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望まぬ転生~異世界でみた景色~  作者: 千秋の果実
第一部 農村での暮らし
13/30

いざユーミットへ

いつの間にか三歳になっていた。

そういつの間にか。

気付いたら誕生日を過ぎていたのだ。

俺の誕生日は夏で、今はもう秋だ。

この世界では誕生日を祝う習慣がないらしい。

一歳の時も二歳の時も無かった。

いいよ。別にいいんだよ。

この歳にもなって誕生日を祝ってもらいたなんて思ってないさ。

思ってないとも。


ただね。


クロネルに「おーそういえば、今日ネロ三歳になったな」とか言われたり、イザベルに「もう三歳なのね」とか言われるじゃない?

そうすると、その後は!?ってなるわけよ。

「おめでとう!」って来るんじゃないの!?って。

祝う習慣が無くても、それくらいあってもいいんじゃないのって思っちゃわない!?


悲しいよ。

異世界悲しい。


そんな風にグチグチ思っていたのだが、どうもそうではなかったらしいことを、後日知ることとなる。


-----


いつものように、畑での鍛錬を終えクロネルと帰路に就き、家の扉を開けるとイザベルがパチパチと手を叩きながら立っていた。


「ネロ!三歳おめでとう!」


後ろを振り返るとクロネルも、ドヤ顔でパンパンと手を叩き「おめでとう!」と言っていた。


なんだ、祝う習慣あるんじゃん。


その後、夕食に着くとその日のメニューは豪勢だった。


いつもは、サラダにスープ、固い黒パンに焼き魚などの質素なものなのに、今日はテーブルの真ん中にデカデカと肉の塊が乗り、魚のムニエルや豆を煮込んだもの、そして白いパンが置いてあった。


クロネルが席に着きながら言う。


「今日はネロが三歳になったお祝いだ!たんと食えよ!」


「そうよ、いっぱい食べなさい」


俺は、それに「うん!」と頷き、夕食に手をつけた。


まずは、真ん中に乗せられた肉をとりわける。

たまに、夕食に肉があがることはあったが、小さな一欠片ほどの肉片だった。

こんな大きな肉を食べるのは、異世界に来て初めてなので真っ先に手を出したのだ。


そして、一口。


上手い!ワイルドな味だが、ピリッとした香辛料が効いていて、噛めば口の中に肉汁が溢れる。


この世界に来て一番上手いものを食べた気がする。


肉の後は、魚のムニエル。


いつもの焼き魚と違い、しっかりと味付けされている。

少し酸味が効いていて、これも上手い!


次は、豆を煮込んだもの。

甘辛く仕上がっており、ほろりと崩れる豆の感触とよく合う。


そして、最後に白パン。

前世ではよく食べたものだ。

だが、この世界に来て初めて食べる。


はむっと一口。

やわらかい……

黒いパンに慣れつつあったので、前世を思い出して泣きそうになった。


「何?ネロ泣いてるの?そんなに美味しい?」


イザベルがからかうように言ってきた。


「うん!凄くおいしい!でも、どうして今日にお誕生日を祝うの?」


それに、クロネルが答えた。


「それは、【精霊の祭日】がもうすぐだからだ。三歳、五歳、七歳になる年の【精霊の祭日】に、子供の成長を喜んで、これからも元気に育つようにって神様に祈願してお祝いをするんだ」


七五三みたいだな。

誕生した日を祝うんじゃなくて、【精霊の祭日】に一斉に祝うのがこの世界の文化なのか。

でも、【精霊の祭日】がもうすぐってことは今日じゃないよな?

その日にちの誤差はいいのか?


「今日は【精霊の祭日】じゃないのに祝っていいの?」


「大丈夫よ。それに、当日は祝っている暇なんてないしね」


そんなに、忙しいのか?

