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望まぬ転生~異世界でみた景色~  作者: 千秋の果実
第一部 農村での暮らし
11/30

孤児院

今日も複数投稿します。

よろしくお願いします。

いつものように治療院で暇して、スージーさんとお喋りしていると、イザベルが荷物を纏めて自宅訪問治療へ向かおうとしていた。


自宅訪問治療とは、スコットさんが取り入れたもので、お年寄りなどの持病を持った人の元へ定期的に訪れて、病状を聞き治療したり、薬を置いていったりする活動の事だ。


イザベルはこの時間帯、いつもどこかに行っている。

今更ながら何処に行っているのか気になり、イザベルに問いかけた。


「母さん、いつも何処に行ってるの?」


「うん?孤児院よ」


孤児院か。俺と同い年の子供とかいるのかな。

二十六歳の。


「孤児院って、僕と同い年の子供とかもいるの?」


「ネロと同い年の子はいないかなあ……」


そう言って少し考えこんだ後、イザベルは「あっ」と言って手を叩いた。


「ネロ。一緒に行こうか?」


「え?いいの?」


「ええ、同い年の子供はいないけど、歳の近い子はいるもの。お友達になれるかもしれないわ」


イザベルは、それが言いたかったんでしょ?と言いたそうな顔で俺を見てきた。


違うんだけどなあ……ただの興味で聞いただけなのに。

でも、まあいいか。孤児院には行ってみたいし。

なので、俺は天使のスマイルで言う。


「ありがとう母さん!お友達出来るといいな!」


汚れっちまった二歳児だよ俺は。


-----


孤児院は教会の横に併設されていた。

教会は屋根に大きな十字架のあるTHE・教会といった感じで、大きさは生前の体育館の半分くらいだろうか。

その横の孤児院は、教会より一回り小さいぐらいの大きさでログハウスのような木造造りだった。


教会の入り口をイザベルがノックする。

すると、中からシスターが顔を覗かせた。


「これはイザベルさん。いつもありがとうございます。あら?その子は?」


シスターが俺を見て首を傾げる。


「私の息子のネロです。同い年の子供がいなくて、出来れば孤児院の子供達にお友達になってもらいたいんです。私が来る時だけで良いので、一緒に遊ばせてあげてくれませんか?」


「ああ、なるほど。いいですよ。孤児院の子供達も喜ぶと思います」


「ありがとうございます」


その後、イザベルは目的の患者である子供が寝ている所へ。

俺は、孤児院の子供部屋に連れていかれた。


子供部屋には、五人の子供が居た。

男の子二人、女の子三人だ。


シスターが俺を紹介する。


「みんなー!今日からたまに遊びに来る事になった、イザベルさんの子供のネロ君です。皆、仲良くしてあげてね!」


途端、俺は子供たちに取り囲まれた。


「イザベルさんの子供!?」

「ちっちゃーい!」

「何歳だ?」

「お話しよ!」

「あっちで、遊ぼうぜ」


等々、いろいろ言われた。

年甲斐もなくあたふたしてしまう。


いかんいかん。俺は最年長だぞ。しっかりせねば。

子供相手に怖いとかもないしな。


「どうも初めまして。イザベルの息子のネロと言います。皆さんよろしくお願いします」


子供たちが、無言になった。

しまった。違和感があったか。

ここは、子供のフリをするのが正解だった。


「実はホビットか?」


茶髪の活発そうな男の子が言った。


「いや、でもイザベルさんは人間だぞ」


それに、青い髪をした男の子が答える。


「でも、こんな小さな子がおかしいだろ?」


「人間でも小さい奴はいるだろ?」


二人が言い合いを始めたのをスルーして、金髪をボブカットにした女の子が近づいて来た。


「いくつ?」


疑問をはらんだ目で純粋に問いかけられた。


「二歳です」


すると、少女は嬉しそうに笑いながら俺の手を取った。


「私は四歳!やったー!私がおねーさんだ!よろしくネロ!いろいろ教えてあげるね!」


【おねーさん】【いろいろ教えてあげる】この文言だけ聞くと、卑猥な事しか思い浮かばない。

ダメだ!四歳の言葉で何を考えているのだ俺は!自重しろ!


