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望まぬ転生~異世界でみた景色~  作者: 初夏の草木
第一部 農村での暮らし
25/30

保護者

冒頭に編集を加えました。

アンネさんがゆったりと寛ぎ、俺がそれに考えを巡らせながら対峙する。


成人に見えるようにしてしまえば問題はないはず……


いや、待てよ。

成人になるのは、精霊の祭日みたいに決まった日になるものなのか?

もしそこで成人の証みたいな物を貰ったりするのなら、俺の考えは通用しない。


「アンネさん、成人って精霊の祭日みたいに、その年の決まった日に成るものなんですか?」


アンネさんはカップをテーブルに置き答える。


「その通りだ。春の創生日に行われる生誕祭で、成人の儀を終えた者が成人だ」


ビンゴだ。


「その、成人の儀で何か特別な証みたいな物を貰ったりはしないんですか?」


アンネさんは、俺の問いに対して肩眉を上げた。


「何故、そこまで先の事を詳しく知りたがる?」


俺は、両手を前に交差して慌てて答える。


「いや、特に深い意味は無いんですよ!何となく興味というか!」


アンネさんは「ふう」とため息を吐くと言った。


「もし、その証みたいな物を使って冒険者になろうと考えているなら無駄だ。そんな物は無いからな」


イッツァオールライト!

私は、そんな事は考えておりません!

むしろ、好都合であります!


ただ……この考えはアンネさんには隠す必要がある。

あまりにこの世界の常識とかけ離れていて、アンネさんを面倒ごとに巻き込むかもしれないからだ。

すでに、部位欠損の治療やリフリカの存在などいろいろ知られているが、今回のは人間の有様を変えかねない事だ。

知られれば、面倒ごとでは済まないかもしれない。

なので、この事だけは誰にも知られてはいけない。


俺は心の中でごめんなさいと謝りながら、わざと肩を落とす仕草をする。


「そうですか。なら、仕方ありませんね。文字の読み書きを活かして、商人の徒弟にでもなります」


アンネさんが、やれやれと首を振り、俺に問いかける。


「何故、そこまで働きたがる?お前はまだ五歳だぞ。遊び回っていていい時期だ」


俺は、姿勢を正し真剣な目でアンネさんを見つめる。


「村を救いたいんです。皆と過ごした村の景色を取り戻したいんです」


それを聞いてアンネさんは沈黙した。

そして、ゆっくりと口を開く。


「働くというのは辛いぞ?」


それは前世で嫌という程分かっている。


「はい」


「お前は働く事で遊べる時期を無駄にして、将来後悔するかもしれない」


前世で遊ぶ時期はたっぷりと過ごした。


「大丈夫です」


「仮に、商人の徒弟になったとして、それで村が復興出来るとは限らないぞ。それでも、やるのか?」


俺は、真っ直ぐにアンネさんを見つめ答える。


「やります。無駄な足掻きになったとしても、今やらないと絶対後悔すると思いますから」


アンネさんが再度沈黙する。

そして、肩の力を抜くとこう言った。


「なら、働く事に関して私から言う事は何もない」


「だったら!」


俺が喜んで前のめりになると、アンネさんが手の平を前に突き出し待ったを掛けた。


「だが、それは働く事に関してだけだ。お前はまだ五歳だ。働くにしても保護者が必要だ。もし、この村を出て働きに出るのなら、誰か保護者をつけることが条件だ。私が付いて行ってやりたいが、今私はこの村を離れるわけにはいかない。先の事件で自警団員も減ってしまって、私が離れればそれこそ村は壊滅する恐れがあるからな」


