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望まぬ転生~異世界でみた景色~  作者: 初夏の草木
第一部 農村での暮らし
14/30

精霊祭 前編

森へ少し入ると、木の生えていないちょっとした空間があった。


アンネさんが「ここでやるぞ」と言い、木剣を構える。

それに、俺も続く。


周りを見ると、人の輪が出来ている。

殆どの人が見に来たのではなかろうか。

俺の醜態を。


そう思いつつも気を引き締める。

錬気を限界密度の三十パーセントで練り、身体強化。

片手で、木剣の感触を確かめアンネさんを見つめる。


アンネさんは、片手剣一本で戦う剣術スタイルだ。

盾を持たないのか?と聞いた事があるが、アンネさん曰く、取り回し辛くて邪魔とのこと。

非常にアンネさんらしい答えだが、それは俺も同意するところ。


アンネさんの剣を教わってから、その利便性に気付いた。

当然だが、片手剣は両手剣に比べて軽いので、早い剣戟を繰り出せる。

それを活かして、スピードと数で押すことができるのだ。

錬気の強度が強い俺には相性がいい。

要は、一発一発に力を籠めて手数でゴリ押しができる。

両手剣や盾を持っていてはこうはいかないだろう。


一方、アンネさんの片手剣の利用方法はまた違う。

俺よりも錬気の強度が劣るアンネさんは、錬気をほぼスピードに回し攻守を素早く切り替え戦う。

攻撃を避け、流し、受け、隙を見て切りつけ、突く。

どちらかというと、防御に重点を置いたスタイルだろうか。

俺とは、真逆の戦法だ。

長い間、研鑽された技術が伺える。

俺は、攻撃重視でまだ防御が甘いので、そこをつかれていつも負ける。


いつかは、アンネさんのような技術を身につけなければいけない。


今日もそうなるためへの一歩だ。

人がいようがいまいが関係ない。

見るなら見ればいい、俺の無様な姿を。



頬に汗が伝う。

その汗が地面に落ちるのを合図のようにして、俺は踏み込み飛び出す。


踏み込んだ地面が抉れ爆ぜる。


まずは、一太刀。

跳躍し袈裟懸けに切り込む。


それをアンネさんは、剣の腹で受け横へ流す。

いつかは、この後地面をぶったたき木剣をダメにしてしまったが、今は錬気を抑えているのでそんな事にはならない。

受け流された勢いを殺さず、身体を回転させ水平に切りつける。

それを、アンネさんは読んでいたように後方に下がってよける。

そして、即座に身体の開いている俺の胴目掛けて一撃。

よろけたところを、また一撃。

それを、木剣を振り払ってアンネさんを一度遠ざける。


再び木剣を構え成す。

間合いをゆっくりと詰めたところで、連撃を繰り出す。

アンネさんが防戦一方になるように、早く重く。

速度を活かし、縦横無尽に駆け抜け木剣を振るう。

しかし、入らない。

アンネさんは、その場から動かず全て防御している。

だが、やはり力負けしたのかその場から一歩動いた。

今だ!と思い跳躍して、大上段からの一撃を入れようとした時、アンネさんが薄く笑った。

しまった!誘われた!と思った瞬間には、鳩尾辺りに真一文字の斬撃を受け、俺は吹っ飛び地面を転がった。


くう、やっぱり防御が甘い。

前半それで二発ももらった。

戦闘での駆け引きも甘い。

誘われたのはそのせいだ。

まだまだだ。


反省していると、周囲が静かなのに気付いた。

皆、俺の情けない姿に呆れて帰ったのだろうかと思って周りを見ると、周囲の人が息をのんで固まっていた。

あっけに取られた顔の人もいる。


ただ、皆の心情を表すなら驚きの一言だろう。


アンネさんが皆に問いかける。


「どうだ?面白いだろう?」


それに、魔術師の女性が答えた。


「面白いというか、なんというか……異常です」


冒険者の男も続く。


「もしかしたら、俺より強いんじゃねーか坊主……」


そこから口々に感想が上り、場が騒然とし始めた。


クロネルは「あれは英雄になるうちの息子ですから!」とか言っている。

イザベルはそれを「主人の話は話十分の一ぐらいで聞いて下さい」とフォローしている。

孤児院の子達はマリエラを筆頭に「すごーい!かっこいいー!」だ。


アンネさんが俺に語り掛ける。


「ネロ。お前は真面目なのでよく反省をするがな、そればかりではいつかは自分で自分を追い詰める。たまには、現状の成果も素直に受け取っておけ」


アンネさんが人を呼んだのはそういう意図もあったのだろうか?

