第5話 革命
宿屋の部屋でミリアは歩き回っていた。
「どうする? どうすれば?」
彼女は歩きながらの方が、いい考えが思いつくのである。
「アル姉も、ルセ姉も、殺したくない…」
ハッと、ミリアは足を止めた。
ニヤリと笑う。
「…いいこと、思いついちゃった」
ラウルが声をかけた。
「なんです?」
「ここで私が、第3勢力として、双方に戦いを挑むのよ」
「はあ? アルミラ様の話、聞いてました? 殺したら自分が死ぬか、殺し続けるしかないって…」
「バカは黙ってて」
ミリアは得意満面で話を続ける。
「内戦に反対する民衆を集めて、アタシが権力を奪取する…」
「はあ? ミリア様の話、聞いてました? 権力はむなしいって」
「バカは黙ってて」
ミリアは興奮して、どんどん歩調が速くなった。
「悪いのは、国軍大臣とババアだから、この2人を処刑して、お姉ちゃんたちは国外追放。民衆の民衆による民衆のための国を作るのよ!」
ラウルはあきれ顔でいった。
「そんなに上手くいきますかね?」
「いくわよ!」
ミリアは自信たっぷりだ。
「お姉ちゃんたちにあんまり会えなくなるのは悲しいけど、これでみんな死ななくてすむわ!」
ミリアは戦った。
民衆とともに…
魔法も使って…
軍もしだいに民衆の味方になっていった…
そして…一年後…
「なんで、こうなったッ!?」
処刑台で、ミリアは心の中で叫んだ。
「3人とも火あぶりの刑!」
国家裁判の判決が下る。
被告席には、ミリアとアルミナとルセナが立っていた。
それより1週間前の、王族施設の民衆占拠で、国軍大臣とマリアナ妃は、その場で射殺されていた。
無抵抗だったアルミナとルセナは拘束され、なんだかよくわかっていないミリアも幽閉。
国家裁判の被告人として出廷させられ、あっというまに判決が下った。
いかに優秀な魔女でも、猿ぐつわを噛まされて、呪文を唱えることはできない。
「こいつらのおかげで、おれらの国はムチャクチャだ!」
「これからの世は、おれたちが魔法のない世界を、おれたちの世界を作っていくんだ!」
民衆はそう選択したのだった。
「え? え? なんでこうなるの? 天才魔女のアタシがッ!」
ミリアは心で叫ぶが、なにもできない。
3人は磔に縛られ、薪がその下に置かれた。
「火をつけろ!」
松明の火が薪に移される。
ゆっくりと炎が薪に広がっていく。
だんだんと熱がミリアに伝わってきた。
「え? マジ? これ、マジなの?」
そのときだった。
グアアア~!!!
空からドラゴンが飛び降りてくる。
「うわあ! 逃げろッ!!」
民衆は一目散に散った。
ドラゴンは口ばしで3人の紐を切ると、背中に乗せて、飛び上がった。
「なんてことだ! 魔女どもめ!」
去っていくドラゴンを見つめながら、民衆たちは地団駄をふんだ。
「ハァ、ハァ、助かった…」
猿ぐつわを外したミリアがいった。
ドラゴンの背中には、ミリア、アルミナ、ルセナ、そしてラウルがいた。
驚いたミリアが叫ぶ。
「ラウル! アンタ、魔導士だったの?」
ミリアはさらに、しどろもどろになって
「しかも…こんな…アタシよりすごい…」
事態が把握できないミリアに、アルミラが冷静にいった。
「ていうか、パパでしょ」
「え? オヤ… パパ?」
「これだけのことができるのなんて、パパだけでしょ」
「ラウル! アンタ、オヤ…パパだったの!」
ラウルが笑っていった。
「ミリア、オヤジでいいよ」
ラウルが続けた。
「正確には私ではないけどね。国難が迫ってきたら、発動するように掛けておいた魔法だよ」
ミリアのいた田舎町の家に着くと、ラウルは呪文でドラゴンを消した。
3人を前にして、ラウル、いやエリオが話し始める。
「地位もなにもかも失ってしまって、おまえたちには悪いと思っている」
アルミラがいった。
「よくいうわよ。生きてるときから、そうしたかったけど、ママのせいでできなかったんでしょ?」
照れ臭そうに、エリオは頭をかく。
「すまん。柄じゃないんだよ。ああいうのは… 国王の息子に生まれたけれど、私は魔法が好きなだけの人間だからね」
ミリアがいった。
「そうだったの?」
「ああ、それでも、やらなければならないこともあるんだ。あのときは、それがいいと思って」
エリオはまた頭をかいた。
ミリアにはそれが懐かしかった。
「でも、それももう終わりにした方がいい時期に来ていたんだ。おまえたちには苦労を掛けてすまなかった…」
エリオはミリアを見つめていった。
「ミリア、おまえには特につらかったろう」
「まあ… それほどでもなかったけどさ…」
空の一角の雲が渦を巻き始めている。
エリオはため息をついていった。
「じゃあ、そろそろお別れだ」
ミリアが聞く。
「え? どういうこと?」
「これはあくまで仮の姿、ことが終われば、今度こそ本当のお終いだ」
「え? なに? 意味わかんない?」
「私は死ぬんだ」
「なんだよ! 一度でも悲しいのに、なんで二度も悲しい目に合うんだよ!」
「すまん。でも、行かなくては」
「なんでだよ! アタシ、また1人ぼっちになっちゃうよ。オヤジがいなくちゃ、魔法の話をするやつもいないし」
「そんなことないさ。今度は姉さんたちがいるだろ」
3人に向かってエリオがいった。
「ゼロからのスタートだけど、これからは地道にやっていくんだぞ。魔法もあるんだから、そう苦労することもないだろう」
空を見ると、渦を巻いていた雲から光が差してくる。
「時間だ」
エリオが光に包まれると、エリオの体が光だした。
「おまえたち…愛しているよ…」
光りが消えると、エリオ、いやラウルはその場に倒れた。
「おい! おい!」
ミリアがラウルの体を揺すると、彼は目を覚ました。
「ん? ミリア様?」
とぼけた顔のいつものラウルだった。
「おまえ、どこからラウルなんだ?」
「一応、記憶はあるんですよ…」
「ふ~ん」
「っていうか、だいたい私だったんですけどね」
「じゃあ、あの失礼ないい方も…」
「え? あのときは…エリオ様かなあ…」
ラウルの目が泳ぐ。
ミリアがラウルをにらむ。
さらに、ラウルは目をそらした。
「ウソつけッ!」
ミリアはラウルを蹴飛ばした。
FIN
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