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セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile2 狂へる遊戯 ~Strawberry Fields Forever~
56/129

1 「或る独白M」

 

 「タクシー・ドライバー」を知ってるか?


 ロバートデニーロが、孤独なタクシードライバーを演じたハリウッド映画さ。

 だが、この映画には、若干10代のジョディ・フォスターが売春婦を演じた以上に、驚くべき事実がある。


 この映画に触発された人間が、何人もいるという事だ。


 現に脚本家の元には、映画が終わっても尚ファンレターが届くし、過激な奴は銃を振り回したりもした。大統領を殺そうとした馬鹿までいる。

 そうまでして、人間がどうしてこの映画に取りつかれるか。


 それは、見た人がある種のシンパシーを感じるからだろう。


 率直に言えば、この映画の主人公は孤独だ。友人も恋人もいない。何をやっても奥手で失敗する。

 そんな主人公に、自分を重ね合わせる奴が多いんだろう。


 俺はどうか?

 答えは(ノン)だ。少なくとも「その映画」は…絶体に違う…違う―――。



 この間、ぶらりと立ち寄ったビデオショップで、そいつを見つけた。

 目的なんてない。ただ家に帰りたくなかっただけだ。

 タイトルもキャストも漢字(チャイニーズキャラクター)で、一見してアジアの映画と判った。平仮名が入っていたから恐らくニッポンの映画だろう。

 ニホンゴなら、少しは読める。


 「マッポンキヨハリ」という人がつくった「オニ■」という映画…だと思う。


 吹き替え音声が入っていたので、それとなく借りた。見た。そして実感した。


 これは俺だ。俺の物語以外なんでもない。


 瞬間、俺は「タクシー・ドライバー」のシンパシーを理解したと共に、俺自身の「オニ■」を再生していた。


 ◆


 俺の最初(・・)の家族は…俺の家族は、いたって“普通”の家族だった。

 父は母を殴り、俺を罵りながら蹴り倒し、遠足のおやつ代でさえ、ふんだくって酒の足しにしていた。

 どこにでもいる、普通の家族。でも、普通過ぎて、誰も話しかけることはなかった。


 あれは、6歳のときかな。

 家族で外出中だった。


 俺は父親に盾ついた。

 

 どうってことはない。「空き缶のポイ捨てはいけない」という“間違った”ことを言ったからだ。


 父親は激怒し、車から引き摺り下ろした後3発殴って、その場に置き去りにしていった。

 そこは峠道。道は舗装されてなく、辺りは真っ暗だった。


 記憶があるのはそこだけ。


 ただ、確実に覚えているのは、あの時感じていたのは「悲しい」とか「怒り」と言うより、むしろ「生きてやる」という激しい願望だった。自分が生きるためなら、何だってやってやる。例え他の命を踏み台にしてでも――。


 気が付いた時には、俺の前には制服の男が2人いた。後から聞いた話なんだが、置き去りにされた2日後に、母が父の目を盗んで警察に捜索願を提出し、警察が大規模な捜索隊を結成。その様子はニュースにもなったそうだ。

 それから3日後、俺は峠から8キロ離れたキャンプ場のバンガローで発見された。


 まあ、その後母が口を濁すのは、子どもながら気になってはいるが。


 

 事件直後、母は父と離婚。それから2年後に、今の父と結婚した。

 それでも、俺の居場所はなかった。


 父には連れ子がいた。お金もあった。それなりの地位もあった。

 結局、そいつは自分の子と母を愛した。俺の前に札束の壁を作り上げて。


 子供に抱擁を、母にキスを、俺に目線をそらしながら金を握らせた。


 だが、それでいい。金さえあれば、どこへでも行ける。どうだって生きられる…そう、生きて行ける。

 好きなものはいっぱい買えるし、メシだって、他の学生より美味い物をたくさん食える。


 ただ…何かが違うような気が、最初はしていた。

 俺が“普通”と思っていた生き方は、何か違うって。


 そう考えると、いつもイライラしてくる。朝はまだいい。夕方になってくると、どうしようもなく頭が痛くなってくる。


 でも、今はもう、どうでもいいや。


 “頭のお薬”を手に入れたし、お金は要求すればたくさんくれるし。


 なにより…なにより…“アイツ”と出会えたから。


 ◆


 最後に1つ言い忘れたことがあった。

 実は俺、遭難した時、1つだけ覚えていることがあるんだ。

 それは病院で両親と再会した時。

 母と警察官が席を外したとき、アイツは舌打ちをして、こう言った。

 「生きてやがった。しぶてー野郎だ」




 ああ、生きてやる。図太く生きてやる。どこまでも、どこまでも生きてやる。

 誰かをブッ殺してでも。


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