表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile2 狂へる遊戯 ~Strawberry Fields Forever~
81/129

27 「狩り」

 PM7:43

 朱天区ヤンズ地区6丁目 市道58号下り線


 片側は商店の閉まった暗い水瓶市場。もう片方は光と爆竹溢れる住宅街、李玲地区。ここを東へと進めば、南区との区境に達する。

 陰と陽、そう連想させる対極は、灯りさえまばらで、街灯もない路地が続く。

 そんなダークネスを切り裂くのが、切り開かれた大地の下を南北に走る市道58号、通称“朱天路”をひっきりなしに自動車が行き交う。

 市場と住宅街を繋ぐ連絡橋の下に、スキール音を立ててケンメリGTRが停車した。

 傍には連絡橋を結ぶ階段と、古びた公衆電話。そして――。

 

 「大丈夫か!」

 

 時代遅れの白熱電球がたかれたボックスの中で、横たわる少年。

 鼻が変形する程に殴打され、口や右目が腫れあがり、顔面が血まみれに。

 「ヒュー…ヒュー…」

 彼の手元には歯であろうか、白い硬化破片が散らばっている。もう、言葉すら話せなくなっていた。


 「ひどい…」


 その言葉が、その行為が、ガーディアン…警察官として、どれだけ無礼なことか貴也は、頭では理解していた。

 それでも…これは、あんまりだった。

 目を背けたい。

 否、今は最善の行動をするまで。呟く時間すら惜しい。

 しかし、顔面を殴打され大量出血。元々、頭部は出血が多い部位ではあるものの、ハンカチで止血…とはできない。


 「どうすればいい?」


 顔を上げると、シレーナが耳からスマートフォンを離したばかり。


 「今さっき救急車を呼んだ。タカヤは、その到着を待って。最寄りの消防署からなら、5分以内に到着するはずだから」

 「シレーナ?」

 

 その口調に、貴也はトークンモールで感じたものをフラッシュバックさせた。

 手にはH&K USP。しかも銃身下部の溝に、ライトを装着していた。最早、一介の警官が持つ銃ではない。

 彼女はそれを右手に構えると、左手でメガネを外し、ブレザーの胸ポケットにそうっと挿す。


 「ワタシは行く」

 「行くって、どこに?」


 すると、生気のない瞳を城壁のように積み上がった建物群へと、見上げさせる。


 「臭うんだよ。血と精の混じった暴力の臭い。犯人はまだ、ここにいる」

 「シレーナ…」

 階段をゆっくりと、操られるかのように一段一段昇っていく。

 だが、彼は自らの手を強く握り、叫ぶ!

 

 「シレーナ!」

 通過する喧騒からでも、よく通った声に彼女は足を止めた。

 「…殺すなよ」

 「…私を…甘く見ないで」

 鼻で嘲笑した彼女は、再び足を動かし消えていく。

 後姿を、貴也は見届けるしかなかった。


 ◆


 連絡橋に到着。

 中華風の赤い欄干が、漆黒の中でもはっきりと臨める。


 鼻で呼吸し、口で微笑む。

 「いい臭いだ。とぉってもきつい…クーナンじゃないのが残念だな」

 セーフティーを解除する音が、暗闇に響く時。堰を切るようにその一言は狂気を帯びた!


 「さあ、狩りを始めようかぁっ!!」


 ゆっくりと地面を握りしめる一歩。

 二歩、三歩…加速!

 夜風に同化しそうな勢いで、メインストリートを駆け抜けていく。

 足元を照らすのは、銃に固定されたライトのみ。

 赤や黄と発光色の店構えにテント、中国語の看板が立ち並ぶ大きな道を、銃を構えた少女が通り過ぎる。それに気付く者も、振り返る者もおらず。

 

 挿絵(By みてみん)


 突然停止。

 四つ辻で、猟犬のように左右の路地を嗅ぐように確認すると、右折。狭い小路を今度は走り始めた。

 ストレイキャット。

 その言葉が一番…否、猫というより中身は虎。血の臭いを本能的に嗅ぎ付ける猛獣。


 足が止まる。

 人の気配。


 向こうの突き当り。影。

 息を殺す。目を細める。引き金に指を添える――勝負!

 

 無人。


 更に先の突き当り――狙う!

 「!!」

 そこには、懐中電灯と銃を手にした…

 

 「タカヤ!」

 「シレーナか!」

 「どうして命令を無視した! ここはアンタのくるところじゃ――」

 「もう分署の警官が到着してる。被害者の方はそっちに任せた。イナミさんの指示でもうすぐ、市場周辺に包囲網が敷かれるそうだよ」


 シレーナは腕時計を覗き込む。

 「到着から3分…いつもながら、あっぱれな采配ね。で、タカヤ。アンタなら、こういう時にどうする?」

 「え?」

 「もし、アンタが犯人なら、どう動くのかって聞いたの」

 

 そんなの――。

 貴也は視点を真っ直ぐ見定めたまま、止まった。

 フリーズという表現が似合うくらいに。

 

 そんなの、簡単な答えのはず。

 でも…どう動くのか。

 瞬時に、そして熟成して導き出した貴也の答えは1つしかなかった。いや、それ以外の選択肢が見当たらない。

 

 「犯人は、自らの過ちを悔いて自首するはずだ。何故なら、逃げ道はないし既に人を殺している。何より…犯人も人だから…」


 そんなはずはない、はず。

 どれだけページをめくっても、その章は見当たらない。

 白紙。白紙。また白紙。

 ああ、やっぱり…やっぱり俺は…。


 「いやあああっ!」


 夜を、意識を切り裂いた、女性の悲鳴。

 まさか!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