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セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile2 狂へる遊戯 ~Strawberry Fields Forever~
96/129

42 「鬼畜」


 PM4:16

 トンプソン邸 客間



 夕陽の差し込む部屋。勝手。

 そこにある扉が開かれて、1人の華奢な少年が入ってくる。

 その丸顔は幼さを残すが、座った眼差しは強制的な大人を演じていた。


 少年は客間の扉を開けると、ソファに座るロイスの前へと立った。

 ロイスは眼前の相手を見て、笑いも怒りもしていない。


 あるのはただの能面。感情のない顔。


 「今日、ここに警察がきた」


 目の前にいる少年もまた、表情を変えない。

 そう、彼こそシレーナ達が探していたジョナサン・バーンだった。


 「あれこれ聞かれたよ。家族の事も、こないだの楽しい食事の話も」


 ジョナサンは、口を開かない

 

 「正直、不愉快だったよ。見ず知らずの他人に、家族の事を聞かれるのってさ」

 「……」

 「警察は、お前の事をも聞いてきた」

 「……」

 「お前、一体何をしたんだ?」

 「……」

 「言葉分かるか? 何をしたんだ?」


 それでも、口を開かない。

 ただ、眉にしわを寄せる。

 怒り…ではなく、恐怖から耐えるために…。


 「質問を変えようか?」


 ソファに座っていたロイスは立ち上がると、マントルピースの方へ。

 傍に立てかけた、火かき棒を取り上げる。


 「どうして、警察に疑われるような事をしたんだ?」

 「…」

 「なあ?」


 すると、ロイスは足を思いっ切りあげると、ジョナサンの鳩尾を押し込むように蹴り倒し、背後の椅子に強制的に座らせる。


 「どうして、警察に、疑われるような、事を、したの?」


 静まる空気。

 刹那。

 鈍い音と共に、火かき棒が幼い少年の頬を切り裂く。

 

 「父親が聞いてんだ! 答えろや! なぁ!」


 間髪入れずに、今度は頭。

 傷から噴き出た血が、棒の遠心力で、棚へと付着する。


 「ぶち殺すぞ! テメエ! コラ、カス!」

 

 それでも手は止まらない。

 制御不能、否、快楽。


 「何のために」


 右頬。


 「虫けらみてぇな、。テメエによぉ」

 

 腹。


 「カネ出して」


 左肩。


 「養ってやってんか」


 頭。


 「分かってんのか? あ゛あ゛んっ?」


 ジョナサンは苦悶の表情を浮かべながら倒れ込む。

 そこに腹を思いっ切り蹴り上げるロイス。


 「誰が寝ていいっつったぁっ!!」


 口を切ったのか、血を吹き出す。


 「ったく…金は捨てるわ、家に傷つけるわ、血で床汚すわ…どうしようもねえゴミだな。お前。俺の会社の株下がったら、お前の所為だからな?」

 「ご…めん…な…」


 仰向けになり、謝罪の言葉で、ようやく口を開いたが


 「ごふっ!」

 「すげえや、初めて見たぜ。 謝罪する雑巾なんてさぁ」

 

 ロイスはジョナサンの顔を思いっ切り踏みつけると、そのまま頭をスライドさせ、ジョナサンが床に吐いた血を、その髪の毛でぬぐい始めた。

 まさに、言葉の通り。

 彼にとって足元にいるのは息子ではない。

 ただの雑巾である。


 「ほらよ。雑巾は雑巾らしく、床を綺麗にしろ」


 左右に動かされる左足。

 それに併せて無抵抗の小さな頭が揺れる。

 まだ10代になって幾分ない、幼い体が、無造作に扱われる。

 

 「ほら、お母さんも見てるぞ」


 ロイスに言われて横目を扉に。

 彼の母親もまた、無表情に我が子を見下ろしていた。

 まるで犬の糞でも見てるように。


 「ほら、もっと、見てもらえよ。こんな風にしか、人の役にたてない息子の姿をさ」

 

 そして母親は、ドアの向こうの闇へと消えていく。

 忘却。幻のように…否、その方が彼にとって救済だっただろう。

 この場面に救済など必要ない。もしそのような措置が必要であるならそれは、徹底した心と体の破壊のみである。

 少年のためであり、母親のためであり、そしてまた、この“反吐が出る惨劇”を臨む諸君のために。


 ロイスは膝を立てて、ジョナサンの前髪を掴み上げた。

 

 「おう、綺麗に拭けたか?」

 

 拭けるはずもなく、血は髪によって撹拌されている。

 黒い髪には血がべっとりと付着している。

 それでもロイスは、手を緩めない。

 ジョナサンの頭を、横にあるテーブルの角に叩き付ける。


 「使えねえ雑巾」


 ため息を一つ。髪を掴んだままジョナサンを玄関まで引っ張ると、右手を放した。

 フローリングに叩き付けられた彼の目の前に、ブルーバードのキーと水筒、紙幣一枚を放り投げた。


 「どうすればいいか、分かるな?」


 虫の息と言っても過言ではない少年は、首をゆっくりと横に振った。


 「今からお前は、親孝行をするんだ。分かるか? お父さんとお母さんを守るために、死ぬんだ」

 「……」

 「そのお金で、ガソリンとライターを買え。そんで、どこでもいいから車と一緒に火をつけて死ね。

  此の国の警察はアホばっかしだからな。死んだとしても自殺で処理、なんにも捜査なんてしやしないさ」

 「……」

 「聞いてきたところで、こう答えてやるから安心しろ。

  “ジョナサンは、突然家を出ていった。今までありがとうって、涙を流しながら”ってな」

 「……」

 「お前は所詮、死ぬことでしか役に立てないクズなんだよ。それがお父さんと、お母さんのためだ。理解しろ。な?」


 ロイスは猫なで声で、そうジョナサンに言うと頭を再度蹴り上げて、玄関を後にする。

 ステンレスの水筒に映る男の後ろ姿。

 ジョナサンはそれを、放心しながら送り出すしかなかった。


 「僕は…カス…」

  

 呟く少年の手が、紙幣を強く握りしめていた。




 ◆


 その日、全ての手札が裏返った。

 

 シャツ、暴走族、少女…


 だが、最大の手札は突如として焼き消える。


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