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望まぬ転生~異世界でみた景色~  作者: 千秋の果実
第一部 農村での暮らし
17/30

魔法

精霊召喚魔法が使えるようになり、クロネルとイザベルにピラルカを紹介したら、二人は大層驚いていた。

クロネルは「また一歩英雄に近づいたな!」とお決まりのリアクション。

イザベルは「精霊ってホント綺麗よね」とピラルカに見惚れていた。


さて、魔法が使えるようになったら、練習したいところだ。

場所は、患者に治癒魔法も試せるし治療院の前にしようかと思ったがやめた。

治癒魔法に失敗して、後が残るような治り方をしては目も当てられないし、同じく攻撃魔法に失敗して、道行く人に当たってしまってもいけない。

なので、いつもは治療院に行っている午前中、俺は一人で村の中を歩いていた。


俺も、もう四歳だ。

まだ、四歳とも言えるが、イザベル達からしたら、剣術で鍛えられた身体に、四歳にしては賢い頭、一人で遊びに行きたいと言ったら、二つ返事で良いわよとの答えを貰った。

ただし、村から出ない事、昼になったらちゃんと帰ってくる事を約束させられた。


それくらい、守りますぜ。姉さん。


そんなわけで、今は魔法の練習に最適な場所を探している最中である。

一人で村を歩くのは初めてなので、改めて気付いたがこの村は結構広い。

歩けど歩けど村の端が見えない。


それでも黙々と歩くとやっと村の端が見えてきた。

低い柵があり、その先に森らしきものが見える。

俺は、柵の傍まで寄り何となく森を眺める。

野生動物がいそうな良い感じの森だ。

これなら、傷ついた野生の動物が出てくるかもしれない。

その時は、治癒魔法を試せる。

周りに人もいないし魔法の練習をするにはちょうどいいだろう。


そう考え、柵から少し離れた場所で魔法の練習を始める。


イザベル曰く、魔法は()魔力(ラカ)を体外に放出して、世界に干渉し、事象を発生させるとのこと。


なら、その通りやってみよう。


まずは、水。

召喚魔法のように水のイメージを思い浮かべる。

水玉が空中に浮いているイメージ。

キセルで作るあの水球のイメージ。

そして、そのイメージを浮かべたまま()魔力(ラカ)を生成する。

出来たものを手へと移動させ放出!


「……」


何も起きない。

馬鹿な。イメージは完璧だったはず。


もう一度試す。

今度は名前を付けてみたりして。


「ウォーターボール!」


「……」


何も起きない。

ぷ~んとハエが飛んで来て突き出した手に止まった。


「……」


パパッと手を振り、追い払う。

ちくしょう、ハエに馬鹿にされた気分だ。


しかし、なんでだ。

イザベルがドットの傷を塞いだ時は、酷く抽象的な細胞分裂のイメージで、治癒魔法が発動したというのに。

練りこむ思念の量が足りないのか?


なら、多めに練りこんで再チャレンジだ。

イメージ。そして、先ほどより多く思念を練り込み、放出!


「……」


また、ハエが飛んできたので手に止まる前に追い払う。

くんなくんな!


ちくしょう!なんでだ!?


イメージだけじゃダメなのか?

いや、ピラルカを呼び出す時はイメージだけで発動した。

なら、その他に必要なものは無いはずだ。


それとも、イメージが拙いとか?

でも、キセルで何度も見た水の玉だぞ。

イメージはほぼ完璧なはず。


イザベルの時の抽象的なイメージと、今の俺の違い……


もしかして、原理か!?世の中の原理に触れているかどうかとかか?


ということは、水を生み出すためには、空気中のH₂Oをかき集めるイメージをすれば何とかなるかもしれない。


まず、イメージ。

化学の授業で見たH₂Oの模型が、空気中を漂っている。

そのH₂Oが集合し、水となるイメージ。

それを思い浮かべながら()魔力(ラカ)を生成。

出来たものを腕へと流し、放出!


「ウォーターボール!」


また意味もなく叫んでしまった。


しかし……


浮いていた。

野球ボールぐらいの水の玉が!


「やった!成功だ!」


その場でガッツポーズ。

そういえば、魔術師のお姉さんが魔法は軌道を変えられるみたいな事を言ってたな。

試しに、水の玉を森の木に向かうように念じてみる。

すると、ヒューンという感じで飛んでいき木に当たりパシャと潰れた。


完璧じゃないか。

やはり、原理をイメージすると発動しやすいのか。

でも、そうするとこの世界の人達はどうやって魔法を発動させてるんだ?

