20話 懐かしの場所
「もしもし」
海斗からの電話を受ける。
『わり、道に迷ってさ。花火のスタートまでに間に合いそうにないわ』
けらけら笑いながら言う海斗に俺は怒りそうになったが、ここは優しい陸斗さん。仏の顔で聞き流す。
「んで、何が言いたいんだ?」
『言わなくてもわかるだろ?』
即答かよ。
胡桃と2人で見ろってことか。なんだかんだであいつ優しいんだよな。
とか思いつつ、電話を切る。
「中宮くんどうだった?」
「あー、なんか道に迷って来れないらしい。俺たち2人で見てていいってよ」
胡桃の表情がぱぁっと明るくなる。
わかりやすいな!ってか可愛いなこのやろ!!
「そういえば、お兄覚えてる?子供の頃に一緒に花火を見たこと」
子供の頃の記憶と言われても沢山ある。ただ、花火を見たと絞られたらひとつの事が当てはまる。
「サランラップか」
サランラップとは、俺たちが昔よく2人で遊んでいた秘密基地のような場所だ。森の奥の方にあった大きな木に、捨てられていたブルーシートやパイプ、その他諸々を持ってきただけの子供の遊びなのだが、俺たちにとっては特別な場所だ。えなはどうした?と言われそうだが、この頃の胡桃が俺以外の立ち入りを嫌ったため、えなですらも入ったことがないどころか知りもしないだろう。ちなみにこのサランラップという名前は、初めてこの場所を見つけた時に地面にサランラップの芯が刺さっていたからという理由で付いた。
そんなある意味聖地のような場所であるサランラップに向かう。白樺の林にはけもの道があるので迷わずに抜けることが出来る。林の次に待ち構えているのは、薄暗いトンネル。車1台がやっと通れる道幅に、一切ない灯り。長さはそんなに無いもののそれでも暗い。気味悪がって誰も近づかないから、この場所は昔から俺たち2人だけの秘密だったわけだ。
トンネルを抜ける。外の光が眩しくて半目になりながら前を見ると、そこには記憶と同じ景色が広がっていた。一面緑色に染った視界と葉の掠れる音、俺たちを優しく照らす木漏れ日。そして何より、サランラップのど真ん中にあるもの。木とパイプとブルーシートで作られた小さな家が、子供心をくすぐってくる。
「なっつかし〜!」
目を輝かせた胡桃がぴょんぴょん跳ねながら言う。ここに来るのは何年ぶりだろう。それくらい懐かしいのだから、興奮する気持ちも分かる。
「変わってないな。あっ、あのメッセージ残ってるかな?」
小さい頃に、未来の自分に向けてのメッセージを机(木の板を並べたもの)に書いたのだが。
「確かここら辺に……あった!」
メッセージを読む胡桃の顔が赤く染ってゆく。俺もメッセージを読んでみるとそこには。
『おおきくなったらおにいちゃんとけっこんしてね くるみ』
元気いっぱいの文字で恥ずかしさいっぱいのことを書いていた。誤魔化すために俺の書いた方も読んでみたのだが……
『一生くるみを幸せにしてね! 陸斗』
「「………………」」
胡桃に釣られてこっちまで赤くなる。頭から湯気が出そうなのだが、こんな顔は胡桃に見せられないため「ほかに何かないかなー」などと言いながら顔を背けた。




