悪魔の契約
他の書き進められてないのに書いてしまいました。
またまた序章な感じです。
暇つぶしになれば幸いです。
日が傾き辺りを赤く染め上げる刻。
俺は学校一の美少女と名高い久遠アリスに呼び出され、屋上へと続く階段を歩いている。
ギャルゲーならこれから始まるのは告白シーンだ。しかし残念ながら、現実はそんな甘酸っぱくはない。
これから俺を待ち受けているのは、悪魔の契約とデスゲームへの招待状だ。
──────
時間はその日の朝まで遡る。
弥月原高校、2年2組。
俺、大神士朗の通う高校であり、俺の在籍しているクラスだ。
いつも通り、教室に着き次第椅子に体を落とし机に倒れ込む。
陽の光が苦手ゆえ、学校までの道のりがただただ辛い。
幸い席は、扉側の最も日が当たらない場所となったため、こうして体力と不足している睡眠時間の回復に努めなくてはならない。
「よーっす、大神ー。相変わらず朝からゾンビみたいだな」
・・・努めなくてはならないのに、こちらの事情も知らないバカが話しかけてくる。
「うるせぇよ吉木。朝は話しかけんなっつってんだろ。ただでさえバイトで疲れてんだから」
「まーた夜勤バイトしてんのか?校則違反ですよ大神くん?バレたらヤバいよ?」
「しょーがねーだろ、生活厳しいんだから」
「まぁそれじゃ仕方ないよな。言いふらしたりはしないが上手くやれよ?それより聞いてくださいよー。高校生活2年目にしてようやく俺にも春が来たんですよ!」
心配してくれてありがたいな、と思った矢先にこれだ。
人の話を聞く気あるのか。なんで話を振ってきてんだこいつ。
「いやー、まだ正確にそうと決まったわけじゃないんだけどねー?ただもうほぼ確かなって。相手もすごいかわいいのよ!うちの生徒なんだけどね、大神くんも知ってる超有名人よ?誰か知りたい??大神くんが聞きたいってんなら教えてあげるんだけどさぁー。ただやっぱ自慢話に付き合わせるのは悪いかなーってね?」
「誰なんだその有名人ってのは」
話したいオーラがさすがにうざったいので、素直に従ってやることにした。
とっとと済ませよう。
「お、やっぱ気になっちゃう??大神くんも男の子だねぇー」
「はよしろや」
「もう、欲しがりさんだなぁ。ぶっちゃけるとね、その有名人ってのは───」
バンッ!!!
その瞬間、教室の扉が勢いよく開かれる。引き戸だから思いっきり開くと、反対の壁にぶつかって意外なほど大きな音が鳴る。
その音の爆弾にクラスが静まり返り、視線が開かれた扉集中する。
そこには1人の女の子が立っていた。
同じ歳の女の子より一回りほど小さい少女。長い金髪をツーサイドアップにまとめ、両手を越しに当て仁王立ちする姿は、ワガママそうなお嬢様をイメージさせる。
久遠アリス。うちの学校で知らない人はいないほどの超有名人だ。確か隣の2年1組にいた気がする。入学式以来、その見た目から精巧な西洋人形の様だと話題に上がっていた。西洋人形みたいって褒め言葉なんだろうか?西洋人形の見た目に不気味さ感じる俺にとっては甚だ疑問だった。
キリッとした紅い目で教室内をぐるりと見渡している。何かを探しているようだ。
その眼がこちらに向いた瞬間、早足でこちらに近づいてくる。
「おぉ、アリスちゃん!昨日ぶりだね!なになに会いに来てくれたの?」
この口ぶりからして、先程吉木が言ってたのは久遠アリスのことだったのか。そりゃ確かにすごいな。自慢したくもなる。
どうかバラ色の青春を送ってくれ。
吉木の話し相手も来たことだし、心の中でエールを送り、静かに眠りにつくことに───
バンッ!!!
