プロローグ
初投稿です!至らない点多々あると思いますが、よろしくお願いします!
一部完結まで書き溜めていますので、そこまでは毎日複数投稿していきたいと思います!
人は死んだらどこに行くんだろう。
そんなことばかりが、脳内を巡っていた。
魂となって、いわゆる天国や地獄などという死後の世界に召されて、輪廻の輪をくぐり、新しい命となって芽吹くのだろうか。
もしくは、科学的にまるで眠るようにそのまま目覚めず、ただ終わるだけなのか。
俺は、後者であることを切に願っていた。
また人生を送るなんて御免こうむりたい。
もう、疲れたんだ。
しかし、その願いは無情にも聞き届けられなかった。
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ちょっマジでキツイんですけど!頭伸びてる!頭伸びちゃってるから!
何故か俺は今、頭を変形させなければ通れないような窮屈な隙間を通っていた。
そもそも、頭を変形できている時点で何か間違ってると思う。
いったい俺の身に何が起こっているというのか。
苦痛に身を委ねながら、この身を押し出そうとする方向へ前進を試みる。
すると、外と思しきところから呻き声のようなものが聞こえる。
……否!これは矯声だ。
今日までついぞ、画面を通してしか聞いたことのなかった女性の艶っぽいながらも苦しむような声が聞こえる。
ヤバイ興奮してきたかも。
状況は意味不明だが、この道を抜けたところに、女性のあられもない姿が待ち受けているというのか。
そう考えると俺の息子もムクムクとムクムクと……ん?全然反応がない。
どうした息子よ。
あーあれか。女性が喘いでいるということは、それをなしている野郎の姿もあるということで。
それを、瞬時に理解して萎えているというわけだな。
さすが、我が息子だ。主人よりも理解が早い。
いくら、女性の裸体があろうと男の汚らしい身体を拝んで興奮するのは俺の主義に反する。
その手のビデオでも、男が映るといちいち舌打ちしてた質だからな。
そんな益体も無いことを考えていると、頭が出口らしきところへ到達した。
外気が頭を撫でる感触がある。
来たか!出口!
交尾ってる男女の空間へ、穴からこんにちはな状況でなにを言えばいいのかわからないが、ともかく出口だ。
頭が外気に触れてからは、割とグイグイと進んでいき、頭全体が露出された。
しかし、何故か目が開かない。
アレだ。
寝すぎて目ヤニだらけの目が開かないやつと似ている。
その後もどんどん進んでいき、ヌルッという感じで、全身が穴から抜け出した。
それと、同時に身体をヒョイっと持ち上げられる感覚。
成人男性をこうも容易く持ち上げるものに、恐怖を感じる。
しかも、身体があまり自由に動かない。
「×××××××!」
何語が分からない興奮したような女性の声が聞こえた。
そら情事の最中に、男が穴から出てきたらビックリするわな。
さて、どう言い繕うか。
某有名芸人さんが昔やってたコントのように、キレ気味で穴男なるものを主張してみるか。
「穴男や!穴から出られへんかってん!」……みたいな。
うん、何言ってんだろうね。
そんな事を考えながら、自分を持ち上げた存在への恐怖と、身体が不自由な現実から逃避する。
すると今度は、お湯と思われる液体に浸され、綿のような感触のもので身体全体を包まれる。
そして、その状態でフワフワのベッドらしきものの上へ。
そこで、湯にも浸かったしそろそろ目が開くかなと思い恐る恐るトライ。
すると、開いた。開きましたよ!
そして、開いた朧げな視界には、十代後半ぐらいのほっとした美女の顔が映り込んでいた。
綺麗な青の瞳がこちらを優しげに見つめ、その額には汗に濡れて煌めく銀髪が張り付いている。
美女は、おもむろに俺の頭を撫でる。
俺の頭をすっぽり包んで余りあるほどの、大きな手だ。
いや、違う。
俺が小さくなったのだ。
今までの状況を冷静に分析して至った、冷静でないような結論。
それは、転生。
そうだ、俺は死んだんだ……
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確か俺は、日本の自宅で冒頭に述べたような現実逃避をしながら、ダラダラとタバコをふかしていたはずだ。
訪問者はほぼ皆無であるがゆえ、誰に気を使うわけでもない六畳一間の小汚い部屋。
そこら辺に空の缶ビールや、コンビニ弁当の容器が散乱している。
彼女や妻などという甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる存在などもちろんおらず、たまに様子を見に母親がくるくらいの寂しい人生をおくる二十四歳独身。
一応、仕事はしていたがある事情のせいで、つい先日自主退社。
この先の未来を嘆いていた。
ある事情、というのは二十一歳の時に発症した精神の不調に関連するものだ。
主なものは、コミュニケーション能力の低下だ。
頭の中ではいろいろと考えているのだが、人と話すとなると上手く言葉が出てこない。
