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望まぬ転生~異世界でみた景色~  作者: 初夏の草木
第一部 農村での暮らし
16/30

キセル

昨日新規でブックマークして下さった方、ありがとうございます。

嬉しかったです。

今日も複数投稿していくので、よろしくお願いします。

キセル(火種熾し水生成バージョン)を手に入れ大泣きした後、俺は大いに浮かれた。

これで、思念を感じる事が出来るかもしれないと。

だが、冷静になって考えるとあることに気付いた。

これを使ってタバコのような物を作るなら、結局火を使うじゃん!という事に。


火を熾すのは、問題ない。

原始人よろしく棒と板を使えば何とかなるだろう。

あれは、結構大変らしいが錬気を使えば何とかなると思う。


問題はそういう事ではないのだ。

火を使うという事そのものに問題がある。


クロネルとイザベルは、わざわざ改良してまで、俺が火を使って怪我でもしないように配慮してくれた。

なのに俺は、二人には内緒で火を熾すべく、棒をグリグリ必死に回転させるわけだ。

そして、点いた火を使いタバコのようなものを、フーと吹かす。


最低だろう。


二人の気持ちを裏切っている。

なので、俺は火を使う事は出来ない。


そこで悩んだ俺は、水を生成するこのキセルだからこそ出来るタバコもどきを思いついた。

前世にあった水蒸気タバコだ。

あれは、乾燥させた葉や液体を熱し霧状にしたものを吸うタバコだ。

そのまま再現するなら、熱する過程で結局火を使う。


しかし、ここは異世界だ。

何も無いところから水が生まれる。

それなら、霧も工夫すれば生成出来るはずだ。


そこで、さっそく実験してみる。

場所は治療院の入り口付近。


まずは、普通に使ってみる。

口に咥え、魔力を流し込む。

すると、直径三センチほどの水球がキセルの出口に引っ付くように出来た。

まるで、シャボン玉を吹かしている気分だ。

その後、水球はキセルから離れると十センチ程浮上して空中に停滞し、しばらくすると、パシャッと音を立てて、地面に落ちた。


なるほどと思いつつ、次は流し込む魔力を少なくする。

先程より小さな水球ができ、同じように地面に落ちた。


次に、魔力を流し込む速度を遅くする。

すると、出来た水球は普通に使った時よりも低い位置で空中に停滞した。


最後に、魔力を二回連続で送り込む。

息で言うと、フッフッという感じだ。

すると、水球は二つ出来た。

そして、今度は五回連続で試みる。

水球は五つ出来た。


これで、分かった。

大きさは魔力の量に、浮上する高さは魔力を流し込む速度に依存し、魔力を断続的に流せばその回数分水球が出来る。


霧とは要は、小さな小さな水球だ。

つまり霧を作り出すには、先ほどの特性から送り込む魔力の量を限りなく少なくし、それを断続的に複数回行えばいい。

また、目指す水蒸気タバコは入り口付近に霧が出来るものなので、高さも低くするために魔力を流し込む速度を遅くしなければならない。

まとめると、水蒸気タバコを実現するには、限りなく少ない魔力を遅く流し込み、それを断続的に行うという事になる。


……頭では理解したが、なんて難易度だ。


息に例えると、小さい小さい吐息を遅く吹き、それを霧を構成する水滴分繰り返すということだ。

果たしてそんな事が可能なのだろうか?


いや、やるしかない!

俺はやるぞ!

必ず火を使わずタバコもどきを完成させ、魔法を使ってリフリカを呼び出すんだ!



