プレゼント
今見て気付いたのですが、投稿した後編集すると、サブタイトルの後に(改)ってつくんですね(汗)
編集の内容は、前書き、後書きの追加や、言い回しをほんの少し変えたりとかなので、物語の内容自体に変化はないです。
中には、戻って読んで下さった方などもいるかもしれません。
本当に申し訳ありません。
以後、気をつけます。
もし、また同じような事があってもすぐに報告させてもらいます。
ドナント王国の西に位置するセネクト山脈のある渓谷にて、一人の男と少女が歩いていた。
男は少女の方を見ながら、一人口の端を歪めて呟く。
「まずは、成功だ。後は、適当な奴がいればいいのだが」」
少女は、その呟きに答えない。
虚ろな目で、男の横をただ黙々と歩く。
「いたか」
男が、そう口走った時、二人の目の前にレッサードラゴンが現れた。
空から飛翔し、二人の目の前へと降り立つと、それは威嚇するように咆哮を上げた。
「ノア、出番だ。あいつを魅了しろ」
そう言いながら、男が少女の背を押す。
「……」
ノアと呼ばれた少女は何も答えず、その赤い瞳をレッサードラゴンへと向ける。
すると、先ほどまでこちらを警戒していたレッサードラゴンが、途端に大人しくなり平服の姿勢のごとくその鎌首を地面へと垂れ下げた。
「次は、ここから東へ飛翔し、都市や街、村を潰せと命令しろ」
ノアという名の少女が、先程と同じように何も言わず、すっと片手を上げ手の平をレッサードラゴンへと向ける。
しかし、数瞬して少女が胸を押さえて蹲る。
「ぐっうっ……」
その様子を見て男が舌打ちをする。
「まだ、不完全か」
男が憎々し気にそう言葉を発した時、レッサードラゴンが翼をはためかせ飛翔する。
それを見上げ男は言う。
「不完全とは言え、命令は伝わったようだな。良い成果だ」
男は、うっすらと笑い、蹲る少女の方を見る。
「哀れな奴だ。お前は一生私の傀儡にしてやるからな」
そう言って、薄く薄く笑った。
レッサードラゴンは飛翔する。
不完全に下された命令を遂行する為に。
人間の都市を、街を、村を破壊する為に。
レッサードラゴンは飛翔する。
セネクト山脈から東ではなく、南東へと向けて。
それは、聖王国の国境へと向かう進路。
レッサードラゴンは飛翔する。
ある少年が住む村の方角へと。
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シュッシュッと木剣が、空を裂く音が響く。
俺は、素振りをしながら以前助けた狐の事を思い出していた。
狐は、あの後治療院で保護され無事回復し、森へと帰っていった。
ちなみに、狐の足を再生させたことは黙っておいた。
この世界では、部位欠損を治すのは不可能とされている。
それが出来たとなれば、面倒ごとに巻き込まれるのは目に見えている。
出る杭は打たれるのだ。
と言っても、スコットさん辺りには話してもいいかと思ったが、どこから情報が洩れるか分からない。
スコットさんが話さずとも、俺とスコットさんがその話をしている時に誰かが聞く可能性だってある。
なので、結局誰にも話さなかった。
そんな風に思い出しながら木剣を振っていると、横から声が掛けられた。
「おい、ネロ!集中しろよ!剣筋がブレてるぞ!」
「ご、ごめん。ありがとう」
声の主は、ノインだ。
ノインは、錬気を練れてから、俺の剣術を見学するようになった。
最初は、練習に参加したいとアンネさんに言ったのだが、「タダ働きをするつもりはない」とノインの頼みを一蹴した。
だが、ノインは「なら見学だけさせて下さい!」と食い下がり、今に至る。
先の指摘が表すように、剣術についてかなり見る目が養われている。
錬気も着実に練れるようになり、今では多少だが身体強化を行う事も出来る。
もっと錬気が練れるようになれば、相当強くなるだろう。
ちなみに、ノインと一緒に錬気の練り方を教わったドットは、残念ながら未だに錬気は練れていない。
でも、ドットは諦めずに今でも頑張っている。
いつか練れるようになることを祈るばかりだ。
それにしても、アンネさんはうちの両親から給料をもらっていたんだな。
考えてみれば、そうだよな。
俺の為にお金をはたいてくれるクロネルとイザベルには本当感謝しかない。
などと考えていると、次は怒号が飛ぶ。
「ネロ!ノインの言う通りだ!集中しろ!」
木剣を地面に突き立て、額に青筋を浮かべたアンネさんだ。
俺は、慌てて考え事を止めて無心で素振りを行った。
