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忘れ者  作者: 芦屋奏多
宝探し
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宝探し-7 プレイヤー恵美 矢印

 安心と驚きで心がない交ぜになった。


 目の前に懐かしいとさえ感じる藍子がいる。まだ、藍子と別れた時刻から半日しか経っていないのに、永遠に近い時間を一人で彷徨っていたかのような不安感で満ちていたからだ。


 藍子はいつも通り学校で決められた長さのスカートに、薄く施された化粧をしている。それが安心へと繋がった。


 私との再会に藍子はただただ驚いていた。驚くのも無理はない。私も同じように驚いていたから。


 机を相席しながら、私は食事を摂った。藍子は食後のシェイクを注文し、私はハンバーガーとコーラを注文した。


「ほんっと、なんでこんなところに! 意味わかんない事言われるし、意味わかんない世界に来させられるし、暑いし、ほんっと意味わかんない!」


 コーラを一口で半分まで飲み、そのままの勢いで吐き出した。世界も季節も藍子がこの場所にいる事も、イコールで繋がるものがない。


「で、なんで藍子はこんなとこにいるの?」


 尋ねると藍子は首をかしげる。


「なんでって言われても……」


 藍子は困ったように笑う。いつもの姿が憎らしくも安心させてくれた。


「あっ、その青い花!」


 私が指を差しながら言うと、藍子は横の椅子に置いていた花を持ち上げた。


「ああ、この花? なんか、ここに来る前におばあさんに貰ったんだけど」


「それそれ! 私もここにくる前におばあちゃんに貰った。あっ、っていう事は、あの男の子にも会ったの?」


「え! 恵美も会ったの?」


「会った会った。なんか、負けたらなんか貰うけど、勝ったらなんか上げるよ、って言われた。絶対そう言ってた。うん」


 藍子は私の言葉に苦笑している。そんなに変な事言ったかな。


「そんな感じだったかな。わからないけど、おばあさんは大事にした方が良い……、みたいな事を言ってた……、と思う」


 あいまいに笑いながら話す。藍子はいつもこの調子だ。


 ごまかしたり面倒な事が話題になると、嘘笑いを浮かべる。藍子は私にはわかっていないと思っているかもしれないけど、そんな事最初からわかっている。


 ちょっと狡くて、適度に関わりを保って、嫌われないような笑顔を持っていることなんて、全てお見通し。当然、本人には言わないけれども。


「で、藍子は見つけた?」


「見つけたって何を?」


「だーかーらー、鬼! このゲーム……でいいのかな? とにかく鬼!」


 藍子はまたもわざとらしく笑った。


「えー、見つけてないよー。恵美は何か変わった事とかあった?」


「んー、アプリみたいなものを見て、矢印が動いたから怖くなっちゃって。だから、ここまで来たんだ。そうしたら藍子がいて。びっくりしちゃったよー」


「え……。って事は、やっぱりこのアプリの矢印って恵美の事だったんだ」


 藍子はスマホを凝視している。私もポケットからスマホを取り出して確認する。赤い矢印と青い矢印が重なっている。矢印は私と藍子の座っている場所でぴったりと止まっていた。


「そうだとしたら、この赤い矢印は自分で、青い矢印は自分以外のプレイヤー……、って事……、なのかな?」


 スマホから視線を私へ向けた。


「わかんないけど、私が動くと赤い矢印が動くよ。だから、一番近い矢印を目指してきたんだもん」


「そっかぁ。あっ、じゃあ、これは見てないの?」


 藍子はテーブルの上に置いていたチラシを差し出してきた。よく見ると、『取扱い説明書』と書かれていた。


「なにこれ! 怖っ!」


 黒に青の花に赤い文字って趣味が悪すぎる。狙って作っているとしか思えない。


 でも、書かれている事はこの世界の異常さを再認識させるようなものだった。


 やっぱり、この世界は存在しているのかもしれない。そんな気にさせた。


「恵美はどう思う?」


 藍子が尋ねてきた。不安そうな表情をしている。


「私も……よくわかんない……」


「そっか……」


 二人で意気消沈してしまった。だって、この世界が本当に在るのか、

 夢なんじゃないのか、色々と巡っては消えていく。正解もない。だから、真実なんて見つかりっこなかった。


「え……? あれ……?」


 藍子が何か呟いた。スマホを覗き込んでいる。真剣な表情が深刻なもののように見えた。


「どうかしたの?」


「いや……、あの……、誰かがこの場所に向かってきている……」


 私もスマホを取り出して『各駅停車場所』のアプリを起動する。


 私の赤い矢印と藍子の青い矢印が重なっていて、そこに青い矢印が近づいてきている。


 青い矢印はもう一つあり、その矢印は少し離れた場所にあった。


 見ていると、私たちの真後ろまで迫ってきた。


 振り返ると、和志が立っていた。

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