そこから、俺の血の滲むような努力が始まった。


まずは水滴を小さくする練習から。

魔力を調節し、小さい小さい水球を作り出す。

この過程で分かったが、水球は小さくなればなるほど、落ちるまでの時間が長くなった。

恐らくだが、水球を支えている何らかの力があって、大きい水球ほどその力は多く消費されすぐに水球は落ちるが、小さければ消費量が少なく長い時間保てるという事ではないだろうか。

これなら、ほとんど重さのない霧なら長時間もつと思われる。

まあそもそも、霧レベルの水球は自然と浮くと思うが。


などと考察もしながら、常にキセルを持ち歩き暇があれば練習に励んだ。

そして、目に見えない程度にまで水球を小さくすることが出来た。


たぶん。


目に見えないから分からない。


なので、これを確かめるべく次は断続的に魔力を送り込むことにした。

これで、霧を作り出せれば水球は確かに存在することが分かる。

これが、一苦労だった。

霧を構成する水滴の数だけ魔力を何回も流し込むのである。

しかも、極小の魔力を。

少しでも多ければ大きな水滴ができ、それに今まで作った小さな水球が付着し消えてしまう。

つまり、一度でもミスは許されないのだ。

極小の魔力を断続的に送る送る送る。


この頃から俺は、目がヤバいことになっていたと思う。

ある日、孤児院のリズに「ネロ……怒ってるの?」と言われた。

これでは、皆に心配をかけると思い、慌てて平静を装った。


本当は辛いのに、それを隠す。

徐々に心労が溜まる。


そんな日々が続き、何回も心が折れそうになった。


もう止めてしまおうか……魔法が使えなくてもいいじゃないか。

そもそも、これが出来たとして魔法が使える保証はないんだ。

いいじゃないか別に……


いや……しかし可能性はゼロじゃないんだ。

ゼロでないなら……可能性が少しでもあるならやるべきだ!


そう自分を奮い立たせ練習を続けた。


そして、ついに霧を空中に発生させることができた。

長かったーと泣きそうになった。

というか、泣いた。

これで、やる気が漲り、俺は最後の段階へと進んだ。


最後は霧の発生場所を低くするため、極小の魔力を遅く流し込み、それを断続的に行う。

俺は、この段階で誰もいない所で何度も奇声を上げた。

こんなもん出来るか―!とキセルを叩きつけそうになり、その度に貰った時の嬉しかった気持ちを思い出し踏みとどまった。

何度も何度も火を使ってしまおうかと考えた。

しかし、クロネルとイザベルを裏切りたくなくて、練習を続けた。

そして、キセルを持つ指に何回も潰れ固くて大きなタコが出来た頃。


やっと……やっと成功した!

成功したのだ!キセルの出口辺りに霧が漂っている。

俺は、空に向かい「おおおおおおーーーーーー!」と雄叫びを上げた。

その時は、ちょうど孤児院にいる時で周りの子供達がビクッと驚いていた。


この様に霧を発生させることが出来るようになった頃、俺はもう四歳になっていた。


-----


安定して霧を発生出来るようになった頃、いよいよ俺はタバコもどきを作ることにした。

その為には、まずあれを手に入れなければならない。

一歳の時に貰ったが、その後使わずに枯らしてしまったクルボロの葉だ。

家にある加工済みのクールを使ってもいいが、どうせなら新鮮なのがいい。

そして、懸念事項の解消もしたい。

二つの課題を達成すべく、俺は畑で走り込みをしている時間帯にクロネルに話しかけた。


「父さん。クルボロの葉を少し貰いたいんだけどいい?」


それに、少し首を捻った後クロネルは答えた。


「クルボロ?あーネロが一歳の時に欲しがったやつか」


「そう、鍛錬の合間に気分転換に匂いを嗅ごうかなって思って」


「そうか。なら、適当に何枚か持って行くといい」


「それと……その匂いの嗅ぎ方なんだけど、クルボロの葉を火種熾しの先に詰めて、口で吸うように嗅いでいいかな?」


すると、クロネルは怪訝な顔をした。


「は?なんだそれ?なんでそんなことするんだ?」


「元々、クルボロの葉って料理の風味付けに使うものじゃない?鼻で嗅ぐんじゃなくて口で風味を楽しみたいんだ。それで考えた時に火種熾しが使えるかなって思って。でも、貰ったものだし父さん達がダメって言うなら諦めるけど」


さーここが、運命の別れどころだ。神様どうか!