アンネさんは村の中でも実力者だろう。

あのレッサードラゴン相手に生き残った程なのだから。

だからこそ、付いては来れないと。


しかし、保護者ねえ。

確かにそうなるよね。

五歳の子供をほっぽり出す大人はそうそういないだろうし。

そこまで考え、一人と言っていいのか分からないが思い浮かぶ人物がいた。


「なら、リフリカを連れて行きます」


アンネさんが「ふむ」と顎に手を当て頷く。


「あの方が一緒なら安心だが、ずっと召喚し続ける事に応じてくれるのか?」


確かにそうだな。

ピラルカも基本帰るしな。

何処に帰っているのか知らないが。


「分かりました。なら、今呼び出して聞いてみます」


「うむ、それがいいだろう」


「では、アンネさん。家に香辛料のクールって置いてあったりしますか?あれば少し貰いたいんですが」


それにアンネさんが首を傾げる。


「クール?何故、クールが必要なんだ?」


「媒介に必要なんです」


「媒介?あれは、神と縁のあるものでないとダメだろう?」


「大丈夫です。こいつを使うんで」


そう言って手に持っていたキセルを見せる。


それを見てアンネさんの眉間に皺が寄った。

理解できないという顔だ。


「火種熾しだろうそれは?」


「はい、でも何故か媒介になるんです。理由は僕にも良く分かりません」


「なんだそれは……」


そう言いながらも、アンネさんはキセルを拭く布を俺に渡し、家にあるクールを取りに行ってくれた。

俺は、その間にキセルを磨く。

そして、アンネさんがクールを持って戻って来た。


「これでいいのか?」


「はい、ありがとうございます」


持って来てくれたクールをクシャッと手の中で潰し、キセルの先端に詰める。


その一連の動作をアンネさんは不思議そうに見ていた。


さて、ここから時間が掛かる。


「アンネさん、ここから一時間ほど掛かりますんで、ゆっくりしていて下さい」


「そんなにかかるのか?不便な媒介だな。正直、媒介なのかも疑わしいが……まあいい」


そう言ってアンネさんは椅子に座り、先ほど飲んでいたカップを傾け、寛ぎ始めた。


俺はそれから必死に水蒸気を作る作業に取り掛かる。

最初にこれでリフリカを呼び出そうとした時は二時間かかったが、その後ほぼ毎日呼び出そうとしたので、今は一時間ほどで水蒸気を作れる。


そして、一時間後。


「アンネさん。そろそろいけそうです」


椅子に座りウトウトしていたアンネさんに声を掛けた。


「う~ん……そうか。なら、呼び出してくれ」


眠そうな目を擦りながらアンネさんが立ち上がりこちらへと来た。


「念のため、外に出ましょう。この前現れた時は火柱が上がったので」


「随分派手な登場だな。やはり、普通の精霊とは違うな」


確かに普通ではないだろう。

精霊の特徴を鑑みるに、人型に近づくほどその等級は上がっていく。

リフリカは完全に人型だ。

つまり、上級精霊以上の存在になる。

しかも、二属性を司る。

普通の精霊と考える方が難しい。


そう思いながら、俺はアンネさんと一緒に家の裏手の広場のような所に出た。


そこで、アンネさんに声を掛ける。


「では、いきます」


アンネさんが何も言わず頷く。


まず、リフリカをイメージ。

今度のイメージは生意気ボディバージョンのリフリカだ。


煌めくような緑の長い髪に、赤と緑のオッドアイ、すっと通った鼻筋に、桜のような唇、胸は大きく、腰は括れ、お尻は突き出ている、そしてそのお尻を包む扇情的な紫のパンツ。


そうイメージしながら、()魔力(ラカ)を練る。


そして、キセルを一口吹かす。


吐いた煙を見ながら、呟く。


「来てくれ、リフリカ」


呟いた直後、予想に反して眩い閃光が迸った。

そして、徐々に閃光は収束していき、光の中から人の姿が露わになる。


そこには、この前見た姿と同様、完全な人型のリフリカが立っていた。


アンネさんがそれを見ながら俺に呟く。


「火柱は上がらなかったな」


「そうですね。あの時はあいつなりの演出とかだったんでしょうか?」


などと会話していると、リフリカが腕を組んで目を細め、俺の方を向いて口を開いた。


「元に戻ったみたいね。やるじゃない」


「その節はどうも。今でも、リフリカの手の温かさは覚えてるよ。ありがとう」


そう言うと、リフリカはそっぽを向いた。


「別に。大した事はしてないわ。それより、手の温かさを覚えられているとか気持ち悪いから忘れてくれない?」


こいつッ!

