12話 カップル?いえ、兄妹です
「お兄ー!」
「胡桃ー!」
はい。言いたいことは分かってます。ですがその前に一言言わせてください。
俺らは兄妹だ!カップルじゃない!
と言っても状況を説明しないと伝わらないか。
今俺は地元の駅前広場にある噴水に向かって小走りしている。目標はただ一つ。
「こっちだよー!」
俺に小さな手を大きく降っている妹、胡桃だ。
そう。俺たち兄妹は、今日!これから!なう!デートをするのだ!!
先に待ち合わせ場所に来ていたらしい胡桃は笑顔で俺を迎える。
今日の胡桃お嬢様はご機嫌らしい。太陽より眩しい…というかもう光という言葉では表せないほど輝いている。
…可愛すぎんだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
条件反射で叫ぶ俺、陸斗。
あっ、もちろん声には出さないでな。
か。
「おまたせ、胡桃。待ったか?」
「全然!今来たところだよ!」
もう一度言おう。カップルじゃないぞ!
「それじゃ、行こうか」
「どこに?」
「遊園地行きたいって言ったのは胡桃だろ?」
忘れたのか?でも胡桃が俺との予定を忘れたことは1度もないし。どういうことだ?
「よかった。お兄がちゃんと私のお願い覚えててくれて」
あぁ、そういう事か。
俺の疑問は2秒で解決された。
「早ぇ」
「ん?何か言った?」
「いや、なんでもない。それじゃあ行こうか」
こんな誤魔化しが通用するわけ
「うん!行こっか!」
…あったわ。
すっかり忘れてたけど、胡桃さんは相当な、その…あれなのだ。馬の鹿なのだ。
「胡桃は乗りたいアトラクションとかあるのか?」
「うん、あるよ。観覧車でしょ?ジェットコースターも乗りたいし、お化け屋敷も行ってみたい!」
「お化け屋敷!?」
俺がここまで驚くのは理由がある。
小さい頃にも俺は胡桃と遊園地に出かけたことがある。その時もお化け屋敷に行ったのだが、ものすごい怖がりの胡桃は叫びながら俺に抱きついて来たことがある。普通は抱きついてくる女の子は可愛い。だがあの馬鹿力の胡桃。腕の力がワニの顎並にある。
あの力を食らったら今度こそ俺の腕が天に召されるぞ!
「お、お化け屋敷はやめておかないか?」
「なに?お兄怖いの?」
あっ、やべ。馬鹿にされるなこれ。
「怖いなら私がいっしょに行ってあげようか?」
「ちっげぇよ!」
今度は声を出して突っ込みつつ、話をつづける。
「あっ、そうだ胡桃」
「どったの?」
女の子と出かける時にやれと言われたからな。やっとくか。
「ちょっと遅くなっちまったけど、その服似合ってるな」
「ふぇ!?」
いや何その反応…
「あっ、ごめん。いきなりすぎたな」
「いや!いいの、全然。お兄のために着てきたんだし……」
ほらまたそうやって俺にドキッとさせる!これだから最近の若者は…
…………。
やべ!なんか話さないと!
いつの間にかバス停に着いていたから
「えっと、この次のバスに乗るんだっけ?」
適当に話をそらしたんだが…
こんな誤魔化しが通用するわけ
「うん。青いラインの入ったバスだったよ」
…あったわ
っていまさっきも同じことしたな俺!
「サンキュー」
というか、バス調べててくれたのか。楽しみにしててくれたんだな。かわいい…
バスが来る。そして乗る。そんな簡単なことが嬉しく思えてしまった。
今までバスの揺れが大っ嫌いだったのだが、今日初めて好きになった。理由?簡単だよ。カーブの時に遠心力で胡桃が俺に抱きついてきたのだ。もう、さいこーですっ!
おっと、もうバスを降りなきゃ…
んじゃ、俺の最っ高のデート、始めようか……




