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セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile1 ガーディアンの女 ~Desperate or hopeless encounter~
45/129

45 「セイソウ」

 暗く冷たい一本道を、靴音が幾重にも反響していく。

 コンクリートの床と煉瓦の壁で構成される空間。アルミ製の扉が等間隔で埋め込まれ、戦時中の収容施設すら連想させるそこは、裸の蛍光灯が等間隔で照らし出している。


 そこを歩く1人の少女。

 ボタンを外したブレザー、赤いネクタイ、亜麻色のセミロングをなびかせて。


 突き当りの部屋、そこだけ弾薬庫のような鉄製の扉。


 彼女の手が扉に触れると、重たいグライドスライドドアが外側へ―路線バスのドアの様にゆっくりと開かれていく。


 お次はカシャンと音を立て、照明が照らされる。


 そこは廃材置き場か、様々な種類のロッカーが、ある物は等間隔に、ある物は乱雑に積層している。だが、それらを後ろに、先ず入ってきた少女を、一台の機械が出迎える。

 外観は、レンタルビデオ店のセルフ貸し出し機に似ているが、モニターの手前には緑色の羊水で満たされた水槽が埋め込まれ、周囲にもカードスキャナーや、マイクが設置されている。

 少女はブレザーの内ポケットに手を伸ばした。生徒手帳が入る左ではなく、ボタンで封印されている右側へ左手を伸ばして。

 出てきたのは白い無地の磁気ストライプカード。ホテルのカードキーに使われるタイプのもので、一片が丸くくぼんでいる。


 少女はそれを、手慣れた動作で、指の中でくるりと回し、スキャナーへカードを走らせる。


 次いで、右手を手首まで羊水に浸す。


 水槽の内部を、赤外線センサーが上から下まで、念入りに素早く手首をスキャンすると、今度はマイクのスイッチが入る。


 「音声データ照合。IDナンバー、1423」

 すると、モニターが起動し、電子的な音声が機械から流れる。


 ―――音声、生体認識確認。起動します。


 「制限解除」


 ―――制限解除、承認しました。


 匣体から流れる音声。次の瞬間。

 ガシャン!

 凄い音を立て、その部屋にあるロッカーというロッカーの扉が、一斉に開かれていく。

 その中身は全て―――銃。

 ハンドガン、マシンガン、ショットガン……並みの特殊部隊でも、揃えられない程の重火器が所狭しと凝縮されている。

 羊水から手を抜いた少女は、そのまま一直線にあるロッカーへ。

 二段式で、上だけが開いているその中には、銀色に光るオートマチック拳銃が1挺、ご丁寧に置かれていた。


 クーナン 357マグナムオート モデルS


 M1911をベースに設計された自動拳銃で、リボルバー用の357マグナム弾を使用するのが特徴である。その中でも、この銃は3.9インチのカデットモデルに、スライドクラックを最小限に抑えるデザイン設計を施し、リムドカートリッジによるジャム抑制を目的に新設計された専用弾倉をこさえた、世界でただ1つ、少女の少女による少女のためのオリジナルモデル。それが“モデルS”である。

 少女は左手で銃を持つと、下の段に置かれていたマガジンを右手で取り装填。ショルダーホルスターへしまうと、今度は別のロッカーへ。

 先ほどより一回り大きいロッカーから取り出したのは、UZIサブマシンガン―のような銃。

 テクノアームズ PTY MAG‐7。室内・接近戦用に作られた南アフリカ共和国製の小型散弾銃である。

 4kgもあるそいつを、右腕でひょいと持ち上げると、少女はつぶやいた。

 「……これだけあれば充分か」

 “セーラー服と機関銃”…とはよく言ったものだが、この状況は“ブレザーと変態銃”、とした方が良い得て妙である。


 「封印。シャットダウン」

 ―――承認しました。


 声の直後、全てのロッカーが閉じられロックがかかり、機械の電源も落ちた。

 その部屋を振り返ることなく後にして、少女は来た道を戻る。

 幾台もの車両が置かれた、広めのガレージが終点。彼女の眼前にはワインレッドのスカイラインGTR KPGC110。いわゆるケンメリGTRが停まっている。

 助手席にMAG-7を放り込むと、少女はスマートフォンを取り出した。


 「スマイルよりテミス。セイソウ準備完了、たった今“レッドキャップ”に乗り込んだ。指示を」

 ―――こちらテミス。対象は1名。氏名、ナギ・フロスト。職業、警察官。列車内における連続傷害事件容疑、及び11件の殺人容疑を確認。1639を以て、対象をナンバー0562として登録。現在、人質1名を取り、複数の銃器で武装した状態で、市道15号を東へ逃走中。

 「了解」

 ―――セメテリーポイントは、トークンモール・コデッサで変わりないか。

 「ええ。客と従業員の避難は?」

 ―――間もなく完了する。

 「ルート誘導は?」

 ―――5分後にバイパスとの交差点を封鎖。逃走車が現在のスピードを維持すれば、約10分後にトークンモールへ到達する。

 「報道管制は?」

 ―――コード01を施行。タイムリミットは午後6時前後。

 腕時計を見る。現在午後5時11分。

 ―――質問は以上か。

 「充分。それじゃ」

 電話を切ると、今度は無線を引っ張りながら、車のエンジンをかけた。


 「スマイルよりMへ。15号第8交差点よりM5で行動。セメテリーポイントへ誘導する。尚、ポイントに変更はない……これより、執行を開始する」


 言い放つ少女。その顔に、いつもかけている“眼鏡”はなかった。


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