でも、村でそんな祭り見たことないぞ。


「村でそんな祭りやってたっけ?」


イザベルは、「ふふん」と鼻を鳴らした。


「やってないわ。だから、行くのよ!精霊祭の行われるユーミットに!」


笑顔で拳を突き上げ、意気揚々のご様子のイザベル。


イザベルが隠したがっていたのは、これだったのか。

つまり、お祝いとお出かけをサプライズしたかったわけだ。


それにしても、村から出るのは今回が初めてだ。

外の世界はどうなっているのだろう。

やはり、ファンタジーしているのだろうか?

楽しみだ。


そんなわけで俺は、イザベルに合わせて「おー!」と拳を突き上げ、初めてのお出かけに期待に胸を膨らませた。


-----


ユーミットへ向かうのは、まさかの翌日だった。

そこまでサプライズしなくてもと思いつつ、旅の荷物を纏めて次の日の早朝。


村の入り口に行くと二頭引きの馬車が二台止まっていた。

周りには、何人か人の姿がある。


誰だろうと見ると、見知った顔がいくつかあった。

その内の一人、マリエラが駆け寄って来た。


「ネロ!おはよう!ネロも精霊祭行くんでしょ!馬車の中で一緒にお話しようね!」


マリエラは今年で確か五歳。

だから、精霊祭の事を知っていたし今年も行くのだろう。


「おはよう、マリエラ。うん、お話しようね!」


マリエラは「やった!」と言って、嬉しそうだ。

いつ見てもこの子は元気だ。


すると、次はアンネさんがやって来た。


「ネロ。今回は雇った冒険者と一緒に、護衛として私も付いて行くことになった。よろしくな」


そういえば、アンネさんは元冒険者だもんな。

馬車の方を見ると、四人程冒険者風の人達が居た。


「はい、こちらこそよろしくお願いします!」


素早く、そして深く頭を下げる。

訓練でボコボコにされているので、こういう反応が染みつてしまった。


「ちなみに、ユーミットまでは馬車で五日の旅だ。そんな長い期間訓練をサボっては、身体が鈍る。道中はいつもと同じように訓練するから覚悟しとけ」


そういって獰猛に笑った。

弟子入りしてから分かったが、本人は普通に笑っているつもりらしい。


「はい!よろしくお願いします!」


再度深く頭を下げる。


そんなやり取りの後、馬車へ着くと見知った顔の最後のメンツである孤児院のノインとエドナが居た。

この二人は確か、今年で七歳だからな。


「おはよう。ノイン、エドナ。今日からよろしくね」


「おはよう、ネロ。私こそ、よろしくね!」


エドナは返事をしてくれたが、ノインのそれが無い。


見ると、ノインはぶるぶる震えながら何か呟いている。


「俺、今年で最後なんだよ。今年でダメだったら精霊と契約出来ない。出来ないんだよ……」


すると、エドナが肩を落としながら言った。


「は~昨日からずっとこうなのよ。別に契約できなくてもいいのにね」


「契約できなくて言い訳ないだろ!俺の夢は、世界一の精霊魔法使いになることなんだから!」


「はいはい、今年こそは大丈夫よ。頑張りなさい」


エドナが適当にノインを流した頃合いを見計らったように、イザベルが声を掛けてきた。


「そろそろ、皆馬車に乗ってね。出発するわよ」


そして、皆で馬車に乗り、いざユーミットへ向けて出発と相成った。


-----


俺の住むトルネ村は、ここドナント王国の南に位置するド田舎だ。

もう少し、南へ南下するとスコットさんが昔いた聖王国となるので、かなり国境沿いにある。

今回向かうユーミットは、そんなトルネ村から北西へ行ったところにある。


と、さも知っていたように語ってみたが、これは馬車に揺られながらクロネルに聞いたことだ。

