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プロローグ0

プロローグ0となっていますが、投稿順のミスではありません。

時は遡り俺が地球で死んでから四年前、今からだと九年前の話となる。

病気の原因となった事件と、リフリカとの最初の出会い。

俺は、それを思い出していた。

茫然とした気持ちのまま……


-----


ジリリリッと目覚ましの音が聞こえる。

もう、起きなければ。

微睡んだ思考の中でほんのりと思う。

本当にほんのりとしか思っておらず、起きる気はない。


数時間後、自然と目を覚ますと昼の一時だった。


「また、授業行けなかったな。まーいっか」


俺は、それなりに名の知れた大学に通う、二十歳のどこにでもいる一人の青年ってやつだ。

二回生になり、大学にも慣れ始めた今日この頃、俺は授業にあまり出なくなっていた。


昼は、代表を任されたサークルの活動、夜は実入りのいい夜勤のバイト。

暇な時はパチンコをしたり、友達と朝まで飲み明かしたりしていた。

学生は勉強するのが第一と言われるが、確実に勉強は第一ではなくなっていた。


親は、そんな俺に対して苦言を呈してくる。

特に父親がうるさい。


「お前は何のために学校に行っているんだ」

「高い授業料が無駄だ!」

「授業に出ないなら大学なんてやめてさっさと働け!」


いつもなら、生返事をして場を濁すが、その時は虫の居所が悪かった。

俺は、舌打ち交じりに「大学生なんて皆こんなもんなんだよ。親父は高卒だからわかんねーんだよ」と返した。


そう言うと父は激高した。


「親を馬鹿にするのも大概にしろよ!世間の事なんて碌に分かっていないガキが、舐めた口を利くんじゃないぞ!」


そう言われると俺もヒートアップしてしまった。


「うっせーよ!こっちだって、やれることはやってんだよ!先に生まれて世間を知ってるのが、そんなに偉いのかよ?ガキはガキなりに一生懸命だってなんで分かんねーだよ!そんなんだから、息子に高卒の馬鹿扱いされんだよ!」