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素振りを終え、型の練習をし、次はいよいよ乱取り稽古だ。
アンネさんがノインに「合図を頼む」と声を掛ける。
練習の面倒は見ないのに、良い様に使うその姿勢、嫌いじゃないですよアンネさん。
そう思い、剣を前に構える。
「始め!」
ノインが手を振り下ろし、声を張り上げる。
それを聞き届けた瞬間、両者が相手へと間合いを詰める。
以前までのアンネさんは、基本的に動かず俺の攻撃を捌き、カウンターや隙を突いて戦っていた。
だが、最近は違う。
積極的に間合いを詰め、俺に自由に攻撃させないようにしている。
俺も、剣術を始めて二年半だ。
その間、常に攻撃スタイルを磨いてきた。
その結果、アンネさんが動かなければ捌き切れない程の力量になっていた。
俺の初撃がアンネさんの横腹を狙う。
それを、容易く受け流し喉元目掛けて突きを放ってくる。
これも、最近変わったところだ。
木剣とは言え、喉を突かれれば致命傷になる。
だが、躊躇いなくアンネさんは剣を振るってくる。
なぜなら、俺が防御面でも成長しているからだ。
アンネさんの早い突きを、下から跳ね上げる。
開いた胴目掛けて木剣を袈裟懸けに振るう。
アンネさんが衝撃で後ろへ後退し、俺は追撃を加えようとアンネさんに迫る。
しかし、木剣を振るう瞬間に巧妙に小手を狙われた。
木剣はなんとか取り落とさずにすんだが、攻撃が中断する。
そこを狙われて、足に衝撃が走る。
機動力を奪う作戦か。
だが、それはそうされては嫌だということ。
先の攻撃が、思いのほか効いたのかもしれない。
しかし、アンネさんのことだ。
それも罠かもしれない。
試してみるか。
足の痛みに歯を食いしばりながら耐え、加速する。
アンネさんの周りを動き回り、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
アンネさんは、それを防いでいるが、何発か良いのが入る。
二年前には考えられなかったことだ。
だが、俺も足の痛みで動きが鈍くなった。
そこを、アンネさんは狙っていたように首筋目掛けて横なぎに木剣を振るう。
俺はそれを間一髪のところで受け止めたが、反応が遅れた為、木剣を通して身体に衝撃が伝わる。
ほんの少し怯んだ隙に、間髪入れず鳩尾へアンネさんの突きが入り、吹っ飛んだ。
吹っ飛びながら、やはり狙っていたかと歯噛みする。
地面を転がり、すぐ立ち上がる。
だが、息が出来ない、身体がフラつく。
鳩尾のダメージがでかい。
普通に急所だしな。
だが、何発か良いのは入れたので、アンネさんもダメージはでかいはずだ。
ここからは、動きの少ない純粋な剣の技と駆け引きの戦いだ!
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結果、勝ったのはアンネさんだった。
剣の技と駆け引きでは、やはりアンネさんにはまだ敵わない。
だが、かなりいい勝負は出来たと思う。
その日は、二人ともその一試合でボロボロになったので、乱取り稽古は早めに終了となった。
ノインはそのタイミングで帰って行った。
アンネさんは、稽古が終わり身体を休めていた時に、俺を呼んだ。
すると、スッと木剣と同じぐらいの大きさの真剣を差し出した。
「ネロ。もうお前の剣の腕は、私とほぼ互角だ。後は駆け引きだが、これは実践の中で積んでいくものだ。なので、今後の成長の為にお前にはこれをやろう」
俺は、剣を見つめる。
赤色の刀身がキラキラと光り、柄はピンピカの銀色だ。
お高いんじゃないだろうか?
「アンネさん。いいんですか?こんな高そうなもの……」
「子供が遠慮するな。精霊祭も近い。前回は何も渡してやれんかったからな。その分も含んでいると思え。ちなみに、色はお前の瞳と髪の色だ」
そうだ、もうそんな時期か。
俺は、五歳になったんだった。
それにしても、親以外から何かを貰うのは初めてだ。
アンネさんは、基本は厳しいけど意外と優しいところがあるからな。
「ありがとうございます。それでは、ありがたく頂戴いたします」
俺はそう言い、大仰に膝をついて両手でそれを受け取った。
「大げさなやつだ」
アンネさんはそう言いつつ、いつものように獰猛に笑った。
そして、その後こう続けた。
「では、稽古再開だ」
え!?終わったんじゃないの!?
もう身体そんなに動かないよ!
