27話 懐かしいもの
「懐かし……」
気づけばそんな言葉がぽつりと出るほど、懐かしく感じた。
俺は今、胡桃の通っている中学校に入ったところだった。
気づけば口の中の水分が乾き切るほどぽかんと口を開けていた。
数ヶ月ぶりとはいえ、それはとても懐かしく感じ、俺の心を動かした。
「3年6組は写真コーナーやってまーす!」
遠くから明るい男子生徒の声が聞こえる。
「2年2組ー!お化け屋敷でーす!」
反対方向からは女子生徒の声だ。
そして前方からは、ある男の人が寄ってきた。
「久しぶりだな陸斗」
「お久しぶりです。西枝先生」
西枝勝則。俺の中学2、3の時の担任の先生だ。卒業から約半年がたった今でも、俺のことを覚えててくれたらしい。
今は胡桃のクラスの担任を務めている。
ちなみに胡桃と俺が兄妹ということを初めて知った時は、腰を抜かしたそうだ。
そこまで驚くことではないが、なにせこの男、リアクションが色々と大きいのだ。生まれつきなのか、あとから作ったキャラなのか。聞いてもいいが、そんなもの聞いてもどうしようもないし、つまらない。やめた。
「今日は瀬川さん、じゃなくて、胡桃さんに会いに来たのか?」
「招待状を受け取ったので、せっかくだしと思い」
嘘ではない。招待状を受け取ったのはたしか。せっかくだしと思ったのも『せっかくだしノーマルではなく招待状を使おう』と思ったのだから間違ってはいない。
「クラスは案内しなくてもわかるか。俺はしばらくここら辺の見回り担当だから、1人で行ってこい」
最初から誰もお前とは行かねぇよ、と思いながらも「了解です」と返事をすませる。
適当に敬語使っときゃ大丈夫だろ。
先生と別れて2階へ階段を上る。廊下をあちこちと見回すと、理科室へ続く西側廊下や部活の筋トレで使ったB階段があった。どれも懐かしいが、やはり一番はここだろう。
俺の足の向けた方向。その看板にはこう書かれていた。
『3年4組 動物カフェ』
全てが懐かしく感じた。1年前のに友達と騒ぎあったりした思い出が全て走馬灯のように頭をよぎった。
「よし、入るか」
一呼吸を置き、俺は足を進める。既に開いていた扉を通ると、そこには中学生の出しては行けないほど際どい光景が広がっていた……