今思えば、自分を正当化して相手を馬鹿にしたいだけの小汚い意見だった。


父は何も言わず俺を殴りつけた。

それに、俺もキレて殴り返した。

そこからは、バッチバチの喧嘩である。

母は後ろで泣きながら止めて!と叫んでいた。


結果、勝ったのは俺だった。

運動系サークルで鍛えた俺と、歳で衰えている親父。

俺が勝つのは道理だった。

勝った後、倒れる父に向って俺は吐き捨てるように言った。

言ってしまった。


「死ねよ」と。


それ以降、父は俺に何も言わなくなった。

喧嘩に負けて悔しいとか、そんなアホな理由ではないと思う。

きっと、諦められたのだ。

こいつに何を言っても無駄だと。

それが、分かるからこそ俺は余計腹が立った。

期待されるようなことをしていないのに、期待されていないと気に食わない。

俺は、父が言う通りどうしようもなくガキだったのだ。


それから、家庭内は氷のように冷え切っていた。

会話はなく、各々が淡々と生活を送るだけの空間。

自分が原因だというのに、それがまたストレスに感じ、俺は陰で何回も親に対して「死ねよ」と呟いていた。

腐っていたのだ、性根が。


そんな俺だが、大学では順調だった。

サークルでは愛されキャラを確立し、悩みなんてあるの?と言われるぐらい良く喋り、良く笑う明るい性格だった。

生物学専攻の学部では効率よく単位を取るので、周りから頼られることもしばしば。

生物は昔から得意だったので、要点さえ分かれば簡単だった。

そんな具合に大学生活は楽しかった。

思えば、あの時が一番人生を謳歌していたかもしれない。


そんな生活が一年程経った二十一歳の時。

俺の一生を、いや二生を変えるあの事件が起きた。



それは深夜の事だった。

二階にある自室で寝ていると、何か焦げ臭い臭いがした。

顔をしかめるも特に起きようとは思わず、そのまま寝ていた俺だが、親父の大声で目が覚めた。


「家が燃えている!早く降りてこい!」


瞬間、飛び跳ねるように布団から出ると、部屋の隅がチリチリと燃えていた。

なんだよこれ。と思いながらも、部屋から飛び出て階段を目指す。

しかし、階段はすでに火の手が回っており、通るには火に包まれるのを覚悟しなければいけないような状況だった。

窓から飛び降りようかと考えたが、すでに二階の部屋のドア全てが熱で歪み開かなかった。

自室の入り口で、茫然と立ちすくみ炎に燃える階段を見つめる。

考えている暇はない。時間が経てば経つほど、状況は悪化していく。


「行くぞ。行くぞ。行くぞ!行くぞ!」


呼吸が荒くなる。心臓がバクバクいっている。

震える足に気合を込めて一歩を踏み出した。


「クソがー!」


大声を出して、弱気をねじ伏せ、炎の中を駆け降りる。

身体に炎が纏わりつく。熱い。いや、痛い。

息が出来ない。すれば、煙で喉が痛む。

呼吸は極力最小限にしなければ。


涙目になりながら、口を押えて階段を降り切った。

玄関まではもうすぐだ。

だが、火が熱い。足がふらつく。呼吸が苦しい。

玄関まではあと数十メートルだというのに。

その距離が、果てしなく遠く感じる。


これは駄目かもしれない。


そんな思考が過った時、玄関の方から走ってくる人影があった。

その人影は炎を纏いながら近づいてきて、俺を抱きかかえた。


「大丈夫か!?」


それは、ここ最近話も碌にしていなかった親父だった。


親父は、俺を支えながら玄関を目指す。

どちらも炎が身体に纏わりつている。

助かったとしても二人とも後遺症は逃れないかもしれない。

親父は、俺を助けようとしなければこんな事にはならなかったのに。


「親父、悪かった」


知らず、謝罪が口をついて出ていた。

それに対して親父は、自嘲気味に笑いながら言った。


「俺は、親父だからな。死ねと言われれば、お前を助けるために死ぬさ」


胸が締め付けられるような衝撃があった。

親父は、俺に死ねと言われたことを気にしていたのだ。

当然か。

息子にそんな事を言われて気にしない親なんていない。

だからこそ、自分を拒絶している息子に対して、どう対応していいか分からなかったのだ。

俺が思ってたような、期待していないとか、見捨てたとか、そんな理由じゃなかったのだ。

それなのに、俺は勝手に理解した気になって、その間違った理解に腹を立てて、馬鹿だ。大馬鹿だ。


「親父……ごめん。ごめん。ごめん」


涙がボロボロと溢れた。炎の熱で、すぐに蒸発してしまうが大量の涙を流した。

それを見て親父が茶化すように言った。


「泣いてんのか?情けねえ。泣くのは助かった後にとっておけ」


「あーそうするよ」


涙を拭って前を目指す。

親父に肩を支えてもらいながら、一歩一歩。

思えば、親子ってのはこういうものなのかもしれない。

本当に辛い時、命がかかってようが肩を支え合って一歩一歩進んでいく。

そうして、一緒に人生を歩んで行くんだ。

これからは、もっと歩み寄ろう。親子としてちゃんと生きていくんだ。


玄関はもうすぐだ。

しかし、その時家の倒壊が始まった。

柱が焼崩れてバキバキと家の形を変えていく。

そして、真横の柱が同じように焼崩れ、こちらへと倒れてきた。

瞬間、親父が俺を放して燃え盛る柱を受け止めた。


「があぁぁぁー!」


親父の咆哮のような悲鳴が上がった。

そして、身体が一瞬で炎に包まれた。


「親父!」


支えを失って、その場に倒れこみながら叫ぶ俺を振り返って、親父はまたも叫んだ。


「早く行け!玄関はもうすぐだろが!」


「でも、親父!」


親父は、炎に包まれながら穏やかな表情で俺を見つめた。


「お前はもう子供じゃない。それを分かっていなかった俺は、死ねと言われても仕方のない父親なのかもしれない。でもな……息子の命を見捨てるようなクズにだけはならないつもりだ。だから、早く行け」


これから、親子そろって歩もうと決心したところなのに。

大事な時に支え合えるような、そんな家族になろうと思った時なのに。

なのに、なんだよこれ。なんだよ!