さすが、師匠。よく見ていてくれているんだな。


「はい、たまには天狗になってアンネさんのことアントワネットって呼んでもいいってことですね?」


そう言うと、アンネさんはキッと俺を睨みつけた。


「もし、そう呼んだら本物の鼻っ柱をへし折ってやる」


「すっすいません。調子に乗りました」


アンネさんはふっと笑うと、俺の頭に手を置き言った。


「お前はそれくらいガキでいればいいんだよ」


アンネさんは、俺に歳相応に振る舞って欲しくてそう言ったのかもしれないが、俺には「もっと自分を出していけ」と言われたような気がした。


あの後も稽古は続き、日が完全に沈んでお開きとなった。

みんな興奮した様子で俺に話しかけてきたが、俺は照れ臭く「いえいえ」とか「そんなそんな」という感じでそれに対応した。

アンネさんには、ああ言われたが、やっぱり俺はまだまだだと思うのだ。

それで、胸を張って「凄いでしょ!」みたいな事は言えない。


そうして時間は過ぎていき、馬車で就寝となった。

マリエラの「ふふっ教えてあげる」という寝言を聞いて微笑みながら、ユーミットへの旅の一日目が終わった。


-----


二日目以降も一日目と変わらず基本的に平和に進んで行った。


途中、何度か魔物が出たが、冒険者やアンネさんが危なげなく撃退した。

魔物は、ホーンディア―の他に、紫の斑点がある猪みたいなものや、尻尾が二本ある狼、そして定番のゴブリンなどが出た。

ゴブリンは醜悪な上見るからに不衛生で、あんなものに侵される女の人がいると聞いて、さすがに鳥肌が立った。


夜の鍛錬も変わらず行われ、皆が観戦するのが定番になった。

その中で、冒険者の剣士とも戦った。

アンネさんが、他の奴と戦うのも良い経験と言って依頼したのだ。

相手は、ホーンディアと戦った時に真っ先に突っ込み、紙一重で角を躱したあの冒険者だ。

ランクはC級。

アンネさんが元B級なのでアンネさんよりは格下だ。


錬気は変わらず三十パーセントで挑み、結果は俺の勝ちだった。

と言っても楽勝ではなかった。

ホーンディアの角を躱したように、俺の剣もことごとく避けられ反撃された。

しかし、アンネさんの速さに慣れている俺からしたら、防御は難しくなく全て防いだ。

どちらの攻撃も当たらないまま、時間が経過し相手の錬気が減り動きの鈍くなったところをついて、何とか勝てたという感じだ。


C級の冒険者は血涙が出るんじゃないかと思うほど悔しがり、「俺、引退しようかな」とまで言っていた。

周りの冒険者仲間が、「アレは子供の形をした何かだから気にする必要はない」とか失礼な事を言って必死に慰め、何とか立ち直っていた。


確かに中身は二十七歳だから、あながち間違ってないんだけどね。

でも、失礼だよ。ちみたち。


と心の中で反論しておいた。

陰口を言われても傷付かなくなったとは、俺も成長したものだとしみじみ思った。


そんなイベントもありつつ旅は進み、俺達はついに目的の街ユーミットへと辿り着いた。


-----


