8話 覚えて…ない?
翌朝、胡桃のドロップキックで目覚めた俺は、普段と変わらない生活を送る。いつもどうり起き、食べ、学校へ行く。
そこまではよかった。
問題はその次。いつもどうり帰ろうとしていた。
俺は自転車通学なので、駐輪場に向かっていた。自転車に乗りペダルをこぎだそうとした時、後ろから声をかけられた。
「ちょっとちょっとー!」
高い声が聞こえたから振り返ると、金髪の少女が「乗せてー!」と言いながら荷台に乗ってきた。俺許可してないぞ?
「ちょっと!何ぼーっとしてんのよ!早く進んで!」
命令口調の少女に反論。
「はぁ?なんでだよ。ってかお前誰だよ」
「いいから!早く!捕まっちゃう!」
納得いかないが、何から逃げていることだけは分かった。そしてかなり怯えている。
少女の向いている方向を俺も見ると、黒いスーツにサングラス、タバコ姿の厳つい男がこっちに向かって走ってきた。
「しっかり捕まってろ!」
俺も怖くなって、急いでペダルをこぐ。
「きゃあ!スカートが!」
なんか言ってるが風のせいで全く聞こえない。
俺の自転車はどんどんスピードを上げていき、男が見えなくなるほど逃げた。
その後、近くの公園に向かう。少女を連れて2人で。
小さな公園に自転車を止めた俺は、ブランコに座る。
助けたお礼を言ってくれると思っていた俺は、少女の言葉に驚く。
「なんてことしてくれてんのよ!」
ベジッ!右頬をビンタされた。
…はい?
「いやいや!いきなり俺の自転車に乗ってきて逃げろって言ったのお前だろ!」
「そうじゃなくて!りっくんがスピードを出したせいで私のスカートが危なかったじゃない!」
「あぁ、そりゃー、悪い」
そう言われたら言い返せない。
…いや待て、問題はそこじゃない!
「…お前、今りっくんって…」
そう、こいつは今確かに俺の事を『りっくん』と呼んだ。つまり、こいつは俺の事を知っている。しかし俺はこいつを知らない。
「私はエレーナ。覚えてない?」
元気に自己紹介してくれたのはいいんだが、俺の思いは変わらない。
「いや、誰?」
「本当にわからないの?」
「前に会ったことある?」
「うん」
うっそだろおい。俺の記憶にないぞ!?
「いつ、どこで、なんで?」
「12年前、〇〇公園の広場で、私のお父さんが日本に出張したから」
「…ごめん、わからない」
まじでわからん。作り話なんじゃないか?と疑うくらい記憶にない。
「そっか」
「ごめん」
なんか悲しませてしまったらしいから、一応謝っておく。
「ところで、りっくん。私今日、泊まるところないんだけど」
「そう、なら近くのホテルでも探すか?」
「ホ、ホテルって!ばっかじゃないの!?私たちまだ高校生なのよ!?」
「お前が何を考えてるか知らないけど、至って普通のホテルだ!宿泊施設!」
「そ、そうなの?」
なんでそんな悲しそうな顔するんだよ。わけわからん。
「とにかく!お前が泊まるところ探すぞ」
と俺が携帯で調べようとすると、エレーナが止める。
「ああ!それがね、さっき調べたんだけど、この辺りどこも満室だったよ?」
何故目を逸らす?
疑問は置いといて、本人が言ってるんだし、多分本当に満室なんだろう。
一体どうすればいいのか。
この辺りは満室だし、だからといって遠くに行くのはお金がかかる。
迷う俺にエレーナが一言。
「こうなったら、知ってる人の家に行くしか、ないかな?」
「この辺での知り合いは?」
「えっとね、りっくんくらいしか、いない、かな?」
なんでそんなに変な喋り方になってんだ?
「はぁ、しょうがない。なら、俺んち来いよ。親も仕事でいないし」
俺の提案にエレーナは
「うん!」
と元気よく頷いた。