人が真剣に感謝してるのに、何てこと言うんだよ。

確かにちょっと気持ち悪い事言ったかもしれないけど。


ギギギと俺が歯を鳴らしていると、アンネさんが心配そうに問いかけてきた。


「おい、ネロ。お前達の関係性、大丈夫なのか?」


俺は引きつった笑みをアンネさんに見せながらそれに答える。


「だっ大丈夫ですよ。これからこれから」


前に会った時は、リフリカと呼んだら様を付けろと言われたが、それが無かった。

なので、まだ見込みはある。


そう思いリフリカに向き直る。


「リフリカ。俺の事もそうだけど、レッサードラゴンの事と、村の火を消したくれた事もありがとう。リフリカがいなきゃこの村は今頃無くなっていたよ」


「そうでしょうね。まっあんたがあまりに必死だったから、ちょっと手を貸してやっただけよ。別に感謝されるような事じゃないわ」


俺は、「ふん」と鼻息を一つ、呆れたような顔でリフリカに言う。


「素直じゃないなお前。本当は優しいの知ってんだぞ」


それに対してリフリカは顔を真っ赤にしてこちらを向いた。


「なっ何よ。優しくなんかないわよ。私の事を分かったみたいに言わないでくれる!?」


「なら、なんでレッサードラゴンの前で召喚した時、後は私に任せなさいなんて頼もしい事言ったんだ?ちょっと手を貸す態度じゃないだろあれ。本当は、俺を守ろうとしてくれたんだろ?」


「ちっ違うわよ……」


「それに、村の火もなんで消してくれたんだ?あれは、誰かに頼まれたのか?」


「そ、そうよ……あんまりにも村の連中がうるさいからそれで……」


「違うだろ。村の人はそんな事一言も言ってなかったぞ。本当はお前が、俺の事や村の人達の事を思って消してくれたんだろ?そうだろ?違うか?」


そう言うと、リフリカは手を下げ顔を伏せてプルプルと震え出した。

そして、顔を上げ叫んだ。


「だーーーー!そうよ!あんたの言う通りよ!でも、それのどこが優しいのよ!別に普通の事じゃない!だから、感謝なんかいらないって言ったのよ私は!」


こいつ天然なのか?


「それを、普通と思ってる時点でお前は優しいよ。だから、俺はお前に感謝したい。本当にありがとう」


そう言うと、リフリカはきょとんとした表情になった。

そして、慌てて顔を取り繕いまた腕を組む。


「そっそう。まあ、価値観なんて人それぞれだからね。あんたがそう思うなら、そう思ってればいいんじゃない?でっでも、そうね、感謝ぐらいは受け取ってあげるわ」


そう言って、また顔を背けた。

耳が赤い。


こいつ典型的なツンデレさんだよ。


「リフリカ、感謝してすぐになんだけど一つ頼みがあるんだ」


リフリカがこちらをチラ見して問う。


「何よ?」


「俺と友達になってくれないか?」


すると、リフリカは明らかに動揺し、目線をあちらこちらに向けだした。


「なっなんで私があんたと友達になんなきゃいけないのよ?」


「俺が、なりたいからに決まってるだろう?」


俺は肩をすくめながら言った。


それに対してリフリカは、チラチラとこちらを見ながら問う。


「なっなんで、私と友達になりたいのよ?」


「俺が、リフリカの事が好きだからだよ」


すると、リフリカは面食らった表情になった。

そして、腕を解き真っ赤な顔をこちらに向け言った。


「あっあんた馬鹿じゃないの!?いきなり、こっ告白とか……私達はそんなに会った事も無いのに、なんで好きになるのよ!」


「ごめんごめん、告白とかじゃないよ。リフリカの人間性が気に入ってるって意味」


リフリカはそれを聞いて少し落胆したような表情になり、また腕を組んだ。


「なによ、それ。それこそ、あんたが私の何を知ってるのよ」


「少し話して分かった。お前は、純粋で優しい。だけど、捻くれてる」


それに、リフリカは怒りの表情をこちらに向ける。


「じゃあ、友達になんかならなくていいじゃない!好きとか気に入ってるとか言っといて、本当は私の事嫌いってことでしょ!?」


「違うよ。捻くれてるところも、面白いっていうかさ。一緒にいると、飽きないだろうなって思うんだ。それに、本当は純粋で優しいのに、それを自分で気付いてなくてさ。可愛いよ、そういうところ。だから、俺はお前と友達になりたいなって思った」


リフリカはしばし口を噤んだ後、こちらには聞こえない小さな声で何かを呟いた。


「そんなー・―・―じめてよ……」


それに俺は、耳を寄せて問う。


「ん?なんか言った?」


「なんでもないわよ!友達!あー友達ね!あんたがそこまで言うならなってやろうじゃない!その代わり、私が上だから。その辺の上下関係はハッキリさせるわよ!とりあえず、私の言う事には絶対服従!」