「ありがとうございます。あの、名前はなんと言うんですか?」


「私はマリエラ!」


そこに、紫の髪を三つ編みにした女の子が口を挟んだ。


「ネロ、その敬語やめてよ。なんか気を遣っちゃう」


それもそうだ。同じ子供同士だしタメ口の方が良いだろう。


「わかった、止めるよ。君の名前は?」


「私は、リズ。十一歳よ」


すると、さっき言い合いしていた男の子二人がピタリと言い合いを止め、自己紹介をしてきた。


俺をホビット呼ばわりした茶髪の子が、ドット。

それに待ったをかけていた青髪の子が、ノイン。


それから、自己紹介が続き五人全員の名前が分かった。


年上順から


リズ(十一歳)、ドット(九歳)、ノイン(六歳)、エドナ(六歳)、マリエラ(四歳)だ。

孤児院ではマリエラが一番年下なので、俺が自分より年下だったのが嬉しくて、さっきはあんなにはしゃいだのだろう。



その後、孤児院の裏手にある庭に出て皆で遊ぶことになった。

暫くは追いかけっこなどをして遊んでいたのだが、飽きてきたのかドットが庭にある十メートルはあろうかという大きな木を登りだした。


「どうだネロ!凄いだろ!なあリズ!お前もそう思うだろう?」


木のてっぺん辺りに腰かけて、自信満々な顔で叫んでいる。

俺は一応「凄いねー」と返しておいた。

それに対して、もう一人水を向けられたリズは「はあ……」とため息一つ大声で言い返した。


「ドット!前そこから落ちて骨折したの忘れたの!?また落ちて怪我したらダメだから早く降りてきて!」


「大丈夫だって!今日はイザベルさんも来てるし!」


「そういう問題じゃないでしょ!」


俺は、二つの事に気付いた。


一つは、ドットがリズのことを好きな事。

二つ目は、ドットが木から落ちる未来だ。


そして、俺の未来予想は的中した。


「ドット!」とリズが叫んだ。

見るとドットが木から落ちてくるところだった。


女の子達がキャー!と悲鳴を上げる。


俺は、ドットが言うようにイザベルも居るしなと高を括り、自業自得だろと少し冷めた目で見ていた。



次の瞬間、ドットの身体が木の枝に貫かれるまでは……


辺りに先ほどよりも大きな悲鳴が響いた。

子供達は涙目になり狼狽えている。


ドットは木の中腹辺りで、枝に干した布団のようにうつ伏せで垂れ下がっている。

身体を貫いているのは、上向きに分岐して途中で折れて先端が尖った枝のようだ。

大量の血液が滴り落ち、地面に水たまりを作る。


俺は、瞬時に錬気を練って身体強化する。

同時にリズに向けて叫んだ。


「リズ!母さんを呼んできてくれ!あと、子供達を孤児院の中へ!」


「ネロはどうするの!?一緒に孤児院に入らないと!」


「俺は、ドットを木から降ろす!」


「そんな、無理よ!そんな小さな体で出来るわけないわ!」


「いいから早く行け!」


時間がない。