「アンネさん。もう、乱取り稽古はさすがに……」
「身体は動かさん。錬気を武器に纏わせる武器強化を教える」
「え!?そんなのあるんですか?」
「ああ、普通に錬気を身体に満たすのと同じような感覚で錬気を纏わすんだ。それで、武器の強度を上げられる」
へー、すげーな。錬気。
それなら、その辺の木の棒とかでも十分武器に出来るってことだよな。
俺が、そう感想を抱いているとアンネさんが続ける。
「お前には、これを習得してもらい精霊祭での馬車の道中、護衛についてもらう」
「え!?」
「先ほど、実践が必要だと言っただろう?それに、魔物狩りは好都合だ」
そう言って、アンネさんは今度のは絶対意識しただろうと思われる獰猛な笑いを作った。
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その後の錬気での武器強化は、意外と簡単だった。
毎晩、精神統一で錬気を操作している俺からしたら、鼻くそをほじりながらでも出来る。
その後、錬気を纏わすとどうなるのか知りたくて、試しに木剣を強化して木を殴ってみた。
すると、木剣は傷一つ付かず、殴られた木の一部が抉れた。
ほーと感心していると、後ろからアンネさんに声を掛けられる。
「そういえば、お前は剣と魔法、どちらを主体に戦うんだ?」
どちらを主体にかー、確かに考えないとな。
やっぱり、剣の方が戦闘力は高いし、剣かなー。
でも、魔法も牽制とかで使えるしなあ……
「基本は剣ですけど、牽制とかで魔法も使って戦うスタイルにしたいですね!」
すると、アンネさんは怪訝な顔をした。
「それは、伝説の魔法剣士ルクスのようになるということか?」
ルクス……たしか、治療院にあった絵本の、実在した主人公だ。
伝説ってのはどうでもいいが、魔法剣士には憧れるな。
「はい、そうですね。魔法剣士になりたいです」
何気なく答えると、アンネさんは「は~」とため息を吐いた。
「魔法剣士になるのは不可能だ。お前にそんな年相応の夢があったとはな。それはいいが、不可能なものを目指させる事ほど残酷な事はない。まったく、クロネルとイザベルは何をしているんだ」
そう言って、額に手を当てるアンネさん。
そして、額から手をどけてこう問いかけてきた。
「錬気と魔法を魂で練るのは知っているな?」
「はい、知ってますけど……」
「なら、錬気と魔法を同時に使うとは、どのようにするんだ?」
そこまで、言われてハッとした。
そうだ、錬気も念魔力も練ると魂の中を満たす。
両方同時に練るなんて不可能だ。
今まで、午前中は魔法の練習、お昼を挟んでから、錬気を使う剣術、走り込み、精神統一しかしたことしかなかったから、練れないというのに気づかなかった。
でも、それなら練った錬気と念魔力を散らして交互に使えば……
その考えは、次のアンネさんの言葉で即座に否定される。
「わかったか?原理的に同時に練るのは不可能だ。しかも、錬気も念魔力も一度練ると残留物質のような物が十分間は魂の中に残る。そのせいで、瞬時に切り替えて使うなんてことも出来ない」
十分?そんなに残るのか?
それじゃ、確かに瞬時に切り替えることは出来ないな。
たとえ、時間を置いて切り替えようとしても、一人の戦闘では実質不可能だ。
錬気は、一度練ると暫くは身体強化を維持出来るが、それでも十分間は無理だ。
途中で、必ず錬気を練らなければいけない。
なので、切り替えるなら何分間か錬気を練らずに対戦相手と対峙する必要があるが、確実にその間にやられる。
魔法も同様の理由でやられる。
仮に、十分間何とか耐えて切り替えられたとしても、それを魔法剣士とは呼ばないだろう。
つまり、アンネさんの言うように魔法剣士にはなれない。
でも、じゃあルクスはどうやって魔法剣士になれたんだ?
「ルクスは実在した人物ですよね?どうやって、魔法剣士になったんですか?」
「それは、今でも謎とされている。いろいろ仮説はあるが、どれも確たる証拠はない」
「そうなんですね」
「ガッカリしたか?すまんな。夢を壊してしまって。きっと、クロネルとイザベルもそう思ってお前に言わなかったのだろう」
アンネさんは苦い顔でそう言った。
別に、魔法剣士に拘っていたわけじゃない。
なれたらそりゃ良かったけど、無理なら仕方ない。
相手によって錬気か魔法どちらで戦うか選択できるし、両方使えることに越したことはない。
なので、俺はなんでもない感じでこう言った。
「別に大丈夫ですよ。拘りとかは特に無かったので。アンネさんが気に病む必要はないです」
すると、アンネさんはまた「は~」とため息を吐いた。
「お前はそういう奴だったな。勘違いした私が馬鹿だったよ」
そう言ってアンネさんは肩を落としていた。
ごめんなさい、夢の無い二十九歳で。
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アンネさんに剣を貰った数日後、家に帰るとイザベルがまたも拍手しながら「おめでとう!」と言い、俺を迎えてくれた。
その後、前回と同じように豪勢な食事を取り、これまた前回と同様、食事中にイザベルの「ユーミットに行くわよ!」との宣言を受けて、満腹感に浸りながらゆっくりしていると、いよいよプレゼントの時間がやって来た。
イザベルが小さな袋を俺に差し出す。
「ネロ。五歳おめでとう。これ、プレゼントよ。開けてみて」
俺は、差し出された袋を受け取る。
持った感じそんなに重いものじゃない。
大きさも小さいし、何だろうとワクワクしながら袋の中に手を突っ込み中の物を出した。
それは、銀の腕輪だった。
シンプルなもので、真ん中に溝が彫られている以外装飾はない。
どこかで見た気がするのだが……
「母さんこれは?」
「これは、母さんと父さんとお揃いの腕輪よ」
そう言うと、イザベルとクロネルが腕に嵌った腕輪を二人して見せてきた。
どちらも笑顔だ。
そうか、そりゃどこかで見たことあるはずだ。
すぐ思い出せなかった俺の記憶力がおかしい。
クロネルが腕輪を見せながら、説明を始めた。
「この腕輪は結婚した時に、男が女の人に渡すものなんだ。サイズをギリギリにして、一度嵌めたら外せないようにする。それで、一生離れないっていう証にするんだ」
なるほど、結婚指輪みたいなものか。
しかし、それとおなじ物を俺が嵌めてもいいものなのか?