グズグズしている俺を見て親父が再度吠えた。


「早く行け!生きろー!」


その声につられるように、震える身体を起き上がらせゆっくりゆっくり進んでいく。

親父の悲鳴とも絶叫ともとれない声が後方から聞こえる。


早くしなければいけない。

俺がまず外に出て、すぐに親父を助けに行けばなんとかなるかもしれない。

俺一人の命じゃねーぞ。気合入れろ。一生で一番踏ん張れ!


ゆるりゆるりと進み、玄関まであと一メートル。

やった、もうすぐだと安堵した。

それがいけなかったのだろうか……


バキバキと音が聞こえた。

それは真横から聞こえてきて……


燃え盛る柱が、俺を押しつぶした。

炎が全身を包む。柱の重みで肋骨が折れて、内臓に突き刺さった。

絶叫すら上げられない。

カヒュッという呼吸音と共に、大量に吐血した。


嘘だろ。なんだよ、この終わり方。

気付けば、親父の絶叫が止んでいた。


嘘だろ。嘘だろ。嘘だろ。

俺は助からず、そのせいで親父も助けられなかった。

俺は、何もできなかった。

一人じゃ何も出来なかった。

この見慣れた家の通路を歩く。

ただ、それだけのことが。


こんな人間が、親父に……命を懸けてまで俺を助けてくれようとした人に死ねなんか言ったのか。

お笑い種だ。可笑しくて気が狂いそうになる。


熱さをもう感じない。

痛覚や神経まで焼けたのかもしれない。

内臓の痛みが凄まじい。

間違いなく致命傷だ。

意識も朦朧としてきた。


俺はもう死ぬ。

何も出来ずに死ぬ。

無様に柱に挟まれながら死ぬ。

後悔しながら死ぬ。

罪を償えずに死ぬ。

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!


その時、親父の声が頭の中に響いた。


「生きろ!」


生きる。生きる。生きる。生きる。

そうだ、生きなきゃ。

死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!

死ぬのは嫌だ!嫌だ!嫌だ!嫌だ!


