お化け長屋という落語の二次創作
2012年8月28日に作成したものを手直しして投稿しています。
私はある家を訪問した。
”君の家と同じだよ。玄関がn坪で……”
このような口調で、訪ねた先の人はその家の間取りを説明する。
この世界の住居は規格化されていて、おそらく私の家とこの人の家は、全く同じ構造をしている。
そしてどうやら私は、そこに住むことになっている。
その家は私の家の前の道路から区の北にある欅の木のふもとまで行って、
道なりに曲って、蔦と日蔭にとざされた、螺旋の坂道を下ったところにある。
”この家には怪談が伝わっている”。
間取りの話が終わって、人は縁側の私のとなりに腰掛けて語り出す。
私の家と全く同じ構造の縁側に、同じ角度の夕陽が差し込んでいる。
二人の影が台所の方へ伸びている。
怪談は短い。この家で人が死んで、それが亡霊になって出るせいで、
ここに住む人は三日と立たずに出ていくのだという、それだけの筋書き。
怪談は化けて出てきた住人の絶叫で幕になるので、その人は叫び、語り終わった。
私は夜になって語られた怪談の通りに事柄を体験した。
怪談は化けて出てきた住人の絶叫で幕になるので、亡霊は叫び、語り終わった。
近隣に住んでいるらしい男が叫び声を聞いて駆けつけてきた。私は男と縁側に腰掛けて語り出す。
私の家と全く同じ構造の縁側に、同じ角度の月光が差し込んでいる。
二人の眼は眠る植物の庭を見ている。
事情は短い。この家で人が死んで、それが亡霊になって出るせいで、
ここに住む人は三日と立たずに出ていくのだという怪談を聞き、それに構わずに私が住んだせいだと言った。
怪談は化けて出てきた住人の絶叫で幕になるので、私は叫び、語り終わった。全く同じ叫びだった。
男は、私の芝居を疑った。男の家はこの家の前の道路から区の北にある欅の木のふもとまで行って、
道なりに曲って螺旋の坂を下ったところにあるという。この家と同じでしょう。
八畳間がひとつだけあって。。。というふうに、私は家の間取りを推測する。
この世界の住居は規格化されていて、おそらく私と男の家は全く同じ構造をしている。
そしてどうやら、私はそこに住むことになっている。
男は自分の家に帰り、夜になって語られた怪談の通りに事柄を体験した。
怪談は化けて出てきた住人の絶叫で幕になるので、亡霊は叫び、語り終わった。
男は、今度は疑わなかった。
男は家を出て、家の前の道路から区の北にある欅の木のふもとまで行って、
道なりに曲って螺旋の坂を下っていった。
怪談が終わった。私は縁側で人のとなりに腰掛けて黙っていた。
私の家と全く同じ構造の縁側に、
全く同じ角度の夕陽が差し込んでいる。
二人の影は暮宵の中にある。植物の匂いが漂う。
・男は文字通り男性。ほか性別記述のないものは女性。よって私は女性。
・留守番をする私と、外出して家を訪問する私がいる。これはなにか偶然か、記述の間違いによって分裂する。
・台所の方は、仏間の畳でもある。
・怪談は短く、(簡単な筋書きをしている)
・語り終わった(階段は終わった)
この話に登場する全ての家とこの話に登場しない全ての家は、一つ前の家の前の道路から区の北にある欅の木のふもとまで行って、道なりに曲って、蔦と日蔭にとざされた、螺旋の坂道を下ったところにあります。
家は任意の数だけ存在します。