後で、イザベルに聞いてみるとするか。


その後、無と火以外の属性を試してみた。


全て試さなかったのは、無属性は単純に召喚魔法以外どんな魔法があるのか分からなかったから。

火属性はキセルの時の気持ちが強く火を使うのを躊躇ったからである。


それ以外の属性の結果はこんな感じだった。


まず、土。


空中に漂う土の分子を集めて……土の分子ってなんだ?


失敗。


次に、風。


風は気圧差が生み出すものって聞いたことあるぞ。だから、気圧を変えて……気圧ってそもそも何?


失敗。


次は、光。


光は分かる分かる!確か、光は波みたいなもので……いや、あれ?粒子だったっけ?


失敗。


最後に、闇。


闇ね。闇。何で作られてるか?分かるわけねーだろ!


失敗。


そんな具合で、結局俺は水玉を作る事しか出来なかった。

俺は魔法の才能が無いのかもしれない。

いや、無いな。


無いといえば、思念切れを起こす気配が無い。

失敗ばかりだったが、相応に思念は練ったのだが。

後で、これもイザベルに聞いてみるか。


-----


その後、治療院に戻ってイザベルに聞きたいことを聞いてみる。


「母さん、治癒魔法を使う時ってどんなイメージしてるの」


それに、イザベルは少し驚いた様子で答えた。


「どんなって……ネロは本で読んだから知ってるでしょ。治った状態をイメージしてるのよ。あと、最近はネロが教えてくれたイメージもするわね。でも、そうすると深い傷も治せるんだけど、傷跡が少し盛り上がるのよね……」


頬に手を当てて、困った素振りのイザベル。


恐らく、傷が盛り上がるのは……まあ、いいか。


「治癒魔法も難しいんだね。僕も今日、魔法の練習をしたんだけど、水魔法しか出来なくて……それで、改めて母さんに聞いてみたんだ」


「そうだったのね……え?水魔法が出来たの?」


イザベルが、驚いた顔でこちらを見ている。


「え?う、うん。水玉を出して移動させるだけだけど」


すると、イザベルはグイッと顔を寄せてきた。


「どっどうやって出来るようになったの?普通魔法は、そんなすぐ出来ないわよ?精霊召喚魔法は元々素質がある子が選ばれるから、ネロみたいにすぐに召喚できる子もいるらしいけど、そういう子達でも精霊魔法を使う時は苦労するらしいし、普通の魔法なんて尚更よ。水属性魔法なら、じっと水を何日も眺めて、鼻で匂いを嗅いで、水を口に長時間含んで、水の音に耳を澄ませて、滝に打たれて全身で水を感じたり……それで、やっと出来るって言われているの。母さんだって習得したくてそうやって頑張ったのに……結局できなくて……」


そう言って項垂れるイザベル。


いつになくイザベルが必死に語ったな。

俺があっさり、水属性魔法を習得したから悔しいのだろうか。


それにしても、滝に打たれるイザベルか。

服に浮かび上がる今より小さいであろうポッチ。エロいな。


いやいや、そうじゃなくて、結構重要な情報だったぞ。

この世界の人は、きっとイザベルが言った修行みたいなことをして五感に原理を染み込ませているんだ。

それが、無意識にイメージに反映されて魔法が発動すると。


「母さんさえ良ければ、今度コツみたいなのを教えるよ。だから、落ち込まないで」


そう言うと、イザベルは顔を上げ、暗闇の中に光を見つけたような顔をした。


「ネロ。本当に良い子ね……お願いしていいかしら?」


「うん、任せてよ!あと、聞きたいことがもう一つあるんだけどいい?」


イザベルは姿勢を正し、改まって答える。


「ええ、いいわよ。何?」


「今日魔法の練習でそれなりに思念を使ったんだけど、思念切れを起こさなかったんだ。僕って、意外と思念の量があるのかな?」


イザベルはそれにポンッと答えた。


「それは、あるんじゃないかしら。だって、小さい頃から毎日、走ったり、本でお勉強したり、剣術のお稽古をしてるんだのも」


「それで、思念って増えるものなの?」


「ええ、思念を増やすには精神に負担をかけるような事をすればいいって言われてるの。だから、辛いって感じることを続ければ増えるわ。ネロがしてるように走ったり、本を読んで勉強したり、剣術の稽古をしたりね」


