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17話 それでもまだ、足りなかった。

 下がって、上がる。これを繰り返す悪魔、スペースショット。

 しかしそこから見える景色は見事に晴れた青い空と遠く感じる地面と、かなりいい。

 海斗の右側には友達であり好きな人である胡桃が座っている。これもいい。

 景色は全てに満点がつけられるほど最高だ。景色はな。

 今の状況を説明しよう。

 スペースショットの上がり下りで完全にグロッキー状態の俺な訳だが、実はまだ半分も過ぎていない。

 3回ほどの山を越えたあたりなのだが、このアトラクション、実は10回も昇り降りすると評判なのだ。

 なんでこんなものにみんな惹かれるんですかね?と世界中に小一時間問い詰めたい海斗の心をスペースショットは無視し、またぐんぐんと昇っていく。最初よりは小さい上りなのだが、それでもかなり大きい。30メートルはあるはずだ。

 リバースしそうな胃をなんとか鎮めさせ、再度構える。あぁ、また落ちてゆく……

 

 気がついた時にはすでに、歩いていた。

「はぁ〜!楽しかった〜!」

 胡桃は満足しているようだ。だがその可愛い顔に、すこし寂しげな感情が見える。

 原因は、ひとつしかないか…

「なっ、中宮くん!?」

 急に胡桃が叫ぶ。何があったのかと思い振り向くと、胡桃が驚いた顔でこっちを見ていた。

「なんで、泣いてるの?」

 泣いてる?一体誰のことを……

 言っているの?そう言いかけた時、海斗は自分の頬が濡れていることに気づく。

「あはは、ごめんね。ちょっと酔ったみたい」

「そ、そうなんだ。もう1回休憩しよっか」

「いや、陸斗たちと合流しよう」

 それは、酷く暗い声だった。


「いやー、もう少し刺激があってもよかったなー」

「もう少し刺激があるの乗ったら酔うくせに」

 子供向けのジェットコースターに乗り終えた俺たち──陸斗チームはひな先輩のツッコミを受けつつ、次のアトラクションを探していた。

 最初のコースターで完全に酔った俺の願いで、優しめという言葉では収まりきらないほど幼稚向けのコースターに乗らせてもらった。ちなみに、精神ダメージが凄いくるから、誰にもオススメはしない。

「あっ!ポルリンだ!」

「写真撮ろ!」

 この遊園地の主人公、ポルリンが現れた!もちろん攻撃も逃げもしないし、アイテムも使わない。

「りっくん!写真撮ってー!」

 えなとひな先輩がすでにポルリンの横に立っている。こういう時の女子の行動力な。

「あいよー」

 俺はえなから携帯を受け取り、カメラを起動する。それから、2人+1体にカメラを向ける。

「んじゃ、撮るぞー。はい、チーズ」

 数枚撮り終えてから、2人が目を瞑っていないことを確認しようと写真フォルダを開く。するとそこには、眩しすぎるほど笑顔の輝いたえなとひな先輩が映っていた。

 この2人ってこんなに可愛かったっけ?

「どうしたの?口空きっぱなしだよ?」

 「2人の笑顔に見とれていた」なんて言えるわけがない。適当に「あくびがでそうだった」と誤魔化した。多分事実を言ったらおこられるだろうし、バレそうでも嘘を着いたほうがいいだろう。

 そんなことを考えていた時、俺の携帯が振動する。海斗からだ。

 2人に断って電話をさせてもらう。

「もしもし、どうした?」

「急にごめんな。今から合流できるか?」

「もう!?早くね!?」

 あまりの早さに驚いて大きな声を出してしまった。慌てて俺は電話に意識を向ける。

「どうしたんだよ。何かやらかしたのか?」

「何もやらかしてない」

「じゃあなんで?」

 少し間を開けて、海斗が悲しそうな声で話す。

「理由は後で話す。今はとりあえず合流してくれ」

 真剣な声で話されてはしょうがない。合流しよう。

「わかった最初のコースターの前で」

「うん。ありがとな」

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