表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セルリアン・スマイル ~その痛み、忘却~  作者: JUNA
Smile1 ガーディアンの女 ~Desperate or hopeless encounter~
4/129

4  「眼帯の迎え」

 挿絵(By みてみん)

 

 ケルヒン地区 

 衣川駅。


 数多のランプが乱反射するロータリーに、一台のタクシーが到着した。

 右足の革靴がアスファルトを踏み掴むと、車内から現れた制服姿のシレーナ。

 紺色のブレザーの中で、胸元の赤いネクタイが主張する。

 何よりオーバルフレームの眼鏡が、彼女の華奢で瀟洒な姿を綺麗に保っていた。

 彼女は周囲を見回すと、停車する緊急車両の中に見慣れた車を見つけた。


 「アイアン・ナース」


 いかつく大きな白い車体に青のラインと「EMERGENCY」の文字、屋根には赤色灯が、前後2つずつ、合わせて4つ。バンパーは白と赤の警告帯。一見すると救急車に見えるが、この国の救急車は白い車体に赤いライン。そしてベース車両に絶対、米軍車由来のハマーH2など用いない。

 隣に停車する市警のパトカー、ヴァンテンプラ・プリンセスという小型自動車だが、それが一層小さく見えてしまう。


 「ふうん、ハフシの奴も来ているのね。私も、少しは知識あるのに」

 「ボクがいたら、何か不都合でも? シレーナ先輩」


 背後で声をかけたのは淡い水色のナースメイド服姿の少女。金髪ショートに左目を隠すゴスロリ調の眼帯。ボクという言葉から、一瞬美少年が男装しているのかのように見えてしまう。

 彼女がハフシ―ハフシ・マリアンヌ・エクレアーノ。こう見えて医科大学付属学園の学生だ。


 「文句があるとしたら、あの図体デカい車ね。品がないから、別のに変えたらどう?」

 「余計なお世話です。そういうあなたも、時代遅れの旧車を転がしているじゃないですか」


 シレーナは右手をひらひらと振りながら


 「私のは名車。お分かり?」

 「分かりません」


 ハフシはふくれっ面で答えた。


「貴方たちいるなら、私、帰っていい? エルから御呼ばれがかかったから、てっきり彼らだけかと思って、駆けつけたのに」

 「先輩たちの班には、医学的なメンバーはいないでしょ?だからボクたち、聖トラファルガー医科大学付属学園のガーディアンが呼ばれたのです」

 「ふうん。遠いところをご苦労様」


 そう言って彼女はあくびを一つ。


 「寝起きですか?」

 「分かってるでしょ? こう見えて、朝は苦手なのよ」


 するとハフシは微笑した。イタズラに。


 「それでしたら、今度血圧でも測ってあげましょうか? 低血圧は肌に悪いですよ」

 その顔を横目で見ると、シレーナは言った。


 「やめとく。あなた、絶対私を実験台にする気でしょ?」

 「人類への大いなる投資と言ってほしいです」

 「不味いドリンクが、人類への投資? まあいいわ、与太話はここまで。状況は?」


 シレーナは首を駅の方に振って見せた。

 途端、ハフシの目が濁る。


 「ひどい有様ですよ。どうやら電車が駅に進入してきてすぐに……」

 「頭なし? それともバラバラ?」

 「後者です」

 「ふうん。となると、電車が自分の傍に来る前に、線路に落ちたのね」


 「恐らく。今更あなたには言う必要はないと思いますが、人身事故による遺体の損傷程度は大きく分けて2つ。それによって簡単ではありますが、被害者がどういう状態で電車と接触したのかが分かりますからね」

 2人は駅の方向へ歩きだした。

 「そう。頭がなく、それ以外の身体が無事である場合、被害者は電車に飛び込み、線路に落ちる前に電車と接触した可能性が高い。そうでなく、身体がバラバラの場合、線路に落下してから電車と接触―つまり轢死の可能性が高い」


 「苦しんだでしょうね……あ、ごめんなさい」


 何かを思い出したかのように、ハフシは頭を下げた。先を歩くシレーナに。

 背中の少女は告げるのだった。



 「何が? ……言ったでしょ?私には分からない。いや、“忘れた”の。だから、今の謝罪は意味を成さない」



 追い出されたサラリーマン、学生の波をくぐり、シレーナの前に非常線のイエローテープが待ち構える。

 「待ちなさい」

 くぐろうとするシレーナを制止する警官に、ため息交じりに手帳を取り出す。

 黒い学生手帳を横開きにして見せる。



 「ID1423。シレーナ・コルデー、臨場します」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