絶対服従ってそれ友達じゃねえだろ。

ご主人様と下僕の関係じゃねえか。


まあいい。今は好都合だ。


「分かった。それでいいよ。それじゃ、友達だけど俺より上の存在のリフリカには、やってもらわなきゃいけないことがある。これは、上の存在としての役目だ」


リフリカが目を細める。


「何よ?なんでもやってやるわよ。上の存在として、それは果たさなきゃね」


「俺は、この村を救う為に出稼ぎに出ようと思っているんだが、その間保護者になってくれ」


「保護者~!?あんた、その年齢で……いや、そうね。保護者は必要ね。で、何?私にずっと傍にいろって言いたいの?」


あっぶねー。

今、こいつ前世の事に触れかけたな。

アンネさんの方をチラ見するが、特に気に掛けた様子はない。

良かった。


「そう。召喚した後も帰らずに、ずっと一緒にいて欲しいんだ」


リフリカは、上を向き少し悩む素振りを見せた後、口を開いた。


「いいわ。あんたの馬鹿みたいな魔力があればそれも可能だろうし、保護者になってあげるわ。友達として」


「ありがとう!リフリカ!」


俺は、喜びを顔に張り付けてアンネさんの方を向く。


アンネさんは何も言わず頷いた。


よし!出稼ぎに出ることが可能になった。


そう思い小さくガッツポーズしていると、リフリカが話かけてきた。


「でも、私も準備があるから一度帰るわ。一日もあれば済むから、それ以降にまた呼びなさい」


精霊にも、そら旅支度は必要か。

リフリカには、いろいろ聞きたいことはあるが、前世のことも絡むしまた今度でいいだろう。


「分かったよ。それじゃ、出稼ぎに出る前にまた呼ぶよ」


「ええ、そうしてちょうだい。じゃあ、一度帰るわ」


そう言って、リフリカの身体が光に包まれる。

その光はすぐにおさまり、あとにはリフリカの姿は無くなっていた。


アンネさんがそれを見届けた後、俺に言葉を発した。


「最初はどうなるかと思ったが、上手く纏まったな。これで、お前を送り出せる。その上でお前に助言だ。先程、お前は商人の徒弟になると言ったが、それでは村の復興資金を稼ぐなど夢のまた夢だ。いくら頑張ってもお前一人が少し裕福な暮らしが出来るくらいだろう。なので、魔物を狩ってそれを売ればいい。お前ほどの実力があれば相当稼げるはずだ」


俺は、驚いてアンネに問いかける。


「冒険者にならなくても、魔物って売れるんですか?」


「ああ、冒険者組合を通した方が買取価格は高いが、武器防具店や魔道具店などに直接売ることも出来る」


俺は冒険者になるつもりだが、考えが上手くいかなくてなれない可能性もある。

その時は、本当に商人の徒弟になろうと思っていたが、そういうことならダメだった場合はアンネさんの言うように稼ぐとしよう。


「そうなんですね。なら、それで稼ぐことにします」


「ああ、それがいいだろう。ちなみに、その稼ぎ方をするなら、王都のフィテェルカがオススメだ。治安がしっかりしているので、安く買い叩かれる事が少ない」


「なるほど。では、目的地はフィテェルカにします。フィテェルカまでは、どのくらいかかるんですか?」


「馬車で北へ一月半といったところだ」


一ヶ月半か。

結構遠いな。

でも、練気を練れば大して時間はかからないだろう。

仕送りは早いに越したことはないだろうし、出発は早めにするか。


「なら、お世話になった人に挨拶して二日後には出発しましょうかね」


アンネさんが驚いた様子で言う。


「それは、また急だな」


「はい、今年の冬は越せてもそれ以降が難しいと聞いたので、早いに越したことはないかと」


アンネさんが憂いを帯びた表情になる。


「そうか、急に寂しくなるな」


そう言ってアンネさんは、俺の頭に手を置いた。


「大丈夫ですよ!錬気を使えばすぐでしょうから、仕送りがてら定期的に帰って来ますよ!」


俺は、そう言ってアンネさんに向けてニカッと笑ってみせた。


それを見てアンネさんは、クスリと笑いながら言う。


「そう笑うとクロネルにソックリだな」


「そりゃ親子ですからね」


そう言うと、アンネさんはわしゃわしゃと俺の頭を撫でながら「馬鹿なところは似るなよ!」と言って笑った。

俺はそれに「善処します」と答え、二人で暫し笑いあった。

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