すると、クロネルはケロッとした感じで答えた。


「別にいいだろう。あれはネロにあげたものだし、危険な事に使うわけじゃない。イザベルには俺が言っといてやる。でも、使った後はちゃんと洗えよ」


やったぜ!もらった物にそんなことをしては、二人に悪いと思っていたのだ!

これで、懸念事項は解消された。

なので、俺は最高の笑顔で答える。


「うん!ありがとう父さん!」


こうして、俺はクルボロの葉を手に入れ、さらに火種熾しに葉を詰めることを了承してもらった。

その後、匂いを強くする為、貰ったクルボロの葉を数日乾燥させ、香辛料として使われるクールが出来上がった。


-----


深夜。

村の人達は寝静まり、静寂に寄り添うように虫の声が響く。

そんな、村の一角。

とある家の裏庭に佇む、小さな影があった。



これから、俺はこの一年の集大成とも言える事を行う。

タバコもどきを完成させ、リフリカを呼び出す。

前回と同様、リフリカがもし現れた時に俺の事を話されないように、誰もいない深夜の時間帯にした。


右手にキセル、左手にクール。

材料はそろった。後は作るだけだ。


乾燥させたクールをクシャッと潰し、細かくする。

それを、キセルの先端に詰める。

一瞬で完成だ。ちょっと拍子抜けする。


まあいい。


後は、この一年で培った魔力操作で先端に霧を発生させる。

そうすれば、クールの風味が染み込んだ水蒸気を吸う事が出来るはずだ。


魔力をキセルに送り込む。

霧を発生させるには、一時間ほどかかる。

これでも、かなり短い方ではないかと思う。

何せ霧を構成する水滴の数だけ、魔力を流し込むのだから。


ひたすらに集中して魔力を一定の割合で、遅くそして断続的に流し込む。

一時間後、先端に霧が出来た。


しかし、まだ止めない。

霧の量が多くなるように、さらに一時間ほど同じことを繰り返す。

霧がキセル内を逆流し、口元まで伝わった時、キセルを口から離した。

これで、キセル内は霧で満たされているはずだ。


霧が作れたといっても、それはごく僅かだ。

これだけしても、三口吸えるかどうか怪しいところだ。

なので、吸うのはほんの少しずつにしたいと思う。


まず、一口目。

緊張で口が震える。

その震える唇でキセルを咥え、一口吸う。


「ッ!?」


襲ってきた懐かしい感覚に目を見開いた。

喉を通る時のざらついた感触、肺にかかる微かな圧迫感、そして、口内に広がり鼻に抜ける爽やかな臭い。

タバコだ。

完全にタバコを再現出来ている。

しかも、これで依存性がないとは。

完璧ではないだろうか。

今まで求め続けた物が形となり、喜びで泣きそうになる。


最近、涙腺が緩くなったなと思いつつ、肝心の思念を感じ取れるか試す。

しかし、何も変わったものは感じなかった。


なら、二口目だとキセルに再度口をつけ、霧を吹かす。


二度目も何も感じない。

試しにリフリカの姿をイメージして呟く。


「来い、リフリカ」


……

……


何も起きない。

やはりダメなのだろうか。

あれだけ努力したのに、無駄に終わってしまうんだろうか。


「は~……」


ため息を吐きながらも、最後になるであろう三口目を吸う。

思念は感じない。やはりダメだったようだ。


だけど、もどきとは言えやっぱりタバコって落ち着くよな……

なんでだろう。



そう思った瞬間、意識がスーと深く沈み込み視界が暗転した。

暗闇の中、先に小さな火の光が見える。

それと同時に、胸に渦巻く何かを感じる。


俺は、無意識に小さな火に集中していく。


火は風を受けて徐々に勢いを増さんとする。

しかし、火は弱々しく燃え大きくはならない。

風がさらに火を煽り、懸命に火の勢いを増そうとしている。