到着したのは精霊祭の前日だった。

ユーミットは高さが二十メートルはあろうかという外壁に囲まれた大きな町だった。

街へ入る検問を受けるために、精霊祭に訪れた人達がつくる長蛇の列に加わり、進むのを待った。

そして、やっと検問を通過し街の中に入れたのは、日が沈む頃だった。

厩舎に馬車を預け、宿を探すこととなる。


街の中を歩きながら、俺は興奮していた。


まず、夜だというのに街に活気がある。


精霊祭の前日という事で、屋台などが出ており、肉の焼ける匂いや、香ばしい臭い、甘い臭いなど、祭り特有の匂いが辺りに充満している。


また、多くの人が行き交い、酔っぱらっている人が大声で騒いだり、街の片隅で吟遊詩人のような人がいたりと騒がしい。

騒がしいが、それがいいのだ。

村の静かで虫の声が聞こえる夜も良いが、やはり人で賑わっている夜も捨てがたい。


そして、何より。何よりだ。

この世界に来て初めて見ました!異人種!

ケモ耳のついた獣人に、耳の尖ったエルフ、小さなホビット、髭を蓄えたドワーフ!


凄い!ファンタジーしてる!

獣人の耳や尻尾をモフモフしたい!エルフの耳を舐めたい!ホビットの小さな身体を犯したい!ドワーフは……いいや。

強いて言えば、その髭を全剃りしてあげたい。


そんな風に興奮していると、頭に角らしきものが生えた人種がいた。


あれは、もしかして魔族か?

この世界では、魔族と人間は争っていないのだろうか?

気になったので、横を歩いているクロネルに聞いてみる。


「父さん、あそこにいる角の生えた人ってもしかして魔族?」


クロネルが俺の指差した方を見る。


「あーそうだ。よく知ってたな」


「本で読んだんだ」


サラッと嘘を吐き、再度嘘を重ねる。


「その本には、魔族と人間は争ってるって書いていたんだけど、今は違うの?」


「なんだ?歴史書でも読んだのか?争っていたのは約千年前だ。」


「そんな昔の話なんだね。読んだ本が昔話の絵本だったのかな?」


シレっととぼける俺。


「かもしれんな。おっそうだ、ゆくゆく英雄になるネロには教えとかなきゃな。争っていたのは千年前だが、その後四百年ぐらいは、魔族は人間の奴隷のように扱われていたらしい。その時の名残で、今でも気位の高い奴は魔族を軽視することがあるから気をつけろよ」


俺魔族じゃないんだけど……えっまさか!違うよね!?


「父さん……僕って魔族なの?」


「そういえば、話していなかったか……ネロは魔族じゃない。ほとんど人間だ」


ほとんど!?何それ!?どういう事!?ファッツ!?


「父さん、じゃあ少しは魔族ってこと?」


「まー、ほーんの少しだけ魔族の血が入っているってだけだ。父さんだってそうだ。ほら、目が赤いだろ。本当にむかーし昔、目が赤いのは悪魔の特徴だったんだ。そして、その悪魔と人間の間に出来たのが魔族。さらに、魔族と人間の間に出来たのが俺達のような赤い目を持つ人間だ。その後に何世代も経て、今に至るってわけだ」


なんですとー?