俺は大声で怒鳴って駆け出した。


そして、ドットが引っ掛かっている太い枝まで、一気に跳躍する。

枝に乗って確認すると、ドットは枝に腹部を貫かれていた。


こういう場合、出血がひどくなるので、貫いている枝は抜いてはいけない。


かなり荒っぽくなるが、仕方ない。


俺は、ドットと自分が乗っている太い枝に少し力を込めて殴る。

枝がユッサユッサと揺れる。

次はもう少し強く殴る。

枝が大きく揺れる。

そして、もう一発先ほどより少し強く殴ると、メキメキッと音を立て枝が折れ始める。

すぐさま一度横の枝へ飛び、その枝を足場にして折れて落下し始めた太い枝目掛けて飛ぶ。

落下する枝を、横から両手で抱え込むように持ち、すぐさま下にあった枝を蹴って弧を描きながら地面を目指す。

地面が目前に迫り、両足を着くと、ズザザーッと数メートル滑っていく。

それを、足を踏ん張り耐え、スピードを殺し無事着地出来た後、ドットを乗せた枝をゆっくりと降ろした。


かなり手荒に扱ったので、ドットの状態が気になって見てみると、出血量が少し増えていた。


当然か。

それでも、枝から引き抜くよりは出血量は少ないだろう。

後は、イザベルに来てもらって治癒魔法をかけてもらうのだが、ドットの傷は明らかに内臓に損傷がある。

イザベルは治せるだろうか?

もし、そうでない場合は……


悩んでいると、背後から声が聞こえた。


「なっなに?今の?ネロは一体何なの?」


リズが驚愕に満ちた顔で俺を指差していた。

周りを見ると、子供達もまだいる。

瞬間、頭に血が上った。


「お前何してんだ!早く母さんを連れて来い!子供達も早く孤児院の中へ入れ!」


「「「「はっはい!」」」」


子供達が一目散に駆け出した。

いかんいかん冷静になれ。

子供相手に切れてどうする。

子供達もショックで動けなかったんだろう。

後で、謝らないと。


「ネロ……」


声が聞こえた方を見ると、マリエラが一人まだそこに居た。


「マリエラ。君も早く中に入るんだ」


先程と違い冷静な声で促すと、マリエラは「う、うん」と言って孤児院へと駆けていった。


俺はそれを見届けて思案する。


しかし、どうする?

イザベルが内臓損傷を治せるレベルならいいが、そうでない場合の事を考えないと。

スコットさんを呼んで、前世のような外科的治療を頼んでみるか?

いや、今からスコットさんを呼びに行ったのではドットの出血量からして間に合わないだろう。

なら、今ここで治癒魔法で治すしかない。


治癒魔法はイメージが大事だ。

俺は、治療院で暇しながら治癒魔法の原理について、いろいろと考えていた。

それを、イザベルに伝えるか?

だが、俺が有力だと思うものは前世の知識が無いと到底理解できない。

なら、まだ理解できそうなもの……

前世でよく治癒魔法の原理として挙げられていた細胞活性化説を教えるか?

