表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile2 狂へる遊戯 ~Strawberry Fields Forever~
75/129

20 「スリー・メンズ」

 PM4:40

 ゼアミ区 ゼアミ分署


 

 地区東部、三重塔を構える蓮覚寺(れんかくじ)裏手にある瓦屋根の近代ビルが、ゼアミ分署である。

 学校が終わり、ラクスジェンを飛ばしてやってきたラオとメルビン。

 捜査本部に入ると、刑事課の西野が2人を出迎えた。

 

 「先ほど、重要な防犯カメラ映像を、捜査員が入手しました」

 「本当ですか? 場所は?」

 「事件現場から1キロ離れた場所にある防犯カメラです。個人宅が空き巣対策で設置していたものなんですが、そこに現場から東方面へ逃走する不審なバイクが収められていたんです。

  昨日は、事件発生当時、住人が桜綿杜市(サクラメントシティ)へ旅行中で、カメラ映像の提供が、今日の午後になってしまったんですけど…」


 その瞬間、2人にはピンとくるものがあった。

 現場周辺では、事件の前後、改造バイクの轟音が聞こえていたというのだ。


 「現在、ウチの捜査官にも、回収した映像の再確認を行わせています。

  そこで、お2人にも映像の確認を…もし、これが暴走族なら――」 

 「ええ。我々M班も、シティ内の全ての暴走族、ワンパーセンターの情報はインプットしてあります。早速、見せてください」

 

 捜査本部に入ってパソコンに前に立ったエルとメルビン。

 モニターに映ったのは、住宅に備え付けられたと見られるカメラ映像。軽自動車と4台の自転車、それが置かれたカーポートの向こうに生活道路。

 「これです」



 そこに流れた映像は一瞬。それも、1秒ごとに写真を撮影するコマ撮りタイプだった。

 画面右から現れたバイク…らしき影。速度があって鮮明には捉えきれなかった。その上、庭の垣根や車の位置によって道路が隠れている関係で、撮影されている範囲も、思った以上に狭かった。

 バイクの全景が、ギリギリではあるが正確に抑えられている。これだけでも奇跡と呼ぶに近い。

 車体は白。乗ってる人物はノーヘルで黒髪、服も髪の色と同じく黒。文字通りの黒ずくめ。

 次のコマでは、もう姿はなく――。


 

 「時刻は午後5時42分26秒から30秒の間。被害者の死亡推定時刻内だが。どう思う、メルビン」

 振ったラオも分かっていた。

 これで、全ての結論を導き出すのは難しい、と。

 でも、手がかりはある。


 「服装、背格好からして男性、彼は僕たちと同じくらいの10代後半と見るべきだろうね。それにノーヘル、背もたれをつけた改造車。健全なライダーじゃないのは確かだ」

 「この周辺を縄張りにしているのは暴走族、バージン・エンジェルぐらいか」

 「あのメンバーは全員女性のはずだよ。それに、単車も白のヤマハ・ミントワンメイク。これは、どう見たってスクーターじゃないさ。パッと見だけど、前輪が車体から少し離れている。これはクルーザータイプだね」

 「暴走族はスクーター、ワンパーセンターはクルーザーを乗り回している印象だが…」


 そう言うラオに対し、メルビンは「いいや」と前置きし


 「ワンパーセンターはアメリカ発祥だ。大抵のメンバーが米国製を好んで乗り回す。中には欧州製を好む者もいるけど…このクルーザーは米国製のそれと比べて小さい。恐らく50cc前後の小型車だと思うよ。その上、彼らはラフな格好でバイクを乗り回さない。暴走族以上に“伝統”と“ライダー意識”を尊重するから」


 少しこもった声ながらも饒舌に説明を終える。


 「じゃあ、こいつは暴走族か、あるいは…そうなれば絞り込むのは、結構容易になるかもな」

 「その線で、検索かけてもらおう…でも、欲を言えば、もう少しちゃんと映した…そう、コンビニの防犯カメラレベルのものがあれば、いいんだけど」


 はあっと吐いたメルビンのため息。そいつが掴みどころのない空虚体となって、ゆっくりと部屋を回り始める。

 それが見えるのか、ラオは天井をちらっと見た後、携帯電話を取り出した。

 「エルに頼むか。今頃、現場に到着しているハズだしな」


 ◆


 同時刻

 黄色のパッカードが、路肩に停車。

 緑色の髪を振り上げ降車したエルは、周囲を見回し、事故現場へと歩み寄る。

 (昨日の現場は…このあたりか)

 彼の目の前に迫るカーブ。

 録画したデータを読み出したように、あの日の展望がよく見える。

 (左手に用水路、右手に崖…そして)

 エルの足が、自然と加速していく。

 あの時の車の轍と同化するように。


 (テールライトが)

 プレイバック。

 (左に曲がって)

 スキール。

 (そして)

 インパクト。


 目を閉じ、足を止め、全ての映像を終えた時。

 深呼吸。

 後ろを振り返った。

 崖に茂る樹木、その僅かの隙間。

 回れ右をして引き返してみると、崖の上から道路へと続く獣道がそこにあった。

 

 「そうか…ここから女の子を」


 しかもなだらかな斜面ではなく、人1人が立てる場所があるし、この上は住宅街。

 2キロ先には、殺害現場。


 「となると…」

 

 すると、彼の携帯電話が振動する。

 白い二つ折りのそれを取り出すと


 「エルだ」

 ――ラオです。兄妹殺人事件に関して有力な手がかりが出てきました。

  今から、環状道を含む規模の大きい道路の防犯カメラ映像を重点的に探してくれないか。特にスーパーやコンビニといった場所のものを主に。

 「わかった。で、何を探せばいい?」

 ――背もたれを改造した、白のクルーザータイプのオートバイに乗った、10代の男性。恐らくヘルメットは装着していないはずだ。俺たちも、そっちに合流する。

 「了解」

 

 通話を終えると、再度事故現場を睨んで、車へと駆け足で戻っていくのだった。


 (果たして…そいつが犯人なのか…)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