転生したてに考えた近親相姦上等モラルハザードの結果ではなかったのか。

それは良かったけど、なんか悪魔の血が入ってるとか言われるとちょっと嫌だな。


そう思っていると、考えを悟られたのかクロネルが背中を叩いてきた。


「大丈夫だ!今じゃ普通の人間となんら変わらない。だが、さっき言ったようにネロが有名になって、いろんな奴と関わる時は気をつけろよ!」


そんな時は来ないと思うが……

だが、親の夢を潰さない為に俺は「分かった」と頷いておいた。



その後、宿に着くと旅の疲れを取るためにすぐに就寝することになった。

俺は、宿の薄いベッドに寝転がりながら、いよいよ明日が精霊祭だと胸を高鳴らせて眠りについた。


-----


朝起きて身支度を済ませ時計のある広場へと向かう。

トルネ村から来た全員が泊まれる宿は無いので、別々に泊まりそこで待ち合わせすることになっているのだ。


昨日は暗くてよく見えなかったが、中世風の家が連なっている様は、ヨーロッパのそれを思わせ、街並みを見ているだけでテンションが上がった。

広場に着くともう何人か集まっていて、しばらくすると全員が集まった。

精霊を召喚する儀式は、二時頃に行われるので、それまでは街を観光だ。


屋台などが出ている方面へと、ツアー客のように皆で進む。

そして、暫くすると屋台が見えてきた。

それと共に、良い匂いが鼻をつく。


ぐ~と腹が鳴った。

そういえば、朝ご飯を食べていなかった。


クロネルが「ほら朝飯を選べ!」と言って、屋台の連なる路地を示す。

それに、「わー!」と子供たちが走り出した。

俺もワクワクしてそれに続いてしまった。

大人たちが「あんまり離れちゃ駄目よ!」と後ろで言っている。


その言葉に従って、比較的近くの屋台を覗いていく。


スープや、焼串、サンドイッチ、何かの揚げ物、何かの香草焼き、何かの煮つけ、何か何か何か……

ともかく、異世界のよく分からない食材がいっぱいだ。

無難にサンドイッチを選び、クロネルにお願いする。

クロネルが店のおばさんにお金を渡し、商品を受け取り俺に手渡した。


サンドイッチはローストビーフのような肉と、半熟の卵、野菜が挟まれていた。

それを、一口。

上手い!

肉はあっさりしていてしつこくなく、シャキシャキの野菜が食感を楽しませ、それに半熟の卵と甘いソースが絡まり絶妙なバランスを生み出していた。

朝から当たりを引いたと気分が良くなった。


ノインは、不味い肉を引いたらしくげんなりしていた。

それを見てエドナが呆れ、マリエラがケラケラと笑っていた。


その後も、皆で屋台を見て回った後、大道芸を見たり、吟遊詩人の歌を聴いたりして過ごした。

気付くと、イザベルがいつの間にかいなくなっており心配したが、直ぐに合流できた。

本人曰く少し浮かれて、はぐれてしまったらしい。

イザベルはあれでいて、はしゃぐところがあるからな。

俺へのサプライズで見せた態度がそのいい例だ。


そして、お昼になりまた屋台を巡る。

大人数なので、普通の店では食事が出来ないのだ。

今回は、朝と違いガッツリ目の焼串を何本か買ってもらった。

これも、普通に美味しかった。

ノインは期待を裏切らず外れを引き、げっそりしていた。

またも、エドナが呆れマリエラはケラケラ笑っていた。


お腹もくちくなり一休憩していると、ドーン!という音と共に花火が一発上がった。


イザベルがそれを見て「そろそろね」と呟くと、俺に向かって言った。


「ネロそろそろ教会へ向かうわよ!精霊召喚の儀が始まるわ!」


ついに来たかと思った。


一行はその後すぐに一路教会を目指した。

辿りついた教会は、村の教会の四倍はあるんじゃないかと思うほど大きく、荘厳で、繊細な造りをしていた。

窓にはステンドグラスが張られキラキラと光を反射して煌めいている。


そして、教会の前の広場には千人はいるんじゃないかという人だかりが出来ていた。


マリエラちゃん、こりゃ確かにいっぱいだわ。

その表現で正解だったよ。

父母や付き添いの人がいるはずだから、精霊召喚の儀に参加するのは三百人ぐらいだろうか?

それで、マリエラの時はたった七人しか精霊を召喚出来なかったとなると、百人に二人程度しか精霊を召喚出来ないことになる。

ほんと、ノインが不憫になる数字だ。


だが、俺は確信していた。

この精霊召喚の儀で俺は召喚するだろう。

奴を。そう奴だ。

妖精謎物体、生意気紫パンツ、万年クリスマスカラー。

呼び方はいろいろあるが、その名をリフリカ。

あいつがついに現れる。

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