しかし、火は弱々しく燃え大きくはならない。

火は揺らめく小さくユラユラと。

風はそよぐ火を撫でるように。

やがて、火は諦めたかのように徐々に勢いを失っていく。

風もそれと共に消えゆこうとする。

徐々に……徐々に……徐々に……



「リフリカ!」


気付くと、俺はそう叫びながら夜闇に手を伸ばしていた。

月が輝き、星が煌めいている。

周りを見渡すと、家の裏庭だった。


これは、あの時の感覚だ。

俺が死ぬ直前にリフリカが現れた時に起きたトリップ現象。

ということは、リフリカが現れたのか!?


辺りをキョロキョロと見渡すが、誰も何もいない。


「なんなんだよリフリカ……」


思わず、その場に座り込み項垂れる。

これで、現れないならもう現れないんじゃないか。

それにトリップの中で見たあの火と風のイメージ……

もしかしたら、もうリフリカは……

やめよう。考えても詮無きことだ。

あいつはいつか必ず現れる。そう信じよう。


気持ちを一旦切り替える為、両手で顔をパシンッと叩く。


「よし!」


今回リフリカは現れなかったが、収穫はあった。

トリップ状態に陥った時に感じた胸に渦巻く感覚だ。

あれが思念を混ぜる感覚に違いない。


あれが再現出来れば、魔法でリフリカを呼び出せるかもしれない。


なので、忘れない内に感覚を思い出す。

あの時魔力以外の力はどこから来た?

思い出せ感覚を。

胸の中の渦のその先は……

身体の外側……そうだ!身体の外側十センチくらいを漂う何かだ!

それが、思念か!

なら、その力を感じ取れるようにイメージ。イメージ。


目を閉じて集中する。


そして、感じ取れた!ついに思念を!

後は、これを先ほどの胸の感覚を思い出しながら、魔力と練り合わせる。


すると、出来た!ついに出来た!

魔法を使うのに必要な()魔力(ラカ)の生成を。


ちゃんと()魔力(ラカ)が練れているか確認するために、光の精霊を呼び出してみることにする。

リフリカは慣れてきてからだ。


胸に下げている十字架を握り、精霊祭で現れた光の玉をイメージ、そして片手を前に突き出し言い放つ。


「来い!光の精霊よ!」


すると、精霊が現れる時特有の光が迸り、消えていく。

光の消えたところには、精霊召喚の儀で見た光の精霊が浮いていた。

たぶん、同じ奴だ……

光の玉の見分けなんかつかないしな。


でも、召喚することが出来た。

これで、()魔力(ラカ)が練れていることははっきりした。

ついに俺はやったんだ!魔法を会得した!


そう興奮していると、光の玉がフワフワと近づいてきた。


『へへへ、呼んだ?呼んだ?』


おー念話だ。久しぶりだな。

これって、普通の会話で返しても通じるのかな?


「うん、呼んだよ。ちょっと呼べるか気になってね。迷惑だった?」


『全然。へへへ。』


どうやら、通じるようだ。


「そっか、ありがとう。そういえば、名前とかあるの?」


『あるよ。あるよ。ピラルカ。へへへ』


「ピラルカか。俺はネロ。これからよろしくね」


『うん。よろしく。ネロ。へへへ。よろしく』


下級精霊のピラルカは中級精霊のルーナより言葉が拙いな。

力だけじゃなくて、知能にも差があるんだな。


「今日はもう何もないから、帰ってくれていいよ。呼び出しに答えてくれてありがとう」


『いいよ。いいよ。またね。へへへ』


そう言うと、下級精霊のピラルカは消えた。


その場に佇み、空を見上げる。

先程、リフリカの名を呼んだ時に見上げた空だ。


「いつか呼び出してやるからな。待ってろよ」


俺はそう呟き、星が輝く空へと無意識に手を伸ばしていた。

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