疑問に思っていると、イザベルが説明を引き継ぐ。
「これは、離れないっていう誓いみたいな意味もあるけど、家族の証としても使われるの。だから、ネロにもその証を受け取って欲しいの」
クロネルが頭を掻きながら言う。
「正直、今回のプレゼントは悩んでなー。ネロはもう魔法が使えるし、剣だって師匠から貰った。後は、本かと思ったが、どんな本が良いのか分からなかった」
イザベルがしゃがみ俺に視線を合わせる。
「それで、家族の証を渡そうってなったの。正直、ネロが喜んでくれるかは分からないんだけど……」
そう言うと、イザベルがそっと目を伏せた。
それに俺は、食いつくように反論した。
「何言ってるの母さん!嬉しいに決まってるじゃん!二人の息子だって証明でしょ!一生離れないって証でしょ!これ以上のプレゼントはないよ!」
これは、本心だ。
俺は、二人の息子で良かったと心から思うし、一生離れてなるものかと思っている。
離れないっていうのは、ニート的な意味じゃないよ。
だから、この腕輪は素直に嬉しい。
俺は、反論した勢いで腕輪をつけようとする。
しかし、入らない。
もしかして、サイズミス……そんな。
それでも、必死に嵌めようと何回も手をねじ込む。
それを見て、イザベルが涙ぐみながら俺を抱きしめてきた。
「ネロ……ありがとう。愛しているわ」
後ろから、クロネルもそっと俺達を抱きしめる。
そして、クロネルが泣いているイザベルに変わり優しく言葉を発する。
「ネロ。その腕輪は魔道具でもあるんだ。ネロは成長するから、今のサイズじゃ入らなくなるだろう?だから、魔力を込めればサイズ調整出来るようになってる。やってみろ」
俺は、言われたとおりに魔力を込める。
すると、腕輪が大きくなった。
クロネルがそれを見て、説明をしてくれる。
「それは、魔力を込めると最大で直径一メートルほどになる。そこから、また魔力を込めると小さくなって、指輪サイズにまでなる。後は、同じだ。そこから大きくしたければまた魔力を込めればいい」
俺はそれを聞き、あと少しだけ魔力を込め腕輪を大きくした後、その腕輪を腕に嵌めた。
そして、泣いているイザベルと優し気な表情のクロネルに向けて、腕に嵌った腕輪を見せながら微笑んで言った。
「父さん、母さん、ありがとう。一生大事にするよ」
すると、イザベルは泣き顔のまま微笑みながら、クロネルはいつものニカッとスマイルで腕輪を見せてきた。
三人の腕輪がキラリと光る。
俺にはそれが、『ここに家族の証はなされた』と腕輪が言っているような気がした。
その晩、俺は暖かな気持ちに包まれながら、明日から行く精霊祭に思いを馳せていた。
前回の精霊祭は楽しかった。
異世界の素晴らしさを痛感した。
また、あの気持ちを味わえると思うと今からワクワクする。
思えば、転生してから俺は良いこと尽くめだ。
両親に恵まれ、周りの人に恵まれ、病気は治り、鍛錬に明け暮れる充実した日々に、そしてその努力がきっちりと実を結び、少しずつ成長している実感。
俺は、この世界に転生して良かった。
そう思い、俺はゆっくりと夢の中へと沈んでいった。
しかし、俺のこの思いは逆転する。
平和で優しかったこの世界の景色は一変し、牙を剥く。
それはまさに、地獄の景色だった。
貴重なご感想を受けて、冒頭部分に追加で文章を足しました。