ただ、実験も何も行っていないただの仮説でしかない。

それを、伝えて上手くいくかどうか……


などと思考していると、イザベルがこちらへと駆け寄って来た。


「ネロ!話は聞いたわ。ドット君を降ろしてくれたのね。ありがとう。後は母さんが何とかするから、ネロも孤児院の中に入ってなさい」


「母さん、その前に一ついい?母さんは内臓損傷を治すことは出来るの?」


「残念ながら……出来ないわ。でも、やってみるしかないわ」


それは、賭けだろう。

同じ賭けなら、負けた時に傷つくのは俺でいい。


「なら、母さん。僕も手伝うよ」


「何言ってるの?ネロは魔法が使えないでしょう?」


「治癒魔法はイメージが大事だよね。だから、そのイメージの手助けをしたいんだ。時間がない。スコットさんから教えてもらった治癒魔法の新しいイメージを伝えるね」


今から言うイメージはスコットさん考案の物にしておいた。

そちらの方が違和感はないだろう。

後で、口裏を合わせておかないと。


「ちょっ!ちょっとネロ、そんな話聞いたこともないわよ!」


「母さん僕を信じて」


真っ直ぐな目でイザベルを見つめる。

数秒の沈黙の後、イザベルもこちらを真っ直ぐ見つめ口を開いた。


「母さんは、いつでもネロの事を信じているわ。教えて、その新しいイメージを」


それを受け、俺は細胞分裂の概念を語り出す。


「母さん、まず身体っていうのは目に見えない小さな小さな粒々で出来ているんだ」


「粒々?」


「そう、粒々。砂をイメージすればいいかもしれない。砂は小さな小さな石が集まって出来た物でしょ?身体もそれと同じなんだ」


「砂……」


「そして、その粒々には中に種みたいなのが入ってる。その種は、二つに分裂するんだ」


「果物の中の種が二つに割れるみたいなイメージでいいのかしら?」


「そう、そんな感じ。割れた種は、実の中でそれぞれ反対に移動して端による。種は半分に割れちゃってるから不安で、自分の周りを実で囲もうとするんだ。それが、一つの実の中で起こるとどうなると思う?」


イザベルは額に手を当てて考えた。


「う~ん、種はそれぞれ端に寄ってて、それが自分の周りを実で囲もうとすると……二つに分かれる?」


「そう!そして二つに分かれた実はそれぞれ大きくなって、また同じことを繰り返す。最初に言ったように、実は身体を作っているものだから、このイメージをすれば患部が新しい実で塞がっていくんだ」


「う~ん、なんとなく分かったけど、正直言って独創的な発想過ぎて上手くイメージできるか……」


そりゃ、異世界の人からしたらそうだろね。

俺も、上手く説明出来た自信ないし。

ともかく、伝わりはした。

後は、やってもらうだけだ。


「母さん、ゆっくりでいいからさっきのイメージを繰り返して、治癒魔法をかけて欲しい。今から、ドットの身体を枝から引き抜くね」


「ええ、分かったわ」


イザベルが真剣な目で頷いた。

俺は、錬気で強化した身体で、ゆっくりドットを持ち上げ枝から引き抜く。

その瞬間、傷口から大量に血が溢れ出る。

俺は慎重にしつつも素早くドットを地面に横たえた。


イザベルはすぐさまドットに覆いかぶさるように跪き、患部に手をかざし治癒魔法をかけ始めた。


「粒々……砂……実……種……割れて……分かれて増える」


ブツブツと先ほど俺が教えた細胞分裂の概念を呟いている。


俺が、教えたのは細胞分裂をかなり抽象化したイメージだけだ。

だが、患部をイメージするための【人体の構造】の本の中には、前世と比較したらこのレベルで書かれている項目もあった。

なので、治癒魔法が発動する可能性はある。


また、俺が教えたのは細胞分裂の仕組みのみで、活性化さすイメージは伝えていない。

これは、俺が思うにこの世界の治癒魔法は時間(・・・)を(・)早める(・・・・)要素を含んでいるからだ。

なので、治癒魔法が発動すれば自然と活性化するはずだ。


大丈夫。大丈夫だ。大丈夫なはずだ。


必死に自分自身に言い聞かせて時間が経っていく。


そうして、何分か経った頃イザベルが声を上げた。


「やった!やったわ!ネロ!」


見るとイザベルが額を汗まみれにして、微笑んでいた。


ドットの傷を見ると、まだ腹には穴が開いているが、内側の内臓は少しボコボコと溶接したような跡がありながらも傷が塞がっていた。

俺は、そのボコボコしたところを見て、やはり治癒魔法には基準(・・)があるのではと心の隅で思った。


「やったね!母さん!」


「後は、外の傷を塞いで……」


そこまで言うと、イザベルがふらついた。

俺は、咄嗟に身体を受け止めて支える。


「母さん大丈夫!?」


「思念を使い過ぎちゃったみたい……後は、傷を塞ぐだけなのに……」


悔しそうにイザベルが顔を歪めた。

しかしその後、何かを思いついたようにハッとした顔になった。


「そう……そうだわ、マリエラちゃん。ネロ、マリエラちゃんを呼んで来て……」


「マリエラ?マリエラって孤児院の?」


「そうよ、早く……お願い」


「わ、分かった!すぐ呼んでくる!」


俺は、あの四歳の少女が治癒魔法を使えることに驚きつつも、マリエラを呼びに孤児院へと駆けだした。


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