そうなのか。

なら、昔気の鍛錬の為と思って行っていた走り込みも、無駄じゃなかったわけだ。

それに、あのキセルで水蒸気を作るという試み。

最強に精神に負担がかかった。

病気が再発してしまうんじゃないかと思うほどに。

だから、相応の思念があるのか。

納得。


「そうなんだ!良かった!何でも応用は利くもんだね!」


「それは、もちろんそうよ。世界は回っているんだからね」


イザベルは、精霊祭で聞いた廻りの句のような事を言って微笑んだ。


その夜、イザベルに野菜とくしで作った水分子の模型を見せ、それを空気中から集めるイメージを伝えると、あっさりと成功した。

イザベルは、「これで水仕事が楽になるわ!」と飛び跳ねて喜んでいた。

ちなみに、イメージの出所はまたもスコットさんにしておいた。


ごめんなさいスコットさん。

今度こそいつかお詫びします。


-----


普通の魔法も伸ばしたいところだが、やはり精霊魔法も試したい。


なので、今日は孤児院の裏庭にいた。

ここには、同じ光精霊と契約したマリエラが居る。

なので、是非マリエラおねーさんに教えてもらおうと思ったのだ。


まあ、懸念はあるが……


ともかく、早速ご教授願おうと思う。


「マリエラ、教えて欲しい事があるんだけどいい?」


すると、マリエラは泥団子を作っていた手を止め、こちらを振り返って満面の笑みで答えた。


「いいよ!おねーさんが教えてあげる!何を教えて欲しいの?」


そう言って、パッパと土の付いた手を払い、立ち上がるマリエラ。


身長が二歳年下の俺と、どっこいどっこいだ。

小さいなマリエラって。


「精霊魔法について教えて欲しいんだ。僕もやっと精霊が呼び出せるようになったから、使いたいなって思って」


すると、マリエラはうんうんと頷くと言った。


「私、精霊魔法使えない!どうやって使うの?」


いや、聞いてんの俺だから!

またも、肝心なところが分からない。

というか、今回は出だしで躓いてんじゃねーか!


さて、どうしたものか……


「うーん、そうだね。僕も分からないから、一緒に出来るように練習しようよ!」


よし!これでいいだろう。

マリエラの精霊のルーナは、ピラルカよりコミュニケーションが取れるから、分からなければルーナに聞けばいい。


マリエラは「うん!一緒に練習しよう!」と大きく頷いた。


俺とマリエラが精霊魔法の練習をするという事で、周りに子供達が集まっていた。

その子供達の視線を受けつつ、二人でまずは精霊を召喚する。


「来い!ピラルカ!」 


「来て!ルーナ!」


すると、お馴染みの光が走り、精霊が現れた。


『ネロ。呼んだ?呼んだ?何?何?』


「うん、ちょっと精霊魔法の練習をしたいなって思って」


俺が、ピラルカと話していると横では、マリエラ達が話していた。


「マリエラー何―?」


「うん!精霊魔法の練習をしたいの!ネロと!」


ルーナはこちらを向いて言った。


「ネロー?あれー?精霊―?それも、光だねー」


すると、ピラルカがルーナの所へ飛んでいき、ルーナの周りをフワフワし出した。


「わかった、わかったよー教えてあげるよー」


どうやら、精霊同士でも念話できるらしい。


ピラルカが離れるとルーナがこちらを向いて言った。


「それじゃ、マリエラにネロー精霊魔法やってみよっかー」


マリエラが元気に声を上げる。


「うん!お願い!」


俺もそれに続く。


「お願いします!」


それを受けてルーナが語り出す。


「じゃーあ、マリエラは何回もやってると思うけどーまずは私達の思念を送るねーそうだなーピラルカでも出来るフラッシュの精霊魔法にしようかー」


思念を送る?

