11話 作戦開始?
デート当日の天気は晴れ。雲一つない快晴だ。
待ち合わせは駅前広場に9時30分。
俺は腕時計をチラッと見る。
「うげっ、まだ8時じゃねーか」
待ち合わせの1時間30分も前だった。
どっか店に入って時間稼ぐかなぁ。
あっそうだ、この近くに俺がバイトしてる店があるな。よし、行くか。
そこは確か、8時開店だからちょうどいい。
裏路地に入り、建物の前に立つ。
木製の建物は酷くボロかった。隣のビルの陰に隠れている。しかし窓からはオレンジ色の優しい光が漏れている。
焦げ茶色の重そうな扉を開けると、内側についているベルが音を立てる。
「いらっしゃいませー!ってりっくんか」
ふわふわした店員さんが笑顔を向けてくる。と思っていたらその笑顔が消える。
「なんでそんな顔してるんですか」
「だって、やっとお客さん来たと思ったらバイトの子だよ?そりゃーガッカリするよ」
「客がいないからって馬鹿みたいなこと言わないでくださいよ、先輩」
俺をりっくんと読んでいるのは新崎 日菜子先輩。俺と同じ高校でひとつ先輩だ。
先輩はかなりアホで、前にコーヒーに砂糖を入れすぎて吹き出した事がある。
「え〜?別にいいじゃ〜ん」
「ひな先輩1人ですか?」
ちょっとした事を聞いただけなのに、嫌な顔された。
「あっ、すみません…」
そりゃそうだ。
実はこの店、俺含めて社員2人、バイト2人なのだ。ちなみに俺は、バイトに含まれる。
「私を悲しませた罰で、コーヒー1杯奢って」
ひな先輩がレジ後ろにあるソファーに座る。
「いや、そこまで言ってな──」
「奢って」
あ、圧力やべぇ…
下手な事言ったら殺されそうだ。
でもまぁ、1杯だけだったらいいか。
「分かりました。でも、1杯だけですからね」
「ケチ〜」
ひな先輩が1杯だけって言ったのに…
そんなわがま…優柔不断な先輩にコーヒーを持っていく。
「…どうしたんですか?」
ひな先輩がこっちをじーっと見てくる。
「あっ、ちょっと待っててください」
俺は先輩にミルクと砂糖を持っていく。
「えっ?あぁ、ありがとう」
「何か間違ってました?」
「…わかんない?」
先輩が何考えてるのか全くわからん。
ので、とりあえず聞いてみることにした。
「えっと、俺はどうすれば?」
「はぁ、わかんないかぁ。まあいいや。陸斗くん、ここに座って?」
ひな先輩は、左手でソファーをぽんぽんと叩く。
「ほ〜ら、はやくはやく〜」
「は〜い」
「それじゃ、お話しよっ!」
というわけで、胡桃との待ち合わせまでの暇つぶしでひな先輩と話をした。
店のこと、学校のこと、家のこと。
ついでに、なぜかひな先輩の恋愛事情まで聞かされた。
そう、聞いたんじゃない。聞かされたんだ。
「あっ、すみませんひな先輩。そろそろ待ち合わせの時間なので」
気づいた時には既に7時51分。
頭痛くなりかけている俺は言い訳、というか事実を言って店を出ようとした。
「あれ?待ち合わせ?」
「はい。8時に」
「へ〜?誰?彼女?」
ちょっ、食い付きが凄いなっ!
「い、妹ですよ。実は、前に妹をちょっと怒らせちゃって、そのお詫びに今日遊園地に行くんです」
「2人?」
「はい」
いや、なんですかその目は。
「ふ〜ん、2人きり、かぁ〜」
「2人『きり』って言い方やめてくださいよ。彼女じゃないんですから」
「彼女じゃないの!?両思いなのに!?」
「兄妹です!」
そりゃまぁ、胡桃が彼女だったらとかいう妄想はしたことあるけど。ち、違う!男子高校生ならだれでもあることだから!
「じゃあ私が彼女になってあげよっか?」
「とりあえず一旦静かにしてくれます?」
「うわひっど〜い!」
ひっど〜いのは先輩の思考回路ですよッ!
とでもいったら今度こそ命が無くなるので、これ以上は言わないでおく。
「とにかく、僕はもう行きますね」
「りっくんって次のバイトはいつだっけ?」
「明日です。胡桃のために今日休ませてもらったので」
「くるちゃんのためねぇ〜」
やめて!そのニヤニヤ顔やめて!
「僕はもう行きます!」
「またね〜」
ひな先輩の声を聞きながら店を出る。結局お客さんは誰も来なかったけど、楽しかったからいいか。
俺の立てたデートプラン、胡桃は喜んでくれるかな?とか思いつつも、待ち合わせの場所に向かう。
待ち合わせ場所は駅の噴水広場。カップルかよ。
水の音が聞こえてくる。そしてそこに、綺麗な声が響く……