クロネルも村の外に出るのは久しぶりらしく、饒舌に語ってくれた。


クロネルと話していると、マリエラが袖を引っ張ってきた。

見ると、頬を膨らましむくれていた。


そういえば、お話するって言ったんだった。


「ごめんごめん、マリエラ。お話しよ」


「むぅ~」


明らかにご機嫌斜めだ。

だが、上目遣いが可愛い。

食べてしまいたい。

いやいや、そうじゃなくて。どうするかを考えろ。

こういう時は、必殺「おねーさんが教えてあげる」を引き出そう。


「マリエラ、教えて欲しいことがあるんだけど、いい?」


すると、マリエラは目をパチパチっとさせた後、居住まいを正した。


「どっどんなこと?ネロ」


「さっき、ノインが精霊と契約とか言ってたけど、どうゆうことなの?」


すると、マリエラはニパーッと笑いそうになったのを、無理やり真顔に戻し言った。

機嫌が直ったのを悟られたくないらしい。


「こ、こほん。じゃあ、仕方ない。おねーさんが教えてあげる」


冷静な「おねーさんが教えてあげる」頂きました。


「精霊祭の最中にね、教会に皆集まるの。そこでね、精霊と契約できるの」


「どうやって、精霊と契約するの?」


「剣とか玉とか鏡を触って、精霊さん来て下さいってお願いしながらおまじないを唱えるの」


うーん?剣、玉、鏡って三種の神器か?それを、持っておまじない?

媒介を持って、召喚するってことかな?

ノインのさっきの反応を見ると、それで召喚できない子もいるみたいだな。

大体、どれくらいの子が成功するんだろう?


「マリエラがこの前行った精霊祭では、何人ぐらいが精霊と契約出来たの?」


「うーん、七人ぐらいかなー?」


「ちなみに、どのくらいの子供が参加してたの?」


ここ大事。

何パーセントが精霊と契約出来るのかが分からないと、簡単なのか難しいのか分からない。


「うーん、分かんないけどいっぱい!」


「そっそっかーいっぱいかー!」


大事なところが分からないのが、マリエラのいいところだ。

ともかく、いっぱいということは十人、二十人とかではないだろう。

少なくとも五十人はいると考えて、約七パーセント。

狭き門だな。南無ノイン。


俺は、静かに手を合わせた。


その後、マリエラはすっかり機嫌を直し、いつも通り元気に話をしてくれた。


-----


森を切り開いた街道を進む。

ひたすら進む。

馬車から見る景色は変わらない。

左右を見れば森、前後を見れば土の道。


正直、少し飽きてきた。


そんな時、冒険者の一人が声を上げた。


「魔物だ!」


見ると、鹿のような鹿がいた。

……鹿じゃん!


あれ魔物じゃなくね?と思っていると、鹿の二本の角がどんどん大きくなり二メートルくらいになった。


そして、その巨大な角をこちらに向け、突進してくる。


ごめん!あれ魔物です!どうにかしてください冒険者さん!と情けなく心の中で喘いでいると、剣士らしき男性の冒険者が、鹿へ突っ込み角を紙一重で躱すと、すれ違いざまに足を切りつけた。


鹿は、体勢を崩し突進していた勢いのままこちらに転がるように突っ込んでくる。


すると、盾を持った冒険者が、その前へと立ちはだかり地面を足で削りながら、その勢いを殺した。

その後、すぐにその冒険者はその場から退く。


この後どうするのか?と見ていると、何か聞こえてきた。


「―・―・―切り裂く刃となれ!ウインドカッター!」


途端、鹿がかまいたちのような風に切り刻まれ、力尽きて動かなくなった。


声の発生源を見ると、杖を持った魔法使いらしき女性がいた。


冒険者の働きにも驚いたが、女性の唱えた文言が俺の中では一番気になった。


この世界って詠唱あるの!?