その時、視界の端で閃光が迸ったように思えた。

そして、身体に覆いかぶさっていた柱が、一陣の風によってどかされた。

視界を上に向けると、そこに妖精のような生き物がいた。

煌めくような緑の髪に、赤と緑のオッドアイ、そして背中に生えた炎のような羽をもつ体長十センチほどの謎生物。

謎生物は何事か呟くと、俺の全身が光で満たされて痛みが引いていった。


痛みが引き、身体が自由に動くようになると、俺は今しがた起こった不思議な事を無視して、親父の元へと走った。

しかし、親父は炎に包まれ、もう親父と判断できない程に皮膚が焼け爛れ、とても生きているようには見えなかった。


「ぁ……あ……あ……」


身体から力が抜けた。

もう、何もやる気が出ない。

俺の言った通り、親父は死んでしまった。

死んだんだ。

俺が言った通り。

こんな俺を助けるために。


「ハハッハハッハハハハハハハ!」


笑いが止まらなった。

なぜ笑っているのか自分でも分からない。


それを見かねてなのか、先ほどの謎生物がスーと近寄ってきて小さい小さい手で、俺の指を包み込んだ。

その手は温かかった。

気付けば、周りの火はほとんど消えていた。

謎生物は、手を一振りすると親父を包んでいた炎も消してくれた。

不思議な光景だが、今の俺には何もかも現実感がなく、疑問に思う余地がなかった。

すると、そんな俺の頭の中に声が響いてきた。


『はじまして、あたしはリフリカよ。話は出来る?』


突然頭に響いてきた声に驚き、俺は辺りをキョロキョロ見まわし、自身の指を掴む謎生物のところで視線が止まった。


「今のは君が?」


すると、謎生物改めリフリカは指を放して俺の目線の高さまで浮遊した。


『ごめんね。普通の会話は出来ないの。もう、魂のパスは通したからあなたも頭の中で私に語りけるようにしてみて。それで、会話は出来るはずよ』


言っていることがエスパー過ぎて訳が分からないが、もう不思議なことは散々起きている。

今更だと思い、試してみる。


『もしもし……聞こえますか?』


『もしもし?はいはい、聞こえますよ。うん、ちゃんと会話は出来るみたいね。良かった』


そう言うとリフリカはニッコリ微笑んだ。

その表情は慈愛に満ちていた。

なぜ、初めて会った俺にそんな表情をするのだろう。


『君は一体何なの?』


『何ってのも失礼ね』


リフリカは腰に手を当てて、唇を尖らせながら言った。

どこか演技臭く見えるのは気のせいだろうか?


『あっごめん。誰?なの?どうして、救ってくれたの?』


『あたしは……リフリカよ。救ったのは、私がたまたま現れた場所にあなたが困っていたからよ。困った人がいたら自然と助けちゃうもんじゃない?』


なかなか、釈然としない答えだ。

要するに、あまり知られたくないことがあるのだろう。

命の恩人に、そこを追及して困らせるのも野暮だ。

納得したフリをしておこう。


『そっか。確かに、困った人がいたら自然と助けちゃうね。本当に助かったよ、リフリカ』


『いいえ、どういたしまして。それじゃ、無事みたいだしあたしはそろそろ行くわね』


『行くってどこに?』


『まっ野暮用よ』


これもきっと知られたくないんだろう。


『わかった。本当にありがとう。気をつけてね』


『うん、ありがと。あっそういえば最後に、今後、辛い死にたいって思う時が来るかもしれないわ。でも、あなたの見える景色は変わる。あなたが変えるの。それだけ覚えておいて』


なんだろう。

好きな人が出来れば見える景色が変わるとかいうアレだろうか?最後になんか乙女出してきたな。

てか、性別メスだよな?


そんな疑問をよそに、リフリカは光に包まれて消えた。

リフリカが現れてくれなければ、俺の命はもちろん精神も完全にダメになっていたかもしれない。

何者なのか分からなかったが、俺にとっては恩人だ。

不思議な余韻に包まれながら、俺は親父の亡骸を抱えて玄関を目指し外に出た。


-----


あの時、外に出るとちょうど消防車が来たところだった。

なんでも、渋滞に巻き込まれていて遅れたらしい。

仕方のないことだが、酷い苛立ちを覚えた。

お前らが早く来ていれば、親父は死ななくて済んだかもしれないのにと。

母は、親父の亡骸の前で泣き崩れていた。


また、火事の原因は放火魔だった。

すぐに捕まり、刑務所送りとなったが、心情的には死刑になってほしかった。

あと、俺は【奇跡の生還者】【突然消えた火の手】と銘打たれるような取材をいくつか受けた。

リフリカの事は伏せて、自分でもよく分からない。父が助けてくれたと答えた。

リフリカの事を伏せたのは、事件直後に受けたカウンセリングで正直に話したら、入院を勧められたからだ。

俺は、慌ててやっぱり何かの勘違いでしたと言い直したが、入院はさせられた。


というのも、知っての通り言葉があまり上手く話せないようになったからである。

「死ね」と言った親父が実際に死んだ。

しかも、自分を助けるために。

あの時の親父の絶叫が耳から離れない。

自分の声で「死ね」と頭の中でリフレインする。

自分の言葉が怖くなったのだ。

俺の性根は腐ってる。

そんな自分がまた以前のようにベラベラ話せば、また取り返しのつかないことになるかもしれない。

俺は、それが怖かったのだ。


しかし、同時に親父から与えられた「生きろ」という言葉。

そして、火中のさなか誓った「家族を大事にする」という思い。

それだけで、その後の就活、そして会社生活を送った。

【生きる】【母を悲しませない】という思いだけで。


しかし、俺は完全に挫折する。

その当時の状況に押しつぶされて「死にたい」とまでのたまった。

それがきっかけなのか、またリフリカが現れ俺の人生は一変、いや文字通り一新した。

新しい命として、新しい世界で芽吹いたのだ。


俺は、その新しい生の日々を思い出す。

あの生まれてから今まで過ごした日々の事を。


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