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引きこもり魔導士の王国再生  作者: きだおさむ
1/5

第1話 3女

「あのぉ…」

青年は、農夫に声をかけた。

しかし、農夫は作業を続ける。

「あのぉ!!」

「ん?」

声が届いたらしく、ようやく農夫は青年を振りかえった。

「この近くに魔導士の方がいると聞いて…」

農夫は胡散くさそうな目で青年を見る。

「さあ、どうだったかな…」

その目に気づいて青年は、言い訳をするようにいった。

「私は、先生に仕事を頼みに来たんですが…」

すると、農夫はニヤリと笑っていう。

「ほう…おまえさん、あの『先生』の知り合いかね?」

「いえ、会ったことはないんですが…腕がいいとは聞いてます…」

農夫はさらにニヤリと笑って、

「じゃあ、気を付けたほうがいいよ。口が悪いからな」

「はあ、口が…」

「うん、めっぽう悪い。でも安心しな、腕はいいから。見てみなよ、ウチの畑…」

そういうと農夫は自分のまわりを手で示した。

小麦がたわわな実をつけて揺れている。そんな畑が広がっていた。

「ぜ~んぶ、あの先生の肥しのおかげさ」

青年は見渡していう。

「なるほど、たしかに素晴らしい腕ですね」

農夫は青年をじっと見るといった。

「ところでアンタは何者だね?」

都会の服装をしている。

政府の関係者といったところか。

「私は…まあなんといったらいいか…無職で…」

「なに? アンタ無職なの?」

「はあ…いまは…」

「今はってことは、以前は何をしていたんだい?」

「以前は…軍人をしていたんですが…」

「軍人?」

「ええ…そうです」

「なんだか、首都では騒ぎがあるらしいね…」

「ええ、それがイヤでやめてしまったんです…」

「ほう? それで?」

「それで…まあ…」

「うん? どうした?」

青年は気付くと、ハッとなった。

たまたま出会った農夫に、どこまで打ち明けようとしているのか。

「そんなの、どうでもいいじゃないですか! とにかく! 魔導士はどこにいるんですか?」

「…じゃあ、案内してやろう」

「え? でも、畑仕事はどうするんですか?」

「べつに今日じゃなくてもいいんだ。アンタを先生の所に連れて行ってやるよ」

「あなたがいいなら、べつにいいですけど…」

「勝手に教えて、先生に何かあったら、寝覚めが悪いからな…」

「私はそんな人間じゃありませんよ!」

「だったら、付いて行ってももいいだろう」

道具を畑の脇に置くと、農夫は山に向かって歩き出した。

「で? 首都の騒ぎはどうなんだい?」

「ひどいもんですよ。軍は軍、反乱軍は反乱軍で、好き放題。無法地帯です」

「そうかね。こっちはまだ治安には影響はないけどね…」

「誰も民衆のことなんか、考えていない… これはもう国じゃない…」

「ふうん… それがイヤになったのかい?」

「そうです。それで…ボクは…」

青年は思いつめた顔をしてなにかを告白しようした。

しかし、急に農夫は立ち止まると、山の道を指さした。

「ここからは一本道だ。道なりに行くとオンボロの家がある。そこが魔導士先生の家だ」

青年はキョトンとした。

「家まで案内するんじゃないんですか?」

農夫はニヤリとするといった。

「いや、ワシも仕事があるのを忘れていた。アンタについていくのも面倒だ」

「まあいいですけど…もともと1人で行くつもりでしたし…」

というと、農夫は来た道を帰っていった。

それを見送った青年は「勝手だなあ…」と独り言をいい、歩き出した。

そこから結構な距離だった。

山道は急になり、彼は汗が止まらなくなった。

本当にこの道でいいのかと迷い始めたものの、今さら戻ることもできない距離に来ていた。

農夫が来なかったのもうなづけた。

迷い始めてから、さらにその倍ほどの時間を歩くと、人の手が入った生け垣らしい物が見えてきた。

奥に家もあるようだ。

周りに人の気配はない。

ひょっとして、農夫にだまされたのではないだろうか…と青年は思った。

とはいえ、ここまで来てこのまま帰るわけにもいかない。

「あのぉ…」

半信半疑で声をかける。

「すいませーん…」

反応はない。

「あのぉ!」

一歩中へ入っていく。

「先生…いますか?」

もう一歩中へ。

「先生?」

さらにもう一歩…

そのときだった。

頭に激痛が走る!

気を失って倒れる瞬間になんとか振り返ると、そこには木の棒をかかえた女性が立っていた…


…青年の目が覚めると、あたりは真っ暗。

夜かと思ったら、目隠しをされているらしい。

さらに自分が縄で縛られていることもわかった。

「ちょっと! なんだ? これ?」

「黙れ!」

男の声がする。

「クソ泥棒めが!」

青年は抗議する。

「ボクは泥棒じゃありません!」

「黙れ! 自分で泥棒っていう泥棒がいるか!」

状況が読めないが、自分は泥棒と間違われているらしい。

何とか弁明せねばと気ばかりあせるが、言葉が見つからない。

…そもそも、それをどうやって証明するのだ?

