1話 シスコン兄とブラコン妹
俺、瀬川 陸斗。16歳の高2。みんなからはメンドーサと呼ばれてる。男なのに…
んまぁ、ニックネームからしてわかるように、かなりの引きこもりでめんどくさがり屋だ。そんな俺だが、唯一誇れるものがある。それが、
「…きて……おきて!お兄っ!」
「…ンゴッ……」
「お兄いつから豚になったの?」
朝から罵倒してくれる…じゃなかった。起こしてくれる妹だッ!!
こいつは妹の胡桃。見た目が美人だが、中身が世界一と言っていいほどのツンデレ(?)ブラコンだ。ちなみに、美人っていってるけど、年齢は15。中学3年生である。
性格は、説明するより見た方がわかりやすいだろう。毎朝俺が起きずに寝てると……来るぞッ!
俺は腹筋に力をいれて歯をくいしばる。その瞬間ッ!
「おりゃ!」
──ぐふっ……
瀬川家お決まり、起床ドロップキックが決まったあぁぁ!陸斗に500のダメージ、効果はバツグンだ!
…とか考えてる場合か!
「グォォォォォ!」
腹を抱えて悶える俺に、
「あっ、起きた?」
「あっ、じゃねぇよ!素か!?素なのか!?」
「えへへ〜私もわかんな〜い」
ゆるい笑顔を見せる妹。
…可愛い。可愛すぎる。あっ、今更だが、俺はシスコンだ。だけど胡桃に気付かれる訳には行かないんだ。
はぁ、なぜ神は俺に胸を締め付ける感情を植え付けたのか。一生恨んでやる。
まあとにかく、心の声は漏れてなかったらしい。不幸中の幸いってやつかな? やっぱり恨むのはなしにしよう。神様、マジ最高。一生ついて行きます。
「あれ?ねぇ、お兄」
急に胡桃が、ん? という顔になった。これも可愛い。
呼ばれたから、当然返事をする。
「どうした?」
「この時計、壊れてるの?」
「そうなのか?」
自分の部屋の時計なのに知らなかった。電池無くなったのかな?
「そうみたい。ちょっとどころか、かなりズレてる」
「マジ?でもそんな寝たつもりもないし、大丈夫だろ」
「あっ、フラグ」
「そんなものへし折ればいいだろ?」
「そっ」
興味なさそうな返事だなおい!
「で、この時計は7時16分を指しているが、本当は何時なんだ??」
今日は平日。俺が学校に行くためには、遅くても7時50分には起きなきゃいけない。
「えっとね、8時5分」
「なんだ、まだ5分か…」
「……」
「……」
あれ?
「…胡桃よ、何時5分だって?」
「8時」
「……」
「お兄はフラグ回収のプロだね。そろそろ取材来るんじゃない?」
「……」
「…お兄?」
「……」
「あっ、嫌な予感がする。」
「悪い胡桃」
やっとの思いで出た声が震えている。
「ん?」
「わたくし、壊れそうだブー」
「いや既に壊れてるんだけど?」
「そこは触れないでくれ。とにかく!……いいか?」
一応胡桃に確認する。
「…いい…よ?」
許可が降りた。よし。
俺は扉の前に立って構える。
──……。
息を吸う。そして、
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「遅刻する遅刻する遅刻する遅刻する遅刻する遅刻する遅刻する遅刻する遅刻する遅刻する遅刻する遅刻する遅刻する」
「遅刻するぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」
俺は何も考えずに着替え、家を飛びだしていった。
*
「お兄、行っちゃった…」
私はお兄のベッドに座って呟いた。
「行ってらっしゃい、って言えなかった…」
もちろん。ここで諦めてはブラコン妹ではなくなる! よし、今日はお兄が帰って来たら一緒に遊ぼう!
*
「はい、それではHRを終わりま─」
ガラガラガラッ
「すみません!遅れました!」
俺は謝りながら教室のドアを開けた。そんな俺に、みんなが一言。
「「……誰?」」
「………え?」
……確かに、このクラスの人を誰も知らない。あれ?ま、さか…
俺は教室の外に出て表札を見た。そこにあっ
たのは、
──3年5組
…俺が行くはずのクラスは2年5組。
…あれぇ〜?
「…えっと……すみませんでしたァァァ!!」
俺は謝りながら教室を飛び出した。飛び出すのは今日で2度目だね。嬉しくないけど。
結局、HRすら間に合わない結果になった。あぁ、ついてない。
「こんな時に、胡桃がいればな…」
「おっ!シスコン発動か?」
俺に話しかけてきたのは中宮 海斗。
イケメンは殴りたくなるけど、こいつは別だな。一応、幼稚園からの幼馴染だし?
「えっ!?…声に出てた?」
「おぅ、かなり大きい声で」
気付けば周りが俺の事を見ながらニコニコしている。
「もしかして陸斗って、シスコ─」
「わぁぁぁぁぁ!!」
ばれッ─たァ─!
そこに追い討ち
「まぁ、元々気付いてたけどな」
「うっそぉ!!」
──普通に気付かない?
──それな。
──気付かない方がおかしくない?
──ってかシスコンって…
クラスメイトが俺をバシバシ叩いてくる。
みんなの攻撃が素早くて対処できない!陸斗に20000のダメージ。効果はバツグンだ!
…俺またダメージ食らったよ。しかも、朝にドロップキックされて痛いところを叩かれたし。
神様。ギブアップできませんかね? あっ、そうですか。できないみたい。
「お前のシスコンっていつからだっけ?」
「いつから気付いてた!?」
「胡桃ちゃんか。懐かしい名前だなぁ」
「人の話を聞けよ!」
神様、こいつ殴っていっすか?
「なぁ陸斗!俺久しぶりに胡桃ちゃんに会いたいんだが、お前ん家いっていいか?」
「胡桃なら触らせんぞ?」
「シスコンの神だなお前。ある意味尊敬するわ」
俺はちょっとマジなトーンで
「胡桃に手ェ出したらどうなるか、覚悟しとけよ?」
忠告してといた。
「胡桃ちゃんの事になるとマジトーンになるの、昔っから変わんねぇなお前。大丈夫だ。胡桃とは話すだけ」
「話の内容によっては、な?」
「わかってるわかってる。安心しろって」
周りから見たら変な会話だけど、俺たちにとってはすごく重要な話だ。少なくとも、俺にとっては…
「─席につけー」
社会の先生の低い声が教室に響く。
さてと、遅刻したんだし授業くらいは真面目に受けますか!
──今日が始まった。朝からの騒がしさは、いつまで続くかな?