9話 思い…出した!
「ただいま〜」
「おかえり〜お兄」
元気に迎えてくれたのは妹の胡桃。
だが、その笑顔が一瞬にして消える。
「お、おじゃましまーす」
今、俺の右斜め後ろにエレーナがいる。
そのエレーナの顔を見た瞬間に、胡桃の笑顔が消えたのだ。あーこれ、ダメなやつだ…
「お、お兄?ちょっと話いいかな?」
なんか胡桃さんが怖いんですけどぉ?
「こいつも一緒じゃダメか?」
「だめ」
キッパリ断られた。
うわぁ、これ相当怒ってるな。従っておこう。
「こっち来て」
声のトーンが男よりも低い胡桃について行く。
「はい。エレーナはリビングで待っててくれ」
「え?エレーナちゃん?」
胡桃が驚いた顔で振り返る。
「知ってるのか?」
「誰?」
俺とエレーナはそれぞれ胡桃に質問。
「お兄覚えてないの?」
「胡桃、覚えてるのか?」
「覚えてるも何も、昔いっしょに遊んだじゃん」
うっそだろおい、って2回目か。
胡桃が知っている。つまりこれで、俺の『もしかしたらエレーナが過去に会ったことの嘘をついているかも』という予想は消え去った。くそぉ…
「え?くるちゃん?」
「久しぶり!エレーナちゃん!」
「くるちゃんも久しぶりだね!」
どうやら2人は仲がいいらしい。ってか、くるちゃんって呼んでるのか。相当仲いいんだな。
そのおかげか、胡桃の機嫌が治っている。
ナイスだ、エレーナ。
とか思っていたら、胡桃がこっちを睨んできた。
エレーナが胡桃に何か耳打ちしている。
それはナイスじゃないぞ?エレーナさん。
「お兄、今はいいけど後で部屋来て」
あっ、怒ってる。でも胡桃の部屋に行けるならいっか。
何を言われたかわからんが、多分さっきの自転車の事だろう。
「あ〜、暇すぎて暇すぎる」
胡桃とエレーナが2人で俺の部屋に向かったため、俺はリビングで1人だ。要するに、
「暇すぎて暇すぎる」
同じ事を2回言うくらい暇なのだ。
「胡桃来ないかな〜」
「いるけど?」
「そっかぁ」
今、胡桃の声が聞こえた気がする。幻聴とかどんだけ暇なんだよ、俺。
「どうしたの?お兄」
「どうもしないよ〜」
「壊れてる…えい!」
胡桃が俺を蹴ってきた。痛って。
…あれ待てよ?蹴ったという事は、そこには胡桃が……
俺が振り向くと、ん?という顔をしてこっちを見ている。やっぱり可愛いなその表情!
じゃなくて!胡桃がいるということは、さっきのは幻聴ではなく本物の胡桃が話しかけていた。という事になる。
まじかよ!って聞かれてたらまずい!
シスコンはバレちゃいけないんだ!
どうやって誤魔化そう…
よし、ここは!
「えっとさ、俺エレーナの事よく覚えてないから色々聞こうと思ってな」
…誤魔化せたかな?
「そうだね、どこから話そうかな?」
誤魔化せたみたいだ。
「ってかお兄、ほんとに何も覚えてないの?」
「あぁ、名前も初めて聞いたような感じだ。顔も記憶にない」
「昔ね、私たち兄妹とよくいっしょに遊んでた子がいるの。それがエレーナちゃん。家が隣で公園とかお互いの家に遊びに行ったんだけど、それは?」
「さっぱりだ」
そうだったのか。
「お兄はえなって呼び捨てにするほど仲良かったよ?」
…えな?
えな、えな。
えなえなえなえなえなえなえなえな……
───えな。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うわぁ!びっくりしたぁ」
「えなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は慌ててリビングを飛び出し、胡桃の部屋に走って行った。
大きな音を立てドアを開くと
「うきゃあ!」
と変な声をあげたエレーナがいた。
からの!
「ごめぇぇぇん!!」
土下座。
もちろんエレーナは、急に謝られて困っている。
「え?あっ、え?」
俺は顔をあげて話を続ける。
「エレーナ!お前えなだったのか!久しぶりに会ったし、お前大きくなっててぜんっぜん気づかなかったわ。本当にごめん」
「…思い…出した……?」
「あぁ、本っ当にごめん」
とにかく謝る。それ以外の方法は思いつかなかった。
これ絶対許してもらえないだろ!と思ったが、
「まぁ、思い出してくれたんならいいわ」
サラッと許してくれた。
「しっかしまぁ、お前も可愛くなったよなぁ!」
機嫌をとるためにお世辞というか本音を言ったのだが、これが何故か逆効果。
「か、かわっ!て、ばっ、ばかぁっ!」
右頬にビンタ。お前さっきも右頬ビンタしただろ。めっちゃヒリヒリする。
「なっ、なんで叩くんだよ!」
ただの質問。なのに状況を悪化させてしまった。
「自分で!考え!なさい!バカ!」
『!』の度エレーナは俺を殴ってくる。今度はグーで。
いくら女子といえど、怒ると力は強くなる。
胸のあたりを防御していたのだが、最後の1発はおでこにヒット。がはっ。
「ほんとにバカバカバカ!」
殴り終わったと思ったのにまだ続く。
おれは何とかえなの両手を掴み、止める。
「とりあえず話を聞け!」
「いやだ!バカ!アホ!マヌケ!変態!」
悪口言い過ぎだろ!ってか最初の3つはわかるけど、最後はわかんねぇ!
ガチャッ。なんかドアの開く音がしたけど気にしてる場合じゃない!
「いいから話を聞け!」
「いやだいやだ!」
「なんでだよ!」
なんでこいつ抵抗してくんだよ!
くそっ、こうなったら…
「おらっ!」
ドサッ…
力ずくで押し倒した。
「えっ、ちょっと…」
頬をピンク色に染めたえなが抵抗をやめる。
よかった、と思ったらここでまさかの展開。
「…んっ……」
えなが目を閉じて口を近づけてくる。
しかしまだ終わらない!
さらにそこから不幸の連続が続くッ!