しようとした瞬間、久遠アリスが俺の机に勢いよく手を付きまたまた大きな音が鳴る。
さっきからこの人いちいち行動音がうるさい。
睡眠妨害からイライラが溜まり、睨みつけるように顔を上げる。
紅い眼がこちらを真っ直ぐに見つめている。
「大神士朗くんね。話したいことがあるから今日の放課後、屋上に来てくる?」
「「はい?」」
俺と吉木がハモる。
どうやら目当ては俺の方だったらしい。しかも何だ今の発言。
まるで告白するから呼び出したみたいじゃねーか。
先程まで浮かれていた吉木はというと、余命が宣告された末期患者のようにボーッと虚空を眺めている。
「用やそれだけだから。じゃあまた放課後」
こちらの返答も聞かずに、言うだけ言ってさっさと帰っていった。
そのあとの教室はと言うと、「キャー!!♡」という黄色い声援や、恨みつらみを吐き出す声、吉木のように呆然とする者など様々に反応していた。
それもそのはずだ、目の前でこんなラブコメチックなことが起こればみんなテンションが上がる。芸能人を生で見た時と一緒だ。「あ、テレビとかで見たやつだ!!!」ってな具合に感情が高ぶるのも仕方ない。
しかし俺は知っている。
これがそんな甘酸っぱいもんじゃ全然ないことを。
なぜなら俺は知っているからだ。やつ、久遠アリスが普通じゃないことを。
──────
そして時間は現在の時刻。17時30分。放課後に戻る。
屋上の扉の前でため息をつきながらドアノブを握る。
開くとそこには、朝と同じような仁王立ちした少女がそこにいた。
「来たわね」
「待たせたみたいですまんな」
絶対に叶わないと知りながらも、人は神に祈る。例に漏れず俺も、絶対に違うと理解しながらも、予想が外れることを祈っていた。
「それで話の内容なんだけど、それを話す前にまず確認しなくちゃならないことがあるんだけど」
希望が崩れ始めていく。
返答していないが、久遠は気にせず笑みを浮かべながら続けた。
「単刀直入に聞くけど、あなたは普通の人間じゃない。『人狼』よね?」
「・・・そうだけど」
あーあ、終わったわ。
そう、こいつの言った通り俺は普通の人間じゃない。『人狼』と呼ばれる魔族の1種だ。
『魔族』とは人間の暮らしている世界とは別の世界に住んでいる種族である。基本的には魔族の世界である『魔界』で暮らしてる。人間界に来るやつは、何かから逃げてという理由で来ている魔族が多い。なんせ、人間界は魔族にとっては物騒な世界だからだ。上手く溶け込めず正体が知られれば、命の危険に繋がることもある。
てかこいつ、よく初対面でこんなこと聞けたな。
もし外れてたらどうするつもりだったのだろうか?だって大恥よ?
「しかも、ただの人狼じゃなくて、人間とのハーフよね?」
そこまで知ってんのか。魔族かどうかって部分だけなら『魔力』で感じ取れるからすぐ分かるが、まさかそこまで知られてるとは。
こっちだけ一方的に正体バラされるのも癪だから、反撃することにした。
「それを知ってどうすんだよ。お前だって『吸血鬼』じゃねーか」
これには少し驚いたようだ。一瞬目を見開き、しかしまた笑みを浮かべながら答える。
「へぇ、すごいね。知ってたんだ。どうやって気づいたの狼の嗅覚ってやつ?」
「はぁ?そんなん、魔力感じ取ればすぐ分かるだろ」
「えっ」
「ん?」
しばし静寂。
屋上に吹き抜ける風の音だけが聞こえていた。
「ま、まぁ私も最初から分かってたけどね??」
「・・・・」
「まぁいいや、話戻すわね!」
「・・・・」
「その眼やめなさいよ!!」
やめなかった。
「で!話の内容なんだけど、実は私と同じ魔族であるあなたに、協力してほしいことがあるの」
「ほう?」
そこからしばらく、久遠は視線を落とし、眉を八の字にしてもじもじしている。なんだがとても言いずらそうなことを言おうとしているみたいだ。
「・・・その内容なんだけど、、私と一緒に戦って欲しいの」
「どゆこと?」
詳しい話を聞くに、どうやら今魔界では、魔界の貴族達による『次期魔王候補の選定』が行われているらしい。
その選定を行う中で、それぞれの家の代表が自らの眷属を従え1つのチームとし、互いに1VS1で戦うという大会のようなものが、選定の評価の一つとしてあるらしい。
それに勝ち上がり優勝したい。しかし、自分には参加資格はあるものの仲間がいない。故に協力してほしい、との事らしい。