言葉を話すのが怖いのだ。
そのせいで、基本的に「はい」や「いいえ」、「分かりました」などの短文で稚拙な会話しか出来ない。
また、声も小さい。
自分の意思を正確に相手に伝えるには、不十分な会話力だ。
それでも、自分なりに必死に努力し、障害者雇用のある小さな会社に入社することができた。
それが、大学卒業後の二十二歳のこと。
そこから、一年半会話は十分に出来ないまでも、職場の人と良好な関係を築いた。
つもりだった……
それが、勘違いだとわかり始めたのはつい一年程前から。
誰かが言った。
「あの子何考えてるのかわからないよね?」
「喋る言葉も、声小さくて聞こえないんだよ」
「正直、なんで給料もらえてるの?って感じ。生活保護でも受けて、暮らしていけばいいじゃん」
「身の丈に合わないような事してるみたいで、見てて哀れになるね」
日々、誰かが何処かでそんなことを囁いた。
俺が、トイレの個室にいる時に、俺が衝立て一枚隔てたとこにいる休憩室の一室で。
その度に、胸が締め付けられるような、惨めさと焦燥感が襲ってくる。
それでもと、歯を食いしばって仕事を続けた。
表面上だけかもしれないが、良く接してくれている人もいる。
その人達に、顔向出来るように、そんな事を言われないように、もっと頑張らないと。
そしたら、きっと報われる。
頑張ることは、きっと……悪い事じゃない。
しかし、気持ちとは裏腹に身体は言う事を聞いてくれなかった。
仕事に行こうとすると、激しい動悸や目眩、吐き気を催す。
やっとこさ仕事場についても、パソコンを触ろうとするだけで手が震える。
大丈夫かと気遣ってくれる人の顔が悪意に満ちているように感じる。
裏では、俺の事をなんて言ってるか分からない。
疑心暗鬼が止まらなかった。
そして、俺はやむなく退社した。
なんでこんな事になったのか、この先どうすればいいのか、タバコをふかしながら現実逃避に明け暮れる日々が出来上がった。
失業保険のお金もそろそろ底を尽きる。
お金がないというのは辛い。
幸福は金では買えないというが、金が心を満たすのもまた事実だ。
この先も、こんな人生が続くのだろうか。
楽しいことなどなく、病気に耐えながら、ただただ生きるだけの日々。
「死にたい……」
気付くと口から自然とそんな言葉が漏れていた。
しかし、死ぬのは怖い。
死の恐怖は、三年前に病気の原因となった事件で嫌という程分かっている。
今でも鮮明に思い出せる。燃え盛る炎。崩れ行く我が家。そして……絶叫を上げる父親。
俺は死ぬ。嫌だ!と強く思ったのを覚えている。
しかし、その時不思議なことが起こった。
妖精のような生物が現れ、俺は救われたのだ。
そう、妖精だ。
煌めくような緑の髪に、赤と緑のオッドアイ、そして背中に生えた炎のような羽をもつ体長十センチほどの謎生物。
名前は確か……リフリカ。
あれは、幻覚だったのだろうか。
もう一度現れて、颯爽と俺を救ってくれないだろうか。
「は〜……」
何考えてんだ俺。
現実逃避ここに極まれりだな。
先程消したタバコを揉み消し、新しいタバコに火をつける。
ふと、その先端をぼーと眺めながら、空気に煽られ燃え行く火を眺める。
この光景って何故だか無性に落ち着くよな。
なんでだろう。
そう思った瞬間、意識がマッチ売りの少女よろしくトリップしていった。
意識がスーと深く沈み込み視界が暗転する。
真っ暗で、何も見えない。
俺は光を探す。
すると、見つけた。
小さい火が視界の奥の方で燃えている。
俺は、それに意識を集中していく。
小さな火は風を受けて徐々に勢いを増していく。
轟々と轟々と。
たちまち大きくなった火は、やがて炎となり視界には収まりきらない程大きさを増す。
そして、その炎はこちらを飲み込まんと迫ってくる。
しかし、炎は今まさに飲み込まんとする我が身の一歩手間で止まり、急速に勢いを失っていく。
それは、鎮火ではなくまるで炎が凝縮されていくような……
風が、その炎を囲うように吹き荒れる。
やがて、炎と風は収束していき、人型を象った。
後ろ姿から美女のそれを思わせる。
そして、こちらに背を向けていた美女がこちらを徐に振り返り……
「っ!?」
その途端、眩い閃光が迸り、視界を覆い尽くす。
暫くして、その光が一点に収束していきポンっと音が出そうな感じで光が消えた。
先程までの、強烈な光のせいで視界がはっきりしない。
ようやっと、視界が回復した時に見たものは、まだ目が慣れていないのかと疑問に思うものだった。
目の前に、先ほど回想していた謎生物がふよふよと浮かんでいたのだ。
「ホントに現れた……」
俺は、あっけに取られてポツリと呟いた。
先ほどのトリップ状態といい、目の前に浮かぶかつて出会った謎生物。
何故?という疑問が脳内の大半を占めていたが、同時に喜ぶ自分がいた。
そして、食いつくようにその生物に語り掛けた。
脳内で。
『リフリカ!リフリカだよな!』
すると、謎生物改めリフリカは、盛大に顔をしかめた。
『あんた誰よ!なんで、私に念話できるの!それと、気安く私の名前を呼ばないでくれる!?』
