ渡っているはずだ。

だが、そんな魔法使いはいない。


ならば、やはり神話級の精霊が存在するというのか。

しかし、そんな精霊が精霊召喚の儀で現れれば大騒ぎになっているはずだ。


「ネロという少年が、精霊召喚の儀でその精霊を召喚した時、騒ぎにはならなかったのか?」


それに、エドナという少女が答える。


「リフリカさんは、ネロがお腹にいる時に、ネロの魂の輝きに魅了されて契約したらしいです。それで、レッサードラゴンの時に初めて召喚されたそうです」


腹の中にいる時だと?

それもまた、非常識な話だ。

だが、先ほどから常識外な話ばかりだ。

もう、今更だろう。


「その精霊の名はなんというのだ?」


「リフリカさんです」


「リフリカ……」


神は、世界を回すために精霊を作ったとされている。

この世は、精霊が居るからこそ成り立っているのだ。

つまり、私達は生かされている。

その精霊のはるか高位の存在。

神話では、世界の主軸として存在している人型の精霊。


我々からしたらそれは、神と変わらぬほど尊い存在なのではないだろうか?


そんな精霊と契約している少年は何者なのだ。


そう考え、自然と口が開いていた。


「その少年は神の落とし子か何かか……」


それを聞いたエドナという少女が、興奮した様子で語る。


「そう!ネロは神様なんです!神様にしか出来ないような奇跡の魔法が使えるんですから!腕を生やすことが出来るんですよ!私はこの目で見ました!ここに居るドットも!」


そう言って、ドット少年の袖を引っ張る。


少年が苦笑いしながら、こちらに顔を向ける。


「え、ええ。見たのは確かです。でも、ネロは神様と言われるのは嫌みたいで……普通の子ですよ」


どこが、普通なんだ。

今まで聞いた話の中で、普通であったところがあるなら教えてくれ。


だが、やはり部位欠損の治療も行えるのか。

それだけ聞いていれば信じなかったかもしれなかったが、これほど規格外の存在と知ってしまうと、それも出来るかもしれないと思ってしまう。


すると、少年少女の中で一人成人していそうな女性が口を開いた。


「私が、実際に腕を治してもらった者です。私は確かに、自分の腕が柱に挟まれて千切れるのを見ました。そこで意識を失って、目覚めたら腕が元通りになっていたんです」


そう言って、腕をまくる女性。


傷跡が一つもない綺麗な腕だ。


女性は真剣な目で私を見つめ、これは本当の事だと目で訴えてくる。


その目は、嘘を言っている目では無かった。

その目の中には、何か思いを感じた。

言葉では言い表せない強い思い。


私は、不思議とその目を信じたくなった。



これまでの話は、全てはっきりとした証拠はない。

レッサードラゴンと少年が戦った事は、私の戦闘の経験から導き出したもので、神話級の精霊の存在も推測でしかない。

まして、部位欠損の治療は証言を信じたのみだ。


だが、この少年少女達の話が私にはどうも嘘とは思えない。

この子達からは、危機から救った人達が私達に抱く感情と同じものを、その少年に向けているのを感じる。


真剣にその人に感謝し、敬意を抱いている。


そういう人間は嘘をつかない。

嘘をつけない。


なので、私はこの子達の言う事を信じることにしたのだ。



その後、ネロという少年とその契約精霊であるリフリカの特徴を村人から聞き、王都へと戻り今回の件を報告することにした。


トルネ村を去り、王都に向かいながら思う。


ネロという少年。


彼が、見つかったのなら歴史が変わるだろう。

類まれなる強さに、神話級の精霊との契約、そして不可能とされていた部位欠損の治癒。


私は、忠誠を誓う王にその少年の話をするのを楽しみにしつつ、馬を走らせる。

王は、足が治るかもしれないと聞いたらどんなお顔をなさるだろうか。

それを、想像して笑みが零れる。


しかし、その話を聞いて少年が見つからなければ、王は落胆するだろう。

故に、必ず見つけ出さなければならない。


ネロという、神に選ばれたとしか思えない少年を。

前話で、不定期更新になると報告しましたが、考えを改めて出来れば週に一話は更新したいなと思います。

私生活の都合上、曜日は決められませんが、時間は夕方以降にするつもりです。


お付き合い頂ける方がいて下されば幸いです。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=293293190&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