「ボクは泥棒じゃありません?」

間抜けだが同じ言葉を繰り返すしかない。

「じゃあ、なんだ?」

「魔導士の方にお願いがあってきたんです。ミリア様はいらっしゃいますか」

「なんで名前知ってんの?」

男が驚いたような声でいった。

「ご存じなんですか?」

「もちろん知ってるわ」

男が答える。

なぜか女性の口調で。

「えっと…もしかして…本人?」

「え? あ…そっか? え? どうしよ?」

男がとまどった。

魔導士は女性だと聞いていたが…

農夫がいっていた口が悪いとは、男のような声をしているという意味だったのか?

「用は何?」

男の声だ。

「お願いしたいことがあるんです」

相手の返事はないが、続ける。

「エリオ国王が亡くなられてから、政権は長女のアルミラ王女に移行されました。しかし、元国王妃のマリアナ様は、国軍大臣のブラス将軍、次女のルセナ様と反乱軍を組織して内乱を始めます。軍は親王派と将軍派に分かれて戦い、首都は戦火に巻き込まれ、民衆は家を失い、路頭に迷っています」

「で? どうしろと?」

「国王の3女であるミリア様に、この国の争いを鎮めていただきたいのです」

「やだよ」

男の声が答える。

やはり魔導士はミリア様だったのだ。

「アタシにはカンケーない!」

男の声が続ける。

「魔法ならアタシが一番なんだ! なのにオヤジったらアタシを後継者に選ばないで、アルミラなんかを選ぶからこんなことになったんだ。ザマーミロだよ」

男の声はどんどん興奮してくる。

「アタシには、『おまえは魔法をしっかり研究しろ』なんていってさあ、研究なんてジミなことばっかやってられっかヨ。魔法の実力は3姉妹一なのに! 次期国王はアルミラだ、だって! なんだそれ!」

青年が、ふとつぶやく。

「いや、その性格じゃ国王はムリでしょ…」

「なあああにいいい!」

ミリアが青年をつかみ上げる。

「おいコラ、ナメんなよ」

青年がしぼりだすような声でいう。

「イヤ…ムリでしょ…」

ミリアは、青年の目隠しを取った。

「おまえ、この声が地声だと思ってんのか?」

「はあ…」

「ちがうわ! 魔法で声色変えてんだよ! 聞けや」

ミリヤが呪文を唱える。

「ほら! 美しいだろが!」

たしかに女性の声ではある。美しいといえなくもない。

「問題はそこじゃないんですよ…」

「はああ?」

ミリアには、まだわからないようだった。

「ちなみに、なんで男の声にしてたんですか?」

「女だとバレないようにだよ」

「じゃあ、なんで明かしたんですか?」

「もうバレてるみたいだし、いっそ記憶消したほうが早いなと思って…」

「そういう『雑なところ』です」

「アタシ…『雑』なのか…」

「ええ、壊滅的に…」

「壊滅的だって?」

「はい…」

「くっそー! おまえ殺して、アタシも死ぬぅ!」

「雑! 雑!! 雑!!! そこです! そこ! 根本的に生まれ直してくださいよ!」

「うるせーッ!!」


青年が目覚めたのは、ミリアが青年の首を絞めて気絶させてしまって、魔法で復活させてからだった。

「魔法の研究…ジミすぎる…これで一生終わるのは悲しすぎる…」

ミリアがつぶやく。

青年はふと思いついた。

「なら、この戦乱を治めれば、民衆はあなたを称賛するのではないですか?」

ミリアの目がキラリと光る。

「そうかな…」

青年は手ごたえを感じて、畳みかける。

「あなたにしかできないことですよ…」

ミリアの目がまたきらめく。

「そうかな…」

青年がいう。

「みんなが称えますよ。ミリア様、ミリア様って…」

「そうかな…」

ミリアの顔は、笑みではち切れんばかりだ。

青年の肩を叩くといった。

「おい! おまえ名前、なんていうんだ?」

「ラウルです」

「しょーがねえな、ラウル! いっちょやってやるか!」

「ありがとうございます! ミリア様!」


ミリアは、必要な荷物をまとめるといった。

「そろそろ行くか…」

ラウルが問う。

「村人に挨拶しなくてもいいんですか?」

「いいんだよ。アイツらに泣かれても困るし」

泣くほど別れを惜しむかな、とラウルは思ったが、ミリアがそういうなら、と挨拶しないまま家を出ようとした。

そのとき、農夫が顔を出した。

「おう、先生」

青年はそれが先ほどの農夫であることに気づいた。

「いや、一応見に来たんだよ。まあ大丈夫だろうとは思ったけど…」

そしてミリアに声をかけた。

「なんだい? 先生、出かけんのかい?」

「ちょっと、首都に行ってこようと思って」

「ああそうかい。今まで世話んなったなァ。まあ、気いつけて、行ってこいや」

「はい…」

「またこっちに帰ってくんのかい?」

「それは決めてないけど…」

「じゃあ元気でやってけなあ」

別れはあっさりとしたものだった。

農夫はけろっとしていた。


村を出ると、ラウルがミリアに声をかけた。

「感慨はありますか」

「……」

ミリアを見ると、涙がとめどなくあふれている。

「えっ? なんか泣くポイントありました?」

「なんだよ? 泣いちゃ悪いかよ!」

「いや…いいですよ…泣いても…」

ミリアの涙は、けっこうな距離まで続いた。


                 FIN

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