-----


あの後、魔物も出ず平和に一行は進みお昼時になった。

先程現れた鹿、もといホーンディア―は、皆が持ち寄った食材や森で取った木の実や草と共に、俺たちの腹の中に収まった。

ホーンディア―は普通に美味しかった。


そして、お昼を終えて一休みしている際に、意を決して先ほどの魔法使いの女性に声を掛けてみた。


「すみません。ちょっとお話させてもらってもいいですか?」


そう言うと、魔法使いの女性は驚いた様子で答えた。


「え……ええ、いいですよ。それにしても、しっかりしてますね……」


真面目そうな女性だ。

俺みたいな小さな子にも敬語だし。


「両親の教育が良いもので」


「そ、そうですか。で、何か私に聞きたいことでもあるんですか?」


「はい、あの……先ほど魔法を使う前に唱えてらっしゃったのは詠唱ですか?」


すると、女性は納得したような顔で頷いた。


「そうですよ。正確には、あれは魔法ではありません。魔術という魔法を科学した技術です」


「魔法を科学?」


その後、女性は懇切丁寧に魔術について教えてくれた。


まず、魔法は思念と魔力を練って発動する。

しかし、魔力を練るのは比較的簡単なのだが、思念を練れない人は結構多い。

なので、昔の人は考えたそうだ。

思念の代わりになるものを使って、どうにか魔法を使うことは出来ないかと。

そこで、最初は記号や文字で思念の構造を再現できないかと考えた。

研究は進み、ついに思念の再現に成功した。

それが、魔法陣と呼ばれるものである。


研究は進み次の代用品に考えられたのが心に作用する言葉である。

思念は精神体から発するエネルギーであり、心と密接に結びつている。

なので、言葉を使えば思念のような作用を引き起こせるのではと考え研究が始まった。

研究は進み、特定の言葉の配列で自動的に魔力と思念を練り、魔法と同じ効果を引き起こす事が可能になった。

その言葉の配列が詠唱であり、引き起こされる事象が魔術らしい。


実は、魔道具やこれから行う予定の精霊召喚も魔術の副産物らしい。

魔道具は、思念の代わりに魔法陣を刻印し、魔力だけで動くようにしたもの。

精霊召喚は、無属性の召喚魔法を、詠唱を用いて可能としたものだそうだ。


ただ、魔術は完全に魔法を再現出来ているわけではないらしい。

例えば、火の玉を飛ばすとする。

魔法であれば、思念を含んでいるので飛んでいる途中に軌道を変えることが可能だが、魔術では固定化された思念で発動しているので、軌道を変えることは出来ない。

今も研究はされているが、現状魔術は魔法が持つ応用性を再現できていないそうだ。


しかし、今日の魔物討伐でも見たように、後衛として十分戦力になるので、冒険者になったり、凄い人になると国に仕えたりする。

なので、魔法が使えないから魔術に逃げているというような酷い見方はされず、むしろ憧れの対象になったりするのが魔術師というものらしい。



不思議な力にもいろいろあるなーという感想と共に、魔法が使えなければ、魔術を学ぶのもいいかもしれないと思いながら、魔術師の女性にお礼を言って、その場を離れた。


-----


昼以降も順調に進み、もうそろそろ夕方になるかという頃合いになった。


少し開けた道の端に馬車を寄せ、そこで今夜は野宿するということだ。

夕食を昼同様、森の恵みを頂戴し頂く。

夜はホーンディア―の代わりに、アンネさんが野ウサギを狩って来たので、それをメインにした料理だった。


夕食後、アンネさんが声を掛けてきた。


「ネロ、鍛錬するぞ。暗くなるまであまり時間がないので、今日はいきなり乱取り稽古だ」


そう言うと、アンネさんは俺用に作られた小さな木剣を放ってよこした。


それを、見ていたマリエラが声を上げた。


「あー!ネロ!今から剣のお稽古するの?」


それを聞いた周りの人達や冒険者が俺に注目する。


やめて、もしかしてこれ皆見るとか言い出すんじゃないの?

ダメだよ。ボコボコにされるだけなんだから。


すると、アンネさんが面白そうにマリエラに返事した。


「あーそうだ!マリエラも来るか?」


「行く!ねえ、皆も行こう!」


ノインやエドナ、付き添いのシスターなどを誘っている。


そこに、冒険者の声が混じる。


「あんな小さい子が剣の稽古か。おもしろそうだな」


さっきの魔術師の女性がそれに乗っかる。


「あの子あれでいて凄く賢いんですよ。剣術もどれほど出来るか興味ありますね」


そうして、ざわざわとし始めた場にアンネさんの声が響く。


「興味ある奴は全員来い!面白いものを見せてやる!」


こうして、俺の公開処刑が幕を開けることとなった。

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