「だいたい分かったが、あんた貴族なんだろ?何で眷属がいないんだよ?」
「・・・少し前まではいっぱいいたのよ。でも・・・」
制服のスカートの裾を握り締める手に、キュッと力が入る。
「お父さんとお母さんが、殺されてから、みんな居なくなっちゃって・・・」
なるほど。
察しがいいのが俺の取り柄だ。今回のことも色々疑問に思っていたが、合点がいった。
そもそも何でこんな子供が当主として、戦いに参加するのか疑問だった。
しかしそれは、自分より上の世代、親が既にいないからこそのことだろう。
前の当主が何者かによって殺された。これもその選定が関わってるんだと思う。ライバルになりそうなやつを早めに潰しておく。
そして、当主が変わりしかもその当主が、年端もいかないこんな女の子じゃ離れていくのも分からんでもない。
いや、もしかしたら戦力を削ぐためにほかの家の奴らが引き抜いたのかもしれない。
原因は定かではないが、そのようなことが重なり、現状が作られているわけだ。
「経緯は分かったが、でも何でわざわざ戦う必要があるんだ?お前の目的はなんだ?」
「私が選定に参加するのは、お父さんとお母さんの仇を見つけるためよ」
「どういうことだ?」
「今回の戦いの優勝者には、『魔神器』の一つである、『真実の鏡』の使用権が手に入る。だからそれを使って犯人を探し出す!」
「そういうことか」
『魔神器』とは、歴代の魔王が代々受け継いできた魔界の至宝だと聞いたことがある。
全部で7つあり、それぞれ厳重に保管されている。使用される目的としては、魔界で何かしら重大な問題が発生した場合に、それを解決するために使われる。
確かそうだった気がする。
「あんたの事情も気持ちも分かった。ただそれは、俺が命懸けて戦う理由にはならないだろ」
「そ、それは分かってる。だから協力してくれたら報酬もしっかり払う。」
「例えば?」
「えっと、、大神くん確かお金に困ってるのよね?」
なるほど、そう来たか。
「そうだけど、なんで知ってんだ?」
「あの、吉木って人に聞いたの。いつも一緒にいるから色々知ってると思って。実際色々教えてくれた」
あいつ売りやがったのか。今度シメる。
「で、それを踏まえて成功したら大金を用意してくれるってのか?」
「そうじゃなくて、その、、良かったら私の家に住まないかって提案で。一応まだ家にはお金がそれなりにあるし、生活には困らないかなって。もちろん、大神くんがそれを望むならそうするけど・・・」
「それにもし目標達成できたら、その、、、私にできることなら何でもひとつ言うことを聞くし・・・」
「なるほどな。魔族らしい契約内容だな」
なんだか、最初のイメージから大分変わって小心者みたいに話している。
こいつからしたら、俺は数少ない希望なのだろう。
そして恐らく他に宛はないのかもしれない。
年頃の女の子が、ほとんど話したことの無い男に対して、助けを求め、家に住まわせることを提案し、最後には「何でも言うことを聞く」だなんて言ってやがる。そこには危険なことに巻き込んできまう、という罪悪感もあるのだろうか。
久遠の顔を見ると、不安そうな顔をこちらを見つめていた。色々と嫌なことを思い出したせいもあるのか、今にも泣き出しそうなくらい。
「・・・・分かった」
「え?」
「分かったっつってんだよ。その提案乗ってやる」
「ほ、ほんとに!?」
その瞬間、久遠の顔がパァーっと明るくなった気がした。
「まぁ条件も魅力的だし、何でも言うことを聞くらしいしな」
そう言うと、途端に顔を赤くし慌て出す。
「そ、そそそ、それはあくまでも私ができる範囲でって話だからね!?へ、変なこと言われてもできないから!!」
「わーってるよ。冗談だよ冗談」
どうやら今ので元に戻ったみたいだ。
傾きかけては夕日もすっかり沈み、今後のことは明日話すということで、連絡先を交換し俺たちも帰ることにした。
とまぁこんな感じで、助けたい気持ち6割、誘惑に負けた3割、そして残り1割のラブコメっぽいワンチャンがあるのでは、という謎の期待により、命懸けるには安いかもしれん報酬で悪魔の契約をしてしまい、デスゲームへの参加が決まってしまった訳だ。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
なるべく次の話を書いていきたいと思っています。
また読んでいただけると本当に嬉しく思います。