26話 準備
…………。
緊張して寝れなかった……
客である俺がなぜ緊張してるのか?自分に問いたい疑問がある中、俺、陸斗は部屋を出て階段を降りる。
その先から天使の歌声のような美しい声が聞こえた。
「おはよ、お兄」
「おはよ。それがクラスTシャツか?」
クラスTシャツとは、そのクラスごとに異なるデザインを考えてプリントした、各クラスのオリジナルTシャツのことだ。俺も中学高校と文化祭の時は毎年作っていた。
胡桃の着ているシャツのデザインは、水色ベースにピンクのうさぎが描かれたものが全面のど真ん中に堂々と居座っている。その下にクラスとクラステーマらしきものが白文字で印刷され、可愛らしくまとまっている。
これを男子が着ているとなるとちょっと笑いそうになるが、中学時代俺も似たようなことがあったからなんとも言えない。恐らく女子のリーダー達が勝手に決めたんだろう。女子って怖ぇもん。逆らうなんてできるわけが無い。
朝ごはんを2人分作り終えた胡桃が椅子にちょこんと座る。胡桃と違って家を出るタイミングが遅い俺はまだパジャマ姿。気合いの入った妹との壁を何となく感じた。
それから約15分後。にっこにこの笑顔で家を出る胡桃を見送り、俺は俺で文化祭へ行くための準備をしていた。それもかなり気合いを入れて。
胡桃たちのクラスの動物カフェに行くというのはもちろん、高校入学と同時に別れた友達やらなんやらと会う可能性だってある。久しぶりにあったのにも関わらずダサい格好をしていたら俺だっていやだ。そんな理由でなんかそれっぽい服を選びとる。
俺はファッションセンスのフの字もないから、何を着ていけばいいのか、まっっったくわからない。
唯一頼りになるのが妹なのだが、その肝心の胡桃さんが今いない。代わりにと思い雑誌などを探そうとも思ったが、そもそも男性用ファッション誌なんてものはうちにはない。ネットで調べても結局何にしようか迷うだけだし、アレを着るか。
「これで、いいのか……?」
アレとは、依然胡桃にコーディネートしてもらった服だ。
『お兄はスタイルがいいから……』とかブツブツ呟きながらコーディネートされたそれは、外出先であった友達にも好印象だったほどだ。
全体的に落ち着いた色で構成された服たちは、大人の男であると同時に高校生らしさも捉えたもので、素人目に見ても組み合わせの良さがわかる。
ここまでよくできた妹を持つと、兄としての立場を保てるかと不安にもなるが、胡桃が俺を兄として認めててくれている間は無地であり続けるだろう。
バックの中に財布やらチケットやらを入れ、肩からかける。靴棚の奥の方から、特別な日用のものを取り出し、玄関の扉を開ける。
日差しはそこまで強くは無く、気温も程よい感じだった。雲も適量浮かんでいて、まるで誰が望んだ結果のように整った光景。
俺は約1キロ先の中学校に、胡桃の待つクラスに向かって歩き出した。




