19話 終わりと始まり
ポルリン専門店を出ると人が一方向に歩いていた。
「どうしたんだみんな。何かあるのか?」
「これから夏のウォーターショーがあるんだよ!行こ!」
胡桃の意見に連なってひな先輩も賛成する。
「行きたい行きたーい!」
「ポルリン出るの?私も行きたい」
「じゃあ俺も行きたい」
ひな先輩につられてえなまで賛成。
ってか海斗。お前はポルリンじゃなくて胡桃目当てだろ!悪くないけど。
「っとその前に。日菜子さん。ちょっといいですか?」
「いいよ?どうしたの?」
「あとえなちゃんもいい?」
海斗がひな先輩とえなを呼び出す。
それと同時に海斗から、『胡桃ちゃんを連れて行け』という視線を送られる。
「じゃあ胡桃。俺たちは場所取っとくか」
「うん!あっ、そういえば!」
よし、これで胡桃と2人になれる。
海斗もちょうどあの2人に話したいことがあったらしいし、損なし。
そろそろ陸斗たちは行ったかな?
「急に呼んですいません」
もうすぐウォーターショーがあるというのに、海斗に呼び出されてしまった2人。エレーナと日菜子。
2人は全然気にしていないのだが、海斗は真剣な目をしている。
「2人にお願いがあります」
海斗の願いは1つ。
「僕の告白を手伝ってください」
そう、胡桃にこの気持ちを伝えたい。しかし、既に知られてしまっている。
ただ伝えるだけだと呆気なく終わってしまうから、2人に協力してもらう。そしてその場で玉砕。
これが海斗の望む形。もちろん胡桃ともっと深い関係になりたいとは思っているが、胡桃は陸斗が好き。その気持ちを残したまま付き合うのは嫌なのだ。
海斗の頼みによって静まり返った2人。
その空間を破ったのは日菜子。
「そっか。君は胡桃ちゃんが好き。だけど胡桃ちゃんはりっくんが好き。だからここで断ち切ろうってことね」
うんうん言いながら内容を繰り返した日菜子は途端に海斗の胸ぐらを掴み、今までにないくらい低い声を放つ。
「君の気持ちはそこで終わりなの?」
長いまつ毛と綺麗な瞳の奥には、小さな怒りが見えた。
そこで終わりか。そう言われても肯定できるわけがない。
海斗が言葉に詰まると、
「私もね。同じなんだ」
日菜子はまた話し出す。しかし、その声に怒りは無く、悲しみだけがあった。
「私の好きな人にも、また好きな人がいるの。だから、私は必死にその人の事を嫌いになろうって頑張った。でもね、無理だったの」
下を向いていた目が、再び海斗を写す。
「人の思いはそんな簡単に断ち切れるものじゃないよ。好きになったんなら最後までその気持ちにとことん付き合いな。じゃないと辛いのはそのあとの自分だよ」
真剣な目だった。
日菜子の吸い込まれるような目に、海斗は言葉を失う。
「自分の気持ちに嘘をついても、自分の心にその嘘は通用しないんだ。」
瞬間、海斗の仲の何かが吹き飛んだ。
「諦めるっていうのは、簡単なことじゃない」
覚悟、その言葉が今の海斗にはぴったりだった。
それと同時に、別の事にも気付いた。
「わかりました」
数秒後、海斗は別の願いを口にする。
「別件で、日菜子さんと出かける機会を作れますか?」
少し照れ混じりにそういった海斗を「別件ならいいよ」と誘いを受ける日菜子。
「エレーナちゃんも一緒に来る?」
エレーナももちろん行きたいのだが、海斗が、あの海斗が照れながら日菜子を誘っている。もしもの事があるかもしれない。
「ごめんね、これから用事がぎゅうぎゅう詰めなの」
「そっか、ざんねんだなぁ…」
海斗がエレーナに目線で感謝を告げる。
やはりただ遊びにいく訳ではなさそうだ。