魔力を貰えるのはリフリカの発言で推測してたけど、思念もそうなのか。


「じゃーあ、ピラルカも送ってねー行くよー」


ピラルカがフヨフヨと漂い俺の近くへ来た。


『行くよ。行くよ。へへへ』


すると、目の前に閃光が迸るイメージが脳裏を駈ける。

意識すると光の波のようなものまで分かる。

かなり、鮮明なイメージだ。

そうか、光は波で出来ていたのかと感想を抱けるほど。


イメージが消える。


『どう?どう?へへへ』


「凄いよピラルカ。物凄く鮮明なイメージだった」


『そう?そう?ありがと。へへへ』


横を見ると、マリエラが難しい顔をしていた。

気になって問いかける。


「どうしたの?マリエラ?」


「なんで、光の中にウネウネ動く虫みたいなのがいるの?ルーナのイメージはいっつも良く分かんない!ネロは虫がなんなのか分かった?」


なるほど、精霊魔法が使えないのはそういうことか。

恐らくこの後、このイメージを使って精霊魔法を発動するのだろうが、精霊のイメージは原理に近すぎて、異世界のマリエラには意味が理解できないのだ。


「うーん、マリエラ。あれは虫じゃないよ。光を作っているものなんだ。例えば、さっきマリエラが作ってた泥団子があるでしょ?あれは砂で出来てるじゃない?光も泥団子と一緒で、あの光のウネウネで出来てるんだ」


俺、例えが砂ばっかだなと思いつつマリエラの反応を待つ。

すると、マリエラはしぶーい顔をしてこう返した。


「砂は粒々だよ。泥団子と一緒じゃないよ」


これを理解さすのは一苦労だな。

一先ず置いとくか。


「まーそうなんだけどね。でも、そういうものだって考えてみて」


すると、マリエラは渋々といった感じで「わかった」と答えた。


その後、会話が終わるとルーナが話し出す。


「それじゃー今度はーさっき送ったイメージを、自分の思念に映してー()魔力(ラカ)を生成してみてー」


要は、魔法と一緒か。

さっきのイメージを思い出し、()魔力(ラカ)を生成する。

横を見ると、マリエラも出来たようだ。


「じゃあー最後にーそれを身体の外に出してー光のマナを変化させてみてー」


ん?ちょっと待って。

最後が魔法と違う。


マナ?マナってたしか空気中の魔力みたいなもんだったよな。

しかも、光のマナって?種類あんの?

そんなもんどうやって変化させりゃ良いんだ?


俺は、手を挙げた。


「すいませんルーナ先生。光のマナってなんですか?あと、どうやって変化させるんですか。普通に魔法を使う感じで良いんですか?」


するとルーナは丁寧に教えてくれた。


「マナには種類があってー火・水・風・土・光・闇の六種類あるんだ―、光のマナはその内のひとつだよー。そのマナに()魔力(ラカ)を混ぜるイメージで変化するねー」


すまん、ルーナ。まだ、分からないから質問させてくれ。


「あの、混ぜると言っても見えないんですけど……それは、どうすればいいですか?」


すると、ルーナはこう答えた。


「ピラルカの目を貸してもらえば分かるよー」


ピラルカに目なんか無いんですけど……

あったとしても貸してもらったら怖いわ。


疑問はあるが、試しにピラルカに問いかける。


「ピラルカ。ルーナの言ったことできる?」


『出来るよ。へへへ。いくよ。いくよ』


すると、次の瞬間、空気中を満たす何かを感じた。

まるで、原子が漂っているのを知覚しているような感覚だ。


『分かった?分かった?』


俺は、ほへーと口を開けて答えた。


「うん、分かったよ……これが、マナなんだね」


『良かった。良かった。へへへ』


「今もピラルカはマナを感じとれてるの?」


『分かるよ。分かるよ。へへへ』


すげー。

こんなこと出来るんだな。

目を貸してもらうって、ピラルカのマナを感じる力を共有することだったのか。

紛らわしいですよ、ルーナ先生。


そのルーナ先生が話し出す。

はい、皆静かに。


「じゃあー分かったみたいだしーやってみようかーマリエラもねー」


マリエラが難しい顔で「うん」と答えた。


そして、俺は先ほどのピラルカの光のイメージを思い出し、()魔力(ラカ)を練る。

そして、それを光のマナに向けて放ち混ぜ合わせるイメージ。


すると、ピカッ!と閃光が走った。

一瞬で目が眩み、光が収まった後も、暫くは視力が回復しなかった。


戻った視界で辺りを見回す。

周りに居た子供達が「すげー!」と興奮し、ルーナが「一発で成功とはーやるねー」と言い、ピラルカは『やった。やった。へへへ』と笑う。


マリエラはというと……ぐずっていた。


「なんで……ヒックッあだじのほうが……ばやぐげいやくじたのに、ヒックッ……あだじ、おねーざんなのにー!うぇーーーーーーん!」


マリエラーーーーーーーーーーー!


ごめんね。泣かしてしまってごめんね。俺が悪かった。

いつも、ニコニコしているマリエラが泣くのはキツイよ。


俺は必死にマリエラを慰め、今後はマリエラの前で精霊魔法は使わないと決めた。


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