13話 交流戦開幕(?)
バスを降り、遊園地の入口に並んでいる俺たち兄妹。
ふたりっきりでデート…じゃなかった。
遊ぶつもりだったんだが…
「遊園地って初めて来たわ!いやーすげぇな!」
「お前がいなきゃ最高だったよ」
俺の右隣を歩いている男。海斗。
「私も初めてかな?あんまり覚えてないや」
「前にも来たことあったぞ?」
俺の前で後ろ歩きをしている女の子。えな。
「私はお母さんとお父さんとお兄ちゃんとの4人で何度か来たことあったっけ?」
「じゃあいろいろ案内お願いします」
俺の左隣を歩いている女の人。ひな先輩。
そして…
「楽しそうだね。お兄」
「ま、まぁ。みんないるしな」
俺の後ろでずっと不満そうにしている妹。胡桃。
なんでこんなに人がいるんだ?そんな質問にこの俺、陸斗がお答えしよう。
海斗曰く『いや〜中学の友達と来てたんだけど、お前見つけた瞬間こっちの方が面白そうって思ってさ〜』だとよ。この陽キャめ。
えな曰く『陸斗が楽しそうにしてたから着いて行ったらここに来ちゃったの』だとよ。来ちゃったのじゃねぇだろ!ってか楽しみにしてるの顔に出てた!?
ひな先輩曰く『友達と来てたけどさ、なんかつまんなくなっちゃって?んで、そんときりっくん見つけたから来たってわけ』だとよ。つまんなくなっちゃったの!?友達かわいそうだよ!
というかみんな軽く言ってるけど結構大変な事だからね?
あ〜、胡桃がこっちを見てる…
胡桃はずっと楽しみにしてたからなぁ〜。申し訳ない。
俺は胡桃に『ごめん!後で時間作るから!』というか目線を送っておく。
対して胡桃は『作らなかったら罰ね』という顔をしてるよ。やっべ、何としてでも時間を作らないと…
「おい、海斗」
小さな声で海斗に呼びかける。
「お願いだ。後で──」
「『胡桃ちゃんとの時間をくれ』だろ?顔に書いてるよ、お前」
ケラケラ笑って言う海斗は優しそうな笑顔を見せる。
「そっか、ありがとな」
「その代わりと言っちゃーなんだが」
恥ずかしそうに俯きながら。
「日菜子さんとの時間、俺に作ってくんね?」
「…え?まさかの?」
「あぁ、そのまさかだ」
…まじかよ。
「わ、わかった。なんとかする。ただ、問題がひとつあってだな」
2人の目が悲しそうに変わる。
「えなちゃんか」
「えなちゃんだ」
海斗の『陸斗がえなちゃんのことをちゃん付けするのってレアじゃね?録音するからもう1回!』というのを無視しつつ、話を続ける。
「どうする?あいつは誰かと一緒にいないと危ないぞ?」
数秒間の沈黙の後、海斗が口を開く。
「最初は俺と日菜子さんでえなちゃんを引き受ける。その間に、お前らは2人で楽しんでくれ」
「いいのか?」
「その後、お前達のところにえなちゃんを渡す。んで、俺達がふたりっきりって訳だ」
おぉ!海斗にしてはよく考えられている!
だが、問題がひとつ。
「俺達は『兄妹で遊ばせる』って理由でいいけど、お前とひな先輩はどうすんだ?まさか好きだからなんて言わないだろ?」
「言わねぇよ!ってか言えねぇよ!」
「じゃあどうすんだ?」
…………。
あっ、ごめん海斗。そんなに悩むとは思ってなかった。
ってかその事考えてなかったのかよ!やっぱお前は海斗だな!安心したよこんちくしょう!!
「…胡桃に言ってもいいか?」
「何を?」
「お前と、その、ひな先輩のこと」
「まぁ胡桃ちゃんならいいよ」
ダメだよなぁ………………。
……え?
「え?いいのか?」
「いやまぁ、確かに嫌だけど、胡桃ちゃんならいいかなって。胡桃ちゃんに教える意味にもよるけどな」
「そういう事か。なら大丈夫。簡単なことだ。胡桃がえなに『昔みたいに3人で遊びたい!』とでも言ったらえなは断れないだろうしな」
俺的にはいい案だと思ったんだが、海斗はどうだ?
「なるほど…」
どうだ?どうなんだ!?
「わかった。やってみよう」
よし!納得してくれたらしい。
それじゃあ、男同志の話し合いが終わったところで女子達に会いに行くとするか。
俺は胡桃を、海斗はひな先輩を誘う。えなは今回は除外ってことで…
「お兄たち何してたの?」
「男同志の秘密の話ってことで済ませといてくれ」
胡桃はよくわからなそうにしているが、空気で察してくれたらしい。
「よくわかんないけど、大事なことなんだね」
理解が早くて嬉しいよ。やっぱり胡桃は最高だな!
今日こそ俺はやるぞ!
こうして俺達の長い1日が始まった──