「えっ……いや、だってこの前会った時はリフリカがそうしろって。というか、忘れられてる?俺だよ!俺!」
脳内で語りかけることも忘れて、興奮して珍しく流暢に話せている自分がいた。
それに対してリフリカは、イライラしたご様子で。
『なに言ってんのか分っかんないのよ!それ何語よ!私が聞いたこともない言語なんて、ここどんだけ田舎なのよ!』
『いや、ここは日本って言って今のは日本語で『はっ!?二ホン?本当に聞いたことないわ。クソ田舎ね。そんな田舎もんが、私を呼び出せるなんてどういう事よ!?』』
こいつ人が喋ってるところに割り込んで来やがった。しかも、スゲー上から目線。
いくら命の恩人とはいえ、前回と違い過ぎてちょっと腹立ってきた。
日本が田舎って、お前こそどこの閉鎖的な部族だよって話だよ。
というか、待てよ。
こいつここの星の生物じゃないのかも。
いや、そうだよ。
それが一番しっくりくる。
こんな生物がいるなんて聞いたことねえもん。
『あの……リフリカの住んでる星って地球?』
『そんな事どうでもいいでしょ。それよりどうやって私を呼び出したのよ!それと、気安く名前を呼ばないでくれる?この田舎もん。様を付けなさい様を』
イラつく。なんでこんな高慢ちきなんだ。我慢だ我慢。耐えろー俺。
『いや、特に用は無い……かなー。気づいたらリフリカ様が現れたっていうか。昔、会った時の事を思い出してたら気分がトリップしたと言いますか。なんというか』
『……は?何それ?』
そう言った後、リフリカがハッとした顔になる。
『嘘!?魔力が流入してる!?……あんたもしかして、私が契約してる異世界の人間ってやつ?』
『契約?そんなのした覚えはないけど、会ったのは確かだよ』
『私の魔力を使って、イメージであたしを呼び出せてる。媒介はタバコ?嘘でしょ……まあいいわ、それに、念話が通じる。状況としては契約してる可能性が高いわ』
なんかよく分からないことをいろいろ言われた。
でも、契約ってなんだ?
あっそういえば昔、魂のパスを通したとか言ってたような。それかな?
『そういえば、前会った時に魂のパスを通したとかリフリカ様が言っていたような』
リフリカが心底うんざりした様子で、天井を見上げた。
『確定ね。恨むわよ。どこぞの神。』
『神?神って神様?』
『そう。私は、気づいたら神の力によって誰かと契約していたのよ。その時の記憶は私にはない。操られていたのかもしれないわね。あんたが以前会ったとかいう私も、私であって私じゃないわ。それにしても、ありえないわ。こんな死にぞこないみたいな奴が契約者なんて』
さっきから、随分な言いようだな。
そろそろキレてもいいんだろうか。
ただ、死にぞこないってのは確かだ。否定できない。
『リフリカ様。せっかく現れてくれたんだ。さっきは用はないって言ったけど、一つだけ叶えてほしい願いがある。それで、契約は切れるはずだから』
『ふーん、何よ?』
『俺を殺してほしい』
沈黙が場を支配した。
『嫌よ。死ぬなら勝手に死になさい。死ぬ時まで人に頼るんじゃないわよ』
正論だ。
その通りだよちくしょう。
俺は、自分じゃ出来ないから、人の手を汚させようとしたんだ。
なんて卑怯なんだ。
『分かった。悪かった。もう、帰ってくれていいよ。急に呼び出してごめん』
リフリカはじっと俺を見つめた後、鼻息をフンっと鳴らした。
『心配しなくてもあんたもう死ぬわよ』
『え?』
なんで?寿命?いや若すぎるだろう。病気?
『この世界は、異様にマナが薄いわ。私もこの姿を保つのが精一杯。あんたの身体も、私の魔力を許容できているようには見えないから、そろそろ身体が急に流れ混んだ魔力に、拒絶反応を起こすはずよ』
また、分からないことをいろいろ言われた。
さっきから、中二設定の話しかリフリカの口から出てこない。
俺の事を異世界人って言ってたし、リフリカはやっぱり違う世界の生き物なのか。
それにしても、俺が死ぬねー。
そんな感じは全くしないんだが。
と、思ってたその時。
胸に激痛が走った。
締め付けられるような痛みと、ズキズキとまるで杭を心臓に打ち付けられているような痛みが合わせて襲ってくる。
意識が朦朧とする。
視界が歪む。
「くっ……!」
いつの間にか、身体は床に転がっていた。
身体を自由に動かせない。
このまま、死ぬのか。
そんな、俺を見下ろしながらリフリカは言った。
『始まったみたいね。ちなみに、さっきあんたは死ねば契約が解除されるって言ったけどそれはないわ。神様達の話合いで、しばらくあんたは神の観察対象だから。あっちの世界では、私の契約者らしくもう少しマシな面構えになりなさい』
観察対象?なんだよそれ。
ダメだ。思考がおぼつかない。
薄れゆく意識の中で、最後までツンツンした言動をのたまう謎物体に見下げられながら俺は死んだ。
あっこいつ、紫のパンツ履いてやがる。とことん生意気な。
というのが、俺の最期の思考だった。
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